防食概論:塗料・塗装

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         ジンクリッチ塗料の硬化特性

 前節では,厚膜形ジンクリッチペイント 1種(無機)がミストコートを必要とする理由(塗膜中の空隙発生原因)を推定するため,塗料に含まれる樹脂量と最密充填状態の亜鉛粒子間の空隙量を比較した。
 この結果,塗料に含まれる樹脂は,亜鉛粒子間を埋めるのに十分な量存在することが分かった。すなわち,樹脂の硬化反応が空隙発生に寄与している可能性が示唆された。

【硬化反応の特徴】

 厚膜形ジンクリッチペイント 1種(無機)に用いるアルキルシリケート(エチルシリケートが主流)は,大気中の水分を吸収し,図に例示する加水分解縮合反応で高分子化する材料である。

アルキルシリケートの加水分解縮合反応例

アルキルシリケートの加水分解縮合反応例

   アルキルシリケートの加水分解段階では,大気中の水との反応でアルコール(ROH)が生成する。この反応を脱アルコール反応ともいう。
 次いで,高分子化のための縮合反応では,脱水,及び/又は脱アルコール反応のため,水,及び/又はアルコールが生成する。
 これらをまとめると,2分子の水(H2O) を大気から吸収し,1分子のアルコールと 1分子のの生成過程,又は 1分子ので 2分子のアルコールを生成する過程が考えられる。
 ここで,アルコール分子(例えば,エタノールC2H5OH)と,水分子(H2O)の概略の体積を比較してみる。モル質量(g/mol)を水 18,エタノール 46とし,密度(g/cm3)を水 1,エタノール 0.79とすると,1モル当たりの体積は,水で 18cm3,エタノールは 59.2cm3エタノールは水の約 3倍の体積になる。
 すなわち,厚く塗られた塗膜内部から硬化反応後に生成物であるアルコールが抜けることで,塗膜の体積が著しく収縮することを意味する。
 一方,アルキルシリケートの加水分解縮合で形成した無機高分子(シロキサン結合)は,ガラスと同様の分子構造を持ち,エポキシ樹脂などの有機高分子に比較して柔軟性に乏しい
 このため,硬化過程の脱アルコール反応による体積収縮力に耐えられず,塗膜内部に微細な空隙(き裂)を多数発生したと考えられる。
 
【参 考】
 無機ジンクリッチ系塗料のように,アルキルシリケートをバインダーとして用いる塗料では,高分子化反応を適切な早さで進めるのに,十分な量の水分供給が求められる。
 従って,施工時の制約として,相対湿度 50%を下限値として,これ以下では施工が禁止されている。
 相対湿度の低い環境で塗装,及び養生すると,溶剤揮発で外見上の造膜に至るが,未反応成分を多く含んだままとなる。同様の現象は,必要以上に厚く塗り付けた場合にも起きる。
 この結果として,未反応成分を多く含んだ状態で,エポキシ樹脂塗料が塗り重ねられることになる。その後,上塗り塗膜を通じて拡散してきた水分で,ジンクリッチ塗膜内の未反応成分が,長い時間をかけて徐々に反応する。すなわち,造膜後の塗膜内部でアルコールと水が生成する。
 このアルコールが塗膜外に拡散することで,塗膜の体積収縮による内部応力が発生する。最終的にはジンクリッチ塗膜の凝集破壊による塗膜はがれに発展することが考えられる。
 厚膜形ジンクリッチペイント 1種(無機)を基準膜厚(75μm)の 2倍以上に厚く塗り付けると,水の内部への拡散が不十分で硬化反応が進まず,かつ反応生成物の内部からの揮発(アルコールの拡散)も遅くなる。このため,塗膜はがれや割れ発生などの不具合発生が多くみられる。塗装に際しては,最小膜厚に加えて最大膜厚の管理も必要と考える技術者がいる。

【厚膜形ジンクリッチペイント 1種(無機)と無機ジンクリッチプライマーの違い】

 一方,同様の素材を持つ無機ジンクリッチプライマーはミストコートを必要としない。これは,塗付ける量(塗膜厚み)の違いに起因すると考えられる。

塗膜断面模式図

塗膜断面模式図

 すなわち,図に示すように,10点平均あらさ 50μmRzJISのブラスト鋼面に約 75μm目標で塗付けた厚膜形ジンクリッチペイント 1種(無機)は,鋼面の上に約 50μm厚みを持つ連続した塗膜層になる。
 一方,20μm目標で塗られる無機ジンクリッチプライマーは,鋼表面の凹凸を超えた連続塗膜を形成し難いと考えられ,硬化反応完了前,すなわち反応の途中過程で反応生成物であるアルコールが素早く大気に放出されると考えられる。
 このことは,塗膜形成後の体積収縮は,厚膜形ジンクリッチペイント 1種(無機)に比較して小さく,空隙の発生数が少なくて済むことを示す。このため,無機ジンクリッチプライマーは,ミストコートを塗らなくとも泡発生などの塗膜変状に至らないと考えられる。

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