防食概論塗装・塗料

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 ここでは,鉄道の鋼橋塗装に適用される防食塗装系について, 【鋼鉄道橋の防食塗装系】, 【新設時の塗装系】, 【塗替え時の塗装系】 に項目を分けて紹介する。

 鉄道橋の防食塗装(新設塗装)

 鋼鉄道橋の防食塗装系

 鋼鉄道橋の「維持管理標準」には,塗装技術に関して「鋼構造物塗装設計施工指針」(鉄道総合技術研究所編集,研友社発行)(以下,「塗装指針」と称す)を参考にするよう記述され,多くの鉄道事業者は,この指針に準じて塗装を実施している。
 そこで,ここでは「塗装指針」に規定される塗装系一覧を紹介する。
 塗装系は,塗装時期により新設時塗装,塗替え塗装に,適用部位・部材により外気に面する一般外面用,箱桁等の密閉空間となる内部の内面用,高力ボルトを用いた摩擦接合部など添接部用,鋼板接触面用,添接部の高力ボルト表面用,高湿度状態が長く続き乾燥し難い桁端部用,まくらぎが直裁される上フランジ・まくらぎ下用などに分けられる。
 これらの一般鋼材用の他に,溶融亜鉛めっき鋼用,異常腐食した耐候性鋼用などの塗装系もある。
 
 塗装系記号について
 「塗装指針」では,1965年から採用されている前身の「鉄けた塗装工事設計施工指針」での考え方を踏襲している。
 すなわち,道路分野の「塗装便覧」や「防食便覧」では,用途別の塗装系記号となっているが,「塗装指針」では,塗料種別に英記号を割り当て,続く数値で新設時,塗替え時,全面塗装,部分塗装などの区分を示している。このため,塗料種の使用停止や新規塗料の採用により,塗装系記号が廃止・新設されてきた。
 例えば,廃止された塗装系には,鉛丹さび止めペイントを用いる塗装系 A (鉛丹さび止めペイント+合成樹脂調合ペイント),鉛系さび止めペイントを用いる塗装系 B (鉛系さび止めペイント+合成樹脂調合ペイント),結露面用塗料を用いる塗装系 C (鉛丹さび止めペイント+結露面用塗料),タールエポキシ樹脂塗料を用いる塗装系 D 塗装系 E 塗装系 F 厚膜型無機ジンクリッチペイントを用いる塗装系 H (厚膜型無機ジンクリッチペイント+厚膜型エポキシ樹脂塗料+ポリウレタン樹脂塗料),塩化ゴム系塗料を用いる塗装系 Kなどなどがある。なお,英文字 I,O,U,V など数字との混同や誤記の可能性がある記号は,塗装系やその他の分類記号には用いていない。
 塗料の更新で廃止された塗装系は,その記号が欠番となるため,現在では,新規塗装系を一文字で表記できない状況である。このため,例えば水系ポリウレタン樹脂塗料を用いる塗装系 JECO(厚膜型エポキシ樹脂ジンクリッチペイント+厚膜型変性エポキシ樹脂系塗料+水系ポリウレタン樹脂塗料用中塗+水系ポリウレタン樹脂塗料上塗)など文字列で表記されている。
 
 塗料種で塗装系を区分するメリットとしては,塗装系記号のみで,過去に塗装された塗料種を的確に把握できることにある。ディメリットとしては,塗装系記号だけでは,その用途を把握できないため,担当者に塗装仕様の知見がないと的確な発注ができないことにある。
 考えようによっては,塗装系の用途が限定されていないことは,事業者の裁量の自由度が増す(担当者が塗装仕様に精通している場合)ことにもなる。
 例えば,一般外面用は,耐久性の区分はあるが,使用環境の腐食性を限定していないので,塗替え塗装周期を延伸したい場合に,一般環境でも道路でいうところの重防食塗装系を容易に採用できる。
 このため,鉄道では,架設環境を問わないので,耐久性の高い塗装系を重防食塗装とは称せず,長期防錆型塗装と称している。
 
 JIS Z 103「防せい・防食用語」では重防食塗装を“海岸や海上のような腐食性の激しい環境に建設される鋼構造物の塗り替え周期を長くするため防食性,耐久性を有する防食塗装をいう。一般にジンクリッチペイントをプライマーとして,エポキシ樹脂,ふっ素樹脂塗料などを組み合わせて用いる。”と定義している。
 
