防食概論:塗料・塗装

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         塗替え塗装の課題

 鋼鉄道橋の平均使用年数は 70年を越えるような状況であると言われている。 100年を超える鋼鉄道橋も数多くある。
 このように,道路橋の平均使用年数 30~ 40年程度とは異なり,古い鋼構造物が圧倒的に多い鉄道には,維持管理上の特異な課題が少なくない。
 【塗替え塗装の基本工程と課題】
 長い間実施されてきた塗替え塗装方法は,次の手順で実施されるのが一般的であった。
 まず,素地調整作業として,腐食個所や塗膜劣化部(割れ,はがれ)を素地でまで除去し,劣化していない塗膜(活膜という)については,サンドペーパーなどで付着性確保のため表面を粗す。
 塗装作業は,下塗り塗料を素地の露出した部分にのみ塗り付け(補修塗装という),続いて面粗しした活膜を含めて,全面に下・中・上塗り塗料を塗り付ける。
 この活膜を残す塗替え塗装方法は,過去に行われた,旧塗膜を全てはく離する塗装より,塗膜全体の平均的耐久性の向上に寄与するとの研究により,日本での標準的な塗替え塗装方法とされていた。
 近年になり,この塗替え塗装方法を複数回実施した古い鋼鉄道橋(経年 50年以上)が増え,これまでは経験されなかった劣化現象が多数観察されるようになっている。
 次からは,活膜を残す塗り替え塗装を複数回繰り返した場合に観察される課題「塗膜割れ・はがれ」,「局部腐食の繰り返し(断面欠損)」を紹介する。

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【塗替え塗装後早期の「塗膜はがれ,割れ」

 塗替え塗装の早い時期に,次のような塗膜はがれ割れの観察事例が増えている。
 ● ブラス>ト処理が適用される前に建設された古い構造物(1960年代以前)では,塗替えで残した旧塗膜と鋼板の黒皮との界面からのはがれ,新設時のスプレー塗装で施工された鉛丹さび止めペイント( 2回塗り)の層間のはがれ
 ● 活膜として残し,50年以上経過した旧塗膜全面に,多数発生するカラス足状割れ
 これらの現象は,次に解説するように,複数回の塗替え塗装で,活膜として残した旧塗膜の厚みが増大し,塗膜内部応力の蓄積,加えて初期の塗膜の老化(脆化)が進んだためと考えられている。
 「原因の推定」
 2005年頃までは,多くの構造物では,旧塗装系 B (鉛系さび止めペイント+長油性フタル酸樹脂塗料)などの油性系塗料を用いた塗装系で複数回の塗替え塗装を経験している。
 その後は,変性エポキシ樹脂を用いた塗装系 G 塗装系 T の適用例が増え,現在では油性系塗料を用いた塗装は減少している。すなわち,過去の塗替え塗装の大多数は,油性系塗料を用いたものと考えてよい。
 塗替え塗装周期を平均で 15年と仮定(国鉄時代の全国平均)すると,経年 70年の構造物(黒皮鋼板のままで製作)は,過去に 4 回以上の塗装を経験していると考えられる。
 この段階で,最下層の塗膜(新設時塗膜)は,70年以上経過した段階で 5回目の塗装(変性エポキシ樹脂系の塗替え塗装)を受けることになる。
 最下層の旧塗膜は,活膜であったとしても,塗膜を通じて拡散した水,酸素,その他成分により,長い年月をかけて徐々にではあるが,樹脂劣化で体積収縮と柔軟性の低下(脆化)が進んでいると考えられる。
 さらに,5回目の塗り替え塗装(変性エポキシ樹脂系)の実施で,活膜部の塗膜厚みは 600μm以上(標準膜厚 125μm×4+180μm)と厚くなり,溶解性,浸透性の高い溶剤の影響を受けると考えられる。
 「対策案」
 目視観察で,外観に異常がないことを理由に,旧塗膜を残して塗替え塗装した場合に,塗装した塗膜の乾燥(溶剤揮発,硬化反応)で発生する体積収縮や溶剤の旧塗膜内部への浸透が引き金となり,塗替え塗装後の早期に,旧塗膜の“塗膜割れ”や大面積での“塗膜はがれ”に至る。
 架設後の経年 50年を超える橋梁では,塗膜内部の劣化が進んでいると想定されるが,明らかな割れ,はがれに至らない限り,外観観察のみでは活膜か否かの判断は困難である。活膜か否かは,スクレーパーで削るなど,塗膜に剪断力を与える適切な方法で判定しなければならない。
 すなわち,目視観察で塗り替え塗装が必要とされ,塗替え塗装を計画した時点では,旧塗膜を活膜として残せるか否かの適切な判定ができないことになる。
 従って,活膜の判定は,塗替え塗装足場の架設後,素地調整作業中に適宜実施しなければならない。すなわち,素地調整の施工管理が最も重要であることを認識することで不具合を回避できる。
 一方,活膜か否かを適切に判定し難い場合,活膜の面積率が小さくあえて残すことのメリットが少ない場合などは,旧塗膜を全て除去する塗膜更新が望ましい。

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【局部腐食の繰り返し(断面欠損)

 飛来海塩粒子の多い海岸地区など腐食性環境では,腐食生成物中に塩を包含しているのみならず,鋼素地との界面付近に塩化物イオン(塩化鉄など,水溶解で強酸性を示す)として多量に存在(濃縮)している。
 この鋼/腐食生成物界面に濃縮する塩化物イオンの除去が不完全な場合には,塗替え塗装を実施しても,著しく短い期間(場合によっては数年以内)で塗膜下腐食による塗膜破壊に至る。
 塗膜検査で塗替え塗装が必要と判定された段階では,当該腐食個所では鋼板の厚み減少に至っている場合が少なくない。この繰り返しにより,鋼板に孔があくほどの腐食に至る古い構造物も少なくない。
 
 この現象に対処するためには,腐食性の高い環境で,既に局部的な腐食進行に至っている古い構造物では,塗装系を変えてもほとんど効果が認められないので,入念な素地調整,できれば除塩が可能な手法の適用が望まれる。
 「塗装概論」の“ブラスト処理”で解説したように,乾式ブラスト法では塩類の十分な除去は期待できないので,水可溶性塩類の除去をある程度期待できる湿式ブラスト法の採用などが望まれる。
 新設構造物では,腐食程度が大きくなる前に,定期的塗替え塗装を実施することが望まれる。特に,長期防錆型(重防食)塗装系を用いた場合は,局部腐食が生じてもその面積率が非常に小さいため,塗替え塗装まで長期間放置されかねない。
 長期防錆型塗装系を腐食性環境に適用する場合は,塗膜検査で “さび” が観察された時点で,早期の部分補修を実施できる体制が必要である。その一例として,「鋼構造物塗装設計施工指針」に規定される判定法Q指針 Ⅲ-8ページ)が参考になる。

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