防食概論:塗装・塗料
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ここでは,鉛・クロムフリーさび止めペイントの品質規格及び評価方法について, 【品質規格】, 【塗料の品質試験】, 【ホルムアルデヒド放散量の求め方】 に項目を分けて紹介する。
塗料の評価(さび止めペイント)
鉛・クロムフリーさび止めペイントの品質
JIS K56742019 「鉛・クロムフリーさび止めペイント」
この規格は,2003年に制定され,その後 2008年に改正された。その後 2008年版の引用規格 JIS K 5108 鉛丹(顔料)の廃止に伴い,2019年に改正されている。適用範囲
この規格は,一般的な環境下での鉄鋼製品,鋼構造物などのさび止めに用いる塗料で,鉛フリー及びクロムフリーのさび止め顔料を含む鉛・クロムフリーさび止めペイントについて規定する。
注記 この規格は,環境対応で廃止された,各種鉛含有 JISさび(錆)止めペイントの代替えとして開発され,JIS K5621 「一般さび止めペイント」よりも長期にわたる屋外での防食性を求められている塗料である。
種類:種類は,次とする。
a) 1種 有機溶剤を揮発成分とする液状・自然乾燥形のさび止め塗料。
b) 2種 水を主要な揮発成分とする液状・自然乾燥形のさび止め塗料。
【品質項目の概要】
塗料の成分 : 鉛化合物及びクロム化合物を含まないことが規定されている。
塗料の性状 : 1種,2種とも容器の中での状態,加熱残分が,2種では,加えて低温安定性が規定されている。
塗装作業 : 塗装作業性,乾燥時間(表面乾燥性)が規定されている。
塗膜形成機能 : 塗膜の外観,上塗り適合性,付着安定性,耐衝撃性(耐おもり落下性),耐屈曲性が規定されている。
塗膜の性能や耐久性 : サイクル防食性,防錆(せい)性(屋外暴露耐候性)が規定されている。
その他 : 建材に使用される際に,改正建築基準法の沿った表示が求められるため,ホルムアルデヒド放散等級の表示も規定されている。
項 目 | 1 種(溶剤系) | 2 種(水系) |
---|---|---|
容器の中での状態 | かき混ぜたとき,堅い塊がなく一様になる。 | |
低温安定性(-5℃) | ― | 変質しない。 |
塗装作業性 | 支障がない。 | |
表面乾燥性 | 表面乾燥する。(8時間) | |
塗膜の外観 | 正常である。 | |
上塗り適合性 | 支障がない。 | |
耐屈曲性 | 折り曲げに耐える。(6mm) | |
付着安定性 | はがれを認めない。 | |
サイクル防食性 | 膨れ,さび及びはがれがない。(36サイクル) | |
加熱残分(質量分率 %) | 75以上 | 50以上 |
塗膜中の鉛(質量分率 %) | 0.06以下 | |
塗膜中のクロム(質量分率 %) | 0.03以下 | |
防錆性 | 防錆性を持つ。(24 か月) |
ホルムアルデヒド放散等級は,箇条 5 によって試験を行ったときの塗膜からのホルムアルデヒド放散量で区分する。
F☆☆☆☆(放散量 0.12mg/L以下),F☆☆☆( 0.35mg/L以下),F☆☆( 1.8mg/L以下),-( 1.8 mg/Lを超える)
注記 ハイフン(-)は,ホルムアルデヒド放散等級を規定しないことを示す。また,箇条 5 の試験を行わないものは,これと同じとみなす。
ホルムアルデヒド放散速度(放散量)(formaldehyde emission rate)
平成 14年の建築基準法等の一部改正,建築基準法施行令の改正により,シックハウス対策のための規制対象となる化学物質並びに建築材料及び換気設備に係る技術的基準が定められ,平成 15年には,国土交通省告示第 1113号(建築基準法に基づく告示第一種ホルムアルデヒド発散建築材料を定める件),第 1114号(建築基準法に基づく告示 第二種ホルムアルデヒド発散建築材料を定める件)及び第 1115号(建築基準法に基づく告示 第三種ホルムアルデヒド発散建築材料を定める件)が公布された。
