防食概論塗装・塗料

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 ここでは,ポリウレタン樹脂の概要,乾燥方法(硬化機構)などを 【ポリウレタン樹脂塗料とは】 で紹介する。
 ついで,一般的な乾燥方法(硬化機構)の違いによる分類に従い,
 【ウレタン結合形成で乾燥(硬化)するポリウレタン樹脂】 でブロック形ポリウレタン樹脂ポリオール硬化形ポリウレタン樹脂を,
 【ウレタン結合形成以外の機構で乾燥するポリウレタン樹脂】 では油変性ポリウレタン樹脂湿気硬化形ポリウレタン樹脂ラッカー形ポリウレタン樹脂触媒硬化形ポリウレタン樹脂を紹介する。

 

 塗料各論(構造物用塗料)

 ポリウレタン樹脂塗料とは

 ウレタン(urethane)

 19世紀に,フランスの有機化学者デュマ(Jean Baptiste André Dumas;1800年~1884年)が,尿素(urea)とエタノール(ethanol)のエステル反応で得られるエカルバミン酸エチル( H2NC(O)OC2H5 ;ethyl carbamate)をウレタン(urethane)と命名したといわれている。
 カルバミン酸( NH2C(O)OH )のエステル(一般式 H2NC(O)OR )およびその置換体(一般式 R'‐NH‐C(O)O‐R )の総称をカルバメート(carbamate)やカルバマートというが,俗称で広義のウレタンともいう。
 なお,デュマの弟子のウルツ(Charles Adolphe Wurtz;1817年~1884年)は,エチレンイソシアネート( CH3CH2NCO )とエタノール( CH3CH2OH )とからウレタン( C2H5‐NH‐C(O)O‐C2H5が得られる反応を初めて見出1)し,これがポリウレタン化学の始まりとされている。
 1);疋田淳・渡辺政美:「ポリウレタン樹脂塗料」,色材 49[8],p.509(1974)

 ウレタン結合(urethane bond)

 は,イソシアネート基(isocyanate :R−N=C=O )水酸基( R'−OH )付加重合(addition polymaerization)により生成される化合物の結合部分 R‐NH‐COO‐R' ウレタン結合という。

 ポリウレタン樹脂(polyurethane resin)

 連鎖中の繰返し構造単位がウレタンの形のそれからなる重合体,又はウレタン及びその他の形式の繰返し構造単位がその連鎖中に存在する共重合体,を主成分とするプラスチック。【JIS K 6900「プラスチック−用語」】
 多官能イソシアネート類反応性ヒドロキシル基(水酸基)をもつ化合物との反応によって作られる合成樹脂。【JIS K5500「塗料用語」】
 従って,共重合体(ポリウレタン樹脂)を生成するためには,複数のイソシアネート基を持つ単量体(ポリイソシアネート(polyisocyanate),通常はジイソシアネート)と複数の水酸基を持つ単量体(ポリオール(poriol),通常はジオール)により構成される。

 イソシアネート樹脂(isocyanate resin)
 芳香族,脂肪族又は脂環族のイソシアネート類による遊離若しくはブロックされたイソシアネート基を含む合成樹脂。イソシアネート類は,モノマー又は通常ポリマー,アダクト若しくはプレポリマーとして,反応性ヒドロキシル基をもつ化合物とともにポリウレタン塗料に使用される。【JIS K5500「塗料用語」】

 ポリオール(poriol)
 複数の水酸基(ヒドロキシ基,ヒドロキシル基)を持つ単量体(ポリオール)には多種多様のものがある。ポリウレタンの製造に用いられるポリオールは,分子種により,ポリエーテルグルコール,ポリエステルポリオール,ポリマーポリオールの 3 種に大別される。