 【参考】
 「鋼構造物塗装設計施工指針」(鉄道総合技術研究所編集,研友社発行)
 鋼構造物を適切に防食するための技術情報として,(公益財団法人)鉄道総合技術研究所が編集発行する防食・塗装の指針である。

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 新設時の塗装系

 2013年12月に改訂された「塗装指針」記載の新設時塗装系を紹介する。


鋼鉄道橋の新設時の塗装系一覧
  適用個所    記号等  塗料構成 備  考
  一般
  外面用
BSU   鉛・クロムフリー長ばく形エッチングプライマー + 鉛・クロームフリーさび止めペイント + 長油性フタル酸樹脂塗料中塗 + 長油性フタル酸樹脂塗料上塗   工事桁,仮設構造物,定期交換部材など10年程度までの耐久で,塗替え塗装しない構造物などに適用する短期防錆仕様。
BMU1   無機ジンクリッチプライマー + + 厚膜型変性エポキシ樹脂系塗料 + ポリウレタン樹脂塗料上塗   15年程度までの中期使用の工事桁,仮設構造物,15年程度までの定期的塗替え塗装を計画する構造物などに用いる中期防錆仕様。
L   無機ジンクリッチプライマー + 厚膜型変性エポキシ樹脂系塗料 + 厚膜型ポリウレタン樹脂塗料上塗   長期間の塗替え塗装間隔を期待するが,高い景観性を必要としない構造物などに用いる長期防錆型仕様。
J   厚膜型エポキシ樹脂ジンクリッチペイント + 厚膜型エポキシ樹脂系塗料下塗 + ポリウレタン樹脂塗料用中塗 + ポリウレタン樹脂塗料上塗   長期間の塗替え塗装間隔,高い景観性を期待する構造物などに用いる長期防錆型仕様。
JECO   厚膜型エポキシ樹脂ジンクリッチペイント + 厚膜型エポキシ樹脂系塗料下塗 + 水系ポリウレタン樹脂塗料用中塗 + 水系ポリウレタン樹脂塗料上塗   長期間の塗替え塗装間隔,高い景観性を期待する構造物などに用いる長期防錆型仕様。水系塗料を用いた環境負荷低減型。
  内面用 LN   厚膜型変性エポキシ樹脂系塗料   箱桁・箱型構造の一般内面用。
WW   厚膜型無機ジンクリッチペイント + 無溶剤型変性エポキシ樹脂塗料   箱桁・箱型構造内面の添接板表面用。
  特定
  部位用
添接部
接触面
  無機ジンクリッチペイント   一般外面に塗装系BSUを用いる場合は無塗装,それ以外の塗装系では,片面当たりの乾燥膜厚60~90μmとなるよう塗り付ける。使用する塗料は,高力ボルト摩擦接合継手のすべり試験で,すべり係数値0.4以上であることが確認されてものを採用すること。
RR   専用プライマー + 超厚膜型エポキシ樹脂塗料 + ポリウレタン樹脂塗料用中塗 + ポリウレタン樹脂塗料上塗   防せい処理ができないボルト・ナット・平座金を用いたときの添接板用。
S   専用プライマー + ガラスフレーク塗料   耐衝撃性が求められる上フランジ上面・まくらぎ下用。
R   専用プライマー + 超厚膜型エポキシ樹脂塗料   桁端部などの局部腐食が想定される部位用。
  その他
  外面用
ZP1   亜鉛めっき面用変性エポキシ樹脂系塗料下塗 + ポリウレタン樹脂塗料用中塗 + ポリウレタン樹脂塗料上塗   溶融亜鉛めっき鋼の外面用塗装仕様。
WS1   無機ジンクリッチプライマー + 厚膜型変性エポキシ樹脂系塗料 + 厚膜型ポリウレタン樹脂塗料上塗   耐候性鋼製無塗装橋梁の桁端部,部材下面などの部分塗装仕様。

