防食概論塗装・塗料

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 ここでは,JIS製品規格のジンクリッチ系塗料の種類,品質などについて, 【JIS K5552 2010 ジンクリッチプライマー】, 【JIS K5553 2010 厚膜形ジンクリッチペイント】, 【品質項目一覧】 に項目を分けて紹介する。

 塗料各論(さび止めペイント)

 JIS K5552 2010 ジンクリッチプライマー

 適用範囲
 この規格は,鋼材の防せい(錆)に用いるジンクリッチプライマーについて規定する。
 備考:ジンクリッチプライマーは,亜鉛末及びアルキルシリケート又はエポキシ樹脂及び硬化剤,顔料及び溶剤を主な原料としたものである。
 種類種類は,次とする。
 a) 1種 無機ジンクリッチプライマー: アルキルシリケートをビヒクルとした,1液 1粉末形のもの。
 b) 2種 有機ジンクリッチプライマー: エポキシ樹脂をビヒクルとした,2液 1粉末形,又は 2液形(亜鉛末を含む液と硬化剤)のもの。


品質(ジンクリッチプライマー)
  項  目  1種(無機ジンクリッチプライマー) 2種(有機ジンクリッチプライマー)
  容器の中での状態    粉は微小で一様な粉末であるものとする。液はかき混ぜたとき堅い塊がなくて一様になるものとする。 
  塗装作業性    塗装作業に支障があってはならない。 
  乾燥時間 h     1 以下 
  塗膜の外観    塗膜の外観が正常であるものとする。 
  ポットライフ    5 時間で使用できるものとする。 
  耐衝撃性    衝撃によって割れ及びはがれが生じてはならない。(500g,500mm) 
  耐塩水噴霧性    塩水噴霧に耐えるものとする。 
  混合塗料中の加熱残分 %    70以上 
  加熱残分中の金属亜鉛 %    80以上    70以上 
  エポキシ樹脂の定性    ―    エポキシ樹脂を含むこと 
  屋外暴露耐候性    6か月間の試験でさび,割れ,はがれ及び膨れがあってはならない。 

 【参考】
 プライマー(primer)
 塗料を塗り重ねて塗膜層を作るとき,耐食性と付着性とを増すために素地に直接塗る塗料。【JIS Z0103「防せい防食用語」】
 塗装系の中で素地に初めに用いる塗料。プライマーは,素地の種類や塗装系の種類に応じた各種のものがある。【JIS K5500「塗料用語」】
 金属素地に定着し,上塗り塗料との密着性を向上させるための下地塗料。【JIS H0201「アルミニウム表面処理用語」】
 ジンクリッチプライマー(zinc-rich primer)
 鋼材をブラスト処理し,本塗装に先立って,ブラスト直後に塗装する塗料。【JIS Z0103「防せい防食用語」】
 亜鉛末(zinc dust)
 金属亜鉛を主成分とする灰色の粉末。さび止め顔料として用いる。【JIS K5500「塗料用語」】
 アルキルシリケート(alkyl silicate)
 金属ケイ素とアルコールの反応で合成されるアルコキシシランの一種で,水と容易に加水分解,縮重合する。例えば,エチルシリケート{Si(OC2H54 ;IUPAC名 テトラエトキシシラン(Tetraethoxysilane)は,大気中の水蒸気により縮重合する無機ジンクリッチペイントの展色材として用いられている。
 エポキシ樹脂(epoxy resin)
 分子中にエポキシ基を 2個以上含む化合物を重合して得た樹脂状物質。エピクロヒドリンとビスフェノールとを重合して作ったものなどがある。【JIS K5500「塗料用語」】
 プレポリマーのエポキシ基(エポキシド,epoxide)で架橋ネットワーク化させることで硬化させることが可能な熱硬化性樹脂。プレポリマーも製品化した樹脂ともエポキシ樹脂と呼ばれる。プレポリマーの組成は種々あるが,ビスフェノールAとエピクロルヒドリンの共重合体が多用されている。
 硬化剤にはポリアミンや酸無水物が使用される。プレポリマーの組成と硬化剤の種類との組み合わせで多様の物性の実現が可能であること,寸法安定性,耐水性・耐薬品性及び電気絶縁性が高いことから電子回路の基板,封入剤,接着剤,塗料,FRPの積層剤として利用されている。

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 JIS K5553 2010 厚膜形ジンクリッチペイント

