防食概論:塗料・塗装

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         塗替え塗装管理(除せい)

 腐食個所のさび落としは,素地調整の中で最も大切な作業であり,この品質が塗膜の耐久性に最も大きく影響する。
 一般的には,さびを残したまま塗替え塗装したのでは,塗替え塗膜の耐久性が低下すると言われる。その程度については,構造物の架設環境,塗膜破壊で腐食が開始した後の放置期間などで著しく異なる。
 基本的には,腐食性の激しくない一般環境(飛来海塩粒子や凍結防止塩などの影響を受けない環境)での腐食個所は,多少の固着さびを残して塗装しても,大きな耐久性低下に至らないことが経験されている。
 一方,腐食性環境,特に硫化物イオン塩化物イオンの影響で腐食した場合は,僅かなさび残存でも著しい塗膜耐久性低下に至ることも多く経験されている。
 さらに,腐食性環境での経年の多い構造物では,同一個所の局部腐食が繰り返され,凹凸の激しい腐食に至り,除せい作業を困難にしている場合が多い。
 次に,腐食状況別に,腐食量の推定,素地調整(除せい作業)の手順例を紹介する。

 

 【環境別の腐食量推定】

 ここでは,腐食性の低い一般環境,海岸付近などの腐食性環境で,塗膜破壊で腐食開始・放置した場合の腐食程度を推定する。
 腐食量の推定方法
 鋼の大気腐食では,【鋼の腐食:大気環境の腐食】で示したように,鋼表面に付着したさび層が保護膜となり,腐食速度は経年と共に減少する。
 この現象は,一般的に, t 年後の腐食量 y としたとき,
     y=AtN
     ここで,A は材質に関連するパラメータ,N は暴露地の環境に関連するパラメータ
 の推定式で表わすことが多い。この式を用いて,環境別に,塗り替え塗装前の腐食量を推定する。
 パラメータ A の仮定
 式から,A は t=1 の時の腐食量(暴露 1 年目の腐食量)と同じ値になる。環境別の暴露 1 年目の腐食量として,ISO 9223の 腐食環境分類の値を利用する。
 すなわち,一般環境を ISO 腐食環境分類の腐食カテゴリー C3 とすると,暴露 1 年目の鋼の腐食量 25~50μm・a-1を A の値に設定できる。
 次いで,腐食性環境腐食カテゴリー C5(海岸環境)~CX(海岸直近,海洋環境) に相当するので,A の値を C5 で 80~200μm・a-1,Cx で 200~700μm・a-1の範囲に設定できる。
 パラメータ N の仮定
 定数 N は環境の腐食性で変わり,腐食性の低い一般環境では,耐候性鋼で 0.2~0.3 に,普通鋼で 0.5 程度で,環境の腐食性とともに大きくなり,激しい腐食性環境では N=1 すなわち,さび層の保護性が期待できなくなると考えられている。
 ここでは, 一般環境(C3)で 0.6~0.7 程度,海岸等の腐食性環境( C5~CX)で 0.9~1.0 と仮定する。
 
 塗り替え塗装時の腐食程度推定
 ここで,塗替え塗装までの期間を 30年と仮定し,何らかの理由で 20年目に塗膜破壊が発生し腐食が開始したと仮定する。すなわち,塗膜破壊個所の腐食期間は 10年間になる。
 推定方法で示した条件で計算すると,塗替え塗装時の腐食程度(鋼板の厚み減少量)は,一般環境で 100~200μm,腐食性環境 C5 で 750~1,800μm,Cx では 1,800~6,300μmとなる。
 
 平面的な“さび”の広がりは,塗膜の付着性,耐紫外線性,耐老化性などの塗膜性能に大きく依存するため,塗膜破壊後の放置時間に応じてさび面積が増大する。
 一方,深さ方向の“さび”の進展は,塗膜破壊後の放置時間と環境の腐食性に依存するため,同程度のさび面積であっても腐食損傷程度は,環境の腐食性で著しく異なる。

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 【一般環境の除せい作業】

 一般環境では,上記推定値から,塗替え塗装時の鋼板厚み減少量は,平均200μm程度で凹凸はさほど激しくないと考えられる。
 従って,従来から行われてきたディスクグラインダ(ディスクサンダーともいう)やカップワイヤブラシを用いた作業で十分な除せい度が期待できる。

一般環境での除せい用具

一般環境での除せい用具

 ディスクグラインダは比較的広い平面部の除せいに,カップワイヤブラシは,リベット頭など曲面の多い部材の除せいに用いられる。
 狭あい部は動力工具が入らないので,鋲かきなどの手工具で除せいすることになる。
 実際に,一般環境に架設され,凍結防止剤を用いず,激しい漏水のない鋼橋で,素地調整不足が原因で塗膜の早期劣化に至り問題とされた事例を聞かないので,上記の除せい法で特に問題はないと考えられる。

 

 【腐食性環境の除せい作業】

 腐食性環境では,塗膜破壊後に10年間放置されることで,数mm程度の板厚み減少に至る可能性がある。この状況では,mmオーダーの激しい凹凸が発生している。
 さらには,【腐食した鋼の腐食】で解説したように,鋼とさび層の界面に腐食促進因子が濃化している。これを残して塗装したのでは,塗装後早期に局部的な腐食進行に至るので,素地調整での除去が必要になる。
 一般環境の素地調整で用いられるディスクグラインダやカップワイヤブラシなどの研磨型の動力工具では,凹部の除せいは不可能である。
 また,鋼とさび層界面に濃化した塩類など腐食促進因子は,参考に示したように,JIS Z 0313(次に解説)に規定する仕上げ程度 Sa 2では除去しきれず,少なくとも Sa 2 1/2の処理が必要である。できれば塩の除去が期待できる湿式ブラスト処理での除せいが望まれる。

腐食性環境での除せい用具

腐食性環境での除せい用具

 凹凸の激しい腐食個所の除せい作業手順の例を次に示す。
 ①: まず,手工具のケレンハンマー若しくは動力工具ジェットたがねなどを用いて,表層に厚く堆積したさび層をある程度除去する。
 ②: 次いで,凹凸が激しい場合は,バキュームブラスト装置などを用い部分ブラスト処理を行う。凹凸がさほど激しくない場合は,動力工具の粗い砥石のディスクグラインダや縦回転式ブラシなどを用いて,凹部の底まで鋼を研削するような意識で除去する。

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【参考 JIS Z 0313】

 JIS Z 0313(2004)「素地調整用ブラスト処理面の試験及び評価方法」における除せい度と鋼材表面の状態の定義。
 Sa 2
 拡大鏡なしで,表面には,ほとんどのミルスケール,さび,塗膜,異物,目に見える油,グリース及び泥土がない。残存する汚れのすべては,固着(刃の付いていないパテナイフでは,はく離させることができない程度の付着)している。
 Sa 2 1/2
 拡大鏡なしで,表面には,目に見えるミルスケール,さび,塗膜,異物,油,グリース及び泥土がない。残存するすべての汚れは,そのこん跡がはん(斑)点又はすじ状のわずかな染みだけとなって認められる程度である。
 Sa 3
 拡大鏡なしで,表面には,目に見えるミルスケール,さび,塗膜,異物,油,グリース及び泥土がなく,均一な金属色を呈している。

 

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