防食概論塗装・塗料

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 ここでは,既設構造物の塗替え塗装で実施される腐食箇所の素地調整に関連し, さび除去を意味する【除せいとは】,  【架設環境と鋼腐食量】,  【一般環境での除せい作業】,  【腐食環境での除せい作業】,  【除せい(錆)度】 に項目を分けて紹介する。

 塗装概論(塗替え塗装管理)

 素地調整(腐食箇所の除せい)

 腐食個所のさび落とし(derusting)は,素地調整の中で最も大切な作業であり,除せいの品質が塗膜の耐久性に最も大きく影響する。
 一般的には,さびを残したまま塗替え塗装したのでは,塗替え塗膜の耐久性が低下すると言われる。しかし,その程度については,架設環境の腐食性,腐食発生後の放置期間などで著しく異なる。
 基本的には,腐食性の激しくない一般環境(飛来海塩粒子や凍結防止塩などの影響を受けない環境)での腐食個所は,多少の固着さびを残して塗装しても,大きな耐久性低下に至らないことが経験されている。
 一方,腐食環境,特に硫化物イオン塩化物イオンの影響で腐食した場合は,僅かなさび残存でも著しい塗膜耐久性低下に至ることも多く経験されている。
 さらに,腐食環境での経年の多い構造物では,同一個所の腐食が繰り返され,局部的に凹凸の激しい腐食に至り,除せい作業を困難にしている場合が多い。なお,この現象を局部腐食と表現することもあるが,厳密には,鋼露出箇所の全面腐食(uniform corrosion)であり,局部腐食(local corrosion)ではない。
 
 【参考】
 腐食環境(corrosive environment)
 用語「腐食環境」の明確な定義はないが,一般的には,金属やコンクリートなどの材料が,腐食現象により期待耐用期間より早い時期に,実用に耐えない状態になるほど腐食性の高い環境を意味して用いることが多い。
 JIS Z 2381「大気暴露試験方法通則:General requirements for atmospheric exposure test」では,暴露試験場の環境区分を明確にするため,地域的な気象の特徴による気候区分,大気の汚染状況による大気汚染区分,海塩粒子の飛来量による海塩区分の考え方を附属書(参考)として紹介している。
 大気環境の腐食性を評価する方法として,実用金属の腐食に影響する環境汚染因子の二酸化硫黄(硫黄酸化物),大気浮遊塩分(海塩粒子)の付着度を測定に関し JIS Z 2382「大気環境の腐食性を評価するための環境汚染因子の測定:Determination of pollution for evaluation of corrosivity of atmospheres」が,環境の腐食性を金属の腐食度から評価できるように JIS Z 2383「大気環境の腐食性を評価するための標準金属試験片及びその腐食度の測定方法:Standard specimens of metals and alloys, Determination of corrosion rate ofstandard specimens for the evaluation of corrosivity of atmospheres」が規定されている。
 飛来塩分(flying salinity)
 海や塩湖などの自然由来の塩を飛来海塩粒子というが,飛来塩分という場合は,定義が一定していないが,一般には飛来海塩粒子に加え,散布された凍結防止塩,工場などからの人為的な原因で飛来する塩粒子なども含まれる。
 局部腐食(local corrosion)
 読み「きょくぶふしょく」,金属表面の腐食が均一でなく,局部的に集中して生じる腐食。【JIS Z0103「防せい防食用語」】
 金属種や腐食要因の違いで孔食,すき間腐食,異種金属接触腐食など様々ある。