これらの施行令,告示では,ホルムアルデヒド発散速度に応じた基準が示された。建材のホルムアルデヒド放散速度(放散量)により,材料の使用が制約を受けることになる。このため,建材関連業界では,自主的なホルムアルデヒド放散等級の表示( F表示)が進んでいる。
建材のホルムアルデヒド放散速度( mg/m2h )と上述の塗料のホルムアルデヒド放散量( mg/L )により,
(1)内装に制限なく使用可( F☆☆☆☆; ≦ 0.005mg/m2h ,≦ 0.02mg/L )
(2)内装の使用面積を制限( F☆☆☆;第 3種ホルムアルデヒド発散建築材料,≦ 0.02mg/m2h ,≦ 0.35mg/L )
(3)内装の使用面積を制限( F☆☆;第 2種ホルムアルデヒド発散建築材料,≦ 0.12mg/m2h,≦ 1.8mg/L)
(4)建築内装に使用禁止( Fマーク表示なし;第 1種ホルムアルデヒド発散建築材料,0.12mg/m2h <,1.8mg/L <)
に分けられる。
なお,国土交通省告示第 1113, 1114, 1115号で対象とされた塗料(ユリア樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、レゾルシノール樹脂又はホルムアルデヒド系防腐剤を使用したものに限る。)は,(1) JIS K5492(アルミニウムペイント),(2) JIS K5511(油性調合ペイント),(3) JIS K5516(合成樹脂調合ペイント),(4) JIS K5562(フタル酸樹脂ワニス),(5) JIS K5572(フタル酸樹脂エナメル),(6) JIS K5591(油性系下地塗料),(7) JIS K5621(一般用さび止めペイント),(8) JIS K5667(多彩模様塗料),(9) JIS K5674(鉛・クロムフリーさび止めペイント),(10) JIS K5961(家庭用屋内木床塗料),(11) JIS K5962(家庭用木部金属部塗料),(12) JIS K5970(建物用床塗料)である。
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塗料の品質試験
ここでは,鉛・クロムフリーさび止めペイントの塗料品質の試験法を紹介する。塗膜品質の試験法については,【塗膜の評価】・「下塗り塗料」で紹介する。
7. 試験方法
7.1 サンプリングは,JIS K 5600-1-2 「塗料一般試験方法−第1部:通則−第2節:サンプリング」による。
7.2 試験用試料の検分及び調整は,JIS K 5600-1-3 「塗料一般試験方法−第1部:通則−第3節:試験用試料の検分及び調整」による。ほか,次による。
a) かくはん(攪拌)して均一の液体とする。
b) 必要なとき,製造業者の指定するうすめ液を用いて,はけ塗りの場合 15%(質量比)以下,吹付け塗りの場合 30%(質量比)以下でうすめてもよい。
7.3 試験の一般条件は,JIS K 5600-1-1 「塗料一般試験方法−第1部:通則−第1節:試験一般(条件及び方法)」 ,JIS K 5600-1-6 「塗料一般試験方法−第1部:通則−第6節:養生並びに試験の温度及び湿度」及び JIS K 5601-1-1 「塗料成分試験方法−第1部:通則−第1節:試験一般(条件及び方法)」による。ほか,次による。
a) 試験の場所:標準条件(温度 23±2℃,相対湿度 50±5%),目視観察のときの光源(拡散昼光,色観察ブース)
b) 試験板の作製: JIS G 3141に規定する SPCC-SBの鋼板,JIS R 6253に規定する耐水研磨紙 P280を用いた研磨による調整
c) 試料の塗り方: はけ塗りとし,JIS K 5600-1-5「塗料一般試験方法−第1部:通則−第5節:試験板の塗装(はけ塗り)」によって,1回ごとの塗付け量が,乾燥膜厚で 30~40μmとなるように塗る。乾燥膜厚を JIS K 5600-1-7「塗料一般試験方法−第1部:通則−第7節:膜厚」の方法 No.6又は No.7によって測定し,7日間乾燥後の厚さが,規定の範囲に入るようにする。
d) 乾燥方法: 他に規定のない場合は,標準状態で乾燥する。
7.4 容器の中での状態の試験は, JIS K 5600-1-1 の 4.1.2 a)(液状塗料の場合)による。
