防食概論塗装・塗料

  ☆ “ホーム” ⇒ “腐食・防食とは“ ⇒ “防食概論(塗料・塗装)” ⇒

 ここでは,塗膜と環境との化学的作用について, 塗膜の【化学的性質とは】を紹介し,次いで代表的な塗膜特性の 【耐液体性】,評価試験に用いる 【試験物質の例】 を紹介する。

 塗膜の評価(化学的性質;耐液体性)

 化学的性質とは

 塗膜は,展色材(vehicle)やビヒクルとも呼ばれ,塗膜の骨格となる高分子材料(樹脂)の塗膜形成要素(film forming material),塗料に少量添加して,塗料の作業性,乾燥性などや塗膜の機械特性などの一つ若しくはそれ以上を改善又は変性する塗膜副要素(添加剤;additive),及び着色などの光学的性質,さび止めなどの保護的性質,又は装飾的な性能を付与する顔料(pigment)など多種多様の化合物での構成されている。
 このため,塗膜は,曝される環境の化学成分や日射などの紫外線により構成成分に生じた化学反応により複雑に変化(劣化,老化)する。
 
 塗膜化学的な性質を評価するため,JIS製品規格では,その用途や構成成分に応じて,液体と接触した場合の“耐液体性(resistance to liquids)”,紫外線の影響を植えた場合の“耐光性(light fastnesst, light resistance)”,紫外線と水の複合作用を受けた時の“促進耐候性(artificial weathering, accelerated weathering)”,熱影響を受けたときの“耐熱性(heat resistance)”を品質規格として規定するものも少なくない。ここでは,耐液体性について紹介し,紫外線の影響を評価する耐光性・促進耐候性は,塗膜の耐久性の品質試験で紹介する。
 
 耐液体性とは,液体の作用に対する,塗料,又は関連製品の単一塗膜,又は多層塗膜系の抵抗性(耐性)をいい,JIS 試験規格には,JIS K 5600-6-1 「塗料一般試験方法−第 6 部:塗膜の化学的性質−第 1 節:耐液体性(一般的方法)」と,水の影響に特化した JIS K 5600-6-2「塗料一般試験方法−第 6 部:塗膜の化学的性質−第 2 節:耐液体性(水浸せき法)」がある。
 
 防食塗装に用いられる塗料では,次の品質規定がある。
 下塗り塗料
 JIS K 5553 「厚膜形ジンクリッチペイント」の 2 種(厚膜形有機ジンクリッチペイント)に“耐水性
 JIS K 5551 「構造物用さび止めペイント」の A 種(反応硬化形エポキシ樹脂系塗料 30μmタイプ),及び B 種(反応硬化形エポキシ樹脂系塗料 60μmタイプ)に“耐アルカリ性”と“耐揮発油性
 上塗り塗料
 JIS K 5516 「合成樹脂調合ペイント」の 2 種上塗り用では“耐塩水性
 JIS K 5659 「鋼構造物用耐候性塗料」では“耐アルカリ性”と“耐酸性

 

 ページのトップへ

 耐液体性

 塗膜の溶解膨潤,塗膜構成成分の加水分解鹸(けん)化酸塩基反応などによる変質を考慮した場合に,考えられる影響成分として,水,塩,酸,アルカリ(塩基),有機溶剤などが挙げられる。

 JIS K5500「塗料用語」

 耐水性(water resistance, waterproof):塗膜が,水の化学的作用又は物理的作用に対して変化しにくい性質。
 耐塩水性(salt water resistance):食塩水の作用に対して変化しにくい塗膜の性質。
 耐アルカリ性(alkali resistance, alkaliproof):アルカリの作用に対して変化しにくい塗膜の性質。
 耐酸性(acid resistance, acidproof):酸の作用に抵抗して変化しにくい塗膜の性質。
 耐揮発油性(gasoline resistance):揮発油(ガソリン)の作用に対して変化しにくい塗膜の性質。
 
 これらの液体の作用に対する,塗料又は関連製品の単一塗膜または多層塗膜系の抵抗性(耐性)の評価には,一般的に次の試験法が適用される。
 JIS K 5600-6-1 「耐液体性(一般的方法)」では,塗料の JIS 製品規格で規定する液体に,規定する状況で接触した場合の塗膜の変状評価に必要な試験準備,試験手法(浸漬法,吸収媒体法,点滴法の 3 種),及び留意事項など一般的な方法について規定している。
 JIS K 5600-6-2 「耐液体性(水浸せき法)」では,塗装された製品が,極端な腐食性雰囲気ではないが,長期間結露が生じるような状況におかれた場合の影響評価を目的としている。
 試験は,40±1℃に調整した純水に試験片の/strong>一部(3/4)が浸かるように入れ,空気を循環させながら,定めた時間放置する。
 評価は,取り出した試験片の外観変状(ふくれ,さび,色の変化,脆化程度など)の観察,塗膜剥離後に観察されるさび(塗膜下腐食)の程度で行う。

