防食概論塗装・塗料

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 ここでは,塗料の歴史について, 【塗料のはじまり】,  【関連用語】 に項目を分けて紹介する。

 塗料概論(塗料の歴史)

 塗料のはじまり

 塗料の歴史は古く,その原形は石器時代の壁画(wall painting, fresco)で,鉱物や貝殻を微粉砕した無機顔料を塗付け,情報伝達手段に用いられたといわれている。日本の縄文時代になると,美装目的に(うるし)を用いるようになった。

 (japanese lacquer, lacquer, japan)

漆による彩色 日光東照宮

漆による彩色 日光東照宮
写真出典:日光東照宮 HP

 歴史上最も古いラッカー(lacquer)として知られ,約 2,400年前の孝安天皇(こうあんてんのう:第 6 代天皇)の代に,器に漆を塗って宮中に献上したとの記述が残っている。また,漆工芸品の守護神として,愛知県あま市に漆部(ぬりべ)神社があり,古くから一般に慕われた塗料でもある。現在でも工芸品や神社仏閣の塗装に漆が用いられている。
 は,フェノール類の混合物であるウルシオール(urushiol)と若干のたんぱく質から構成される化合物である。ウルシオールを主成分とするラッカーは,を溶剤とし,水の蒸発で膜が形成される水性塗料(water paint, water-based paint)の一種である。水の揮発で被膜を形成するが,その後に長い時間をかけて,高湿度下で漆に含まれる酸化酵素のラッカーゼ(laccase)の作用により酸化重合(oxidation polymerization)し,強固な塗膜が形成される。
 
 油性塗料(oil paint)
 現在の工業用塗料の原形と考えられ, 14世紀以降の絵画の発展にともない登場した油絵(oil painting)に由来する。
 乾性油(drying oil)に種々の顔料を混ぜた油絵具は,15世紀にオランダのヤン・ヴァン・エイクが発明したと言われている。ヴァン・エイクは,亜麻仁油(あまにゆ)と芥子油(けしゆ)の乾燥性が高いことに注目し,煮詰めて酸化度を高めた油(ボイル油,煮あまに油)を用い,今日の油絵具や油性塗料の基礎を築いた。

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 関連用語

 (japanese lacquer, lacquer, japan)
 ウルシ(漆)科の落葉樹の樹皮と木質部の間から分泌される乳白色の粘りけのある液体を生漆(きうるし)という。生漆に油・着色剤などを加えて製造した天然樹脂塗料を漆という。
 漆の主成分はフェノール誘導体のウルシオール(urushiol)で,酸化酵素ラッカーゼの作用により, 25~30℃,相対湿度 75~85%の条件でウルシオールの酸化重合により乾燥(硬化)する。
 ウルシオールは,化学式 C21H34O2 で表される炭素原子数 15の不飽和の側鎖のついた二価フェノールで,側鎖の構造により 5種のものが知られている。
 ラッカー(lacquer)
 揮発性の高い溶媒(ナフサ,キシレン,トルエン,ケトンなど)に樹脂を溶かしたものを指す。溶剤の揮発で乾燥し,硬くて耐久性の高い塗膜を得られる。
 乾燥(塗料)(drying)
 塗付した塗料の薄層が,液体から固体に変化する過程の総称。塗料の乾燥機構には,溶剤の揮発,蒸発,塗膜形成要素の酸化,重合,縮合などがあり,乾燥の条件には,自然乾燥,強制乾燥,加熱乾燥などがある。また,乾燥の状態には,指触乾燥(※1),半硬化乾燥,硬化乾燥などがある。【JIS K5500「塗料用語」】
 ※1:指触乾燥とは,塗料の乾燥状態の一つで,塗った面の中央に触れてみて,試料で指先が汚れない状態になったとき。
 乾性油(drying oil)
 薄膜にし空気中に置くと,酸素を吸収して酸化し,これに伴って重合が起こって固化し,塗膜を形成する脂肪油。高度不飽和脂肪酸を含む。【JIS K5500「塗料用語」】
 空気中で徐々に酸化して固まる油のこと。油絵具や油ワニスに利用される。ヨウ素価(成分中の不飽和脂肪酸の量を示す指標)で分類され,ヨウ素価 130以上を乾性油,100~130を半乾性油,100以下を不乾性油という。
 広く知られる乾性油には,亜麻仁(あまに)油・桐(きり)油・芥子(けし)油・紫蘇(しそ)油・胡桃(くるみ)油・荏(えごま)油・紅花(べにばな)油・向日葵(ひまわり)油などがある。
 酸化重合(oxidation polymerization)
 乾性油の主成分である不飽和脂肪酸の二重結合が空気中の酸素と反応し,過酸化物やラジカルが生じる。これらが開始剤となり,二重結合間の重合反応(polymerization reaction)が進行することを酸化重合という。不飽和脂肪酸の量が多いもの,すなわちヨウ素価の高い油ほど固まるのが早い。
 不飽和脂肪酸の酸化反応や重合反応は発熱反応である。このため,ヨウ素価の高い油を布などに含ませ,空気にふれる面積を大きくすると,急速に反応が進み自然発火するおそれがある。
 あまに(亜麻仁)油(linseed oil)
 あまに種子(含油分35~40%)から得られる液状植物油。リノレン酸を主成分とし,乾性油の代表的な油脂。あまに種子は,カナダ,アルゼンチンなどの寒帯地域で生産される。塗料,印刷インキ,油ワニス,リノリウムなどに用いられる。生あまに油,精製あまに油,ノンブレークあまに油などがある。【JIS K5500「塗料用語」】
 カナダ,アルゼンチンなどの寒帯地域で主に生産されれているアマの種子を圧搾,つぶして溶媒抽出で得たα-リノレン酸,ω-3脂肪酸,リノール酸,オレイン酸をはじめとする不飽和脂肪酸に富む乾性油で,塗料・油ワニス・リノリウム・印刷インク・油布・軟石鹸(なんせつけん)などの原料とされてれいる。
 ボイル油(boiled oil)
 乾性油・半乾性油を加熱し,又は空気を吹き込みながら加熱して,乾燥性を増進させて得た油。【JIS K5500「塗料用語」】
 塗料に用いる材料の品質は,JIS K 5421「ボイル油及び煮あまに油」参照。

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