防食概論塗装・塗料

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 ここでは,高い耐熱性,耐薬品性などが期待できる材料として 【ふっ素樹脂】, 【ふっ素系樹脂の分類と代表例】, 【ふっ素樹脂の廃棄】 に項目を分けて紹介する。

 塗料各論(ふっ素樹脂塗料)

 ふっ素樹脂とは

 JIS K5500「塗料用語」には“ふっ素樹脂”,及び“ふっ素化樹脂”に関する定義はない。
 JIS K6900「プラスチック−用語」にも“ふっ素樹脂”,及び“ふっ素化樹脂”に関する定義はないが,ふっ素プラスチック(fluoroplastic)に関して,
 “ 1個又はそれ以上のふっ素原子(F)を含む単量体で製造する重合体,又はそのような単量体とその他の単量体との共重合体で,そのふっ素含有単量体が質量で最大量存在するものを主成分とするプラスチック。”
 と定義している。
 
 ふっ素樹脂(fluorocarbon polymers)そのものは,1938年にデュポン社でフロンの偶発的な重合反応で発見されていた。その後1946年に,デュポン社からテフロンという商品名でポリテトラフルオロエチレン(PTFE:四ふっ化樹脂)を商品化した。
 樹脂の優れた特性(耐熱性,耐燃焼性,耐寒性,非粘着性,低摩擦特性,耐薬品性,電気絶縁性,耐候性など)が注目され,多くの用途で用いられていると共に多くの材料開発が進んだ。
 ふっ素樹脂は,ふっ素化の違いにより大きく,完全ふっ素化樹脂,部分ふっ素化樹脂,ふっ素化樹脂共重合体に大別される。これらのふっ素を含むアルケンを重合して得られる合成樹脂を総称してふっ素系樹脂と呼ばれる。
 
 【参考】
 アルケン(alkene)
 鎖式の不飽和脂肪族炭化水素の中で,分子内に二重結合を一つも一般式 CnH2n で表される鎖式不飽和炭化水素で,エチレン系炭化水素,オレフィン(olefin),オレフィン系炭化水素とも呼ばれる。環状の構造のアルケンをシクロアルケン(cycloalkene)という。
 重合反応(polymaerization)
 重合体(ポリマー)を合成することを目的にした一群の化学反応の呼称である。また重合反応はその元となる反応の反応機構や化学反応種により細分化され,区分された反応名に重または重合の語を加えることで重合体合成反応であることを表す。
 主な重合反応の分類には,反応点による分類{連鎖重合(連鎖反応),逐次重合,リビング重合},反応機構による分類{付加重合(付加反応),重縮合(縮合重合,縮合反応),付加縮合},化学反応種による分類{ラジカル重合(ラジカル反応),イオン重合(イオン反応:カチオン重合,アニオン重合),配位重合,開環重合},共重合体の単位構造配列による分類{ランダム共重合体,交互共重合体,ブロック共重合体,グラフト共重合体}などがある。
 共重合体(copolymer)
 共重合とは,2種類以上のモノマー(単量体)を用いて行う重合で,これにより生成したポリマーを共重合体という。
 非粘着性(non-adhesiveness)
 物質がくっつかないか,又はくっつきにくい性質。【JIS K6894「金属素地上のふっ素樹脂塗膜の試験方法」】 
 なお,粘着性(adhesiveness, tack)とは,接着性の一種で,一般的に“ねばりつく性質”,“くっついて離れない性質”と解釈されている。
 耐薬品性(塗膜の)(chemical resistance, chemical corrosion resistance test)
 塗膜が酸,アルカリ,塩などの薬品の溶液に浸しても変化しにくい性質。
 耐候性(塗膜の)(weathering resistance)
 屋外で,日光,風雨,露霜,寒暖,乾湿などの自然の作用に抵抗して変化しにくい塗膜の性質。【JIS K5500「塗料用語」】

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 ふっ素系樹脂の分類と代表例

 一般的に,ふっ素系樹脂は,完全ふっ素化樹脂,部分ふっ素化樹脂,及びふっ素化樹脂共重合体に分けられる。次に主な例を示すが,名称,及び記号はJIS K6899-1 2006「プラスチック−記号及び略語−第 1 部:基本ポリマー及びその特性」を参考にしている。

