防食概論塗装・塗料

  ☆ “ホーム” ⇒ “腐食・防食とは“ ⇒ “防食概論(塗料・塗装)” ⇒

 ここでは,塗膜の耐久性評価に用いられる 耐湿性について【耐湿性とは】, 【連続結露法】, 【不連続結露法】 に項目を分けて紹介する。

 塗膜の評価(塗膜耐久性;耐湿性)

 耐湿性とは

 耐湿性とは,塗膜の高湿度環境での塗膜の抵抗性で,高湿度環境での付着性,耐ふくれ性,腐食性などで評価する。
 耐湿性の試験方法は,塗膜への水の供給方法として,塗膜表面に結露が生じない程度の高湿度下で試験する方法,塗膜表面を結露させて試験する方法に分けられるが,結露させる方法が一般的に用いられている。
 塗膜のような有機高分子材料は,ガス透過性(gas transmission)を有する。すなわち膜を通じて酸素や水蒸気を透過できる。
 この特性のため,高湿度下に曝された塗膜は,吸湿による体積膨張膨潤)による内部応力の変化,透過した水蒸気が塗膜下界面に移動・蓄積することで界面付着性の変化,浸透圧差による塗膜膨れの発生などの現象に至る。
 この程度を比較評価するため,JIS試験法には,塗膜表面を常に濡れた状態にする「連続結露法(Continuous condensation)」と結露と乾燥を繰り返す「不連続結露法(Intermittent condensation)」が規定されている。
 日本では,回転式の湿潤試験機を用いた連続結露法が一般的に用いられている。
 
 【参考】
 ガス透過性(gas transmission)
 気体透過性ともいい,ゴム・プラスチック・フィルム等の高分子材料の気体を通過させる性質で,その程度は種類,厚さ等に応じて異なる。
 ガス透過性の程度は,ガス透過度(gas transmission rate)といい,その評価法には差圧法と等圧法がある。
 JIS K7126-1 「プラスチック−フィルム及びシート−ガス透過度試験方法−第 1 部:差圧法」では, 試験片を,ガス透過セルの二つのチャンバ間に密封シールするような状態で装着し,低圧チャンバを真空排気し,試験ガスを高圧チャンバに導入する。試験片を通過する試験ガスの透過は,低圧側の圧力上昇又はガス量の増加で示される。
 これにより得られた,透過するガスの単位面積,単位時間及び材料両面間の単位分圧差当たりの体積( [mol/(m2・s・Pa)] )を“ガス透過度” GTR (gas transmission rate) といい,透過するガスの単位厚さ,単位面積,単位時間及び材料両面間の単位分圧差当たりの体積( [mol・m/(m2・s・Pa)] )を“ガス透過係数(ガス透過率)” P (gas permeability coefficient of gas permeability) という。
 水蒸気透過性(water vapor permeability)
 透湿性(moisture permeability)ともいわれ,有機高分子化合物のフィルムなどのガス透過性(gas transmission)の一種とも考えられるが,水蒸気については,用語としてガス透過性より水蒸気透過性や透湿性が主に用いられる。
 水蒸気透過性の程度は,水蒸気透過度(WVTR: Water Vapor Transmission Rate)や透湿度(Water Vapour Transmission Rate of Moisture)という。
 JIS K7129「プラスチック−フィルム及びシート − 水蒸気透過度の求め方(機器測定法)」では,“規定の温度及び湿度の条件で,単位時間に単位面積の試験片を通過する水蒸気の量”と定義し,24時間に透過した面積 1m2 当たりの水蒸気のグラム数 [ g/(m2・24h)] で表す。
 膨潤(塗膜の)(swelling)
 液体又は蒸気を吸収し,その結果,膜の体積が増加する現象。【JIS K5500「塗料用語」】
 試験片を液体に浸したり,蒸気にさらしたりしたときに生じる,試験片の体積の増加。【JIS K6200「ゴム‐用語」】
 膨れ(塗膜の)(blister)
 金属中又は皮膜下にガス,液体又は腐食生成物が蓄積して,局部的にふくれる現象。【JIS Z0103「防せい防食用語」】
 塗膜に泡が生成する現象。水分・揮発成分・溶剤を含む面に塗料を塗ったとき,又は塗膜形成後に,下層面にガス,蒸気,水分などが発生,侵入したときなどに起こる。【JIS K5500「塗料用語」】

