防食概論塗装・塗料

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 このサイトで紹介する塗料・塗膜の品質・特性の評価に関連し,【塗料・塗膜とは】,  【塗料の評価】,  【関連の基礎用語】に項目を分けて紹介する。

 塗料・塗膜(塗料の評価)

 塗料・塗膜とは

 塗料の評価では,塗料が乾燥(硬化)して塗膜を形成する段階までの品質評価でを紹介する。塗膜の評価では,塗料が乾燥して形成された塗膜の機能や耐久性などの評価試験について紹介する。
 このサイトでは,防食塗装に用いられる塗料を中心に解説する。なお,紹介した試験規格の概要は, 塗料・塗装関連のJIS試験規格一覧で紹介する。
 
 次には,JIS K5500「塗料用語」における塗料と塗膜の定義を紹介する。
 塗料(coating material, coating)
 素地に塗装したとき,保護的,修飾的,又は特殊性能をもった膜を形成する液状,ペースト状,又は粉末状の製品。
 流動状態で物体の表面に広げると薄い膜となり,時間の経過につれてその面に固着したまま固体の膜となり,連続してその面を覆うもの。塗料を用いて,物体の表面に広げる操作を塗るといい。固体の膜ができる過程を乾燥といい。固体の皮膜を塗膜という。流動状態とは,液状,融解状,空気懸濁体などの状態を含むものである。顔料を含む塗料の総称をペイント(paint)ということがある。
 備考:ISO用語規格では,“coating material”をここに定義される塗料として,また,“coat”を塗膜として定義している。
 BS用語規格も同様に“coating material”を塗料,“coat”を塗膜とするほか,“coating”を塗装として定義している。
 しかし,ASTMでは,“coating”をここに定義する内容の塗料として定義しており,また,一般には,“coating”を塗料の意味で用いる場合が多いので,対応英語は,“coating material”だけでなく,“coating”を併記した。
 
 塗膜(coat, film, paint film, coating)
 塗られた塗料が乾燥してできた固体皮膜
 備考:ISO(国際規格) 用語規格では,単一の(1回の)塗装でできる塗料の連続層を“coat”,素地に 1回又はそれ以上塗装してできる連続層を“film”と定義。
 
 ライニング(lining)と塗膜
 ライニングとは,金属の表面を防食するため,その表面に,他の複合材料を比較的厚く被覆すること。金属・無機物質などを溶射,焼き付け,はり合わせなどで被覆する無機質ライニングと,有機物質を流動浸せき,溶射,塗布,はり合わせなどで被覆する有機質ライニングとがある。【JIS Z0103「防せい防食用語」】
 一般的には,金属の防食に限らず,物体の表面や内面に,付着できる物質で比較的厚く覆う表面処理法をライニングといっている。なお,有機質ライニングは,皮膜の厚さ 500μm以上をいい,それより薄い膜の塗膜と区別されている。
 
 【参考】
 JIS (Japanese Industrial Standards)
 2019年(令和元年)までは,日本工業規格(Japanese Industrial Standards)の通称で,1946年(昭和 21年)に制定された工業標準化法に基づき,経済産業省に設置された日本工業標準調査会(略称 JISC)の答申を受け,大臣が制定する国家標準(工業標準)であった。
 工業標準化法の改正により,2019年 7月に法の名称が産業標準化法に,日本工業標準調査会が日本産業標準調査会(Japanese Industrial Standards Committee ;略称 JISC)に,日本工業規格は「データ,サービス」を含む日本産業規格(Japanese Industrial Standards;略称 JIS)に名称変更された。
 ISO(International Organization for Sstandardization)
 国際標準化機構(International Organization for Standardization)は,国際連合経済社会理事会に総合協議資格(general consultative status)を有する機関に認定された最初の組織の 1つで,各国の国家標準化団体で構成される非政府組織である。 ISOが定める国際規格を ISO規格という。
 BS(British Standard)
 英国規格(British Standards;略称BS),英国規格協会(British Standards Institution ; BSI)が制定したイギリスの国家規格。
 英国規格協会は,1901年にイギリス土木学会が提唱し開設した非営利団体である,英国規格(BS)はドイツのドイツ連邦規格(DIN)やアメリカ合衆国の ASTM規格と並んで世界で広く活用されている。
 ASTM(American Society for Testing and Materials)
 1898年に鉄道産業のレール製造に用いる鋼の規格の制定に始まり,米国材料試験協会(American Society for Testing and Materials ; ASTM)の定める工業材料規格と試験法規格からなる。
 米国材料試験協会は,2001年に,ASTM規格の国際化を契機に,ASTMインターナショナル(ASTM International)と改称し,世界最大の民間の非営利の国際標準化・規格設定機関となった。
 製品規格(product specification, product standard)
 製品の形状,寸法,材質,成分,品質,性能,耐久性,安全性,機能などを規定した規格。
 試験規格(test standard)
 方法規格ともいい,試験,分析,検査及び測定方法,作業方法などを規定した規格。