 2002年版では,2種の品質として,ジンクリッチプライマーと同様にエポキシ樹脂の定性が規定されていたが,2010年版の改訂で削除された。
 適用範囲
 この規格は,鋼材の防せい(錆)に用いる厚膜形ジンクリッチペイントについて規定する。
 備考:厚膜形ジンクリッチペイントは,亜鉛末,及びアルキルシリケート又はエポキシ樹脂,及び硬化剤,顔料,及び溶剤を主な原料としたものである。
 種類種類は,次とする。
 a) 1種 厚膜形無機ジンクリッチペイント: アルキルシリケートをビヒクルとした,1液 1粉末形のもの。
 b) 2種 厚膜形有機ジンクリッチペイント: エポキシ樹脂をビヒクルとした,2液 1粉末形,又は 2液形(亜鉛末を含む液と硬化剤)のもので,硬化剤にはポリアミド,アミンアダクトなどを用いる。


品質(厚膜形ジンクリッチペイント)
 項  目 1種(厚膜形無機ジンクリッチペイント) 2種(厚膜形有機ジンクリッチペイント)
  容器の中での状態    粉は微小で一様な粉末であるものとする。液はかき混ぜたとき堅い塊がなくて一様になるものとする。 
  乾燥時間 h     5以下    6以下 
  塗膜の外観    塗膜の外観が正常であるものとする。 
  ポットライフ    5 時間で使用できるものとする。 
  耐衝撃性(デュポン式)    衝撃によって割れ及びはがれが生じてはならない。(500g,500mm) 
  厚塗り性    厚塗りに支障があってはならない。 
  耐塩水噴霧性    塩水噴霧に耐えるものとする。 
  耐水性    ―    水に浸したとき異常がないものとする。 
  混合塗料中の加熱残分 %    70以上    75以上 
  加熱残分中の金属亜鉛 %    75以上    70以上 
  屋外暴露耐候性    2年間の試験でさび,割れ,はがれ及び膨れがあってはならない。 

 【参考】
 ジンクリッチペイント(zinc rich paint)
 乾燥塗膜の大部分が金属亜鉛末から成り,わずかの無機質と有機質のバインダーで結合された塗料で鋼材のさび止めに用いる塗料。【JIS Z0103「防せい防食用語」】
 展色材をできるだけ少なくし,合成樹脂ワニス又はアルキルシリケート,アルカリシリケートなどシリケート系ビヒクルに亜鉛末をできるだけ多く配合して作ったさび止めペイント。塗膜が水分に触れると,鉄よりもイオン化傾向の大きい亜鉛が陽極となって,亜鉛から鉄に向って防食電流が流れ,鉄は腐食から守られる。塗膜中に亜鉛末が 85~95%含まれているとき,防食効果が大きい。各種鋼構造物の防食塗装に用いられる。被塗鉄面は,サンドブラストなどで十分にさびを除き,適度の粗さにしてから塗らないと効果が薄い。【JIS K5500「塗料用語」】
 硬化剤(hardener, curing agent)
 塗料の硬度の増進又は硬化反応を促進若しくは制御するために用いられる橋かけ剤,樹脂,その他の変性剤。
 備考 常温硬化形塗料では,エポキシ樹脂塗料におけるアミンアダクト及びポリアミド樹脂,ポリウレタン樹脂塗料におけるポリイソシアネート類は,架橋反応によって硬化する硬化剤の代表的な例である。
 また,酸硬化形アミノ樹脂塗料における有機酸又は無機酸などの酸触媒,不飽和ポリエステル樹脂塗料の過酸化物(重合開始剤)とナフテン酸コバルト(促進剤)なども硬化剤ということがある。【JIS K5500「塗料用語」】
 一般的には,備考の前者の例は塗料の展色材(架橋剤・硬化剤)として,後者の例は塗料の添加剤(硬化促進剤)として扱われる。
 ポリアミド(polyamide)
 連鎖中の繰返し構造単位がアミドの形のものである重合体。【JIS K 6900「プラスチック―用語」】
 ポリアミドは,略号 PA,カルボニル基と窒素の結合(アミド結合)で重合した結晶性の熱可塑性プラスチック(結晶性エンジニアリング・プラスチック)である。
 アミド結合(amide bond)とは,アミンとカルボン酸の脱水縮合反応で生成されるカルボン酸アミド( R–C(=O)–N R'R")の構造のうち,C(=O)–N のカルボニル基と窒素との結合部をいう。
 脂肪族骨格を含むポリアミドはナイロン(Nylon)と総称し,芳香族骨格のみで構成されるポリアミドはアラミド(aramid)と総称される。
 アミンアダクト(amine adduct)
 ポリアミンエポキシ樹脂アダクトともいわれ,エポキシ樹脂に過剰の DETA(ジエチレントリアミン)などのポリアミンを反応させて得られた残留アミノ基の活性水素を持つ化合物。エポキシ樹脂の硬化剤として用いられる。

