防食概論:塗装・塗料
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ここでは,塗り重ねた塗膜間の付着性について, 【塗料の付着性について】, 【層間付着性 Ⅰ,Ⅱ】, 【付着安定性】 に項目を分けて紹介する。
塗料の評価(塗膜間の付着性)
塗料の付着性について
層間付着性とは
塗膜の付着(adherence)は,金属素地などの素地に直接塗り付けた塗料の素地と塗膜の付着,既に塗られている塗膜の上に塗り重ねた塗料の塗膜間の付着に分けられる。実用の防食塗装では,金属の素地調整後直ちに( 3~8時間)塗装されるプライマーや下塗り塗料の素地との付着は,一般的な意味での接着(adhesion)に相当する。
一方,中塗り塗料を下塗り塗膜の上に塗り重ねる場合,又は上塗り塗料を中塗り塗料の上に塗り重ねる場合は,下地塗膜が少なくとも半硬化乾燥に至るまでは屋外に放置される。
さらに,作業計画や天候条件によっては,実作業で塗り重ねるまでに 1日~1週間程度の期間を要すると考えられる。従って,屋外塗装では,下地塗膜がある程度の紫外線(日射),降雨や結露などの影響を受けても,塗り重ねた塗料と十分な付着を確保できる品質が望まれる。
塗料・塗装の分野では,下地となる塗膜の養生条件が塗り重ねる塗料の付着に与える影響を考慮した付着性を層間付着性と呼んでいる。なお,下地塗膜の塗料から見た品質は,付着安定性と呼ばれる。
層間付着性(interlayer adhesion)
下塗り塗料と中塗り塗料との付着性(層間付着性 Ⅰ),中塗り塗料と上塗り塗料との付着性(層間付着性 Ⅱ)をいう。付着性は,規定の条件で塗料を塗付け,規定の養生を行った後に,粘着テープ剥離試験で付着性を評価する。【JIS K5659「 鋼構造物用耐候性塗料」】
付着安定性(interlayer adhesion)
JIS K5674「鉛・クロムフリーさび止めペイント」に規定される品質で,紫外線の影響を受けた塗膜に中塗り塗料を塗り重ねたときの付着性で,中塗り塗料の品質;層間付着性Ⅰに相当する下塗り塗料の品質を付着安定性という。
下地塗膜の養生方法
下地となる下塗り塗料,又は中塗り塗料を塗付けた試験板を,屋外塗装で下地塗膜が受ける太陽光の影響を模擬するため,JIS K 5600-7-7 「塗料一般試験方法−第 7 部:塗膜の長期耐久性−第 7 節:促進耐候性及び促進耐光性(キセノンランプ法)」に規定する促進耐候性試験機を用い,運転条件を「方法 1 」,及び「湿潤サイクル試験のサイクル A 」によって規定した時間照射する。運転条件方法 1
1本又は複数のキセノンアークランプを光源として用い,放射照度の相対分光分布(相対分光エネルギー分布)が試験片ホルダ面で,水平面全天紫外放射及び可視放射に十分近似するようなフィルタ(デイライトフィルタ)を用いた方法。
紫外線領域(波長 290~400nm )の放射照度分布(%)
290nm 以下( 0~0.15%),290~320nm( 2.6~7.9%),320~360nm( 28.2~38.6%),360~400nm( 55.8~67.5%)
試験片ホルダ面での時間当たりの平均の放射照度
波長 300~400nm 間で 60W/m2,ただし,当事者間の協定で 180W/m2 までの高い放射照度の物を用いても良い。
湿潤サイクル試験のサイクル A
1サイクル 120分,内 18分を濡れ条件,102分を乾燥条件とする。光は連続照射とする。
試験片の濡れは,電気伝導率 2 μS/cm以下,蒸発残さ 1mg/kg以下の蒸留水又はイオン交換水の噴霧により達成する。
乾燥中の試験片の温度を保持するため,試験槽空気温度 38±3℃に保ちつつ,試験片と同時に設置したブラックスタンダード温度計又はブラックパネル温度計を用い,ブラックスタンダード温度(BST)を 65±2℃,又はブラックパネル温度(BPT)を 63±2℃となるように制御する。
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層間付着性
次にJIS K 5659「鋼構造物用耐候性塗料」に規定される層間付着性の試験概要を紹介する。
なお,層間付着性 Ⅰは,養生した下塗り塗膜への中塗り塗料の付着性を,層間付着性 Ⅱは,養生した中塗り塗膜への上塗り塗料の付着性を評価する方法であるが,共通する項目も多い。
a) 試験板(Ⅰ,Ⅱ共通)
試験板は,大きさ 150mm×70mm×0.8mmの研磨によって調整した SPCC-SB の鋼板 2 枚とする。
b) 試験片の作製
Ⅰ,Ⅱ共通
試験板の両面に下塗り塗料として JIS K 5551 「構造物用さび止めペイント」に規定するさび止めペイント(反応硬化形エポキシ樹脂系塗料など)を,乾燥膜厚が 55μm ~ 65μm になるように吹付け塗りで 1 回塗装し,室内に 1 日放置する。
下塗り塗装の目的は,湿潤試験での裏面の防食に加えて,鋼板に直接中塗り塗料を塗装すると,実用の塗装系ではありえない鋼板と中塗り塗膜との付着の影響を排除するためである。
