防食概論塗装・塗料

  ☆ “ホーム” ⇒ “腐食・防食とは“ ⇒ “防食概論(塗料・塗装)” ⇒

 ここでは,既設構造物の塗替え塗装開始時に行われる 【塗替え時の素地調整について】,  【施工面に付着する塩分について】,  【素地調整実施時の留意点】,  【活膜の判定】 を紹介する。

 塗装概論(塗替え塗装管理)

 塗替え時の素地調整について

 塗替え塗装の素地調整は,新設時の素地調整とは大きく異なる
 新設時の対象面は,橋梁製作過程で損傷を受けたショップ鋼板(shop sheet steel)の表面である。言い換えれば,均質な面を対象とした素地調整作業で,手抜きさえしなければ理想的な被塗面を得ることが出来る。
 一方,塗替え塗装では,新設時とは比較にならないほど深くまで腐食(corrosion)した鋼板,塗膜はがれ(peeling, flaking, scaling)に至った旧塗膜,付着性の低下で塗膜はがれ寸前の旧塗膜,付着しているが塗膜割れ(crack, craking)に至った旧塗膜,付着しているが塗膜割れ寸前まで変質し要求性能を満たさなくなった旧塗膜,付着性,物性とも健全性を維持する旧塗膜(後述の活膜)が混在した表面である。

 塗替え塗装の分類
 塗替え塗装は,基本的には 2つの方法に分けられる。
 一つ目は,活膜の比率が大きく,活膜の上に塗り重ねることで塗膜耐久性向上を図り,加えて施工コスト低減に寄与する活膜を残して塗装する方法である。この方法は,第二次世界大戦後の戦後復興期間に放置され,劣化が進んだ鉄道橋の維持管理の検討で,旧塗膜を完全に除去するより活膜を残すのが,塗膜耐久に有利であるとの結果を受けて薦められた方法である。
 二つ目は,残すべき活膜が少なく,活膜を残して塗ることの効果が少ない場合,又は塗装系の変更目的に旧塗膜を全面除去する方法である。
 塗替え塗装が,活膜を残して行う従来型工事と塗膜更新目的の全塗膜剥離工事では,素地調整の考え方が異なる。
 
 現場施工の特徴
 素地調整作業は,新設時塗装と異なり,施工現場固有の様々な制約を受ける。このため,必ずしも理想的な素地調整ができない場合がある。
 適切な素地調整ができない場合には,塗料に期待する性能が発揮できないことが多いので,耐久性の高い重防食塗装系を用いても,塗替え周期の延伸は期待できない。
 このように,塗替え塗装の中で,素地調整作業は最も重要な工程である。次に,素地調整の一般的な手順と管理について概説する。
 
 【参考】
 塗膜劣化(degradation of coatings)
 外的要因(環境,事故等)で初期の塗膜性能が低下すること。防食塗装塗膜では,さび,膨れ,割れ,はがれなどが,景観を重視する塗膜では,変退色,光沢低下,白亜化などが注目される塗膜性能である。
 はがれ(塗膜の)(peeling, flaking, scaling)
 付着性が失われてある広さの膜が自然に素地から分離する現象。一般に,割れ,膨れが生じた後に,付着性が失われた結果,塗装系の1層,又はそれ以上の塗膜が下層塗膜から,又は塗装系全体が素地からはがれる。はがれは,その形状,程度及び深さによって評価する。
 備考:“peeling”はリボン,又はシート状の大きなはがれ,”flaking”はりん片状の小さなはがれ,”scaling”はスケール状の大きなはがれをいうこともある。なお,”scaling”ははがれの他にさび落としの意味にも用いられる。【JIS K5500「塗料用語」】
 割れ(塗膜の)(crack, cracking)
 老化の結果,塗膜に現れる部分的な裂け目。ISOでは,割れの方向性の有無,発生密度,割れの幅と深さによって評価する。また,割れの形態によっても区分する。
 備考:ヘアクラック,わに皮割れ及びからす足状割れは,割れの形状の自明な例。塗膜に現れる部分的な割れの状態によって,次のように分ける。程度の低いもの,浅いものから,ヘアクラック,チェッキング,クレージング,わに皮割れ,深割れ,からす足状割れ。【JIS K5500「塗料用語」】