7.5 低温安定性の試験は,2種に適用し,次による。
a) 試験板: 7.3 b)に規定する鋼板とし,寸法は,500 mm×200 mm×0.8 mmとする。
b) 試験方法: JIS K 5600-2-7「塗料一般試験方法−第2部:塗料の性状・安定性−第7節:貯蔵安定性」の4.(低温安定性)による。
c) 評価及び判定: b) によって試験した試料の容器をあけ,試料をかくはん(攪拌)して,均一になるかどうかを調べる。均一になった試料を用いて試験板に,7.3 c)によって1回塗り付けて塗装作業性を調べる。7.3 d)によって 48時間乾燥後塗膜の外観を調べる。判定は,試料をかくはん(攪拌)したとき均一になり,塗装作業性に支障がなく,さらに,乾燥した塗膜の外観に異常がないとき,“変質しない”とする。
7.6 塗装作業性の試験は,次による。
a) 試験板: 7.3 b)に規定する鋼板とし,寸法は,500 mm×200 mm×0.8 mmとする。
b) 試験方法: 試料を7.3 c)によって試験板の片面に1回塗る。
c) 評価及び判定: はけ塗り作業に特に困難を感じないとき,“支障がない”とする。なお,“支障がない”と判定された試験片は 7.8の試験に用いる。
7.7 表面乾燥性の試験は,次による。
試験板: JIS K 5600-1-4「塗料一般試験方法−第1部:通則−第4節:試験用標準試験板」の 5.5.2(溶剤洗浄による調整)によって調整した寸法 200mm×100mm×2mmのガラス板(フロート板ガラス又は磨き板ガラス)とする。
試験片の作製: 隙間 100μmのフィルムアプリケータを用いて,試料をうすめずに塗り付ける。
試験方法: JIS K 5600-3-2「塗料一般試験方法−第3部:塗膜の形成機能−第2節:表面乾燥性(バロチニ法)」による。ただし,乾燥時間を 8時間とする。
7.13 加熱残分の試験は, JIS K 5601-1-2 「塗料成分試験方法−第1部:通則−第2節:加熱残分」による。ただし,試験条件は,加熱温度 105±2℃で 1時間とする。
7.14 塗膜中の鉛の定量は,附属書 Aによる。
7.15 塗膜中のクロムの定量は,附属書 Bによる。
附属書 A(規定) 塗膜中の鉛の定量
1. 要旨: 塗料の揮発成分を除いた後,475 ℃~500 ℃で有機物を灰化し,塩酸に溶解抽出後,アセチレン・空気フレーム中に噴霧し,鉛による原子吸光を波長 283.3nmで測定し,分解液中の鉛を定量し,塗膜中の鉛分に換算する。
附属書 B(規定) 塗膜中のクロムの定量
1. 要旨: 塗料の揮発成分を除いた後,475 ℃~500 ℃で有機物を灰化し,過マンガン酸カリウムと硫酸溶液とから成る酸化用溶液で分解溶解後希釈して,アセチレン・空気フレーム中に噴霧し,クロムによる原子吸光を波長 357.9 nmで測定し,分解液中のクロムを定量し,塗膜中のクロム分に換算する。 注 500 ℃を超える温度での灰化はクロムの揮散ロスにつながる。
附属書 C(規定) フィルムアプリケータ塗装
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ホルムアルデヒド放散量の求め方
JIS K 5601-4-12012
「塗料成分試験方法-第4部:塗膜からの放散成分分析-第1節:ホルムアルデヒド放散量の求め方」
(Testing methods for paint components-Part 4: Analysis for componentsemitted from film-Section 1: Determination of Formaldehyde emission)
序文
この規格は,2003 年に制定された日本工業規格であるが,ホルムアルデヒド放散量の少ない製品の試験に対応するため試験方法の一部を改正したものである。なお,対応国際規格は,現時点で制定されていない。
1 適用範囲
塗膜から放散するホルムアルデヒドの量を測定する方法について規定する。
4 ホルムアルデヒド放散等級
ホルムアルデヒド放散等級は,箇条 5 によって試験を行ったときの塗膜からのホルムアルデヒド放散量で区分し,その等級を表 1 とする。