 JIS K 5600-6-1 「耐液体性(一般的方法)」(抜粋)

 2016年版 目次
 序文,1 適用範囲,2 引用規格,3 原理,4 必要な捕捉情報,5 サンプリング,6 試験片(6.1 材料及び寸法,6.2 調整及び塗装,6.3 乾燥,6.4 膜厚),7 方法 1(浸せき法)(7.1 材料及び器具,7.2 試験温度,7.3 必要な注意,7.4 手順 A(単一の液相を使用),7.5 手順 B( 2相液を使用)),8 方法 2(吸収媒体法)(8.1 材料及び器具,8.2 試験温度,8.3 手順),9 方法 3(点滴法)(9.1 材料及び器具,9.2 試験温度,9.3 手順 A(水平法),9.4 手順 B(傾斜法)),10 方法 4(温度勾配加熱法)(10.1 装置及び器具,10.2 試験温度,10.3 手順),11 精度,11 試験報告  附属書A(参考)試験物質の例
 
 7 方法 1(浸せき法)
 試験温度 :他に規定がなければ,温度 23±2℃で試験する。
 7.4 手順 A(単一の液相を使用)
  a) 試験片を完全に又は部分的に浸せきするために,適切な容器に十分な量の試験液を入れる。半分浸せき以外の浸せき深さは,受渡当事者間の協定による。
  c) 試験液をエアバブリング又は循環させる。初期の容量又は濃度を維持するため,試験液又は蒸留水を一定間隔で補充することによって,溶液の減少を防ぐ。
  d) 規定の浸せき期間の終了時の操作は,次による。
    4) JIS K 5600-8-2「膨れの等級」に従って,試験片の膨れ又はその他の損傷を観察する。ほかに規定があれば,その回復期間の後,観察及び比較を繰り返す。なお,ほかに規定がなければ,膨れ又はその他の損傷を検査してから 24 時間を回復期間とする。
 7.5 手順 B( 2 相液を使用)
  c) ほかに規定のない限り,密度の高い方の液を,試験片が,おおよそ試験片の 40%の深さまで浸るように,注意して容器の側面に注ぐ。この位置以上に試験片が汚染することがないよう注意する。
  d) ほかに規定のない限り,同様にして第二の試験液を,試験片の 40%以上を覆うまで更に加える。容器に蓋をし,かくはんしないで静置する。
  e) 規定の浸せき期間の終了時の操作は,次による。
    2) JIS K 5600-8-2「膨れの等級」による膨れの観察,又は各々の試験液相に接した塗膜の損傷の観察を行う。規定があれば,規定された回復期間の後,観測と比較とを繰り返す。途中の観察が規定されているならば,試験液から試験片を取り出し,表面から試験液を除去し,観察する。次いで全ての浸せき手順を繰り返す[7.5 の a)~d) 参照]。
 
 8 方法 2(吸収媒体法)
 試験温度 :他に規定がなければ,温度 23±2℃で試験する。
 8.3 手順
  a) 試験片を水平に置く。吸収材製の円盤を必要な数だけ試験液に浸し,過剰な試験液は垂れ切り,吸収材製の円盤を試験片の上に置く。その後,時計皿又はシャーレで吸収材製の円盤を覆う。粘度の高いペースト状の試験液の場合は,試験片に約 0.5 mL を滴下し,その上に吸収材製の円盤を置き,時計皿又はシャーレで覆う。試験期間は,規定した期間とする。
  b) 試験期間終了後,吸収材製の円盤を取り除き流水で試験液を垂れ切りする。JIS K 5600-8-2「膨れの等級」に従って,直ちに膨れ及び塗膜の損傷を観察する。観察場所は,試験液と直接接触した部位だけを評価する。ほかに規定がなければ,24 時間後に再評価をする。
 
 9 方法 3(点滴法)
 試験温度 :他に規定がなければ,温度 23±2℃で試験する。
 9.3 手順 A(水平法)
  a) 試験片を水平に置く。ピペットを用いて試験片に試験液を滴下する。その後,シャーレで試験液を覆う。試験期間は規定した期間とする。
  b) 試験期間終了後,JIS K 5600-8-2「膨れの等級」に従って,直ちに膨れ及び塗膜の損傷を観察する。観察場所は,試験液と直接接触した部位だけを評価する。ほかに規定がなければ,24 時間後に再評価をする。
 9.4 手順 B(傾斜法)
  a) 容器の中に 30°の傾斜を付けた状態で,試験片を設置する。ビュレットを用いて,試験片の中心付近に,上部から試験液を 1~2 秒間隔で 10 分間滴下する。その後,シャーレで試験液を覆う。粘度の高いペースト状の試験液の場合は,試験片に約 0.5 mL を滴下し,シャーレで覆う。試験期間は,規定した期間とする。
  b) 試験期間終了後,JIS K 5600-8-2「膨れの等級」に従って,直ちに膨れ及び塗膜の損傷を観察する。観察場所は,試験液と直接接触した部位だけを評価する。ほかに規定がなければ,24 時間後に再評価をする。
 
