防食概論塗装・塗料

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 ここでは,塗膜の素地・塗膜間の 【付着性】 について概説し,次いで,塗膜の付着性評価に用いられる【クロスカット法】, 【プルオフ法】 を紹介する。
 なお,塗料の塗膜形成時の品質である層間付着性,付着安定性については,【塗料の評価】の「付着性」で紹介した。

 塗膜の評価(機械的性質;付着性)

 付着性

 JIS K5500「塗料用語」

 付着性(adhesive property, adhesion)
 塗膜下地面に付着して離れにくい性質。
 付着強さ(adhesive strength)
 乾燥した塗膜と素地との間の付着力の総和。備考 素地は未塗装又は既塗装でもよい。
 
 防食塗装の場合には,防食性能を重視するので,金属素地との付着性,すなわち直接接触する下塗り塗料に強く求められる品質と考えることができる。
 塗膜の素地との付着強さを評価できる方法として,クロスカット法 (cross-cut test) プルオフ法(引張り破断法;pull-off test)の 2 方式が JIS 試験規格 として規定されている。
 景観性能を重視する場合には,素地と下塗り塗膜の付着性に加え,中塗り塗膜や上塗り塗膜の層間付着性も無視できない特性である。
 
 付着強さの評価法
 JIS試験規格として,クロスカット法プルオフ法とが規定されている。クロスカット法は,JIS K5551「構造物用さび止めペイント」の品質(付着性)として規定されている。一方,定量的評価が可能なプルオフ法は,付着強さの変化などを定量的に把握したい場合,すなわち塗装系の耐久性評価を目的とした追跡調査などで用いられる。
 
 【参考】
 付着,接着(adherence)
 二つの表面が界面に働く力でつなぎ合わされている状態。注:付着は接着剤を使用し,又は使用しないでも達成できる。【JIS K6900[プラスチック用語」】
 接着強さ(bond strength)
 接着された二面間の結合の強さ。引張りせん断強さ,圧縮せん断強さ,はく離強さなどで表される。接着力ともいう。【JIS K 6800「接着剤・接着用語」】
 引張応力(tensile stress)
 引張応力は,物体内部の微小面の法線と力の作用方向が一致する垂直応力(normal stress)成分,一致しないせん断応力(shear stress)成分の2種類に分類することができる。
 剪断力(応力)(shear stress)
 剪断応力(せん断応力)は,接線応力やシャー応力ともいわれ,物体内部のある面に平行方向に作用する応力,すなわち面がすべるように作用する応力である。
 その本来の作用面に平行に働く力をこの面で測定した試験片の断面積で除した値。【JIS K6900「プラスチック−用語」】
 層間付着性(interlayer adhesion)
 下塗り塗料と中塗り塗料との付着性(層間付着性Ⅰ),中塗り塗料と上塗り塗料との付着性(層間付着性Ⅱ)をいう。付着性は,規定の条件で塗料を塗付け,規定の養生を行った後に,粘着テープ剥離試験で付着性を評価する。【JIS K5659「 鋼構造物用耐候性塗料」】
 付着安定性(interlayer adhesion)
 JIS K5674「鉛・クロムフリーさび止めペイント」に規定される品質で,紫外線の影響を受けた塗膜に中塗り塗料を塗り重ねたときの付着性で,中塗り塗料の品質;層間付着性Ⅰに相当する下塗り塗料の品質を付着安定性という。
 なお,付着・接着・粘着の概念,層間付着性,付着安定性については,【塗料の評価】・「付着性に紹介した。

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クロスカット法

 付着性(クロスカット法)
 碁盤目試験(cross cut test, lattice pattern cutting test)ともよばれ,塗膜表面にカッターナイフを用いて素地に達する碁盤目状の切り込みを入れ,粘着テープで引き剥がしたときに,碁盤目状の塗膜のはく離程度により塗膜の付着性を評価する方法である。
 試験では,カッターナイフの刃で塗膜をV字カットするため,塗膜の付着面と水平方向剪断力が加わる。
 クロスカット法では,この剪断力に抗する界面の付着強さ,塗膜の凝集強さ,剪断力を緩和する塗膜の柔軟性を総合的に評価していると考えるのが妥当である。
 この方法は,塗膜付着の各要因の中から特に,下塗り又は基板いずれかへの付着性に左右される特性を評価できるが,付着性の定量的な測定手段とみなしてはならない。
 すなわち,実用的な付着性の評価法として古くから用いられてきたが,厳密な意味での塗膜の付着強さの評価ではなく,塗膜の素地との界面の状態に加え,塗膜自身の脆さなどの物性を評価する方法である。
 例えば,単純に界面の付着強さが低い場合のみならず,塗膜が硬い(柔軟性低下)場合,脆い(凝集強さ低下)場合にも碁盤目試験で低い評価になる。このため,塗膜の劣化評価では,引張り強さを計測するプルオフ法の結果と剪断力に対する抵抗性を評価するクロスカット法の結果を総合的に考察する手法が用いられている。

