防食概論:塗装・塗料
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高耐久型塗装仕様の下塗りや中塗りに用いられるエポキシ樹脂に関し,【エポキシ樹脂とは】, 【エポキシプレポリマー】, 【エポキシ樹脂の構造と特徴】 に項目を分けて紹介する。
塗料各論(構造物用塗料)
エポキシ樹脂とは
エポキシ樹脂(epoxy resin)
JIS K6900 「プラスチック−用語」; 架橋し得るエポキシ基を含む樹脂。
JIS K5500 「塗料用語」; 分子中にエポキシ基を 2個以上含む化合物を重合して得た樹脂状物質。エピクロルヒドリンとビスフェノールとを重合して作ったものなどがある。
塗料用語の定義における“分子中にエポキシ基を 2個以上含む化合物を重合して得た樹脂状物質。”とは,エポキシ基(エポキシド,epoxide)を複数持つプレポリマー(prepolymer)のエポキシ基間での架橋ネットワーク化した熱硬化性樹脂を指す。
“エピクロルヒドリンとビスフェノールとを重合して作ったもの。”とは,エピクロロヒドリンともいわれるエピクロルヒドリン(epichlorohydrin)とビスフェノール(bisphenol)との付加重合(addition polymaerization)で得られた高分子化合物をいう。この際に,適当な所で反応を止めた中間生成物が上述のプレモノマーとしても用いられる。
塗料用語におけるエポキシ樹脂の定義は,プラスチック用語での“エポキシ樹脂を主成分とする製品”を意味するエポキシプラスチック(epoxy plastic)を含む内容である。
エポキシ樹脂は,プレポリマーの組成と硬化剤の種類との組み合わせで多様の物性を持つ樹脂の実現が可能であること,寸法安定性,耐水性・耐薬品性及び電気絶縁性が高いことから電子回路の基板,封入剤,接着剤,塗料,FRPの積層剤として利用されている。
【参考】
エポキシ基(epoxy group)
最も簡単な三員環の構造を持つ環状エーテル(C2H4O)。
IUPAC名,オキシラン(oxirane),又は 1,2-エポキシエタン(1,2-epoxyethane)。一般には,エポキシエタン(epoxyethane),エチレンオキシド(ethylene oxide)などともいわれる。
オキシランを構造式中に持つ化合物の総称をエポキシド(epoxide)といい,置換基として見る場合にエポキシ基(epoxy group)という。
オキシランにメチレンが結合したオキシラニルメチレン(oxiranyl methylene ;(C2H3O)-CH2)をグリシジル(glycidyl)といい,置換基として見る場合にグリシジル基(glycidyl group)という。
重付加(付加重合)(addition polymaerization)
狭義には付加反応による逐次重合する反応。大きく分けて活性水素をもつヘテロ原子の基が多重結合などに付加する水素移動型重付加とペリ環状反応で多重結合が付加する電子移動型重付加とがある。
水素移動型重付加には,ポリウレタン(ウレタン樹脂),エポキシ樹脂が,電子移動型重付加には,環状ポリオレフィン樹脂がある。広義には,付加縮合,ラジカル重合,イオン重合も重付加の範疇に入る。
付加反応(addition reaction)
多重結合が解裂し,それぞれの端が別の原子団と新たな単結合を生成する反応である。
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エポキシプレポリマー
プレポリマーの組成は種々あるが,エポキシ樹脂塗料に用いられるプレポリマーにはビスフェノール A とエピクロルヒドリンの共重合体(copolymer)が多用されている。
備考1:エポキシ基は,エチレンオキシド,エポキシエタン,オキシランなどともいわれるが,官能基として見るときにエポキシ基と称する。エポキシ基のとなりのメチル基までを含む場合は,グリシジル基(glycidyl group)という。
備考2:重合反応などを途中で止めた生成物をプレポリマーというが,有機化学ではモノマーが10~100個結合した比較的分子量の低いものをオリゴマーという。
エーテル形とは,エーテル基(R‐O‐R′)を持つ化合物をいい,アルコールの分子間脱水縮合やハロゲン化アルキルとアルコールの縮合で得られる。
エステル形とは,酸とアルコールの縮合反応で得られるエステル結合(R‐COO‐R′)を持つ化合物をいう。
アミン形とは,アミノ基(‐NR R′)を有する化合物をいう。