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 塗料の評価

 塗料は最終製品である塗膜を得るための中間製品である。従って,JIS製品規格には,塗料材料としての品質規格と施工性に関わる品質規格,塗膜形成性に関わる品質規格,形成された塗膜の品質規格が規定されている。
 各塗料の品質評価については,防食塗装に用いる塗料の「塗装工程による塗料分類」に従って,塗料規格の概要と品質項目(試験)を紹介する。

塗料の評価(下塗り塗料)

 ここでは,素地に直接塗り付け,防食性能に大きく影響するプライマー,及び下塗り塗料の品質を紹介する。
 「塗料について」では,硬化する前の塗料としての品質の項目や基礎用語について紹介する。
 「プライマーとは」では,防食塗装で用いられるJIS K 5563「エッチングプライマー」,JIS K 5552「ジンクリッチプライマー」の概要を紹介する。
 「プライマーの品質規格」では,JIS規格で規定される品質の解説と品質項目の分類,JIS試験規格との対応を紹介する。
 
 「下塗り塗料の品質」では,下塗り塗料のJIS規格,下塗り塗料の特徴を紹介する。
 「鉛・クロムフリーさび止めペイントの品質」では,JIS K 5674「鉛・クロムフリーさび止めペイント」に規定される品質規格を紹介する。
 「厚膜形ジンクリッチペイントの品質」では,JIS K 5553「厚膜形ジンクリッチペイント」に規定される品質規格を紹介する。
 「構造物用さび止めペイントの品質」では,JIS K 5551「構造物用さび止めペイント」に規定される品質規格を紹介する。
 「下塗り塗料の品質項目比較」では,下塗り塗料のJIS規格で採用される品質項目と試験方法をまとめて紹介する。

塗料の評価(中塗り塗料)

 ここでは,防食塗装に用いる中塗り塗料について紹介する。
 「中塗り塗料とは」では,下塗り塗料と上塗り塗料を設定又は想定した塗料である中塗り塗料のJIS規格品を紹介する。
 「合成樹脂調合ペイント 2種中塗り用の品質」では,JIS K 5516「合成樹脂調合ペイント」に規定される中塗り塗料の品質規格を紹介する。
 「鋼構造物用耐候性塗料・中塗り用の品質」では,JIS K 5659「鋼構造物用耐候性塗料」の中塗り塗料の品質規格を紹介する。
 「中塗り塗料の品質項目比較」では,上塗り塗料のJIS規格で採用される品質項目と試験方法をまとめて紹介する。

塗料の評価(上塗り塗料)

 ここでは,防食塗装で活用されてきた上塗り塗料と現行で主流の上塗り塗料について紹介する。
 「上塗り塗料とは」では,上塗り塗料の概要と,防食塗装に用いられる上塗り塗料のJIS規格を紹介する。
 「合成樹脂調合ペイント・上塗り塗料の品質」では,JIS K 5516「合成樹脂調合ペイント」に規定される上塗り塗料の品質規格を紹介する。
 「鋼構造物用耐候性塗料・上塗り塗料」では,JIS K 5659「鋼構造物用耐候性塗料」の上塗り塗料の品質規格を紹介する。
 「上塗り塗料の品質項目比較」では,上塗り塗料のJIS規格で採用される品質項目と試験方法をまとめて紹介する。

塗料の評価(塗装作業性など)