 JIS K 5600-5-6「塗料一般試験方法−第5部:塗膜の機械的性質−第6節:付着性(クロスカット法)」

 【適用範囲】
 この規格は,直角の格子パターンが塗膜に切り込まれ,素地まで貫通するときの素地からのはく離に対して塗膜の耐性を評価する試験方法について規定する。
 この試験方法によって測定された性能は,各要因の中から特に,下塗り又は基板いずれかへの付着性に左右されるものである。しかし,この試験方法は,付着性の測定手段とみなしてはならない。
 付着性が必要な場合は, JIS K 5600-5-7「塗料一般試験方法-第5部:塗膜の機械的性質-第7節:付着性(プルオフ法)」を参照する。
 備考:この試験方法は,主に試験室での実施を目的にしているが,フィールド試験にも適しているものである。
 試験方法は,合否試験として,又は状況が適合するならば, 6段階分類試験について記載している。多層塗膜系に適用する場合には,個別層ごとに互いの塗膜の耐はく離性を評価することができる。
 試験は,塗装対象物及び/又は特別に準備した試験試料について実施することができる。この方法は硬い(鋼)及び軟らかい(木製及び石こう)素地に適用されるが,このような各種の素地は,それぞれ異なる試験操作を必要とする。
 この試験方法は,250μm より大きい膜厚の塗膜,又は模様塗膜には適していない。
 備考:250μm以上の膜厚をもつ塗膜は,単一カットの方法によって試験を行うことができる。
 備考:粗いパターンの表面をもつように設計した塗膜に適用する場合,この方法は,大きなエラーを示す結果になる。
 【手順】(一部抜粋)
 試験条件及び試験数
 他に合意がない限り,温度 23±2℃,相対湿度 50±5%で試験を行う。
 試験板上の最低三つの異なる箇所で試験を行う。
 カット数
 格子パターンの各方向でのカット数は,6個とする。
 カットの間隔
 各方向でのカットの間隔は等しくするが,次のような膜厚及び素地によって決めなければならない。
   0μm~60μm:硬い素地に対して,1mmの間隔。
   0μm~ 60μm:軟らかい素地に対して,2mmの間隔。
   61μm~ 120μm:硬い,軟らかい素地両方に対して,2mmの間隔。
   121μm~250μm:硬い,軟らかい素地両方に対して,3mmの間隔。
 塗膜の切込み及び除去
 試験板の表面に対して刃が垂直になるように切込み工具を保持する。切込み工具に一様な圧力を加え,また,適切な間隔のスペーサーを用いて,一定の切込み率で塗膜部分に規定の数の切込みを行う。
 すべてのカットは,素地の表面まで貫通していなければならない。塗膜が硬すぎて素地まで貫通することができない場合は,この試験は無効とし,その旨を報告書に記載する。
 一定の速度でテープ(規定の粘着テープ)を取り出して,約 75mmの長さの小片にカットする。
 テープの中心を,各カットの一組に平行な方向で格子の上に置き,格子の部分にかかった箇所と最低 20mmを超える長さで,指でテープを平らになるようにする。
 塗膜に正しく接触させるために,指先でしっかりとテープをこする。テープを付着して 5分以内にテープを引きはがすが,できるだけ 60°に近い角度でテープの端をつかみ,0.5~1.0秒で確実に引き離すようにする。
 【試験結果の分類】
 試験結果の評価は,品質評価を目的とする場合には,JIS 規格で定める次の分類によるのが良い。この場合の他に,塗膜の経時変化把握などを目的とする場合では,はがれの面積率,損傷を受けたマス目数などの変化程度の評価が行われる。
 分類 0 : カットの縁が完全に滑らかで,どの格子の目にもはがれがない。
 分類 1 : カットの交差点における塗膜の小さなはがれ。クロスカット部分で影響を受けるのは,明確に 5 %を上回ることはない
 分類 2 : 塗膜がカットの縁に沿って,及び/又は交差点においてはがれている。クロスカット部分で影響を受けるのは明確に 5 %を超えるが 15 %を上回ることはない
 分類 3 : 塗膜がカットの縁に沿って,部分的,又は全面的に大はがれを生じており,及び/又は目のいろいろな部分が,部分的,又は全面的にはがれている。クロスカット部分で影響を受けるのは,明確に 15 %を超えるが 35 %を上回ることはない
 分類 4 : 塗膜がカットの縁に沿って,部分的,又は全面的に大はがれを生じており,及び/又は数か所の目が部分的,又は全面的にはがれている。クロスカット部分で影響を受けるのは,明確に 65 %を上回ることはない
 分類 5 : 分類 4 でも分類できないはがれ程度のいずれか。

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プルオフ法

 付着性(プルオフ法)
 塗膜表面に引張り治具を接着剤で張り付け,引張試験機を用いて,塗膜面に対して垂直方向に引張り,塗膜破壊時応力と塗膜破壊状況の観察で付着性を評価する方法である。
 塗膜の破壊状況には,界面破壊塗膜凝集破壊,及び両者の混在がある。破壊面の大部分が界面破壊の場合には付着強さを評価したといえるが, その他の場合は,厳密な意味での塗膜の付着強さの評価ではない。
 この方法で得られた結果は,塗膜層の中で最も強度の弱い層や層間の強さであり,塗膜のはがれ易さの評価に用いることは推奨できない。
 一般的には,塗膜の垂直引っ張り強さの経年変化を定量的な指標として,クロスカット法と組み合わせて塗膜の劣化程度の評価に用いられる例がある。
 