エポキシ樹脂には,数多くの種類がある。一般的には,グリシジルエーテル形のビスフェノール A 型エポキシ樹脂(塗料,接着剤の主要樹脂)が,その汎用性から代表的なグレードで,防食塗装用エポキシ樹脂塗料の大多数を占める。
他にグリシジルエーテル形のエポキシ樹脂として,ビスフェノール F 型(接着剤,封止材),クレゾールノボラック型(IC封止剤,レジスト),フェノールノボラック型(積層板,複合材)などが用いられている。
エポキシ樹脂の硬化剤として種々のポリアミンや酸無水物が使用でき,プレポリマーとの組み合わせで,多様の物理的性質,化学的性質,電気的性質を実現できるので,エンジニアリングプラスチックとして広い分野で利用されている。
特に寸法安定性,耐水性・耐薬品性,及び電気絶縁性が高いことから電子回路の基板や IC パッケージの封止剤,接着剤,塗料,FRPの積層剤としての利用が多い。
【参考】
共重合体(copolymer)
共重合とは,2種類以上のモノマーを用いて行う重合で,これにより生成したポリマー。
グリシジル基(glycidyl group)
最も簡単な三員環の構造を持つ環状エーテル(C2H4O)の IUPAC名 1,2-エポキシエタン(1,2-epoxyethane),オキシラン(oxirane)は,エポキシエタン(epoxyethane),エチレンオキシド(ethylene oxide)などという。
オキシランを構造式中に持つ化合物の総称をエポキシド(epoxide)といい,置換基として見る場合にエポキシ基(epoxy group)という。
オキシランにメチレンが結合したオキシラニルメチレン(oxiranyl methylene ;(C2H3O)-CH2)をグリシジル(glycidyl)といい,置換基として見る場合にグリシジル基(glycidyl group)という。
エピクロロヒドリン(epichlorohydrin)
IUPAC名 2-クロロメチルオキシラン,化学式 C3H5ClO ,エポキシ樹脂の主要な原料として知られる。
ビスフェノール(bisphenol)
ビスフェノールは,2 個のヒドロキシフェニル基を有する化合物の総称。
ビスフェノールには,エポキシ樹脂製品などでの実用例の多いビスフェノール A ,ビスフェノール F の他にビスフェノール AP ,ビスフェノール B ,ビスフェノール C ,ビスフェノール E ,ビスフェノール Gなど多数ある。
一般的に,単にビスフェノールといった場合は,エポキシ樹脂として実用例の多い IUPAC名 2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン,化学式 (CH3)2C(C6H4OH)2 のビスフェノール A を指すことが多い。
プレポリマー(prepolymer)
プリポリマーともいい,単量体(モノマー)又は単量体類の重合又は縮合反応を適当な所で止めた中間生成物で,最終の重合体との中間の重合度を持ち,硬化剤を用いた重合や架橋反応により最終製品を得るために用いられる。
なお,単量体の重合でできたポリマー(重合体)のうち,比較的低い重合度のものをオリゴマーというが,プレポリマーとは意味合いが異なる。
オリゴマー(oligomer)
モノマー(単量体)が重合してできたポリマー(重合体)のうち,比較的低い重合度のものをいう。重合度に明確な範囲はないが,一般的には分子量 1000程度のポリマーで,低分子と高分子の中間の性質をもつ。
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エポキシ樹脂の構造と特性
エポキシ樹脂には,種々の優れた特性が知られている。これらの性質は,高分子の化学構造と密接に関連している。下図は,ビスフェノール A 型エポキシ樹脂の分子構造と樹脂特性に影響する部位を模式的に示したものである。分子内の柔軟性,強靭性,接着性,耐薬品性,耐熱性,及び反応性などを発現する官能基をうまく設計することで,期待する特性を有するエポキシ樹脂を合成できることが分かる。
そこで,鋼橋等の屋外で使用する鋼構造物では,エポキシ樹脂塗料を下塗り塗料,中塗り塗料として用いるが,上塗り塗料には耐紫外線性に優れるポリウレタン樹脂塗料などを用いるのが一般的となっている。
なお,耐候性上塗り塗料は必須とは限らず,一部の事業者(鉄道など)では,景観を考慮しない場合や紫外線の影響が小さい場合に,エポキシ樹脂系塗料で仕上げる塗装仕様を採用し,実用上の不都合がないことが確認されている。
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