防食概論塗装・塗料

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 ここでは,鉄道の構造物の中で 【鋼鉄道橋の維持管理】 ,防食塗装に関連する 【定期点検(全般検査)】, 【腐食,塗膜劣化の調査方法】, 【全般検査時の健全度判定】 に項目を分けて紹介する。

 防食塗装系(鋼橋維持管理の背景)

 鋼鉄道橋の維持管理

 鉄道の車両,構造物,建築物,設備などに関わる技術は,鉄道営業法(明治三十三年法律第六十五号)第一条の規定に基づき定められた国土交通省令「鉄道に関する技術上の基準を定める省令に準拠した方法が用いられる。
 構造物の維持管理においても,省令の解釈基準の一つである「鉄道構造物等維持管理標準」(国土交通省鉄道局)に準拠して実施される。
 維持管理技術の詳細は,【社会資本とは】「鉄道橋の維持管理で紹介し,ここでは,鋼鉄道橋の検査方法,腐食・塗装に関連する調査,健全度判定などの項目を抜粋して紹介する。
 
 【参考】
 鉄道営業法(Railway Operation Act)
 明治 33年(1900年)3月16日制定,法律第65号,鉄道と旅客・荷主の関係および鉄道輸送の安全を確保するため,鉄道の職制,運転,運送等に関して規定した日本の法律。
 第一章 鉄道ノ設備及運送
 第一条 鉄道ノ建設、車両器具ノ構造及運転ハ国土交通省令ヲ以テ定ムル規程ニ依ルヘシ
 国土交通省令「鉄道に関する技術上の基準を定める省令」
 鉄道営業法第一条の規定に基き制定さた国土交通省令の一つで,平成 13年(2001年)に,それまでの 5つの運輸省令(普通鉄道構造規則,特殊鉄道構造規則,新幹線鉄道構造規則,鉄道運転規則,新幹線鉄道運転規則)を一元統合した省令。
 第一章 総則(目的)第一条
 この省令は,鉄道の輸送の用に供する施設(以下「施設」という。)及び車両の構造及び取扱いについて,必要な技術上の基準を定めることにより,安全な輸送及び安定的な輸送の確保を図り,もって公共の福祉の増進に資することを目的とする。
 省令の構成は,第一章(総則),第二章(係員),第三章(線路),第四章(停車場),第五章(道路との交差),第六章(電気設備),第七章(運転保安設備),第八章(車両),第九章(施設及び車両の保全),第十章(運転),第十一章(特殊鉄道)である。
 鉄道に関する技術上の基準を定める省令の解釈基準
 国土交通省令「鉄道に関する技術上の基準を定める省令」は性能規定である。実施に当たっては,各鉄道事業者がそれぞれに実情にあった技術基準を策定し,国土交通大臣等に届け出て審査等を受ける必要がある。
 そこで,平成 14年に,国土交通省鉄道局長通知として,自動的に本省令の内容にも適合していると見なされる,具体的で数値化した解釈基準(鉄道に関する技術上の基準を定める省令等の解釈基準)が定められた。

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 全般検査

 全般検査とは
 定期的に実施することが定められた構造物検査である。全般検査には,通常全般検査特別全般検査の2種がある。
 全般検査の頻度
 通常全般検査は,2 年を超えない時期に実施される全般検査である。特別全般検査は,それぞれの構造物の必要性から事業者の定める期間ごと(重要構造物では 10 年程度が推奨されている)に実施される全般検査である。
 全般検査の目的
 1.:構造物の変状の有無を確認
 2.:健全度の判定ができる情報(変状の程度)を把握
 3.:運転保安,及び旅客公衆の安全を脅かす恐れの判断
 4.:悪影響を及ぼす恐れのある環境変化の判断
 5.個別検査の必要性の判断
 6.措置の必要性の判断
 通常全般検査の調査項目
 1.塗膜の劣化,及び腐食の状態
 2.耐候性鋼材の保護性さびの生成状態
 3.建築限界支障の有無
 4.:列車通過時の橋桁の振動状態
 5.:支承部の変状
 6.:リベット,及びボルトの変状
 7.:溶接部,及び母材の変状
 8.:補修・補強個所の再変状
 9.:衝撃によって疲労亀裂が生じやすい個所
 10.排水設備の状態
 11.:歩道,及び防音工等付帯物の変状
 12.周辺環境に与える影響
 
 【参考】
 健全度(soundness, integrity)
 構造物に定められた要求性能に対し,当該構造物が保有する健全さの程度。
 適切な措置を実施するためには,適切な健全度判定が必要となる。維持管理を行う事業者における,変状の程度と措置の必要性の考え方に従い,健全度の判定区分が定められる。
 変状(harmful alteration, deformation)
 一般的には,普通と異なる状態を意味する。構造物の維持管理では,あるべき健全な状態から性能が低下している状態。
 措置(action)
 読み「そち」,処置ともいい,一般には,事態に応じて必要な手続きをとること,うまく取り計らい始末することなどを意味する。構造物などの維持管理では,構造物の監視,補修・補強,使用制限,改築・取替等の総称を意味する。

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 腐食,塗膜劣化の調査方法

 通常全般検査の調査項目は,一律ではなく,構造物の特性と周辺の状況に応じて,当該構造物に最適な条件を設定して行なわれる。ここでは,塗膜の劣化,腐食,及び耐候性鋼材のさびに関する一般的な調査方法を紹介する。
 塗膜劣化そのものは,構造物本体の健全性の観点からは,直接的な変状とはいえない側面もあるが,そのまま放置すると,防食性能低下による鋼腐食に至り,最終的には構造物の健全性に影響する可能性があるため,通常全般検査での調査対象になっている。
 耐候性鋼材は,さびることで,その後のさびを抑制する材料であるため,耐候性鋼材のさびそのものは,構造物本体の健全性の観点からは,直接的な変状とはいえない側面もあるが,生成するさびが期待する特性を有する保護性さびに成長しなかった場合に,そのまま放置すると,鋼腐食の進行が止まらず,最終的には構造物の健全性に影響する可能性があるため,通常全般検査での調査対象になっている。