ホルムアルデヒド
放散等級分類記号 |
F☆☆☆☆ | F☆☆☆ | F☆☆ | -a) |
---|---|---|---|---|
放散量 | 0.12mg/L 以下 | 0.35mg/L 以下 | 1.8mg/L 以下 | 1.8mg/L を超える |
注a) 表 1 の中のハイフン(−)は,ホルムアルデヒド放散等級を規定しないことを示す。また,5.8 の試験を行わないものは,これと同じとみなす。
5 デシケータ法
5.1 原理
デシケータ法による測定は,ガラス製デシケータを用いて行う。ホルムアルデヒド放散量は,デシケータ内に一定量の水を入れ,24時間後,水に吸収されたホルムアルデヒド濃度から求める。水に吸収されたホルムアルデヒド濃度の測定は,吸光光度法,又は高速液体クロマトグラフ法(以下,HPLC 法という。)によって行う。HPLC 法による測定では,ホルムアルデヒドと 2,4-ジニトロフェニルヒドラジン(DNPH)との反応によって生成する誘導体を HPLC 法のクロマトグラムのピーク面積から求める。
5.5 試験片の作製
試験板は,JIS R 3202 に規定するガラス板又は JIS H 4000 に規定するアルミニウム板。試験板は,長さ 150±1 mm,幅 150±1mm とする。試験板は 2 枚とし,これを 2 組作成する。
5.6 試料の塗り方
試料の塗り方は,次による。
・・・ e) 現場塗装を想定し,塗り付けが終了した時点を養生開始時点とする。
5.7 養生
養生中の試験片は,標準状態で保管し,表面に空気が自由に接触できるように互いに 25mm 以上離す。・・・なお,養生期間はそれぞれの製品規格の規定による。規定がない場合は,7日間とする。
5.8 試験方法
5.8.1 試験装置の準備
試験装置の準備は,次による。
a) デシケータ及び結晶皿を複数個( 3個の場合,そのうちの 1個は空試験用とする。)用意
b) 各結晶皿に 300 mL の水を入れ,各デシケータの底の中央部に置く。
c) デシケータ内の結晶皿の上にステンレス製金網を置き,その上に試験体支持金物を置く。
d) 複数のデシケータは,23±2℃に調節された試験場所に静置する。
e)デシケータ内の温度は,試験片を装着しないデシケータを用い,その中に温度計を挿入し,連続的又は 15分を超えない間隔で試験期間中測定する。
5.8.2 試験片の装着
5.8.3 空試験のホルムアルデヒド濃度測定
5.8.4 試験時間
1回の放散試験の時間は,24時間±5分とする。
5.8.5 試験溶液の採取
結晶皿のホルムアルデヒドを吸収した水を試験溶液とする。
5.8.6 定量方法
試験溶液中のホルムアルデヒド濃度は,JIS K01152004 「吸光光度分析通則」に規定する吸光光度法又は JIS K01242011 「高速液体クロマトグラフィー通則」に規定する HPLC法によって測定する。
5.8.7 検量線の作成
5.8.8 計算
デシケータ内の結晶皿中の水に吸収されたホルムアルデヒド濃度は,次の式(2)によって算出する。
G = F×( Ad - Ab )×( 1800/S )×( L/300 )・・・(2)
ここに,G:水に吸収されたホルムアルデヒド濃度(mg/L), Ad:試験片を入れたデシケータ内の溶液の吸光度(Abs)又はピーク面積, Ab:空試験用デシケータ内の溶液の吸光度(Abs)又はピーク面積, F:ホムアルデヒド標準液の検量線の傾き(mg/L)/(Abs又はピーク面積), S:試験片の表面積(cm2),L:5.8.1 b)の水の量(mL)
5.8.9 試験結果の表示
水に吸収されたホルムアルデヒド濃度を塗膜からのホルムアルデヒド放散量とする。2組の測定値の平均を JIS Z 8401 に従って丸め,小数点以下 2 桁まで求める。
参考:建材のホルムアルデヒド放散速度の測定は,JIS A1901「建築材料の揮発性有機化合物(VOC),ホルムアルデヒド及び他のカルボニル化合物放散測定方法−小形チャンバー法」による。
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