   ページのトップへ

 施工面に付着する塩分について

 塗装足場設置後に,近接して旧塗膜表面の付着塩分量(adhered salt content)を複数の個所(部材別,部位別)で計測する。計測値が,規定値以上の場合には,水洗などの除塩を計画する。
 水を用いた作業が制限される場合には,少なくとも水に濡らしたウェスで念入りにふき取るなどの作業が必要である。
 塩を残したまま素地調整すると,付着塩を周囲に飛散させ露出した鋼表面の汚損が起きる。また,塗替え塗装で塗り重ねた塗膜の早期でのはがれの原因にもなるなど,塗替え塗膜の耐久性に著しく影響する。
 橋梁の立地が,多量の飛来海塩粒子(airborne sea salt particles)や波しぶきなどの海塩粒子(sea-salt particle)の想定される海岸等の場合には必須の管理項目である。海岸から離れた立地であっても,冬季に凍結防止塩(antifreezing agent)を散布する道路,及びその付近の橋梁で,凍結防止塩散布時期や残存が想定される春季に施工する場合は,付着塩分量の計測が望ましい。
 
 【参考】
 付着塩分量(adhered salt content)
 表面に付着・残留した飛来塩分の量。
 飛来塩分(flying salinity)
 海や塩湖などの自然由来の塩を飛来海塩粒子というが,飛来塩分という場合は,定義が一定していないが,一般には飛来海塩粒子に加え,散布された凍結防止塩,工場などからの人為的な原因で飛来する塩粒子なども含まれる。
 飛来海塩粒子(airborne sea salt particles)
 大気中に含まれるエアロゾル粒子の中の海塩粒子を指す。
 海塩粒子(sea salt particle)とは,海岸の波打ち際及び/又は海上で波頭が砕けたときに発生する海水ミストが,風で運ばれて飛来した粒子。海塩粒子の大きさは,約 0.01μm~20μm である。【JIS Z 2381「大気暴露試験方法通則」】
 凍結防止剤(antifreezing agent)
 融雪剤ともいわれ,塩の溶解熱や塩水の凝固点降下(氷の融点低下)を期待して散布される。使用される塩には,塩化カルシウム(CaCl2),塩化ナトリウム(NaCl),塩化マグネシウム(MgCl2),酢酸カルシウム( (CH3COO)2Ca),酢酸マグネシウム( (CH3COO)2Mg),酢酸カリウム(CH3COOK),尿素( CO(NH2)2)などがある。
 高速道路,国道では安価で,凍結防止,融雪効果の高い塩化ナトリウム(NaCl)が,勾配の大きい道路,跨線道路橋などのスポット的な融雪(凍結後の散布)には,散布後の発熱効果が期待でき,即効性のある塩化カルシウム(CaCl2)や塩化マグネシウム(MgCl2)が用いられている。なお,凍結防止剤使用量全体の70%以上は塩化ナトリウムである。
 しかし,これらにより塩害(生態系への影響,構造物・車両の腐食)を引き起こすため,近年は代替材料(酢酸カルシウム・マグネシウム(CMA),酢酸カリウム,鉄製品に全く反応(腐食)しない尿素)への変換が検討されている。

   ページのトップへ

 素地調整実施時の留意点

 素地調整作業では,次の項で解説する腐食個所の“除せい(derusting)”,更に次の項で解説する割れ塗膜,はがれ塗膜,付着性の低下した塗膜,脆化塗膜などの“劣化塗膜の除去作業”,残した活膜との付着性を確保するための“表面処理(面粗し)作業”を実施する。
 素地調整後,その日のうちに第 1層目の塗装を行うので,素地調整,及び塗装に適する気象条件であることを,ピンポイント気象予測で確認しておく。気象が急変し,作業に規定される温度・湿度の制限値を超えた場合は,直ちに作業を中止する勇気が必要である。特に,相対湿度 80%以上では露出した鋼表面に水分子の吸着(adsorption)による水膜の形成で腐食が進むので,湿度の高い季節の施工には注意が必要である。
 素地調整後,第 1層目の塗装開始までに,腐食個所の除せい度(preparation grade),劣化塗膜除去程度,活膜の面粗し程度を検査し,塗り付けてよい状態であることを確認しなければならない。
 その日のうちに第 1層目の塗装ができない場合は,次回に再度の素地調整が求められる。
 
 【参考】
 除錆(じょせい)(derusting)
 金属腐食で生じた錆(さび)を取り除くこと。
 除せい(錆)度(preparation grade)
 清浄度の中で,ミルスケール及びさびの除去程度。【 JIS Z 0310「素地調整用ブラスト処理方法通則」】
 清浄度(cleanliness, preparation grade)
 ある(素地調整)方法によって得られる清浄仕上げの品質水準を説明する分類(JIS Z 0310「素地調整用ブラスト処理方法通則」,ISO 8501/1参照)。【JIS K5500「塗料用語」】
 面粗し
 面荒らしともいい,塗料・塗膜の付着性改善を期待して,表面を細かいざらざらした状態にすること。