 塗膜の劣化

 通常全般検査では,「鋼構造物塗装設計施工指針」(鉄道総合技術研究所編集,研友社発行)に準じて塗膜の劣化状態を評価し,補修(塗替え塗装)の要否を判定している。
 塗膜劣化状態は,「鋼構造物塗装設計施工指針」に示す見本写真との比較で,部位別の変状レベルを求めることで評価する。この評価では,塗膜劣化の中で光沢や色変化などの評価は低く,塗膜割れ,はがれやさび発生など塗膜の防食性能低下に関連する変化を高く評価する評点付けを採用している。

 腐食の状態

 腐食の状態調査では,鋼の腐食が一律に進むことは少なく,部位ごと(上・下フランジ,腹板等)でその進行程度が異なることを考慮して評価しなければならない。
 目視による調査で注目する項目は, a) さびの程度,b) 滞水の有無,c) 付着物の種類と量,d) 堆積物の有無,e) 排水装置からの漏水の有無 などである。

 耐候性鋼材の保護性さび生成状態

 耐候性鋼を用いた無塗装橋梁では,全面が保護性さびで覆われているか否かの判定が必要になる。
 既往の研究では,耐候性鋼材の暴露後 3 年程度で“層状のはく離さび”や“うろこ状のはく離さび”に至る場合は,保護性さびの形成が期待できないことを示している。このため,架設後 3~ 5 年間程度の調査結果が重要となる。
 “層状のはく離さび”発生が,部分的であっても認められた場合には,当該環境で保護性さびの形成は期待できないと判定できる。
 一方で,架設後 3年程度ではく離に至っていないが,“うろこ状のさび”が観察された場合などは,将来に保護性さびの形成が期待できるか否かを把握するため,環境や飛来塩分量の調査,原因の特定,さび厚の計測などを行うのがよい。

 目視調査の要点

 a) 層状はく離さび,うろこ状はく離さびの有無
 うろこ状さびが発見された場合には,監視により進行度合いを把握するが,層状はく離さびが発見された場合には早期に補修計画を立てる必要がある。
 b) 補修塗装部や部分塗装部のさびの有無
 新設時からの塗装面,補修による塗装面について,さびや塗膜はがれの有無を確認する。
 c) 漏水・滞水の有無
 漏水は,桁端部,排水管近傍,床版ドレインパイプ近傍,床版ひび割れ部,高欄付近に着目し,濡れ,及びさびの変色状況を調査する。滞水については,縦断勾配,横断勾配の低い個所,水平上面,格点部等を調査する。
 d) 構造・施工上の不備,劣化,損傷の有無
 e) 周辺環境における腐食因子の有無
 構造物の周辺環境で,例えば道路等の凍結防止剤飛散などの腐食促進因子発生の有無や状況を調査するなどがある。
 
 【参考】
 「鋼構造物塗装設計施工指針」(鉄道総合技術研究所編集,研友社発行)
 鋼構造物を適切に防食するための技術情報として,(公益財団法人)鉄道総合技術研究所が編集発行する防食・塗装に関する技術指針である。「塗装指針」は,1970年代の塗装技術に関する手引きから始まり,指針としてまとめられた後,1985年,1993年,2005年,2013年に改訂されている。

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 全般検査時の健全度判定

 全般検査は,目視調査を主体とする検査である。目視観察結果から,変状の種類,程度,及び進行性などを総合的に判断し,構造物の健全度を評価しなければならない。
 判断に際して,検査者による評価のばらつきを小さくするため,典型的な変状に対して目安が「維持管理標準」に示されている。

 各部位の耐荷性や耐疲労性

 各部位の耐荷性や耐疲労性等に関する標準的な変状腐食,亀裂,破断など)は,構造物の部材・部位別に示された図例と比較して評価できるように工夫されている。
 全般検査結果に基づく健全度判定の基本的な考え方は次の通りである。
  全般検査における健全度の判定は,変状の種類,程度,及び進行性等に関する調査の結果に基づき,総合的に行うものとする。
  安全を脅かす変状等がある場合は健全度 AA と判定し,緊急に使用制限等の措置を行うものとする。
  健全度 A と判定された構造物は,個別検査を実施するものとする。

 耐荷性や耐疲労性以外の構造物の要求性能

 ここでは,塗膜の劣化状態,耐候性鋼材のさびの状態について紹介する。
 (塗膜の劣化状態)
 塗膜劣化状態は,「鋼構造物塗装設計施工指針」に示す見本写真との比較で部位別の変状レベルを求める。
 部位別の変状レベルから塗膜劣化度を算出し,補修措置の一つである塗替え塗装の要否と塗装時期を判定する。
 評価に際しては,外観観察に加えて,塗膜付着性試験などを行うことが推奨されている。
 (耐候性鋼材のさびの状態)
 耐候性鋼材を用いた無塗装橋梁の健全度判定の目安は,次表の通りである。

耐候性鋼材の外観・さび厚みと健全度判定の目安
  健全度    外観の状態    さび厚み(μm) 
  B    層状はく離のあるさびが発生している。    800 以上 
  架設後 3 年程度までに,うろこ状はく離のさびが生じている。    400~ 800 
  C    架設後 3 年以降,外観粒径 1~ 25mm程度のうろこ状はく離のあるさびが発生している。    400~ 800 
  S    平均外観粒径 1~ 5mm程度のさび。    400 未満 

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