防食概論:塗装・塗料
☆ “ホーム” ⇒ “腐食・防食とは“ ⇒ “防食概論(塗料・塗装)” ⇒
ここでは,タンク類に適用される防食塗装について, 【タンク外面の防食】, 【一般環境・新設時塗装仕様 】, 【一般環境・塗替え時塗装仕様】, 【腐食環境・新設時塗装仕様】, 【腐食環境・塗替え時塗装仕様 】 を紹介する。
鋼橋以外での防食塗装
タンク外面の防食
1973年(昭和48年)の第四次中東戦争を機に,石油価格が大幅に引き上げられ,世界経済が混乱に至ったいわゆる石油危機(オイルショック)を受けて,1975年(昭和50年)に「石油の備蓄の確保等に関する法律(法律第九十六号)」(Oil Stockpiling Act)が制定され,国策として石油(petroleum)や石油ガス(petroleum gas;PG)の備蓄が進められている。
法を受けて,日本政府が戦略的に大規模な石油備蓄基地(oil stockpiling base)を建設(国家備蓄)すると共に,民間企業が石油流通の施設に在庫を多めに持つ方法で、原油と石油製品を石油タンクなどに備蓄し、随時入れ替え(民間備蓄)を行っている。さらに,産油国と連携した産油国共同備蓄があり,日本の石油備蓄はこの 3本立てで進められている。
国家備蓄は,原油の形で封印保管するもので経済産業大臣の指示のあるときのみ出し入れを行う。
石油備蓄タンク(petroleum stockpile tank)は,例えば,約 11万リットル級で直径約 80m,高さ約 25m と非常に大きく,漏えいした時の周辺環境に与える影響は甚大となるため,腐食等を原因とする漏えい事故の発生は許さない万全の管理が求められる。
大型の備蓄タンクに限らず,タンク類は,屋外に設置されることが多いため,適切な防食塗装が採用されている。なお,側板の塗装仕様は,耐候性を主体に耐用年数やコストを勘案して決定されている。
以下には,一般環境と激しい腐食環境に用いられるタンク側板の防食塗装について,新設時塗装仕様と塗替え時塗装仕様の代表的なものを紹介する。
タンクは躯体が大きいので,橋梁のように製作工場である単位のブロックまで組み立て,現地でブロックを連結するような工法が取れず,鋼板を現地に持ち込み,現地で全体を製作するのが一般的である。従って,新設時の防食塗装は,全ての工程がタンク製作後に現地で実施される。
【参考】
「石油の備蓄の確保等に関する法律(法律第九十六号)」(抜粋)
第一章 総則 第一条(目的)
この法律は、石油の備蓄を確保するとともに、備蓄に係る石油の適切な供給を図るための措置を講ずることにより、我が国への石油の供給が不足する事態及び我が国における災害の発生により国内の特定の地域への石油の供給が不足する事態が生じた場合において石油の安定的な供給を確保し、もつて国民生活の安定と国民経済の円滑な運営に資することを目的とする。
第二条(定義)
この法律において「石油」とは、原油、指定石油製品及び石油ガスをいう。
2 この法律において「指定石油製品」とは、揮発油、灯油、軽油その他の炭化水素油であつて、経済産業省令で定めるものをいう。
3 この法律において「石油ガス」とは、プロパン、ブタンその他経済産業省令で定める炭化水素を主成分とするガス(液化したものを含む。)をいう。
10 この法律において「国家備蓄石油」とは、国が所有する石油(経済産業大臣の所管に属するものに限る。)であつて、我が国への石油の供給が不足する事態及び我が国における災害の発生により国内の特定の地域への石油の供給が不足する事態に備えて備蓄を行うものをいう。
石油(petroleum)
天然の炭化水素を主成分とする液状の可燃性物質の総称で,採掘された石油を原油という。
採掘された原油を精製し,様々の石油製品として活用されている。
石油ガス(PG)(petroleum gas)
石油系天然ガスともいわれ,石油製品の一種で,精製時に発生するガスをいう。
石油ガスは,ブタン(C4H10)などを含みプロパン(C3H8)を主成分(70~80%)とする可燃性ガスで,一般にはプロパンガスといわれる。石油ガスは, 約-1℃まで冷却,又は 7気圧程度の加圧で液化するので,液化石油ガス(liquefied petroleum gas;LPG)として輸送・備蓄されている。
天然ガス(NG)(natural gas)
広義では,地下から噴出するガスを指すが,一般的には狭義の可燃性天然ガスを指す。
