防食概論塗装・塗料

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 ここでは,鉄道の既設の鋼橋に適用される塗替え塗装の中で,構造物構造固有の課題に対応する塗替え塗装系である 【特定部位用・塗装系 R 】, 【塗装仕様】, 【超厚膜型エポキシ樹脂塗料の品質】 を紹介する。

 鉄道橋の防食塗装(塗替え塗装)

 特定部位用・塗装系 R

 「塗装指針」 2013;第Ⅲ編 既設構造物 第 A2章 塗装系選択, 特定部位の防食

 特定部位用塗装系とは,局部的に著しく腐食が進行する部位,すなわち上フランジ上面(まくらぎ下)と桁端部を対象とし,これらの腐食進行を抑制し,一般外面の腐食進展度と同程度にすることを目的とした部分塗替え塗装系である。
 塗装系 R は,桁端部や添接部表面等の防食性の向上を図るために適用できる部分塗替えの塗装系である。
 設計上の留意事項(抜粋)
 (1)桁端部でも特にアバット等に隣接する個所は,雨水等の長期滞留のため,塗膜劣化が他の部位より早く進展する部分であり,構造物全体の塗膜劣化速度を均一化するためには,この塗装系を適用することが望ましい。また,発錆により孔食状態にあるようなものや,添接部表面のボルト・ナット部が発錆により,これらの形状が維持しえない場合にも,この塗装系を適用することが望ましい。
 (3)桁端部等に部分塗替えが適用される場合には,一般外面の塗替えも実施されている場合が多いので,景観性能を重視する場合には,一般外面に適用する塗装系の上塗り塗料を全面に塗装しても良い。

 「塗装指針」 2013;第Ⅰ編 塗装一般 第 D章 解説(塗装系の形状等の分類) 部分塗り分け塗装
 桁端部等の塗装

 桁端部,特にアバット等に近接する個所は,雨水の滞留,塵埃の堆積などのために,塗膜劣化が著しくなることがあるので,他の部材に比して,鋼板の厚みが早く減少する。また,添接部などのボルト・ナット部では,塗膜厚を十分に確保できないことが多く,他の部材に比して,早期に発錆することが多い。
 このような個所については,塗り回数の低減と塗膜厚の確保により,長期の防食性を保持させるために,超厚膜型エポキシ樹脂塗料を適用することが望ましい。なお,施工に際しては,通常のはけ塗り等で実施できるが,一回で厚み(300μm)を保持させるために,施工効率は低下する。
 長期間対策されずに放置されていた桁端部では,深い孔食になっている場合,一部に貫通孔が見られる場合や素地調整作業で貫通する場合も考えられるので,設計前に状況を確認し,貫通孔の処理や素地調整時の作業効率等に配慮する必要がある。

 「塗装指針」 2013;第Ⅰ編 塗装一般 第 D章 解説(塗装系の特徴), 特定部位用
 塗装系 R

 橋梁の構造や部位において,腐食の進行が速いことが知られている特異な個所として,アバット(橋台,abutment)近傍の橋梁端部添接部で,発錆が早く,かつ多い。これらの個所では,発錆部の素地における顕著な凹凸やボルト等の形状による影響が大きい。
 これらの箇所に対処するためには,従来よりも塗膜厚を厚く塗付ける必要がある。このため,塗装系の下塗り塗料を規定される回数より多く塗り付ける先行塗装を行う方法,又は一回の塗装で厚く塗付けられる塗料を用いた塗装系の採用などがある。
 
 塗装系 R は,桁端部の塗装を対象に,一回で厚く塗付けられる超厚膜型エポキシ樹脂塗料を用いるものである。この種の塗料は,水中硬化形塗料として開発されてきたものである。現在では 1回の塗装で 0.3~2mm 程度の範囲で塗装しうるものがある。鉄桁等鋼構造物を対象とした使用目的には,塗膜厚 300μm のものを用いる。
 基本的な塗料形態はエポキシ樹脂塗料であるが,超厚膜に塗付けられるように調製されている。それ故に,粘度が高く,塗装作業性が良好ではない。また,無溶剤型エポキシ樹脂塗料と同様に,液状エポキシ樹脂の使用量が多く,体質によっては感作性(アレルギー反応)を示す場合もあるので,塗装作業に当たっては,作業者の防護(防護服,マスクなど)に配慮しなければならない。
 感作性(かんさせい,sensitizing potential, sensitizing property, sensitization)とは,抗原抗体反応(アレルギーなど)で用いられる用語。ある抗原に対し敏感な状態にする作用をいう。

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 塗装仕様

 【塗装系 R 】

 塗装系 R は,桁端部や添接部表面等の防食性の向上を図るために適用できる部分塗替えの塗装系である。
 桁端部でも特にアバット等に隣接する個所は,雨水等の長期滞留のため,塗膜劣化が他の部位より早く進展する部分であり,構造物全体の塗膜劣化速度を均一化するためには,この塗装系を適用することが望ましい。
 また,発錆により孔食状態にあるようなものや,添接部表面のボルト・ナット部が発錆により,これらの形状が維持しえない場合にも,この塗装系を適用することが望ましい。
 素地調整
 対象部位の旧塗膜全剥離
 動力・手工具で除錆度-3 以上(腐食性環境では,さび部の部分ブラストが望ましい)
 下塗り塗装
  素地調整後その日のうち(桁端部等)
 専用プライマー: 使用量 塗料メーカーの指示による(刷毛)
  ①塗装後 1日以上,7日以内(桁端部等)
 超厚膜型エポキシ樹脂塗料: 使用量 1000g/m2(刷毛)
 中塗り塗装 なし
 上塗り塗装
 景観性が求められる場合,下塗り塗装後 1日以上,15日以内
 一般外面に用いる塗装系の上塗り塗料
 