 ここでは,防食塗装で活用される塗料を例に,品質評価に用いる主な試験方法を紹介する。
 「塗料品質の試験項目と試験法一覧」では,防食塗装に用いられる塗料のJIS品質規格で規定されている項目と試験方法をまとめ,次項で解説する項目を選別する。
 「試験の準備」では,試験を実施する上で共通するサンプリング,試料の検分及び調整方法,試験実施時の一般条件として,試験の場所,試料の混合,及び試験片の作製方法を紹介する。
 「容器の中での状態」では,試験に供する試料を開封した時の塗料の状態を観察評価する方法を紹介する。一般的な保管状態を想定した時の保管容器の中での状態の評価方法を紹介する。
 「加熱残分」では,塗料を一定条件で加熱した時に,塗料成分の一部が揮発,又は蒸発した後に残ったものの質量の,元の質量に対する百分率で表わす加熱残分の測定方法を紹介する。なお,多液形塗料では,主剤と硬化剤を混合した後を明示するため「混合塗料中の加熱残分」と称することもある。
 「塗装作業性」では,塗料に規定する塗装方法で塗り付けたとき,塗装作業への支障の有無を評価する試験方法を紹介する。
 「乾燥時間;表面乾燥」では,塗料の乾燥に対する概念,規定する乾燥条件,経過時間後に,バロチニ法を用いた塗膜表面の乾燥状態の評価試験方法を紹介する。
 「半硬化乾燥」では,塗料に規定される乾燥条件,経過時間後に,指触検査による塗膜表面の乾燥状態の評価試験方法を紹介する。
 「ポットライフ」は,多液形塗料を規定の混合比で混ぜ合わせた後,塗装作業に供することのできる最長の時間をいうが,一般的には,規定された条件で,規定された時間経過後に,塗装作業性塗膜の外観への影響の有無を評価する試験法を紹介する。なお,一般的には,ポットライフを可使時間ともいう。

塗料の評価(形成被膜)

 ここでは,防食塗装で活用される塗料を例に,品質評価に用いる主な試験方法を紹介する。
 「隠ぺい力・隠ぺい率」は,塗料が下地の色の差を覆い隠す度合を隠ぺい率といい,黒と白とに塗り分けて作った下地の上に,同じ厚さに塗ったときの,拡散反射率又は三刺激値Yの比で表われる。ここでは,測定試験の概要を紹介する。
 「塗膜の外観」では,規定された条件で塗装された塗膜の外観を見本品と比較評価する方法,注目すべき塗膜の変状について紹介する。
 「上塗り適合性」では,一般的に,下塗り塗膜の上に中塗り塗料を,中塗り塗膜の上に上塗り塗料を塗り重ねる。
 このとき,塗り重ねの作業に支承が起こらず,正常な塗り重ね塗膜が得られるか否かを下地となった塗膜の上塗り適合性という。ここでは,上塗り適合性の評価試験方法を紹介する。
 なお,下塗り塗料を 2回塗る塗装仕様など,同じ塗料を塗り重ねるときは,塗り重ね適合性(recoatability)という。
 「耐衝撃性」では,塗装試験片に塗料規格に規定される衝撃力を加え,塗膜の変形しにくさ(硬さ,柔軟性)を確認する試験方法を紹介する。
 「耐屈曲性」では,塗装試験片を塗料規格に規格される曲率で試験片を折り曲げたときの塗膜割れを観察することで,塗膜の柔軟性や付着性を評価できる試験方法を紹介する。
 「付着性」では,付着・接着・粘着の概念,付着強さの種類と作用する力の関係などを紹介する。
 「層間付着性」では,下地塗膜の表面を規定する条件で養生した後に,塗り重ねた塗料との付着性を評価する層間付着性Ⅰ(下塗り塗料と中塗り塗料との間),層間付着性Ⅱ(中塗り塗料と上塗り塗料との間),付着安定性(鉛・クロムフリーさび止めペイントと中塗り塗料との間)を紹介する。

