防食概論:塗装・塗料
☆ “ホーム” ⇒ “腐食・防食とは“ ⇒ “防食概論(塗料・塗装)” ⇒
耐候性の高い塗装仕様の上塗り塗装に用いられるポリウレタン樹脂塗料に関し, 【ポリウレタン樹脂とは】, 【イソシアネートと水の反応】 に項目を分けて紹介する。
塗料各論(構造物用塗料)
ポリウレタン樹脂とは
ポリウレタン樹脂塗料(polyurethane resin coating)
用語としてポリウレタン樹脂塗料は,JIS K 5500「塗料用語」に定義されていないが,一般的には,「ポリウレタン樹脂をプレポリマー(prepolymer)とする塗料,あるいは塗膜形成過程(乾燥,重合)でウレタン結合(urethane bond)を生成する塗料の総称。」と理解されている。
ポリウレタン樹脂(polyurethane resin)
連鎖中の繰返し構造単位がウレタンの形のそれからなる重合体,又はウレタン及びその他の形式の繰返し構造単位がその連鎖中に存在する共重合体,を主成分とするプラスチック。【JIS K 6900「プラスチック−用語」】
多官能イソシアネート類と反応性ヒドロキシル基(水酸基)をもつ化合物との反応によって作られる合成樹脂。【JIS K5500「塗料用語」】
ポリウレタン樹脂の特徴は,合成条件を変えることで,伸縮性や熱可塑性,熱硬化性などの特性を様々に変化させて作れることにある。
一般的には,ポリウレタン樹脂は,抗張力,耐摩耗性,耐油性には優れるが,耐熱性や耐水性はさほど高くなく,水分による加水分解や空気中の窒素酸化物(NOx),塩分,紫外線,熱,微生物などの影響で徐々に分解される。
ウレタン(urethane)
19世紀に,フランスの有機化学者デュマ(Jean Baptiste André Dumas;1800年~1884年)が,尿素(urea)とエタノール(ethanol)のエステル反応で得られるエカルバミン酸エチル( H2NC(O)OC2H5 ;ethyl carbamate)をウレタン(urethane)と命名したといわれている。
カルバミン酸( NH2C(O)OH )のエステル(一般式 H2NC(O)OR )およびその置換体(一般式 R'‐NH‐C(O)O‐R )の総称をカルバメート(carbamate)やカルバマートというが,俗称で広義のウレタンともいう。
なお,デュマの弟子のウルツ(Charles Adolphe Wurtz;1817年~1884年)は,エチレンイソシアネート( CH3CH2NCO )とエタノール( CH3CH2OH )とからウレタン( C2H5‐NH‐C(O)O‐C2H5)が得られる反応を初めて見出1)し,これがポリウレタン化学の始まりとされている。
1);疋田淳・渡辺政美:「ポリウレタン樹脂塗料」,色材 49[8],p.509(1974)
ウレタン結合(urethane bond)
下図に示すように,イソシアネート基(isocyanate :R−N=C=O )と水酸基( R'−OH )の付加重合(addition polymaerization)により生成される化合物の結合部分 R‐NH‐COO‐R' をウレタン結合という。
従って,2種の単量体の付加重合(共重合)でポリウレタン樹脂を生成するためには,複数のイソシアネート基を持つ単量体(ポリイソシアネート(polyisocyanate),通常はジイソシアネート)と複数の水酸基を持つ単量体(ポリオール(poriol),通常はジオール)により構成される。
【参考】
イソシアネート(isocyanate)
イソシアナート,イソシアン酸エステルなどともいい,イソシアネート基( −N=C=O )を持つ化合物の総称。一般には有機化合物を指すが,イソシアネートイオンの窒素に金属が配位した無機塩を指すこともある。
イソシアネート樹脂(isocyanate resin)
芳香族,脂肪族又は脂環族のイソシアネート類による遊離若しくはブロックされたイソシアネート基を含む合成樹脂。
備考 イソシアネート類は,モノマー又は通常ポリマー,アダクト若しくはプレポリマーとして,反応性ヒドロキシル基をもつ化合物とともにポリウレタン塗料に使用される。【JIS K5500「塗料用語」】
ポリオール(poriol)
複数の水酸基(ヒドロキシ基,ヒドロキシル基)を持つ単量体(ポリオール)には多種多様のものがある。ポリウレタンの製造に用いられるポリオールは,分子種により,ポリエーテルグルコール,ポリエステルポリオール,ポリマーポリオールの 3 種に大別される。
水酸基,ヒドロキシ基(hydroxy group)
ヒドロキシル基( hydroxyl group )ともいい,一般式 −OH で表され,ベンゼン環以外の炭素上の水素を置換した化合物をアルコール類,ベンゼン環の水素を置換した化合物をフェノール類と呼ぶ。
付加重合(重付加)(addition polymaerization)
狭義には付加反応による逐次重合する反応。大きく分けて活性水素をもつヘテロ原子の基が多重結合などに付加する水素移動型重付加とペリ環状反応で多重結合が付加する電子移動型重付加とがある。
水素移動型重付加には,ポリウレタン(ウレタン樹脂),エポキシ樹脂が,電子移動型重付加には,環状ポリオレフィン樹脂がある。広義には,付加縮合,ラジカル重合,イオン重合も重付加の範疇に入る。
ページのトップへ
イソシアネートと水の反応
これらとの反応速度は,ポリオール<水<ポリアミンの順で速い。ポリイソシアネートとポリオールの反応過程に水が介在すると,ポリオールと競合するように水との反応が起き,図に示すように,アミンと二酸化炭素が生成する。
生成したアミンとイソシアネートが反応することで,ウレア結合(RNHCONHR)を有する尿素樹脂が形成される。
水の介在で,アミン生成過程で発生した二酸化炭素による発泡で塗膜欠陥に至るなど,意図しない結果になる。ポリウレタン樹脂塗料の取り扱いでは,水の混入には十二分に注意しなければならない。
この現象を逆手に取ったのが,湿気硬化形のポリウレタン樹脂塗料(高分子化はウレア結合による)になる。
【参考】
ウレア結合,ユリア結合(urea bond)
ユリア基( –NH–CO–NH– )を有する結合。ウレア結合ともいわれるが,JIS規格では「ユリア」を推奨している。
尿素樹脂(urea formaldehyde resin)
ユリア樹脂,ウレア樹脂ともいわれ,尿素( H2NCONH2 )とホルムアルデヒド( HCHO )との重合反応(アルカリ性または酸性下で脱水縮合反応)でユリア基( –NH–CO–NH– )を有する透明な液状の縮合物が得られる。
表面硬度が高く,光沢があり,耐熱性(常用耐熱温度 90 ℃),耐有機溶剤性,機械的強度,電気的特性に優れる。 なお,一般的には,ウレア樹脂と称する例も多いが,JIS 規格では「ユリア」の表記に統一されている。
ページのトップへ