防食概論:塗装・塗料
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ここでは,塗装工程による塗料分類として, 【塗装系について】, 【プライマー】, 【下塗り塗料】, 【中塗り塗料】, 【上塗り塗料】 に項目を分けて紹介する。
塗料各論(分類)
塗装系について
塗装系(coating system, paint system)
塗装される又は既に塗装されている塗料の塗膜層の総称。塗装の目的・効果を満足するように作った,地肌塗りから上塗りまでの塗り重ね塗膜の組合せを総称する用語。【JIS K5500「塗料用語」】
鋼構造物塗装などでは,高い防食を期待し,4層以上の塗膜で構成される塗装系が適用されている。塗装系で用いる塗料は,塗料名称とは別に,塗装工程(painting process, coating process)を明確にするための分類(プライマー,下塗り塗料,中塗り塗料,及び上塗り塗料)が用いられる。
塗装工程(painting process, coating process)
塗装系を作るための工程。塗装の目的,塗ろうとする物体の素地,形状,数,用いる塗料の性質,塗装場所の条件などによって,素地の処理,塗料の塗り方,乾燥の方法,塗膜形成後の処理方法などを選定して,工程を設計する。
備考:ISO 用語規格では,”coating process”は,浸し塗り(※1),吹付け塗り(※2),ローラーコーティング,はけ塗り(※3)など,塗料を素地に塗装する過程を説明する一般用語としている。
(※1)浸し塗りとは,塗料を入れた槽の中に被塗物を浸した後引き上げる塗り方。(※2)吹付け塗りとは,スプレーガンで塗料を微粒化して吹き付けながら塗る方法。(※3)はけ塗りとは,はけ(ハケ)で塗料を塗る方法。【JIS K5500「塗料用語」】
地肌塗り(primary coat, priming coat)
物体の素地に直接塗る工程。素地の過度の吸収及びさびの発生を防ぎ,素地に対する塗膜層の付着性を増加するなどのために行う。【JIS K5500「塗料用語」】
標準規格(standard, standard specification)
製品・サービス・組織・システムなどについて,標準化団体が定める基準。例えば,国際標準化機構(ISO)が制定する ISO規格,工業標準化法に基づき日本工業標準調査会(JISC)が制定する日本工業規格(JIS),通称 JAS法に基づく日本農業規格(JAS)などがある。
JIS(Japanese Industrial;日本工業規格),ISO(International Organization for Sstandardization;国際標準化機構),BS(British Standard;英国工業規格),ASTM(American Society for Testing and Materials;米国試験材料協会)
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プライマー
プライマー(primer)
塗料を塗り重ねて塗膜層を作るとき,耐食性と付着性とを増すために素地に直接塗る塗料。【JIS Z0103「防せい防食用語」】
塗装系の中で素地に初めに用いる塗料。プライマーは,素地の種類や塗装系の種類に応じた各種のものがある。【JIS K5500「塗料用語」】
素地(substrate surface , substrate)
塗料が塗装される面。
備考:素地は,未塗装表面及び既塗装表面の両者を含む。生地,下地も同義で用いられる。【JIS K5500「塗料用語」】
塗装系の中で素地に対して最初に用いる塗料,すなわち地肌塗りに用いる塗料である。次に紹介する下塗り塗料は,素地に直接塗るものとは限らないので,プライマーと下塗り塗料は同一の物として扱うと誤解を生じる。
プライマーは,素地の種類や塗装系の目的に応じて採用され,その目的には,例えば,次の加工を行うまでの間,腐食の影響を避けるための一時的な防せい,次に塗り重ねる塗料と素地との付着性確保などがある。
プライマーの JIS製品規格には,JIS K5535(ラッカー系下地塗料),JIS K5552(ジンクリッチプライマー), JIS K5583(塩化ビニル樹脂プライマー,H21年廃止), JIS K5591(油性系下地塗料), JIS K5633(エッチングプライマー), JIS K5646(カシュー樹脂下地塗料)などがある。
エッチングプライマー(etching primer, pretreatment primer, wash praimer, etch primer)
成分の一部が素地の金属と反応して化学的生成物を作り,素地に対する塗膜の付着性を増すことを目的としたプライマー。【JIS Z0103「防せい防食用語」】
金属塗装の際の素地処理に用いるプライマーの一つ。成分の一部が生地の金属に反応して化学的生成物を作り,生地に対する塗膜の付着性を増すようにした,金属素地処理用の塗料。主に,りん酸・クロム酸を含む。通常は,全成分を二つに分けて作って一組として供給し,使用の直前に混合する。【JIS K5500「塗料用語」】
ジンクリッチプライマー(zinc-rich primer)
鋼材をブラスト処理し,本塗装に先立って,ブラスト直後に塗装する塗料。【JIS Z0103「防せい防食用語」】
JIS K 5552 「ジンクリッチプライマー」では,亜鉛末及びアルキルシリケート又はエポキシ樹脂及び硬化剤,顔料及び溶剤を主な原料としたもので,次の 2種が規定されている。
1種 無機ジンクリッチプライマー: アルキルシリケートをビヒクルとした,1液1粉末形のもの。
2種 有機ジンクリッチプライマー: エポキシ樹脂をビヒクルとした,2液 1粉末形,又は 2液形(亜鉛末を含む液と硬化剤)のもの。
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下塗り塗料
下塗り塗料(undercoat,priming coat)
塗料を塗り重ねて塗装仕上げするときの下塗りに用いる塗料。塗装系に対する素地の影響を防止し,付着性を増加させるために用いる。