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 塗替え時の塗装系

 2013年12月に改訂された「塗装指針」記載の塗替え塗装系を紹介する。

鋼鉄道橋の塗替え塗装系一覧
  適用個所    記号等  塗料構成 備  考
  一般
  外面用
BMU1   厚膜型変性エポキシ樹脂系塗料 + ポリウレタン樹脂塗料上塗   旧塗膜B,旧塗膜D,旧塗膜BMU1の構造物に対し,定期的塗替え塗装が計画されている鋼橋用。
BMU2   厚膜型変性エポキシ樹脂系塗料 + 長油性フタル酸樹脂塗料中塗 + 長油性フタル酸樹脂塗料上塗   旧塗膜B,旧塗膜D,旧塗膜BMU2の構造物に対し,定期的塗替え塗装が計画されている鋼橋用。
G   厚膜型変性エポキシ樹脂系塗料 + 厚膜型変性エポキシ樹脂系塗料上塗   旧塗膜B,旧塗膜Dの構造物に対し,塗替え塗装周期を延伸する場合,旧塗膜E,旧塗膜Gの場合で,景観性を求めない場合。
T   厚膜型変性エポキシ樹脂系塗料 + 厚膜型ポリウレタン樹脂塗料上塗   旧塗膜B,旧塗膜Dの構造物に対し,塗替え塗装周期を延伸する場合,旧塗膜E,旧塗膜G,旧塗膜Tの場合で,景観性を求める場合。
L   厚膜型エポキシ樹脂ジンクリッチペイント + 厚膜型変性エポキシ樹脂系塗料 + 厚膜型ポリウレタン樹脂塗料上塗   旧塗膜L,旧塗膜Mの構造物に対し,部分塗替え塗装を実施する場合。
  全面塗替え塗装を実施する場合は,塗装系ECO2が望ましい。
J   厚膜型エポキシ樹脂ジンクリッチペイント + 厚膜型エポキシ樹脂系塗料下塗 + ポリウレタン樹脂塗料用中塗 + ポリウレタン樹脂塗料上塗   旧塗膜H,旧塗膜J,旧塗膜Kの構造物に対し,部分塗替え塗装を実施する場合。
  全面塗替え塗装を実施する場合は,塗装系ECO2が望ましい。
ECO1   厚膜型変性エポキシ樹脂系塗料 + 水系エポキシ樹脂塗料 + 水系ポリウレタン樹脂塗料上塗   旧塗膜B,旧塗膜Dの構造物に対し,塗替え塗装周期の延伸と環境負荷低減を企画する場合,旧塗膜G,Tの塗替えで,環境負荷低減を企画する場合,旧塗膜ECO1の塗替え塗装。
ECO2   厚膜型エポキシ樹脂ジンクリッチペイント + 厚膜型変性エポキシ樹脂系塗料 + 水系エポキシ樹脂塗料 + 水系ポリウレタン樹脂塗料上塗   塗装系L,塗装系Jでの塗替え対照の構造物に対し,全面塗替え塗装での環境負荷低減を企画する場合,旧塗膜ECO2の塗替え塗装。
  内面用 W   無溶剤形変性エポキシ樹脂塗料   箱桁・箱型構造物で,暗く十分な換気が確保できない場合の内面用。
  特定
  部位用
S   専用プライマー + ガラスフレーク塗料   耐衝撃性が求められる上フランジ上面・まくらぎ下用。
R   専用プライマー + 超厚膜型エポキシ樹脂塗料 + 一般外面用の上塗り塗料を適用   桁端部などの局部腐食が想定される部位用。
  劣化
  溶融亜鉛
  めっき鋼
  用
ZP   劣化亜鉛面用 + 厚膜型変性エポキシ樹脂系塗料下塗 + 劣化亜鉛面用 + 厚膜型ポリウレタン樹脂塗料上塗   溶融亜鉛めっき鋼材において,亜鉛めっき層が合金層まで消耗した場合の補修塗装用。
  赤錆の発生した場合は,長期耐久が期待できないので,長期防錆型塗装系( L, J, ECOなど)への変更が望ましい。
  劣化
  耐候性鋼
  用
ZW   厚膜型エポキシ樹脂ジンクリッチペイント + 厚膜型変性エポキシ樹脂系塗料   層状さびの発生した部材・部位に対する部分補修塗装系。
  ハンマリング・ブラスト処理で,厚いさび層の完全除去が必須。ブラスト処理困難な場合は,10年以上の塗膜耐久を期待できない。

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