主なふっ素樹脂の構造

主なふっ素樹脂の構造


 完全ふっ素化樹脂(completely fluorinated resin)
 ポリエチレンの水素原子を完全にハロゲン族のふっ素原子に置換した構造で,テフロンという商標で知られるポリテトラフルオロエチレンPTFEpoly tetra fluoro ethylene,四ふっ化エチレン樹脂ともいう)である。
 耐熱性が最も高く,短時間,無負荷の条件では 300℃での使用に耐える。
 表面エネルギーの最も小さい材料で,水接触角 110度を超えるなど,優れた撥水・撥油性や,特異な非粘着性を示すなどユニークな材料である。
 また,固体はグラファイトに似たすべり面を持つ構造のため,摩擦係数も非常に小さい
 
 部分ふっ素化樹脂(partially fluorinated resin)
 ポリエチレンの水素一部ふっ素に置換した構造のものを部分ふっ素化樹脂という。一つの水素を置換したポリふっ化ビニルPVFpolyvinyl fluoride,ふっ化ビニル樹脂ともいう),二つの水素を置換したポリふっ化ビニリデンPVDFpolyvinylidene difluoride)がある。
 また,PTFEのふっ素原子 1個を同じハロゲン族の塩素原子(Cl)に置き換えたポリクロロトリフルオロエチレンPCTFEpolychlorotrifluoroethylene,三ふっ化塩化エチレン樹脂ともいう)も部分ふっ素化樹脂に分類される。
 
 ふっ素化樹脂共重合体
 部分ふっ素樹脂あるいは完全ふっ素樹脂との共重合体(copolymer) をいう。共重合とは,2種類以上のモノマーを用いて行う重合で,これにより生成したポリマーを共重合体と呼ぶ。
 ペルフルオロアルコキシアルカン樹脂PFA:tetrafluoroethylene – perfluproalkylvinylether copolymer,パーフルオロアルコキシアルカン,又は四ふっ化エチレン-フロロアルキルビニルエーテル共重合樹脂ともいう),及びペルフルオロ(エチレン-プロピレン)プラスチックFEPfluorinated ethylene – propylene copolymer,テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン,四ふっ化エチレン-六ふっ化プロピレン共重合樹脂ともいう)は,PTFEに次いで耐熱性が良い材料として知られる。
 エチレンと四ふっ化エチレンの共重合体であるエチレン/テトラフルオロエチレンプラスチックE/TFEethylene – tetrafluoroethylene copolymer,エチレン-四ふっ化エチレン共重合樹脂ともいう)は,上図から分かるようにふっ素で囲まれていない部分を有するため,耐熱性は比較的低く 150℃が使用限界である。
 
 【参考】
 接触角(angle of contact, contact angle)
 固体表面が液体及び気体と接触しているとき,3相の接触する境界線で,液体の表面と固体表面とが成す角度。
 接触角が 90°以下の状態を濡れるという。
 摩擦(friction)
 物体が他の物体の表面に接しながら運動しようとするとき,接触面に沿って相対運動を妨げる力(摩擦力)がはたらく現象をいう。物体が相対的に静止している場合の静止摩擦,運動を行っている場合の動摩擦に分けられる。二つの物体の接触面に働く摩擦力と接触面に作用する垂直抗力との比を摩擦係数(coefficient of friction)といい,記号 μ で表記される無次元量である。
 摩擦係数は,接触面の材質や表面状態(凹凸など)で定まる。静止摩擦力が接触面の見かけ上の面積に依存しないのは,接触面表面の微細な凹凸により,原子レベルでの相互作用(クーロン力)の生じる面積(真実接触面積)が限られ,見かけ上の接触面積が意味をもたないためといわれている。
 動き出すことで原子間のクーロン力を切断することが動摩擦力の原因と考えられている。物体の移動速度によらず動摩擦力が一定なのは,クーロン力の切断箇所の数が移動速度とは無関係なためと説明されている。

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 ふっ素樹脂の廃棄について

  一般的に,ふっ素,塩素などハロゲン原子を含む材料を焼却する際にさまざまの問題が生じる。そこで,日本弗素樹脂工業会は,ふっ素樹脂の廃棄について,ホームページで次のような注意(2013年現在)を喚起している。

ふっ素樹脂の廃棄について

ふっ素樹脂の廃棄について

 【参考】
 ハロゲン(halogen)
 ハロゲンとは,周期表第17族のふっ素( F ),塩素( Cl ),臭素( Br ),よう素( I )をいう。
 複数のハロゲン元素が結合した化合物をハロゲン間化合物という。ハロゲンの関わる反応には,ハロゲン化,ハロゲン付加,ハロゲン化水素付加などがある。

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