 ページのトップへ

  連続結露法

 JIS K 5600-7-2 「塗料一般試験方法−第7部:塗膜の長期耐久性−第2節:耐湿性(連続結露法)
 (Testing methods for paints−Part 7 : Long-period performance of film−Section 2 : Resistance to humidity (Continuous condensation) )

 適用範囲
 この規格は,塗膜,塗装系,及び類似の製品の,高湿度条件に対する耐久性を測定するための方法について規定する。
 この方法は木材,石こう及び石こうボードのような多孔性素地,又は金属のような非多孔性素材に塗装された塗膜に適用できる。
 この方法は,表面に連続結露が生じるような過酷な条件で得られる,もっともらしい性能の指標を与えるものである。
 この手順によって,塗装の劣化(膨れ,汚れ,軟化,しわ,ぜい化などを含む)及び素地の劣化を明らかにすることができるかもしれない。
 種類
 耐湿性の試験方法には,試験板を恒温恒湿槽に入れ,塗膜上に固定,又は回転して結露させる方法,及び塗膜上に結露させない方法がある。これらをそれぞれ温度差固定式,及び回転式と呼ぶ。
 
 温度差固定式(fixed temperature-difference method)
 試験片を電熱で加熱する水槽,及び試験板,又は空試験板からなる屋根板カバーで作られた装置で,塗膜の状態の変化を調べる。
 装置
 ● 装置は基本的に電熱水槽と,試験板,又は空試験板からなるカバーによって構成される。
 ● 水槽の水は 40±2℃に保ち,装置は 23±2℃に保った通風のない環境の中で運転する。
 ● 試験板の下 25mmで測定した空間の温度が均一で,±2℃で一定になり,35℃以下にならないようにする。
 ● 水槽の屋根は,凝結した水を排水できるように水平に対して 15±5度の角度で試験板を支えるように作られていなければならない。
 試験板(抜粋)
 試験板は,適用できるならば,JIS K 5600-1-4 「試験用標準試験板」に規定された材料を用い,他に規定がなければ,その大きさは 150mm×100mmとする。
 試験板の調整及び塗装
 適切であれば,JIS K 5600-1-4「試験用標準試験板」に規定された方法によって試験板を調整する。製品又は塗装系の規定に従って塗装し,規定された期間,乾燥(又は焼付け,及び養生)する。
 他に合意事項がない限り,JIS K 5600-1-6 「養生並びに試験の温度及び湿度」による標準状態温度 23±2℃,相対湿度 50±5%下で,空気の自然循環のもとで乾燥する。
 塗膜の厚さ
 JIS K 5600-1-7 「膜厚」に規定された手順を用い,規定の方法によって乾燥塗膜の膜厚をマイクロメートル単位で測定する。塗膜に切りきずを入れる破壊法は避ける。
 手順(抜粋)
 空試験板で装置を組み立てる。規定された条件に達したとき,速やかに空試験板を試験片と取り替える。試験片は試験表面が水面に向くようにする。
 規定の試験期間の終了時に,試験片を装置から取り出し,吸水紙で水分を拭き取り,直ちに表面の劣化の有無を検査する。要求がある場合,規定の回復期間,JIS K 5600-1-6「養生並びに試験の温度及び湿度」に規定された標準状態で試験片を保持し,再び表面の劣化を検査する。もし素地が侵された徴候を検分する必要があるならば,適切な方法で塗膜をはく離する。
 