備考:1.ISO用語規格では,“undercoat”と“intermediate coat”とは同じ定義で,“地肌塗り(priming coat)”と“上塗り(finishing coat)”との間の塗料(coat)をいう。また,“priming coat”は,素地に塗る塗装系の最初の塗料(coat)をいう。
備考:2.BS用語規格及び CED(Coatings Encyclopedic Dictionary)では“undercoat”は,上塗り塗料を塗る前に,目止め,肌直し,地肌塗りなどを行った素地面,又は素地調整を行った旧塗膜面に塗装される塗料をいう。【JIS K5500「塗料用語」】
下塗り(under coating, primer coating)
中塗り用塗料や,上塗り用塗料を塗る前に,下塗り用塗料を塗る操作。【JIS K5500「塗料用語」】
前述のプライマーは,素地に最初に塗り付ける塗料であるが,下塗り塗料は,塗装系に従い,素地に直接塗る場合,プライマーの上に塗リ重ねる場合などがある。
防食目的の塗装系の下塗り塗料には,防せい顔料(rust preventive pigment)を用いたさび止めペイント(anticorrosive paint),エポキシ樹脂などを用いた環境遮断性の高い厚膜形(high-build type)の塗料が適用される。
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中塗り塗料
中塗り塗料(intermediate coat,undercoat)
塗料を塗り重ねて塗装仕上げをするときの,中塗りに用いる塗料。下塗り塗膜と上塗り塗膜との中間にあって,両者に対する付着性をもち,塗装系の耐久性を向上させる目的に用いるもの,下塗り塗面の平滑さの不足を補うために用いるものなどがある。後者では,塗膜が厚くて研磨しやすいことが特徴である。
備考:1.ISO用語規格では,“intermediate coat”と“undercoat”とは同義で,“地肌塗り(priming coat)と上塗り(finishing coat)の間のコート(coat)”をいう。
備考:2.BS用語規格及びCED(Coatings Encyclopedic Dictionary)では,“undercoat”は,上塗り塗料を塗り前に,目止め,肌直し,地肌塗りなどを行った素地面,又は素地調整を行った旧塗膜面に塗装される塗料をいう。【JIS K5500「塗料用語」】
中塗り(intermediate coating)
下塗りと上塗りとの中間層として,中塗り用の塗料を塗る操作。下塗り塗膜と上塗り塗膜との間の付着性の増強,総合塗膜層の厚さの増加,平らさ又は立体性の改善のために行う。英語では,目的によって,undercoat,ground coat,surfacer,texture coat などという。【JIS K5500「塗料用語」】
防食目的の塗装系では,下塗り塗料を複数層用い,耐久性向上を図っているため,中塗り塗料には下塗りと上塗りとの付着性を期待し,1層だけ用いるのが一般的である。
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上塗り塗料
上塗り塗料(top coat,topcoat,finishing coat)
塗料を塗り重ねて塗装仕上げをするとき,上塗りに用いる塗料。
備考:1.ISO用語規格では,“top coat”と“finishing coat”とは同義語で,“塗装系の最終の塗料(coat)”をいう。
備考:2.CED(Coatings Encyclopedic Dictionary)では,“topcoat”は“通常プライマー,アンダーコート,又は素地に直接塗装される塗装系の最終塗膜に用いる塗料”をいう。
備考:3.上塗りは,1回又はそれ以上塗られることもある。また,ある種の系では,上塗りが素地に直接 1回又はそれ以上塗装されることもある。【JIS K5500「塗料用語」】
上塗り(over coating, finishing)
下地塗膜の上にまたは直接素地に上塗り用の塗料を塗る行為。【JIS K5500「塗料用語」】
上塗り塗料は,用いる塗装系により,意匠性向上,防汚性など表面特性の付与など様々である。防食目的の塗装系では,高い意匠性を期待せず,色彩の付与と下塗り塗膜の保護を目的とする場合が多い。
【ISO,BS等での塗料用語】
ISO(International Organization for Sstandardization,国際標準化機構),BS(British Standard,英国工業規格),CED(Coatings Encyclopedic Dictionary)での定義を紹介する。
ISO 用語規格
“priming coat” は,素地に塗られる最初の塗膜 (coat) をいい,素地は旧塗膜のある場合も含む。
“undercoat”と “intermediatecoat”とは同じ定義で,“地肌塗り (priming coat)”と“上塗り (finishing coat)”との間の塗料 (coat) をいう。
“top coat”と “finishing coat”とは同義語で,“塗装系の最終の塗料 (coat)”をいう。
BS 用語規格,及びCED
“undercoat” は,上塗り塗料を塗る前に,目止め,肌直し,地肌塗りなどを行った素地面,又は素地調整を行った旧塗膜面に塗装される塗料をいう。
ときどき “undercoat” という用語が “intermediate coat”と同義に用いられ,通常上塗りのすぐ前に塗装される塗膜をいう。
“topcoat” は“通常プライマー,アンダーコート,又は素地に直接塗装される塗装系の最終塗膜に用いる塗料”をいう。上塗りは,1 回,又はそれ以上塗られることもある。また,ある種の系では,上塗りが素地に直接 1 回,又はそれ以上塗装されることもある。
“finish” は塗装系の最終塗膜をいう。
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