層間付着性 Ⅱ
室内に 1 日放置後,JIS K 5659 「鋼構造物用耐候性塗料」の中塗り塗料を吹付け塗りで 1 回塗装し,1 日放置する。
Ⅰ,Ⅱ共通
試験板に塗装後,JIS K 5600-7-7 「塗料一般試験方法−第 7 部:塗膜の長期耐久性−第 7 節:促進耐候性及び促進耐光性(キセノンランプ法)」に規定する促進耐候性試験機を用い,運転条件を「方法 1 」,及び「湿潤サイクル試験のサイクル A 」によって 20 時間( 10サイクル)照射した後,取り出して 24 時間放置する。
この操作の目的は,屋外塗装で下塗り塗膜が受ける太陽光の影響を模擬するためである。
次に,試験片の片面(キセノンランプ光が照射された面)に,層間付着性 Ⅰでは,中塗り塗料を,層間付着性 Ⅱでは,上塗り塗料を吹付け塗りで 1回塗る。
1 日後に,試験板の周辺を製造業者の指定するさび止めペイントで,試験に影響がないように塗り包み,塗面を上向き,水平に 6 日間置いたものを試験片とする。
c) 試験方法(Ⅰ,Ⅱ共通)
1) 試験片を,JIS K 5600-7-2 :1999 「塗料一般試験方法−第 7 部:塗膜の長期耐久性−第 2 節:耐湿性(連続結露法)」の(回転式)に規定する 50±1 ℃,相対湿度 95 %以上に保った耐湿試験機につり下げる。
24 時間後取り出して,直ちに JIS P 3801 「ろ紙(化学分析用)」に規定するろ紙を軽く当てて塗面の水分を取り除き,2 時間おく。
2) JIS K 5600-5-6 :1999 「塗料一般試験方法−第 5 部:塗膜の機械的性質−第6節:付着性(クロスカット法)」の(切込み工具)に規定するカッタナイフの刃先で,試験片の中央部に試験片の短辺と平行に,15mm の間隔で長さ約 40mm の切り傷 2 本を,試験片の生地に達するように付ける。
切りきずの幅のほぼ中央に,2 本の切りきずを横切って直角に JIS Z 1522 :2009 「セロハン粘着テープ」に規定するセロハン粘着テープ(24mm)を 2 本の切りきずの外側が約 10mmはみ出してはり付ける。
セロハン粘着テーブの表面を JIS S 6050 「プラスチック字消し」に規定するプラスチック字消しで強くこすり付け,塗面にテープを完全に付着する。
3) 1~2 分後に,テープの折返し部を塗面に直角に,素早く引きはがした後,塗面を調べる。
d) 評価及び判定
試験片 2 枚について,塗面を目視によって観察し評価する。塗膜の層間にはがれがないか,又はあっても切りきずから直角な方向に長さ約 2 mm以下のときは,“異常がない”とする。
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付着安定性(養生した下塗り塗膜への中塗り塗料の付着性)
次には,JIS K 5674「鉛・クロムフリーさび止めペイント」に規定される付着安定性の試験概要を紹介する。
b) 試験板
試験板は,大きさ 150mm×70mm×0.8mmの研磨によって調整した SPCC-SB の鋼板 2 枚とする。
c)試験片の作製
1) 試料(鉛・クロムフリーさび止めペイント 1種又は 2種)をはけ塗りで 1回塗り付ける。標準状態で 24時間乾燥後,1回目と同様の方法で 2回目を塗り重ねる。
24時間乾燥させた後,JIS K 5600-7-7「塗料一般試験方法−第7部:塗膜の長期耐久性−第7節:促進耐候性及び促進耐光性(キセノンランプ法)」に規定する表 3(試験片ぬれサイクル)「サイクル A 」の条件で 60 時間( 30サイクル)照射する。
2) 1)で得られた試験片に,1種では,JIS K 5516の合成樹脂調合ペイント 1種白を,2種では,JIS K 5660の有合成樹脂エマルションペイント白を,乾燥膜厚 20μm~30μmとなるようにはけで塗り付ける。
16時間乾燥させた後,再び同じ条件で,促進耐候性試験装置で 60 時間( 30サイクル)照射する。
3) 2)で得られた試験片を,JIS K 5600-6-1「塗料一般試験方法−第6部:塗膜の化学的性質−第1節:耐液体性(一般的方法)」の箇条 7[方法 1(浸せき法)]によって 23±1 ℃の水に 24時間浸せき(漬)した後,取り出して表面の水を拭き取り,1種は 30分間乾燥したものを,2種は 24時間乾燥したものを試験片とする。
d)試験方法
試験片 2枚の中央にカッタナイフを用いて,互いに約 30度の角度で交わり素地に達する長さ 40mmの切りきずを付ける。交差する 2本の切りきずの上から,接着部分の長さが約 50mmになるようにセロハン粘着テープを完全に付着させる。
セロハン粘着テープを付着させてから 90±30秒の間に,セロハン粘着テープの一方の端をもって塗面に直角に保ち,瞬間的に引き剝がす。試験片 2枚の双方に,切りきずに沿って幅 1mm以上の下塗りと上塗りとの塗膜間の剝がれを認めないとき,“剝がれを認めない”とする。
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