 【備考】
 桁端部における,他の塗装系との塗り重ね部分は,この塗装系を先に塗装すること。
 超厚膜型エポキシ樹脂塗料の施工に際しては,溶剤を 3%以上用いて希釈してはならない。この理由は上述の塗膜厚を確保するためである。
 施工に際しては,はけ塗り又は,はけ塗り及びローラ塗りの併用により行い,塗膜形成と均一な塗膜厚が確保し難い場合にはコテ塗り等を用いること。
 超厚膜型エポキシ樹脂塗料は,厚膜型変性エポキシ樹脂系塗料と同様に,早期に白亜化する等の景観性能の低い材料である。高い景観性が必要な場合は,第 3 層目に,同時に施工される一般外面に用いる上塗り塗料を用いるのが良い。

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 超厚膜型エポキシ樹脂塗料

 「塗装指針」 2013;附属書 A 塗料規格及び試験方法
 SPS 66099-19 超厚膜型エポキシ樹脂塗料

 超厚膜型エポキシ樹脂塗料は,一回の塗装で約 300μm程度に厚く塗付けられるよう調製された塗料である。それ故に,粘度が高く,塗装作業性が低い。この塗装系では,はけ塗りを採用しているため,平滑性の低い仕上がりとなる。
 また,無溶剤型エポキシ樹脂塗料と同様に,液状エポキシ樹脂の使用量が多く,体質によっては感作性(アレルギー反応)を示す場合もあるので,塗装作業に当たっては,作業者の防護(防護服,マスクなど)に配慮しなければならない。
 
 品質
 下表には,超厚膜型エポキシ樹脂塗料塗料品質を示す。なお,JIS 塗料規格には,直接比較できる超厚膜型のエポキシ樹脂塗料はないので,ここでは,参考のため,溶剤形のエポキシ樹脂を用いた塗料の SPS 66099-14 厚膜型エポキシ樹脂系塗料下塗,及び JIS K 5551 2018「構造物用さび止めペイント」B種(常温使用の反応硬化形エポキシ樹脂系塗料)の品質を紹介する。
 JIS 等で規定される品質の「塗膜の外観」については,これらの品質に適合しない塗料の販売が考え難いこと,また,他の品質を検査する際にこの品質は容易に把握できることから,鉄道では,全ての塗料規格でこれらの品質を規定していない。また,実環境で 2年程度の「耐候性」(屋外暴露耐候性)を規定していない。これは,塗料成分の規定により,塗膜の機械的,化学的,及び耐久性の室内試験を行うことで,耐候性が確保できると考えているためである。
 なお,他の塗料では,「塗装作業性」の規定はないが,超厚膜型エポキシ樹脂塗料では,他の塗料で規定される「たるみ性」,「厚塗り性」を兼ねた「塗装作業性」が規定されている。

超厚膜型エポキシ樹脂塗料
  項  目    SPS 66099-19(超厚膜型)    SPS 66099-14(厚膜型)    JIS B種(常温) 
  顔料(質量分率 %)    30~50    40以上    ― 
  エポキシ樹脂(質量分率 %)    15以上    10以上    ― 
  液状樹脂(質量分率 %)    15以下    ― 
  硬化剤(質量分率 %)    5以上    3以上    ― 
  溶剤(質量分率 %)    30以下    40以下    ― 
  加熱残分 %    70以上    60以上    ― 
  エポキシ樹脂の定性    エポキシ樹脂を含むこと。    ― 
  塗膜中の鉛(質量分率 %)    0.06以下 
  塗膜中のクロムの定量
(質量分率%) 
  0.03以下 
  容器の中での状態    かき混ぜたとき,堅い塊がなくて一様になる。 
  半硬化乾燥性    常温 16時間 
  塗装作業性    支障がなく,300μm(乾燥膜厚)塗装しても
  流れ・割れ・はがれがないこと。 
  ―    支障がない。 
  塗膜の外観    ―    正常である。 
  ポットライフ    23℃ 5時間 
  たるみ性    ―    たるみがない。(すき間200μmで流れがない) 
  上塗り適合性    支障がない。 
  耐衝撃性    割れ及びはがれがない。 
  耐屈曲性    ―    直径10mmの折り曲げに耐えるものとする。    ― 
  付着性    ―    分類 1以下 
  耐アルカリ性    ―    異常がない 
  耐揮発油性    ―    異常がない 
  耐塩水性    塩化ナトリウム溶液に300時間浸したとき,
  異常がないものとする。 
  ― 
  耐塩水噴霧性    ―    192時間の塩水噴霧に耐えるものとする。    ― 
  冷熱繰返し試験    冷熱繰返しに耐えるものとする。    ― 
  サイクル腐食性    ―    さび,膨れ,割れ及びはがれがない。
  (120サイクル) 
  屋外暴露耐候性    ―    さび,膨れ,割れ及びはがれがない。(24か月) 

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