防食概論:塗装・塗料
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ここでは,塗料の分類について, 【塗料の分類の考え方】, 【塗装工程による分類】, 【乾燥方法による分類】 に項目を分けて紹介する。
塗料概論(塗料の分類)
塗料の分類の考え方
塗料は,その形態,用途などから,様々に分類される。このため,複雑で取り付きにくい印象を与えてしまう。しかしながら,形態別,材料別,用途別などでの分類は,同じ樹脂を用いた塗料でも性能が異なることを明確にでき,要求性能に適した塗料の選定に資する利点もある。
塗料の分類には,
塗膜として残る塗膜構成要素(coating film constituting material)である展色材(樹脂・油脂)や顔料による分類,
塗装作業の手順,すなわち塗装工程の適用区分を明確にするための塗膜の仕上がり外観による塗料の分類,塗装作業に影響する塗料の硬化反応,すなわち塗料の乾燥方法による分類,
塗料の荷姿や溶剤への分散状態などの塗料形態による分類,使用する塗装方法による塗料の分類,塗料の持つ特殊な機能を明確にしたい場合に用いられる塗膜の機能による分類,被塗物の種類や,塗膜の仕上がり外観の特性による分類
などがある。
塗装工程による分類
下塗り塗料,中塗り塗料,上塗り塗料など,塗装工程(coating process)での使用区分を明確にするために,他の分類名称の最後に,下塗(り),中塗(り),上塗(り)をつけて補助的に用いられる。
なお,JIS製品規格では,下塗りと送り仮名(り)をつけるが,古い JIS規格や団体規格では送り仮名を付けないで呼称する場合も多い。
鋼構造物などの防食塗装に用いる塗料の例では,エポキシ樹脂塗料下塗,ポリウレタン樹脂塗料用中塗,ポリウレタン樹脂塗料上塗などと称する。
なお,ポリウレタン樹脂塗料用中塗は,展色材の分類ではエポキシ樹脂塗料であるが,塗装工程と用途による分類を合わせた名称で,内容は“ポリウレタン樹脂塗料上塗を適用する際に,用いられるエポキシ樹脂塗料中塗”を意味する。
【参考】
下塗り塗料(undercoat, priming coat, under coating, primer coating)
塗料を塗り重ねて塗装仕上げするときの下塗に用いる塗料。塗装系に対する素地の影響を防止し,付着性を増加させるために用いる。
備考:1.ISO用語規格では,“undervoat”と“intermediate coat”とは同じ定義で,“地肌塗り(priming coat)”と“上塗り(finishing coat)”との間の塗料(coat)をいう。また,“priming coat”は,素地に塗る塗装系の最初の塗料(coat)をいう。
2.BS用語規格及び CEDでは“undercoat”は,上塗り塗料を塗る前に,目止め,肌直し,地肌塗りなどを行った素地面,又は素地調整を行った旧塗膜面に塗装される塗料をいう。【JIS K5500「塗料用語」】
中塗り塗料(intermediate coat, undercoat)
塗料を塗り重ねて塗装仕上げをするときの,中塗りに用いる塗料。下塗り塗膜と上塗り塗膜との中間にあって,両者に対する付着性をもち,塗装系の耐久性を向上させる目的に用いるもの,下塗り塗面の平滑さの不足を補うために用いるものなどがある。後者では,塗膜が厚くて研磨しやすいことが特徴である。
備考:1.ISO用語規格では,“intermediate coat”と“undercoat”とは同義で,“地肌塗り(priming coat)と上塗り(finishing coat)の間のコート(coat)”をいう。
2.BS用語規格及び CEDでは,“undercoat”は,上塗り塗料を塗り前に,目止め,肌直し,地肌塗りなどを行った素地面,又は素地調整を行った旧塗膜面に塗装される塗料をいう。【JIS K5500「塗料用語」】
上塗り塗料(top coat, topcoat, finishing coat)
塗料を塗り重ねて塗装仕上げをするとき,上塗りに用いる塗料。
備考:1.ISO用語規格では,“top coat”と“finishing coat”とは同義語で,“塗装系の最終の塗料(coat)”をいう。
2.CEOでは,“topcoat”は“通常プライマー,アンダーコート,又は素地に直接塗装される塗装系の最終塗膜に用いる塗料”をいう。
3.上塗りは,1回又はそれ以上塗られることもある。また,ある種の系では,上塗りが素地に直接1回又はそれ以上塗装されることもある。【JIS K5500「塗料用語」】
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乾燥方法による分類
塗り付けた塗料の乾燥・硬化方法の違いによる分類である。
乾燥(drying)
塗付した塗料の薄層が,液体から固体に変化する過程の総称。塗料の乾燥機構には,溶剤の揮発,蒸発,塗膜形成要素の酸化,重合,縮合などがあり,乾燥の条件には,自然乾燥,強制乾燥,加熱乾燥などがある。【JIS K5500「塗料用語」】自然乾燥(air drying)