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 関連する基礎用語

 【塗料・塗膜】
 プライマー(primer)
 塗料を塗り重ねて塗膜層を作るとき,耐食性と付着性とを増すために素地に直接塗る塗料。【JIS Z0103「防せい防食用語」】
 塗装系の中で素地に初めに用いる塗料。プライマーは,素地の種類や塗装系の種類に応じた各種のものがある。【JIS K5500「塗料用語」】
 下塗り塗料(undercoat, priming coat)
 塗料を塗り重ねて塗装仕上げするときの下塗に用いる塗料。塗装系に対する素地の影響を防止し,付着性を増加させるために用いる。
 備考:1.ISO用語規格では,“undercoat”と“intermediate coat”とは同じ定義で,“地肌塗り(priming coat)”と“上塗り(finishing coat)”との間の塗料(coat)をいう。また,“priming coat”は,素地に塗る塗装系の最初の塗料(coat)をいう。
 備考:2.BS用語規格及びCEDでは“undercoat”は,上塗り塗料を塗る前に,目止め,肌直し,地肌塗りなどを行った素地面,又は素地調整を行った旧塗膜面に塗装される塗料をいう。【JIS K5500「塗料用語」】
 下塗り(under coating, primer coating)
 中塗り用塗料や,上塗り用塗料を塗る前に,下塗り用塗料を塗る操作。【JIS K5500「塗料用語」】
 中塗り塗料(intermediate coat, undercoat)
 塗料を塗り重ねて塗装仕上げをするときの,中塗りに用いる塗料。下塗り塗膜と上塗り塗膜との中間にあって,両者に対する付着性をもち,塗装系の耐久性を向上させる目的に用いるもの,下塗り塗面の平滑さの不足を補うために用いるものなどがある。後者では,塗膜が厚くて研磨しやすいことが特徴である。
 備考:1.ISO用語規格では,“intermediate coat”と“undercoat”とは同義で,“地肌塗り(priming coat)と上塗り(finishing coat)の間のコート(coat)”をいう。
 備考:2.BS用語規格及びCED(Coatings Encyclopedic Dictionary)では,“undercoat”は,上塗り塗料を塗り前に,目止め,肌直し,地肌塗りなどを行った素地面,又は素地調整を行った旧塗膜面に塗装される塗料をいう。【JIS K5500「塗料用語」】
 中塗り(intermediate coating)
 下塗りと上塗りとの中間層として,中塗り用の塗料を塗る操作。下塗り塗膜と上塗り塗膜との間の付着性の増強,総合塗膜層の厚さの増加,平らさ又は立体性の改善のために行う。英語では,目的によって,undercoat,ground coat,surfacer,texture coat などという。【JIS K5500「塗料用語」】
 上塗り塗料(top coat, topcoat, finishing coat)
 塗料を塗り重ねて塗装仕上げをするとき,上塗りに用いる塗料。
 備考:1.ISO用語規格では,“top coat”と“finishing coat”とは同義語で,“塗装系の最終の塗料(coat)”をいう。
 備考:2.CEOでは,“topcoat”は“通常プライマー,アンダーコート,又は素地に直接塗装される塗装系の最終塗膜に用いる塗料”をいう。
 備考:3.上塗りは,1回又はそれ以上塗られることもある。また,ある種の系では,上塗りが素地に直接 1回又はそれ以上塗装されることもある。【JIS K5500「塗料用語」】
 上塗り(over coating, finishing)
 下地塗膜の上にまたは直接素地に上塗り用の塗料を塗る行為。【JIS K5500「塗料用語」】
 品質(quality)
 対象(object)に本来備わっている特性(characteristic)の集まりが,要求事項(requirement)を満たす程度。
 注記 1 品質という用語は,悪い,良い,優れたなどの形容詞とともに使われることがある。
 注記 2 本来備わっているとは,付与されたとは異なり,対象の中に存在していることを意味する。【JIS Q9000「品質マネジメントシステム―基本及び用語.」】
 工業的には,対象の自然的属性(物理的および化学的性質)に基づく実質的性能が要求性能を満たす程度と考えられる。物理的性質には,比重,強度,硬度,粘度,融点,沸点,凝固点などが,化学的性質には,成分,組成,試薬などを用いた化学反応などが挙げられる。他に,環境問題,資源問題に対する性能,色彩・光沢などの官能的・心理的要素を含めて品質として捉えられることも多い。
 