 【参考】
 凝集破壊(cohesive failure)
 接着接合物の破壊形態の一つで,接着体の層内で起きる破壊をいう。接着体が強く,被着体自身が破壊することを被着体破壊(被着体の凝集破壊)や料料破壊と呼ばれる。一方,接着体と被着体の界面で起きる破壊を界面破壊(interfacial failure)や接着破壊という。
 界面破壊(interfacial failure)
 接着接合物の破壊形態の一つで,接着破壊ともいわれ,接着体と被着体の界面で起きる破壊をいう。一方,接着が強く,被着体自身の破壊接着体の層内で起きる破壊を凝集破壊(cohesive failure)いう。また,被着体自身が破壊する場合は被着体の凝集破壊(被着体破壊)であるが,材料破壊という。

 JIS K 5600-5-7「塗料一般試験方法−第5部:塗膜の機械的性質−第7節:付着性(プルオフ法)」

 【序文】(一部抜粋)
 この試験方法は,試験板に垂直の方向加えた引張力で生じる塗膜のはがれ,又は破れに必要な最小の張力の測定によって,塗料,ワニス若しくは関連製品の単一塗膜,又は多層塗膜系の付着力を評価するもので,引張試験機を用いて測定する。
 この試験結果は,試験する塗膜(単層,又は多層膜)の機械的性質だけでなく,素地の性質,及び調整,塗料の塗装方法,塗膜の乾燥状態,温度,湿度,及びその他の試験環境条件によって影響される。
 【適用範囲】(1999年版)
 この規格は,塗料,ワニス,又は関連製品の単一塗膜,又は多層塗膜系に対するプルオフ試験の実施のための方法について規定する。
 この試験方法は,広範囲の素地に対して適用可能である。素地が変形性,例えば薄い金属板,プラスチック及び木であるか,又は堅固,例えば厚いコンクリート及び金属板であるかによって,異なった手順が規定されている。
 試験目的によっては,試験円筒(スペシメン)に塗装してもよい。この場合には,塗膜の厚さの測定方法は受渡当事者間の協定による。
 試験結果は,試験アセンブリの最も弱い境界面の破壊(界面破壊や,付着破壊という)か,又は最も弱い構成要素の破壊(凝集破壊という)に必要な最小張力である。
 なお,付着破壊と凝集破壊が同時に生じる(付着/凝集破壊という)ことがある。
 【用語及び定義】
 この規格で用いる主な用語及び定義は,JIS K 5500 によるほか,次による。
 3.1 試験体(bonded dolly assembles) :試験片に試験円筒(スペシメン)を接着したもの。
 3.2 付着破壊 :試験片の塗膜の剝がれ方が,塗膜と基材との界面又は,塗膜と塗膜との界面から剝がれること。
 3.3 凝集破壊 :試験片の塗膜の剝がれ方が,塗膜層の途中から剝がれること。
 【原理】
 塗膜に対するプルオフ試験とは,次に示す試験方法である。
 試験に供する塗料を平たんな板に塗装仕様に従って,均一な膜厚で単層又は複層に塗り分けて塗装する。
 塗膜を乾燥し,硬化した後,試験円筒を塗装した面へ直接,接着剤を用いて貼り付ける。
 接着剤の硬化後,試験体を適切な引張試験機に設置して引張試験を行い,塗膜と素地間との付着破壊に必要な張力を測定する。
 破壊力は,試験体の最も弱い境界面の付着破壊か,又は最も弱い部分に凝集破壊を起こすのに必要な最小張力で表す。
 なお,付着破壊と凝集破壊とが混在する場合もある。
 【結果の表し方】
 破壊強さ
 各試験アセンブリに対する破壊強さ(MPa)は,次の式によって算出する。
   4F/πd2
   ここに,F:破壊力(N)
       d:試験円筒の直径(mm)
 直径が20mmの試験円筒の場合の破壊力(MPa)は,次の式によって算出する。
   4F/400π=F/314
 破壊の性質
 試験結果は,付着破壊(界面破壊),凝集破壊,又は付着/凝集破壊の用語を用いて,破壊された部位別に,破壊面積の百分率,及び位置を表す。
 便宜上,観測した結果の記載には,次の略語が用いられる。
   A =基板(素地)の凝集破壊
   A/B=素地と第一塗膜との界面の付着破壊
   B =第一塗膜の凝集破壊
   B/C=第一塗膜と第二塗膜との界面の付着破壊>
   −/Y=最終塗膜と接着剤との界面の付着破壊
   Y =接着剤の凝集破壊
   Y/Z=接着剤と試験円筒との界面の凝集破壊
 :試験塗膜が 20MPaの張力で破壊し,第一塗膜の凝集破壊約 30%,第一塗膜と第二塗膜間の付着破壊約 70%の場合は,その試験結果は,次のように表される。
   20MPa,30%B,70%B/C

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