塗料を常温の空気中で乾燥させる方法。【JIS K5500「塗料用語」】 自然乾燥する塗料は,常温乾燥形塗料(ordinary-temperature-drying paint, air-drying type paint)とも呼ばれる。
強制乾燥(force drying, forced drying)
自然乾燥よりも少し高い温度で塗料の乾燥を促進する工程。通常の焼付塗料に用いられるより低い温度,通常は,66℃までの温度で乾燥する場合をいう。【JIS K5500「塗料用語」】
加熱乾燥(stoving, baking)
塗り付けた塗料の層をあらかじめ設定された最低温度で加熱して,バインダーの架橋(分子量を増大)を起こさせて硬化させる工程。加熱は暖めた空気の対流,赤外線の照射などによる。加熱して乾燥させて得た塗膜は一般に硬い。通常は,66℃(150°F)以上の温度で乾燥する場合をいう。一般に加熱乾燥の温度範囲と時間は,塗料ごとに規定されている。【JIS K5500「塗料用語」】
乾燥機構の違いによる分類例を次に示す。
揮発乾燥形塗料
揮発乾燥(volatile drying)とは,溶剤の揮発で乾燥し,硬くて耐久性の高い塗膜を得られることで,揮発性の高い溶媒(ナフサ,キシレン,トルエン,ケトンなど)に樹脂を溶かしたラッカー(lacquer)を指す。この種の塗料は,溶剤の揮発のみで塗膜が完成する。すなわち,乾燥過程での化学的結合がなく,塗膜は高分子の物理的な絡み合いで保持されている。
このため,塗膜形成後も溶剤で容易に膨潤・溶解される。例えば,ニトロセルロースラッカー(nitrocellulose lacquer),塩化ゴム塗料(chlorinated rubber coating)などがこれにあたる。
酸化重合乾燥塗料
塗付け初期は,溶剤の揮発で塗膜を形成するが,その後数カ月から数年をかけて,大気中の酸素により酸化重合(oxidation polymerization)が進むことで,三次元網目構造を形成して乾燥(硬化)する塗料である。このため,十分に重合が進んだ後には溶剤で溶解することはない。酸化重合とは,例えば乾性油(drying oil)などに含まれる不飽和脂肪酸(unsaturated fatty acid)の二重結合は化学的に反応しやすく,空気中の酸素と徐々に結びつき生じた過酸化物やラジカルを開始剤として,二重結合間の重合反応が進むことをいう。
この種の塗料には,乾性油(drying oil)を用いた油性塗料,調合ペイント,長油性フタル酸樹脂塗料などがある。この種の塗膜では,十分な硬化乾燥に至るまでに長期間要するため,塗装後 1年未満では溶剤で比較的容易に溶解・膨潤する。しかし,2年ほど経過すると,強溶剤に対しても耐性を示すようになる。
重合乾燥形塗料
一般的には,主剤,硬化剤や促進剤が別々の荷姿とした溶剤を含む多液形塗料(multi-pack paint)の形態を持ち,揮発重合乾燥形塗料ということもある。塗装直前に主剤と硬化剤を混合することで,重合反応(polymaerization)が開始し三次元の網目構造を形成する塗料である。重合乾燥形塗料に分類される塗料には,エポキシ樹脂塗料,ポリウレタン樹脂塗料などがある。溶剤を含まず,固体の主剤と硬化剤の混合物を加熱することで重合反応を進める粉体塗料もある。
重合反応を利用しているが,熱硬化性樹脂(thermosetting resin),あるいは混在樹脂同士が加熱により縮合重合することで三次元の網目構造を形成する塗料を熱縮合(heat condensation)乾燥形塗料と呼ばれる。この種の塗料は,一般的には焼付塗料(baking finish)などと称されるアクリル樹脂塗料,メラミン樹脂塗料などがある。
紫外線硬化樹脂を用いた紫外線硬化塗料(ultraviolet curing coating)は,木材,CD,DVD,携帯電話などのコーティングでの使用例が多い。電子線硬化樹脂を用いた電子線硬化塗料(electron beam curing coating)は,ハードコーティングや印刷などでの使用例が多い。
冷却乾燥形塗料
熱可塑性樹脂(thermoplastic resin)を用い,加熱溶融状態で塗装し,冷却とともに塗膜を形成する塗料である。塗料形態としては,粉体が多い。例えば,ポリエステル粉体塗料がある。この種の材料は,有機ライニングに用いられることが多い。【参考】
重合反応(polymaerization)
重合体(ポリマー)を合成することを目的にした一群の化学反応の呼称である。また,重合反応はその元となる反応の反応機構や化学反応種により細分化され,区分された反応名に重または重合の語を加えることで重合体合成反応であることを表す。
主な重合反応の分類には,反応点による分類{連鎖重合(連鎖反応),逐次重合,リビング重合},反応機構による分類{付加重合(付加反応),重縮合(縮合重合,縮合反応),付加縮合},化学反応種による分類{ラジカル重合(ラジカル反応),イオン重合(イオン反応:カチオン重合,アニオン重合),配位重合,開環重合},共重合体の単位構造配列による分類{ランダム共重合体,交互共重合体,ブロック共重合体,グラフト共重合体}などがある。
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