 回転式(rotary method)
 試験片を湿潤箱の中につるして緩やかに回転させたときの塗膜の状態の変化を調べる。
 装置及び材料
 湿潤箱装置の条件は,次のとおりとする。
 a) 試験片の位置の温度 50±1℃
 b) 相対湿度 95%以上
 c) 空気流量:湿潤箱内容積の約 3倍/h
 d) 水 脱イオン水
 e) 回転環の速さ:毎分約 1/3回転
 f) 試験片保持数 36枚
 試験板
 製品規格に規定のない場合は,鋼板( 150×70×0.8mm)を用いる。直径約 5mmの孔を開け,つり下げることができるようにする。
 試験片の作製
 試料の製品規格に規定する方法によって塗装した後,乾燥したものを試験片とする。さらに,製品規格で,塗膜に切り傷を付ける規定があるものは,JIS K 5600-5-6 「付着性(クロスカット法)」に規定する工具の刃先で,塗膜の上から試験板の素地に達するように,交差する 2本の対角線を引いたものを試験片とする。
 操作
 試験片の長辺を水平にし,塗面を回転方向に向けて,湿潤箱の中の回転環の内側と外側の 2か所からつり具を用いて試験片をつるす。試験片がつるされていない箇所には同一形状のステンレス鋼板をつり下げ,製品規格に,規定する時間試験を行った後,試験片を取り出し,直ちに目視によって原状試験片と比べて塗膜を調べる。
 さらに,試験片に付着した水を振り切って室内に立て掛けて 2 時間静置した後,再び塗膜を調べる。
 ただし,特に,規定のない場合は,塗膜につけた傷の両側をそれぞれ 3mm及び試験片の周囲 10mm以内は観察の対象としない。
 評価
 試験片 2枚について,試験後取り出した直後の観察,及び室内に 2時間静置した後の観察によって,塗膜にしわ,膨れ,割れ,さび,はがれなどが認められず,2時間静置した後の観察でくもり,白化,変色などがないときは,“耐湿性に異常がない”とする。
 なお,評価が困難なときは原状試験片と比べて評価する。

 ページのトップへ

  不連続結露法

 JIS K 5600-7-3 「塗料一般試験方法−第7部:塗膜の長期耐久性−第3節:耐湿性(不連続結露法)
 (Testing methods for paints−Part 7 : Long-period performance of film− Section 3 : Resistance to humidity (Intermittent condensation) )

 適用範囲
 この規格は,塗料,及び関連製品の単一塗膜,又は多層塗膜系の断続的な結露に対する抵抗を,標準状態のもとで測定する試験方法について規定する。
 この方法は多孔性及び非多孔性の素材上の塗膜の試験を含む。
 原理
 水蒸気で飽和した加熱空気の部屋,又はキャビネットに塗装試験板を置く。部屋,キャビネットを温度,40±3℃に保つ。相対湿度 98~100%において,試験板と周囲の蒸気の間にわずかな温度差があれば,試験板の上に結露する。これが不連続結露試験である。この条件下で,定時間静置した後,部屋又はキャビネット内の条件を,温度 23±5℃,相対湿度 50±20%,すなわち標準状態にするように空気を循環させる。
 次に,塗膜の特性いかんで定まる速度で,塗膜内に結露水を浸透させる。色の変化,膨れ,付着力の低下,軟化,脆化などの何らかの影響が現れる。
 装置(要約)
 装置は,300リットルの実験室用の気密性キャビネット,1m3又は 21m3の気密性部屋が用いられる。
 気密性キャビネット: 水を加熱する装置,温度制御装置を有する 300±10リットルの気密性キャビネット。
 気密性部屋: 部屋の底部に温水槽を有し,立って入れる部屋の場合は,部屋の体積の 10倍の空気を 1時間で喚起できる装置を有する気密性の部屋。
 試験板(要約)
 試験板は,供試の塗料が実際に用いられる素材と同質の非多孔性,又は多孔性の素材。他に協定が無い限り,非多孔性の場合は,150mm×100mmの試験板を,多孔性の場合は,ファイバーセメント製の 300mm×200mm×4mmの試験板を用いる。
 試験片の作製
 試験製品,塗装系に規定の方法によって塗装する。塗装後に規定の方法によって乾燥(養生)する。他に規定がなければ,標準状態( 23±2℃,50±5%RH)で空気循環の下で最低 16時間養生し,乾燥膜厚をマイクロメータの単位で測定する。
 手順(要約)
 試験サイクル: 湿潤( 40±3℃,相対湿度 100%)に 16時間,乾燥( 23±5℃,相対湿度 50±20%)に 8時間を繰り返す。
 試験片の検分
 結露によって生じた影響は,短時間で変化するので,装置から取り出した試験板は,5分以上 10分以内に塗膜表面の“膨れ”について検分する。
 必要があれば,標準状態に 24時間試験板を保管し,付着性の低下,さびによる汚染,色の変化,軟化,脆化,規定されたその他の特性を検分する。

 このページの“トップ”