 【視覚特性】
 視覚特性(塗膜の)(visual characteristics of film)
 人の目に入った光が刺激となり生じる感覚(視覚)の中で,数値化できる色情報や明度情報で関連付けられる塗膜の特性。
 隠ぺい力(塗膜の)(hiding power)
 塗料が素地の色又は色差を覆い隠す能力。黒と白とに塗り分けて作った下地の上に,同じ厚さに塗ったときの塗膜について,色分けが見えにくくなる程度を,見本品の場合と比べて判断する。【JIS K5500「塗料用語」】
 鏡面光沢度(specular gloss, relative-specular glossiness, mirror surface glossiness)
 面の入射光に対して,等しい角度での反射光,すなわち鏡面反射光の基準面における同じ条件での反射光に対する百分率。面の光沢の程度を表す。光沢度が比較的大きい塗面では,法線に対して入射角 60度,反射角 60度で測る。これを 60度鏡面光沢度という。鏡面光沢度の基準面として屈折率 1.567 のガラスの平面を用いる。【JIS K5500「塗料用語」】
 光沢(gloss, luster)
 表面の方向選択特性のために,諸物体の反射ハイライトが,その表面に写り込んで見えるような見えのモード。【JIS Z8105「色に関する用語」】
 光の反射(能力)で特徴付けられる表面の(光学的)性質。【JIS K5500「塗料用語」】
 色の目視比較(visual comparison of the color)
 目視で色を評価・比較する場合は,試験場所の光源や明るさなどの条件で変化する。このため,塗膜及び関連製品の色を,自然昼光又は色観察ブース内の人工光源を用いて,標準品(参照標準又は新たに調整した標準)と対比して目視比較する。【JIS K5600-4-3「色の目視比較」】
 測色(colorimetry)
 表色系で必要な色表示に用いられる諸量を測定すること。色の測定。
 備考 感覚としての色の測定及び心理物理量としての色の測定を含むが,通常,後者の意味で用い られる。心理物理量としての色の測定は,CIE(国際照明委員会)が定めた一連の規約に従って測定・計算され,その結果は,例えば,三刺激値,色度座標として表される。【JIS Z8120「光学用語」 】
 三刺激値(tristimulus values)
 与えられた三色表色系において,試料の色刺激と等色にするための 3 個の原刺激の量。
 備考 2種類の CIE 表色系では,三刺激値は記号 X,Y,Z 及び X10,Y10,Z10 で表す。【JIS Z8105「色に関する用語」】
 色差(color difference)
 色の知覚的な相違を定量的に表したもの。【JIS K5500「塗料用語」】
 二つの色の間に知覚される色の隔たり,又はそれを数量化した値。【JIS Z8105「色に関する用語」】
 色の距離ともいわれ,2 つの色の知覚的な相違を定量的に表したもの。一般的には,国際照明委員会 (CIE) の CIE Lab色空間におけるユークリッド距離として計算(CIE LAB色差式)される色差が用いられる。
 