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 品質項目一覧

  ジンクリッチ系塗料に適用される JIS規格の品質項目の概要と対応する試験方法を次に紹介する。


JIS品質項目の試験方法一覧
  項   目   概   要   試験 方法
  容器の中での状態 
  condition in container 
  塗料を容器に入れて貯蔵した後の状態。顔料を含む塗料では,かき混ぜるか練り混ぜるかしてみて,一様な状態になればよいとする。【JIS K5500「塗料用語」】    JIS K 5600-1-1 の 4.1
  (容器の中の状態) 
  塗装作業性    試料を製品規格に規定する方法で塗装して,塗装作業に支障がないかどうかを調べる。    JIS K 5600-1-1 の 4.2
  (塗装作業性) 
  乾燥時間(指触乾燥性) 
  drying time 
  製品規格に規定する乾燥時間を過ぎたとき,指触乾燥の程度を調べる。 指触乾燥(set-to-touch)とは,塗面の中央に指先で軽く触れて,指先が汚れない状態。     JIS K 5600-1-1 の 4.3
  (乾燥時間) 
  塗膜の外観    塗装作業性の試験に合格した試験片と見本品とを比較し,差異の有無を観察する。試験までの時間が製品規格に規定されていないときは,乾燥時間を半硬化乾燥で調べる塗料で 48時間,硬化乾燥を調べる塗料で 24時間,加熱乾燥の塗料では加熱し終わってから 30分間放置する。    JIS K 5600-1-1 の 4.4
  (塗膜の外観) 
  ポットライフ 
  pot life 
  幾つかの成分に分けて供給される塗料を混合した後,使用できる最長の時間。【JIS K5500「塗料用語」】    JIS K 5600-2-6 
  耐衝撃性 
  impact-resistant 
  試験片に物体が激突したときの衝撃及びそれによって生じる試験板の変形に対する塗膜の抵抗性。【JIS K5500「塗料用語」】    JIS K 5600-5-3 の 6.
  (デュポン式) 
  厚塗り性    厚膜形塗料の品質規格で求められる規定厚み以上に塗付けても支障のない性質。    塗料規格に定める方法 
  耐塩水噴霧性 
  resistance to neutral spray 
  塩水噴霧の作用に対する塗膜の抵抗性。    JIS K 5600-7-1 
  耐水性 
  water resistance 
  塗膜が,水の化学的作用又は物理的作用に対して変化しにくい性質。【JIS K5500「塗料用語」】     JIS K 5600-6-1 の 7. 
  (浸漬法) 
  混合塗料中の加熱残分(%) 
  nonvolatile content 
  塗料を一定条件で加熱したときに,塗料成分の一部が揮発又は蒸発した後に残ったものの質量の,元の質量に対する百分率。残分は,主としてビヒクル(展色材)中の不揮発物又はこれと顔料である。【JIS K5500「塗料用語」】     JIS K 5601-1-2 
  加熱残分中の金属亜鉛(%)    加熱残分(塗膜として残る成分に相当)に含まれる金属亜鉛の百分率。    塗料規格に定める方法 
  エポキシ樹脂の定性    塗料成分の分析によりエポキシ基の存在を確認。    塗料規格に定める方法 
  屋外暴露耐候性 
  natural weathering 
  屋外で,日光,風雨,露霜,寒暖,乾湿などの自然の作用に抵抗して変化しにくい塗膜の性質。【JIS K5500「塗料用語」】    JIS K 5600-7-6 
 
 JIS K 5600-1-1「塗料一般試験方法−第 1 部:通則−第 1 節:試験一般(条件及び方法)」
 JIS K 5600-2-6「塗料一般試験方法−第 2 部:塗料の性状・安定性−第 6 節:ポットライフ」
 JIS K 5600-3-3「塗料一般試験方法−第 3 部:塗膜の形成機能−第 3 節:硬化乾燥性」
 JIS K 5600-5-3「塗料一般試験方法−第 5 部:塗膜の機械的性質−第 3 節:耐おもり落下性」
 JIS K 5600-6-1「塗料一般試験方法−第 6 部:塗膜の化学的性質−第 1 節:耐液体性(一般的方法)」
 JIS K 5600-7-1「塗料一般試験方法−第 7 部:塗膜の長期耐久性−第 1 節:耐中性塩水噴霧性」
 JIS K 5600-7-6「塗料一般試験方法−第 7 部:塗膜の長期耐久性−第 6 節:屋外暴露耐候性」
 JIS K 5601-1-2「塗料成分試験方法−第 1 部:通則−第 2 節:加熱残分」

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