 重付加(付加重合)(addition polymaerization)
 狭義には付加反応による逐次重合する反応。大きく分けて活性水素をもつヘテロ原子の基が多重結合などに付加する水素移動型重付加とペリ環状反応で多重結合が付加する電子移動型重付加とがある。
 水素移動型重付加には,ポリウレタン(ウレタン樹脂),エポキシ樹脂が,電子移動型重付加には,環状ポリオレフィン樹脂がある。広義には,付加縮合,ラジカル重合,イオン重合も重付加の範疇に入る。

 付加反応(addition reaction)
 多重結合が解裂し,それぞれの端が別の原子団と新たな単結合を生成する反応である。

 共重合体(copolymer)
 共重合とは,2種類以上のモノマーを用いて行う重合で,これにより生成したポリマー。

 ポリウレタン樹脂塗料(polyurethane resin coating)

 用語としてポリウレタン樹脂塗料は,JIS K 5500「塗料用語」に定義されていないが,一般的には,ポリウレタン樹脂プレポリマー(prepolymer)とする塗料,あるいは塗膜形成過程(乾燥,重合)でウレタン結合(urethane bond)を生成する塗料の総称。と理解されている。
 ウレタン結合以外の部分には様々の材料が利用可能であり,特性の異なる種々のポリウレタン樹脂塗料が存在し得る。
 
 ここでは,塗料などに用いられるポリウレタン樹脂の乾燥(硬化機構)の違いによる分類を紹介する。
 ウレタン結合の形成で乾燥するブロック形ポリウレタン樹脂,及びポリオール硬化形ポリウレタン樹脂の特徴と用途などを紹介する。
 なお,ポリオール硬化形ポリウレタン樹脂は,鋼構造物の防食塗装での実績が多いので,次項で詳細に紹介する。
 ポリウレタン樹脂製品をプレポリマーとし,ウレタン結合形成以外の機構で乾燥する油変性ポリウレタン樹脂,湿気硬化形ポリウレタン樹脂,ラッカー形ポリウレタン樹脂,触媒硬化形ポリウレタン樹脂の特徴と用途などを紹介する。

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 ウレタン結合形成で乾燥するポリウレタン樹脂

 ブロック形ポリウレタン樹脂

 イソシアネートプレポリマーをブロック化(blocking)し,遊離のイソシアネートを持たない状態にした材料(ブロック化イソシアネートなどともいう)を用いる。
 ブロック化剤とは,適切な活性水素化合物(水酸基などの活性水素を持つ化合物)で,適切な温度でブロック化剤がかい離し,イソシアネート基が再生されるものである。ある温度以上でポリオールと反応し高分子樹脂になるので,1液形焼付け塗料として用いられる。
 かい離する温度は,焼付温度より低くなるよう適切な材料が選ばれる。一般的には,フェノール類(ベンゼン環-OH),アルコール類(R-OH),オキシム類(R’-C ( =N-OH) -R),ラクタム類(環状化合物で,環の一部に‐CO-NH-を有する)が用いられる。
 主な用途は,電線,缶,家電など焼付塗装用,電着塗装用,粉体塗装用である。
 焼付け塗料(baking finish) 
 生地に塗ってから加熱して塗膜が形成できるように作った塗料。加熱の温度は,通常 100℃以上とする。ASTM,BSでは強制乾燥(66℃以下)より高い温度とする。【JIS K5500「塗料用語」】
 イソシアネートをフェノール・ε・カプロラクタム等でブロック化したポリイソシアネートは,各種ポリオールと組み合わせ,常温で安定した一液焼付け型塗料として使用される。

 ポリオール硬化形ポリウレタン樹脂

 イソシアネートプレポリマーとポリオールを別々に保管し,使用直前に混合して用いる 2液形として広い用途で用いられる。
 一般的に,ポリウレタン樹脂塗料という場合,ポリオール硬化形ポリウレタン樹脂を指す場合が多い。イソシアネートプレポリマーポリオールの種類,構造の組合せで幅広い特性を有する樹脂が得られる。
 幅広い用途の中で,主な用途には,鋼橋,船舶,タンク,車両等の金属製品,高級家具,楽器,仏具などの木工製品,バンパー,スポイラー等のプラスチック製品がある。 
 鋼構造物の防食塗装での実績が多いので,次項で代表的な使用材料を含めて詳細に紹介する。