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 架設環境と鋼腐食量

 ここでは,腐食性の低い一般環境,海岸付近などの腐食性環境で,塗膜破壊で腐食開始・放置した場合の腐食程度を推定する。

 腐食量の推定方法

 鋼の大気腐食では,【鋼の腐食:大気環境の腐食】で示したように,鋼表面に付着したさび層が保護膜となり,腐食速度は経年と共に減少する。
 この現象は,一般的に, t 年後の腐食量 y としたとき,
     y=AtN
     ここで,A は材質に関連するパラメータ,N は暴露地の環境に関連するパラメータ
 の推定式で表わすことが多い。この式を用いて,環境別に,塗り替え塗装前の腐食量を推定する。
 パラメータ A の仮定
 式から,A は t=1 の時の腐食量(暴露 1 年目の腐食量)と同じ値になる。環境別の暴露 1 年目の腐食量として,ISO 9223の 腐食環境分類の値を利用する。
 すなわち,一般環境 ISO 腐食環境分類の腐食カテゴリー C3 とすると,暴露 1 年目の鋼の腐食量 25~50μm・a-1を A の値に設定できる。
 次いで,腐食環境腐食カテゴリー C5(海岸環境)~CX(海岸直近,海洋環境) に相当するので,A の値を C5 で 80~200μm・a-1,Cx で 200~700μm・a-1の範囲に設定できる。
 パラメータ N の仮定
 定数 N は環境の腐食性で変わり,腐食性の低い一般環境では,耐候性鋼で 0.2~0.3 に,普通鋼で 0.5 程度で,環境の腐食性とともに大きくなり,激しい腐食性環境では N=1 すなわち,さび層の保護性が期待できなくなると考えられている。
 ここでは, 一般環境(C3)で 0.6~0.7 程度,海岸等の腐食性環境( C5~CX)で 0.9~1.0 と仮定する。

 塗り替え塗装時の腐食程度推定

 ここで,塗替え塗装までの期間を 30年と仮定し,何らかの理由で 20年目に塗膜破壊が発生し腐食が開始したと仮定する。すなわち,塗膜破壊個所の腐食期間は 10年間になる。
 推定方法で示した条件で計算すると,塗替え塗装時の腐食程度(鋼板の厚み減少量)は,一般環境で 100~200μm,腐食性環境 C5 で 750~1,800μm,Cx では 1,800~6,300μmとなる。
 
 平面的なさび”の広がりは,塗膜の付着性,耐紫外線性,耐老化性などの塗膜性能に大きく依存するため,塗膜破壊後の放置時間に応じてさび面積が増大する。
 一方,深さ方向の“さびの進展は,塗膜破壊後の放置時間と環境の腐食性に依存するため,同程度のさび面積であっても腐食損傷程度は,環境の腐食性で著しく異なる。

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 一般環境での除せい作業

一般環境での除せい用具

一般環境での除せい用具
写真は,工具カタログから引用

 一般環境では,上記推定値から,塗替え塗装時の鋼板厚み減少量が平均 200μm程度で凹凸はさほど激しくないと考えられる。
 従って,従来から行われてきたディスクグラインダ(ディスクサンダーともいう)やカップワイヤブラシを用いた作業で十分な除せいが期待できる。
 ディスクグラインダは比較的広い平面部の除せいに,カップワイヤブラシは,リベット頭など曲面の多い部材の除せいに用いられる。
 狭あい部は動力工具が入らないので,鋲かきなどの手工具で除せいすることになる。
 実際に,一般環境に架設され,凍結防止剤を用いず,激しい漏水のない鋼橋で,素地調整不足が原因で塗膜の早期劣化に至り問題とされた事例を聞かないので,上記の除せい法で特に問題はないと考えられる。

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 腐食環境での除せい作業

腐食性環境での除せい用具

腐食性環境での除せい用具
写真は,工具カタログから引用

 腐食環境では,塗膜破壊後に10年間放置されることで,数mm程度の板厚み減少に至る可能性がある。この状況では,mmオーダーの激しい凹凸が発生している。
 さらには,【腐食した鋼の腐食】で解説したように,鋼とさび層の界面に腐食促進因子が濃化している。これを残して塗装したのでは,塗装後早期に局部的な腐食進行に至るので,素地調整での完全な除去が必要になる。
 一般環境の素地調整で用いられるディスクグラインダやカップワイヤブラシなどの研磨型の動力工具では,凹部の除せいは不可能である。
 また,鋼とさび層界面に濃化した塩類など腐食促進因子は,参考に示したように,JIS Z 0313(後述)に規定する仕上げ程度 Sa 2では除去しきれず,少なくとも Sa 2 1/2の処理が必要である。できれば塩の除去が期待できる水を用いたブラスト処理での除せいが望まれる。
 