 【機械的性質】
 可撓性(塗膜の)(flexibility)
 読み「かとうせい」,外力で物質がしなやかにたわむ性質で,たわみ性や撓性(とうせい)ともいう。力を加えると変形する性質の弾性(elasticity)と混同されやすいが,弾性は外力を除くと原形に回復することを条件として言及されるが,可撓性では原形に回復することを条件とせず,弾性変形のし易さについてのみ言及している。なお,塗料分野では耐屈曲性ともいう。
 たわみ性(flexibility, pliability)
 工学的には,曲げ剛性(flexural rigidity)の逆数をいう。
 耐屈曲性(塗膜の)(flexibility)
 乾燥塗膜が塗られている素地の変形に損傷を起こさずに順応する能力。屈曲試験では,試験片を,塗膜を外に,素地の板を内側にして丸棒に沿って 180 度折り曲げ,塗膜の割れの有無を調べる。素地の板が厚いほど,丸棒の直径が小さいほど,塗膜に与えられる伸び率と,塗膜に起こる上面から下面にかけての伸び率の不均等性は大きい。塗膜がもろくなくて伸び率が大きいとたわみ性が優れていると判定される。
 備考 膜のたわみ性を説明するため, “elasticity” という用語を用いることは正しくない。【JIS K5500「塗料用語」】
 耐衝撃性(impact resistance, shock resistance, chip resistance)
 塗膜が物体の衝撃を受けても破壊されにくい性質。衝撃試験では,試験片の塗面におもりを落下して,割れ・はがれの有無を 調べる。【JIS K5500「塗料用語」】
 JIS K 5600-5-3「耐おもり落下性」は,球状のおもりを塗装試験片に落として,塗膜の変状(割れ・はがれ)と落下高さで評価する試験法である。
 付着性(adhesive property, adhesion, adhesion test)
 塗膜が下地面に付着して離れにくい性質。【JIS K5500「塗料用語」】
 塗膜の付着性を評価する試験規格には,JIS K 5600-5-7「付着性(プルオフ法)」,JIS K 5600-5-6「付着性(クロスカット法)」がある。
 碁盤目試験(付着性)(cross cut test, lattice pattern cutting test)
 塗膜の付着性試験法の一つで,JIS改訂でクロスカット法と名称が変更されたが,一般名称として広く用いられている。
 塗料,ワニス及び関連製品の試料採取及び試験を扱う規格の一つで,直角の格子パターンが塗膜に切り込まれ,素地まで貫通するときの素地からのはく離に対して塗膜の耐性を評価する。【JIS K5600-5-6「付着性(クロスカット法)」】
 耐摩耗性(abrasion resistance, wear resistance)
 相対運動する金属面の機械的引っかき,金属的粘着などが総合されてその面が損耗する現象を磨耗といい,これに耐える性質。【 JIS G0203「鉄鋼用語(製品及び品質)」】
 塗膜の耐摩耗性に関しては,JIS K 5600-5-8 「耐摩耗性(研磨紙法)」,JIS K 5600-5-9「耐摩耗性(摩耗輪法)」,JIS K 5600-5-10 「耐摩耗性(試験片往復法)」などが規定されている。
 硬度(硬さ)(hardness)
 塗膜の硬度は,厚みが 1mm以下と薄いため,参考の項に示す金属やゴムで採用されている押し込み法では,塗膜の変形以外に素地の影響が大きく計測困難である。このため,塗膜の硬度は,引っかき法を用いて評価されている。試験方法の規格には,JIS K 5600-5-4「引っかき硬度(鉛筆法)」,JIS K 5600-5-5「引っかき硬度(荷重針法)」がある。
 参考:硬さの概念は,数値化して表現しようとする場合の試験方法の定義により様々な値を取る。硬さ試験では,金属,セラミックス,ゴムなどの材料特性により微小な変形を与える力に対する挙動がそれぞれ異なる。
 材質により,ブリネル硬さ(押し込み),ビッカース硬さ(押し込み),ヌ―プ硬さ(押し込み),ロックウェル硬さ(押し込み),バーコール硬さ(押し込み),モノトロン硬さ(押し込み),ショア硬さ(反発硬さ),鉛筆硬さ(引っかき),マンテルス硬さ(引っかき)などがある。
 
 【化学的性質】
 耐液体性(resistance to liquids)
 液体の作用に対する,塗料又は関連製品の単一塗膜または多層塗膜系の抵抗性(耐性)。試験方法は,JIS K 5600-6-1「耐液体性(一般的方法)」に規定されている。
 耐水性(water resistance, waterproof)
 塗膜が,水の化学的作用又は物理的作用に対して変化しにくい性質。試験片を水に浸して,しわ,膨れ,割れ,はがれ,つやの減少,曇り,変色などの有無や程度を調べる耐水試験がJIS K 5600-6-2「耐液体性(水浸せき法)」に規定されている。【JIS K5500「塗料用語」】
 耐アルカリ性(alkaliproof, alkali resistance, alkali resistance test)
 アルカリの作用に対して変化しにくい塗膜の性質。【JIS K5500「塗料用語」】
 耐酸性(acid resistance, fastness to acid, acidproof)
 酸の作用に抵抗して変化しにくい塗膜の性質。【JIS K5500「塗料用語」】
 耐揮発油性(gasoline resistance)
 揮発油の作用に対して変化しにくい塗膜の性質。【JIS K5500「塗料用語」】
 耐塩水性(salt water resistance)
 食塩水の作用に対して変化しにくい塗膜の性質。【JIS K5500「塗料用語」】
 耐加熱性(effect of heat, resistance to heat)
 塗料又はその関連製品の単独塗膜又は多層塗膜系の熱の影響に対する抵抗性。【JIS K5600-6-3「耐加熱性」】
 