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 ウレタン結合形成以外の機構で乾燥するポリウレタン樹脂

 油変性ポリウレタン樹脂

 油変性アルキド樹脂の二塩基酸(フタル酸など)を,イソシアネート基(-N=C=O)を複数持つ化合物(例えばジイソシアネート)で置換し,分子内にウレタン結合を形成したウレタン化アルキド(ウレタン化油ともいう)である。
 このタイプは,1液形の塗料として,長油性フタル酸樹脂塗料などのアルキド樹脂塗料(alkyd resin coating)と同じく,大気中の酸素による酸化重合(oxidation polymerization)で硬化する。
 主な用途は,床用,木材外装用,船舶用の塗料である。
 アルキド樹脂(alkyd resin, alkyds)
 アルキド樹脂とは,ポリエステル樹脂(polyester resin)の一種で,多塩基酸及び脂肪酸(又は脂肪油)と多価アルコール類との縮重合によって作られる合成樹脂。
 多価アルコールとしてグリセリン,ペンタエリトリトールなど,多塩基酸として無水フタル酸,無水マレイン酸など,脂肪酸としてあまに油,大豆油,ひまし油などの脂肪酸が使われる。樹脂中に結合する脂肪酸の割合が大きいものから小さいものへの順に,長油アルキド・中油アルキド・短油アルキドという。【JIS K5500「塗料用語」】
 アルキド樹脂は,アルコール(alcohol)と酸(acid)又は酸無水物(acid anhydride)反応の反応によるエステル化合物である。アルキドは,アルキッドとも呼ばれ,ポリエステルに属する樹脂である。塗料や印刷インキの業界で使用されるものを特にアルキドと称することが多い。
 酸化重合(oxidation polymerization) 
 不飽和脂肪酸の二重結合は化学的に反応しやすく,空気中の酸素と徐々に結びつき過酸化物やラジカルを生じる。これらを開始剤として,二重結合間の重合反応が進むことを酸化重合と呼ぶ。分子中に複数の二重結合を持つ不飽和脂肪酸を主成分とする乾性油(drying oil)は,自動酸化されやすく,室温の大気中で容易に高分子化(乾燥)する。自動酸化(autoxidation)とは,酸素,紫外線の存在下で起こる酸化をいう。

 湿気硬化形ポリウレタン樹脂

 1液形で,イソシアネート基( NCO基)と空気中の水分との反応で,前項で紹介した「イソシアネートと水の反応」で説明した過程を経て,尿素結合(R-NH-CO-NH-R’:urea bond, ウレア結合ともいう)により乾燥する。
 このとき反応生成物として,二酸化炭素( CO2)が生成する。湿気硬化形ポリウレタン樹脂塗料では,発生する二酸化炭素量の抑制を目的に,ポリエーテルポリオールなどとあらかじめ反応させ,NCO基の量を抑えたイソシアネートプレポリマーが用いられる。
 イソシアネートプレポリマーとは,ジイソシアネートと水酸基を複数持つポリオールを反応させ,最終品のポリマーに至る前に,縮合反応を適当な所で止めた中間生成物である。すなわち,ウレタン結合を持つ高分子の末端にイソシアネート基を有する材料である。
 反応過程での二酸化炭素発生量を抑えた材料であっても,不適切な施工を行うと塗膜に泡が発生し易い。このため,施工時の環境条件や塗膜厚みの適切な管理が求められる。
 他のタイプに,水酸基をケイ酸エステルでブロック化した湿気硬化形ウレタン用ポリオールを用いたものがある。これは,塗料に侵入した水分がケイ酸エステルの加水分解で消費され,再生されたポリオールとイソシアネートとの反応で造膜できるようにした 1液形の材料である。
 主な用途は,床用,木工用,皮革用の塗料である。
 湿気硬化(moisture curing) 
 空気中の水分と反応して硬化。瞬間接着剤に用いられるシアノアクリレート(cyanoacrylates),尿素樹脂やポリウレタン樹脂の合成に用いられるイソシアネート(isocyanate),無機ジンクリッチペイントに用いられるアルキルシリケート(alkyl silicate)などが常温の空気中の水分により加水分解,縮合反応で重合が進むものとして知られる。
 尿素結合,ユリア結合(urea bond) 
 ユリア基( –NH–CO–NH– )を有する結合。ウレア結合ともいわれるが,JIS規格では「ユリア」を推奨している。