 10 方法 4(温度勾配加熱法)
 試験温度 :ほかに規定がない場合又は受渡当事者間の協定がない場合は,温度勾配炉を 35~80℃の温度勾配に設定する。個々の加熱部間の温度差は,1℃とする。
 10.3 手順
  a) 炉は,JIS K 5600-1-6「養生並びに試験の温度及び湿度」 に規定した標準温度 23±2 ℃の環境に設置する。
  b) 試験片を水平に置く。ほかに協定がない場合は,計量ピペットを用いて,試験液の小滴を温度勾配炉の個々の加熱部間に対応する間隔で配置し,試験片に接触させる。小滴の接触は,温度勾配炉に設置した状態ではなく,実験台上の試験片に室温(18~28℃)で実施する。
  c) 温度勾配炉中に調製した試験片を入れ,押さえジグを用いて加温台に押し付ける。試験片を温度勾配炉内に 30分間保持した後,炉から取り出す。
  d) 試験が終了した後,試験片をなめらかな布で拭く。水溶性試験液の乾燥残留物は流水下で洗浄し,その他の試験液の乾燥残留物は,塗膜に影響を与えない溶剤を用いて取り除く。
  e) 試験液と直接接触した部位だけを判定し,直ちに試験片を評価する。
  f) ほかに協定がない場合,評価に用いる照明は次による。
   1) 水平方向に線の出ないアルミニウムで被覆した反射板を備える。
   2) 光源色が,少なくとも 840 lx の照度である。
   3) 試験片上で少なくとも 800 lx の照度がある。
  g) ほかに協定がない場合は,24 時間後に試験した部位を再評価する。
  h) 結果は,最初に視認可能な変化を示した温度として報告する。

 

 ページのトップへ

 試験物質の例

 JIS K 5600-6-1 「耐液体性(一般的方法)」附属書A(参考)試験物質の例

 表 A.1−自動車用燃料又は自動車用塗料の試験液の例
 試験液(成分及び組成比)
 A.1.1 FAM 試験液( DIN 51604-A )(トルエン 50%,イソオクタン 30%,市販ダイイソブチレン 15%, 試薬エタノール 5.0%)
 A.1.2 FAM 試験液( DIN 51604-B )( FAM 試験液 A 84.5%,メタノール15%,脱イオン水 0.5%)
 A.1.3 FAM 試験液( DIN 51604-C )(メタノール 58%,FAM 試験液 A 40%,脱イオン水 2.0%)
 A.1.4 ディーゼル燃料(JIS K2204 :軽油(自動車用ディーゼルエンジン用燃料))
 A.1.5 プレミアムガソリン( JIS K2202:自動車ガソリン(1 号:オクタン価 96 以上 プレミ アムガソリン))
 A.1.6 バイオディーゼル燃料( JIS K2390:自動車燃料−混合用脂肪酸メチルエステル(FAME))
 A.1.7 エンジンオイルA.1.8 ギヤオイルA.1.9 クラッチオイルA.1.10 オートマチックオイルA.1.11 ブレーキオイルA.1.12 ラジエター不凍液A.1.13 ボディシリング材A.1.14 穴シーリング材A.1.15 ウィンドウ ウォッシャー液A.1.16 コールドクリーナー
 
 表 A.2−試験用化学品の例
 試験液(方法 4(温度勾配加温法)の場合の 滴下量 μL)
 A.2.1 エタノール( − ) ,A.2.2 イソプロパノール( − ) ,A.2.3 質量分率 5%水酸化ナトリウム溶液(100) ,A.2.4 質量分率 10%塩酸(100) ,A.2.5 質量分率 6%亜硫酸(25) ,A.2.6 質量分率 10%硫酸(25) ,A.2.7 質量分率 36%硫酸(25) ,A.2.8 用水・排水の試験に用いる水(JIS K 0557)(100)
 
 表 A.3−生物学的物質の例
 試験液(成分及び組成比)(方法 4(温度勾配加温法)の場合の 滴下量 μL)
 A.3.1 樹脂(ロジン 50%,パイン油 50%)(25)
 A.3.2 虫ふん,虫死骸(例えば,ぎ酸 47%,タンニン酸 24%,アルブミン 5%,蜂蜜 24%)(25)
 A.3.3 アラビアゴム(例えば,アカシアゴム)(25)
 A.3.4 ロジン(-)(25)
 A.3.5 鳥ふん(用水・排水の試験に用いる水(JIS K 0557)で 1:1 に希釈したパクレアチン)(50)

 このページの“トップ”