   ページのトップへ

 活膜の判定

 活膜とは,塗膜特性(環境因子の遮断特性,機械特性)及び素地との付着性などの性質が維持され,容易に剥離しない旧塗膜である。
 活膜を残して塗り替えることで,活膜を除去して塗り替える場合より塗り替え塗装周期を延伸できると考えられている。

 下塗りに無機ジンクリッチペイントを用いない塗装系の活膜判定

 活膜を定量的に把握する方法はないが,定性的には,スクレーパー(手工具の力棒)を用いても容易に剥離せず粘性のある塗膜を活膜と判断できるとされてきた。これは,下塗りに鉛系さび止めペイントを用い中・上塗りに長油性フタル酸樹脂塗料などを用いた油性系塗料全盛期の時代の常識であった。
 すなわち,スクレーパーの刃を立てたとき,塗膜が割れるようであれば,塗膜の粘弾性が低下し,脆化(brittleness, embrittlement)が進んでおり,早晩で塗膜割れに発展する可能性が高いこと,スクレーパーに塗膜に沿った力(せん断力)を加えたとき塗膜がはく離する場合は,層間の付着力低下が進んでおり,塗膜はがれに至る可能性が高いことを推定できる。
 この方法は,塗膜/鋼界面に大きなせん断力を与えられる工具で評価できるが,界面に大きなせん断力が作用しないディスクサンダー(サンドペーパーを用いたディスクグラインダ)などでは評価できないので注意が必要である。

 下塗りに無機ジンクリッチペイントを用いる塗装系の活膜判定

 旧塗膜が,重防食塗装などで用いる厚膜形無機ジンクリッチペイントを有している場合には,活膜の判定が著しく困難である。
 厚膜形無機ジンクリッチペイントの塗膜は,もともと柔軟性に乏しく容易に凝集破壊する塗膜である。このため,健全性を維持していてもスクレーパーで容易にはく離してしまうことが多い。
 このため,一般化された評価方法はないが,一部の事業者では,せん断力を用いた付着性評価法である碁盤目法(JIS K 5600-5-6「塗膜の機械的性質:付着性(クロスカット法)」)を応用した評価法や粘着力の強い粘着テープを用いた剥離試験などで評価する例もある。
 
 【参考】
 ぜい化(脆化)(塗膜の)(brittleness, embrittlement)
 脆化(brittleness)とは,時間の経過に伴って,塗膜が柔軟性を失って小さな細片に容易に分解するようになる現象。
 脆化(embrittlement)とは,膜がたわみ性を損なう現象。【JIS K5500「塗料用語」】
 たわみ性(flexibility, pliability)
 工学的には,曲げ剛性(flexural rigidity)の逆数をいう。⇒ 可とう(撓)性
 可撓性(塗膜の)(flexibility)
 読み「かとうせい」,たわみ性ともいい,塗料分野では耐屈曲性ともいう。外力で物質がしなやかにたわむ性質で,たわみ性や撓性(とうせい)ともいう。力を加えると変形する性質の弾性(elasticity)と混同されやすいが,弾性は外力を除くと原形に回復することを条件として言及されるが,可撓性では原形に回復することを条件とせず,弾性変形のし易さについてのみ言及している。
 剪断力(応力)(shear stress)
 せん断応力(剪断応力)は,接線応力やシャー応力ともいわれ,物体内部のある面に平行方向に作用する応力,すなわち面がすべるように作用する応力である。
 その本来の作用面に平行に働く力をこの面で測定した試験片の断面積で除した値。【JIS K 6900「プラスチック−用語」】
 碁盤目試験(付着性)(cross cut test, lattice pattern cutting test)
 塗膜の付着性試験法の一つで,JIS改訂でクロスカット法と名称が変更されたが,一般名称として広く用いられている。
 塗料,ワニス及び関連製品の試料採取及び試験を扱う規格の一つで,直角の格子パターンが塗膜に切り込まれ,素地まで貫通するときの素地からのはく離に対して塗膜の耐性を評価する。【JIS K5600-5-6「付着性(クロスカット法)」】
 はり又はカッタナイフなどで塗膜を貫通する碁盤目を切り,塗膜の傷やはく離状態を調べて,付着性を評価する試験。【JIS G 0202「鉄鋼用語(試験)」】

 

   ページのトップへ