 ラッカー形ポリウレタン樹脂

 熱可塑性を持つ範囲( 3次元網目構造が低く,加熱で溶融する範囲)で,ポリオールとイソシアネートを反応させたポリウレタン樹脂を溶剤に分散させた材料である。
 1液形の塗料として,溶剤の揮発のみで造膜できる。しかし,反応硬化形と異なり,三次元の架橋構造をとらないため,耐薬品性,耐溶剤性に劣る。
 主な用途は,プラスチック用プライマー,軟質素材用塗料などである。
 ラッカー(lacquer) 
 揮発性の高い溶媒(ナフサ,キシレン,トルエン,ケトンなど)に樹脂を溶かしたものを指す。溶剤の揮発で乾燥し,硬くて耐久性の高い塗膜を得られる。
 熱可塑性(thermoplastic, thermoplasticity)
 熱を加えれば軟らかくなり,冷却すれば硬くなることを繰り返す性質。【JIS K5500「塗料用語」】
 熱可塑性樹脂は,ガラス転移温度または融点まで加熱することによって軟らかくなり,目的の形に成形できる樹脂をいう。樹脂は用途により汎用プラスチック,エンジニアリングプラスチック,スーパーエンジニアリングプラスチックに分けられる。塗料としての用途には,加熱して塗膜を形成する焼付け塗料としても利用されている。
 熱硬化性(thermosetting property, thermosetting) 
 樹脂などが,加熱すれば硬化して不溶性・不融性になり,元の軟らかさには戻らない性質。【JIS K5500「塗料用語」】
 加熱硬化タイプ,A液(基剤)とB液(硬化剤)を混ぜて硬化させる常温硬化タイプがある。硬く,熱や溶剤に強い特徴を生かし,家具の表面処理,耐熱部品,塗料などに使用されている。

 触媒硬化形ポリウレタン樹脂

 湿気硬化形ポリウレタン樹脂と同等の樹脂を第一成分とし,触媒作用を有する成分(アミン類,アミノアルコールなど)を第二成分とする。使用直前に両者を混合する 2液形である。
 硬化過程では,湿気硬化形ポリウレタンと同様の空気中の水との反応に加えて,触媒の官能基(アミン)との反応が起きる。
 ポットライフが非常に短く,数秒~数十秒で硬化するため,作業性の面から用途限定される。例えば,塗料として用いる場合には,先端衝突混合スプレーガンなどを用いた吹付けが必要になる。この塗料は,防水ライニングなどで用いられている。
 硬化触媒(curing catalyst) 
 触媒(catalyst)とは,少量使用して化学反応の速度を増大し,かつ理論上は反応の終りにも化学的に不変のまま残留する物質。【JIS K 6900「プラスチック―用語」】
 すなわち,化学反応の反応速度を高める目的で用い,反応前後で変化しない物質,又は反応後に再生して元に戻る物質をいい,有機高分子反応における硬化触媒には,酸硬化触媒(ジノニルナフタレンジスルホン酸(DNNDSA) 触媒,ジノニルナフタレン(モノ)スルホン酸(DNNSA)触媒,p-トルエンスルホン酸(p-TSA)触媒など),りん酸ブロック触媒,ウレタン硬化触媒(有機スズ化合物,金属錯体,ジルコニウム錯体など)などが用いられる。

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