 【耐久性】
 耐久性(durability, endurance)
 物体の保護,美粧など,塗料の使用目的を達成するための,塗膜の性質の持続性。【JIS K5500「塗料用語」】
 屋外暴露に耐える塗膜の特性。【 JIS K 5600-7-6「屋外暴露耐候性」】
 耐塩水噴霧性(resistance to neutral spray)
 塩水噴霧試験に耐える性質。JIS K5600-7-1「耐中性塩水噴霧性」の序文には,“耐中性塩水噴霧性は,塗料や塗装系の品質チェックを目的とし,塩水噴霧の作用に対する塗膜の抵抗性と他の環境における腐食に対する抵抗性との直接の関係はなく,試験によって得られた結果は,その試料が使用されるすべての環境での腐食抵抗性の直接の指標になるものではない。”と記されている。
 耐湿性(moisture resistance, humidity resistance, resistance to humidity)
 塗膜,塗装系及び類似の製品の,高湿度条件に対する耐久性を測定するための方法には,表面に連続結露が生じる条件の JIS K 5600-7-2「耐湿性(連続結露法)」,断続的な結露に対する抵抗の評価を目的とするJIS K 5600-7-3「耐湿性(不連続結露法)」がある。
 耐光性(light fastness, fastness to light, light resistance, light stability)
 顔料及び塗膜の特性,特に色が光の作用に抵抗して変化しにくい性質。試験規格として,JIS K 5600-7-5「耐光性」がある。【JIS K5500「塗料用語」】
 環境因子繰り返し性(environmental factors cycling test)
 試験目的に応じて選択された複数の環境因子を組み合わせ,これを繰り返し負荷することで,塗膜の変化(表面特性,ふくれ,割れ,さび)に対する抵抗性。この目的で実施される試験を人工環境試験といい,塗膜への適用では,サイクル腐食性, 耐湿潤冷熱繰返し性, 促進耐候性などがある。
 環境因子(environmental factor)
 一般的には,生物の生存,生活に影響する環境の条件をいう。腐食工学では,鋼などの金属の腐食に影響する環境条件(environmental conditions)をいう。例えば,大気腐食(屋外)では,気温,湿度,降水,海塩粒子,二酸化硫黄などが環境因子として取り上げられる。
 JIS Z 2381 「大気暴露試験方法通則」では,環境因子を“暴露試験場における気象因子及び大気汚染因子の総称。”,気象因子を“気象観測の対象となる気温,湿度,太陽放射エネルギー量,降水量,風向,風速などの因子。”,大気汚染因子を“人為的・自然的に発生する硫黄酸化物,窒素酸化物,硫化水素,海塩粒子などの暴露試験に影響を及ぼす因子。”と定義している。
 サイクル腐食性(resistance to cyclic corrosion conditions)
 JIS K5600-7-9 「サイクル腐食試験方法−塩水噴霧/乾燥/湿潤」に規定する装置,塩水噴霧/乾燥/湿潤のサイクル条件を用い,塗料製品規格に規定するサイクル数に耐える性能。
 促進耐候性(artificial weathering, accelerated weathering test, accelerated weathering)
 屋外で,日光,風雨,露霜,寒暖,乾湿などの自然の作用に抵抗して変化しにくい塗膜の性質を耐候性(weather resistance , weathering)という。塗膜の耐候性を評価するためには,実環境への暴露試験が必要となる。これに対し,人工光源を用いた試験機を用いて得られた塗膜の性質を促進耐候性(人工的耐候性)という。
 耐候性(weathering resistance)
 屋外で,日光,風雨,露霜,寒暖,乾湿などの自然の作用に抵抗して変化しにくい塗膜の性質(JIS K 5600-7-6「屋外暴露耐候性」参照)。【JIS K5500「塗料用語」】
 暴露試験(weathering test)
 環境との相互作用などを検討するため実際の環境,又は人工的に作られた環境に物体などを曝す試験方法をいう。

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