可燃性天然ガスは,メタン(CH4)を主成分とするため,常温で気体のため,輸送・貯蔵のために,-162℃以下にまで冷却した液化天然ガス(liquefied natural gas;LNG)として流通している。
ページのトップへ
一般環境・新設時塗装仕様
腐食性の低い一般的な環境に新設されるタンク類の塗装仕様で,道路における新設時塗装系 A-5 ,鉄道における新設時塗装系 BSU と同等の仕様である。
原板(製鋼工場)
素地調整ブラスト処理
除錆度:ISO Sa2 1/2
プライマー塗装
ブラスト処理後 4時間以内
長ばく形エッチングプライマー:使用量 130g/m2(膜厚 15μm)
建設現場
素地調整動力工具・手工具処理
除錆度:ISO St 3
下塗り塗装
① 素地調整後その日のうち(全面塗装)
鉛・クロムフリーさび止めペイント:使用量 140g/m2(膜厚 35μm)
② ①塗装後 1日以上,3か月以内(全面塗装)
鉛・クロムフリーさび止めペイント:使用量 140g/m2(膜厚 35μm)
中塗り塗装
下塗り塗装後 1日以上,6か月以内(全面塗装)
長油性フタル酸樹脂塗料中塗:使用量 120g/m2(膜厚 30μm)
【上塗り】
中塗り塗装後 1日以上,7日以内(全面塗装)
長油性フタル酸樹脂塗料上塗:使用量 110g/m2(膜厚 25μm)
ページのトップへ
一般環境・塗替え時塗装仕様
腐食性の低い一般的な環境に架設されているタンク類の塗替え塗装仕様で,道路における塗替え塗装系 Ra-Ⅲ と同等の仕様である。
架設現場
素地調整動力工具・手工具処理
除錆度:発錆部ISO St 3,一般部 ISO St 2
下塗り塗装
① 素地調整後その日のうち(全面塗装)
鉛・クロムフリーさび止めペイント:使用量 140g/m2(膜厚 35μm)
② ①塗装後 1日以上,6か月以内(全面塗装)
鉛・クロムフリーさび止めペイント:使用量 140g/m2(膜厚 35μm)
中塗り塗装
下塗り塗装後 1日以上,6か月以内(全面塗装)
長油性フタル酸樹脂塗料中塗:使用量 120g/m2(膜厚 30μm)
上塗り塗装
中塗り塗装後 1日以上,7日以内(全面塗装)
長油性フタル酸樹脂塗料上塗:使用量 110g/m2(膜厚 25μm)
ページのトップへ
腐食環境・新設時塗装仕様
海洋上,海岸地区などの腐食性の高い環境に新設されるタンク類の塗装仕様で,道路における新設時塗装系 C-5 (重防食塗装),鉄道における新設時塗装系 J (長期耐久型塗装)に類似した仕様である。
原板(製鋼工場)
素地調整ブラスト処理
除錆度:ISO Sa2 1/2
プライマー塗装
ブラスト処理後 4時間以内
無機ジンクリッチプライマー:使用量 200g/m2(膜厚 20μm)
建設現場
素地調整溶接部,発錆部のみブラスト処理
除錆度:ISO Sa2 1/2
その他の一般部は,動力工具・手工具処理
除錆度:ISO St 3
下塗り塗装
① 素地調整後その日のうち(全面塗装)
エポキシジンクリッチプライマー:使用量 150g/m2(膜厚 20μm)
② ①塗装後 1日以上,6か月以内(全面塗装)
エポキシ樹脂塗料下塗:使用量 200g/m2(膜厚 50μm)
③ ②塗装後 1日以上,7日以内(全面塗装)
エポキシ樹脂塗料下塗:使用量 200g/m2(膜厚 50μm)
中塗り塗装
下塗り塗装後 1日以上,7日以内(全面塗装)
エポキシ樹脂塗料中塗:使用量 140g/m2(膜厚 30μm)
上塗り塗装
中塗り塗装後 1日以上,7日以内(全面塗装)
ポリウレタン樹脂塗料上塗:使用量 120g/m2(膜厚 25μm)
ページのトップへ
腐食環境・塗替え時塗装仕様
海洋上,海岸地区などの腐食性の高い環境に架設されているタンク類の塗替え塗装仕様で,道路における塗替え塗装系 Rc-Ⅲ(重防食塗装),鉄道における塗替え塗装系 T (一般環境用)に類似した仕様である。
架設現場
素地調整動力工具・手工具処理
除錆度:発錆部ISO St 3,一般部 ISO St 2
下塗り塗装
① 素地調整後その日のうち(全面塗装)
変性エポキシ樹脂塗料:使用量 200g/m2(膜厚 50μm)
② ①塗装後 1日以上,7日以内(全面塗装)
変性エポキシ樹脂塗料:使用量 200g/m2(膜厚 50μm)
中塗り塗装
下塗り塗装後 1日以上,7日以内(全面塗装)
エポキシ樹脂塗料中塗:使用量 140g/m2(膜厚30μm)
上塗り塗装
中塗り塗装後 1日以上,7日以内(全面塗装)
ポリウレタン樹脂塗料上塗:使用量 120g/m2(膜厚25μm)
このページの“トップ”へ