 凹凸の激しい腐食個所の除せい作業手順の例を次に示す。
 ①: まず,手工具のケレンハンマー若しくは動力工具ジェットたがねなどを用いて,表層に厚く堆積したさび層をある程度除去する。
 ②: 次いで,凹凸が激しい場合は,バキュームブラスト装置などを用い部分ブラスト処理を行う。凹凸がさほど激しくない場合は,動力工具の粗い砥石のディスクグラインダや縦回転式ブラシなどを用いて,凹部の底まで鋼を研削するような意識で除去する。

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 除せい度

 除せい(錆)度(preparation grade)

 清浄度の中で,ミルスケール及びさびの除去程度。【 JIS Z 0310「素地調整用ブラスト処理方法通則」】
 ある(素地調整)方法によって得られる清浄仕上げの品質水準を説明する分類。
 清浄度(cleanliness, preparation grade)
 鋼材表面を処理した後の,被覆の付着を阻害するミルスケール及びさび,塩類,油分などの汚れの除去程度。【 JIS Z 0310「素地調整用ブラスト処理方法通則」】
 ある(素地調整)方法によって得られる清浄仕上げの品質水準を説明する分類(JIS Z 0310「素地調整用ブラスト処理方法通則」,ISO 8501/1参照)。【JIS K5500「塗料用語」】

 JIS Z 0313(2004)素地調整用ブラスト処理面の試験及び評価方法

 除せい度の種類と表面状態は次の通りである。
 Sa1
 拡大鏡なしで,表面には,弱く付着したミルスケール,さび,塗膜,異物及び目に見える油,グリース,泥土がない。
 Sa 2
 拡大鏡なしで,表面には,ほとんどのミルスケール,さび,塗膜,異物,目に見える油,グリース及び泥土がない。残存する汚れのすべては,固着(刃の付いていないパテナイフでは,はく離させることができない程度の付着)している。
 Sa 2 1/2
 拡大鏡なしで,表面には,目に見えるミルスケール,さび,塗膜,異物,油,グリース及び泥土がない。残存するすべての汚れは,そのこん跡がはん(斑)点又はすじ状のわずかな染みだけとなって認められる程度である。
 Sa 3
 拡大鏡なしで,表面には,目に見えるミルスケール,さび,塗膜,異物,油,グリース及び泥土がなく,均一な金属色を呈している。
 
 この規格は,ISO 8501-1 (Preparation of steel substrates before application of paints and related products -Visual assessment of surface cleanliness - Part 1 ; Rust grades and preparation grades of uncoated steel substrates and of steel substrates after overall removal of previous coatings. )に整合しており,判定は ISO規格の写真集と比較して行うことになっている。
 一方,比較的使用例の多い米国の規格,SSPC (Steel Structures Painting Council): 「米国鋼構造物塗装協会で規格するブラスト仕上げ等級」では,除せい度の等級は,次のように規定している。
 White Metal Blast Cleaning(完全ブラスト処理:SP5):全ての錆・ミルスケール・ 塗料その他異物を除去する。ISO規格の Sa3 相当
 Near-White Blast Cleaning(準完全ブラスト処理:SP10):全ての異物を完全に除去。極めて軽微なくもり・条痕,錆の染み・ミルスケール・酸化物等の軽微な残滓は容認。1平方インチ当たり 95%以上は残滓がないこと。ISO規格の Sa2 1/2相当
 Commercial Blast Cleaning(経済的ブラスト処理:SP6):少なくとも1平方インチ当たり2/3は錆・ミルスケールの残滓がないこと。ISO規格の Sa2相当
 Brush-off Blast Cleaning(スイープブラスト処理:SP7):固く付着したミルスケール,錆及び塗膜の残滓を除き全ての異物を除去する。ISO規格の Sa1相当。

 

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