防食概論塗装・塗料

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 ここでは,鋼構造物新設時の塗装作業直後の塗膜検査で観察された 【塗膜変状と措置】, 【重大な変状と措置】, 【甚だしいと防食性能に影響する変状と措置】, 【甚だしいと外観に影響する変状と措置】 を紹介する。

 塗装概論(新設塗装管理)

 塗膜変状と措置(新設時補修塗装など)

 各層の塗装作業終了時に,外観調査を行い塗膜の変状(harmful alteration, deformation)が観察された場合は,補修塗装,再塗装など変状に応じた適切な措置(action)を行わなければならない。
  ここでは,JIS K 5500「塗料用語」などを参考に,塗装中や塗膜乾燥過程で生じる主な塗膜変状を,防食性能に影響する程度別に分類し,その原因と措置の例を紹介する。

 

 重大な変状と措置

  • ピンホール(Pin hole)
     被膜を貫いて,素地や下地まで達している微細孔。一般的には微小の針穴状のものをいう。比較的大きな孔をピッティング,噴火口状のものをクレタリングともいう。
     原因:無機ジンクリッチペイントのミストコート不足,塗り重ねた塗膜に存在するピンホール等の空隙,被塗面や塗料中の汚れ(ごみ,油,水)が原因となる。
     措置:その部分を研磨して塗り直す必要がある。
  • はじき(Cissing)
     塗面の表面が不均一で,その分布とその程度が一様でない現象。一般的には,塗料がはじいてできたフィッシュアイ,へこみやくぼみを含んでいうことも多い。この個所の塗膜厚みは非常に薄くなる。
     フィッシュアイ(塗膜の)(fish eyes)とは,塗膜にできる中心に小粒子の異物があるクレーター(へこみ)をいう。
     原因:被塗面の表面張力の不均衡が原因で,具体的には被塗面や塗装器具が油,水やごみで汚染されているときに起きやすい。特にシリコンオイルの影響が大きいので,付近でシリコンオイルを使う作業を行っている場合は注意が必要である。  
     措置:発生個所の塗膜を削り取って塗り直す必要がある。
  • (Bubbling)
     塗った膜の中の一時的,又は永続的な泡。
     原因:塗料を塗ったときにできた空気,若しくは溶剤蒸気,又はその両者の泡が消えないで残ったものが多い。塗料攪拌後の熟成不足(脱泡不足),非常に高い被塗面の温度(50℃以上),高すぎる塗料粘度,塗り重ねる塗膜の空隙などが原因となる。
     措置:発生個所の塗膜を削り取って塗り直す必要がある。
  • 割れ(cracking)
     一般的には,次項の「経年変化」で紹介する塗膜の老化で生じる現象が多い。塗装中の乾燥過程で深い割れを生じることがある。これをマドクラックや泥状割れという。
     原因:主に顔料成分の非常に多い塗料を多孔質の素地に厚く塗装したときに起こる。
     措置:発生個所の塗膜を削り取って塗り直す必要がある。
  • リフティング(Lifting)
     次の塗料を塗ったことによって前の塗料の塗膜の軟化,膨潤により素地から浮き上がる現象。
     原因:塗り重ねた塗料の溶剤が不適切(溶解性が高い),塗り重ねる塗膜の乾燥不良(塗装間隔が短い)などによる。
     措置:発生個所の塗膜を削り取って塗り直す必要がある。

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 甚だしいと防食性能に影響する変状と措置

  • しわ(wrinkling)
     乾燥中に塗膜に発生するしわ。通常は上乾きが著しいときに,表面の面積が大きくなってできる。しわには,平行線状,不規則線状,ちりめんじわ状などがある。“ちぢみ”とはいわない。
     原因:塗り重ねる塗膜の乾燥不良,厚塗りし過ぎ,乾燥促進のため加熱した時や直射日光に当てたときに出やすい。
     措置:程度がはなはだしいときは,その部分を研磨して塗り直す。
  • 刷毛(はけ)目(brush mark)
     流展性(レベリング性)の悪い塗料を刷毛で塗ったとき,刷毛目が消えずに残る現象。
     原因:不適切な刷毛の使用,塗料の流動性不足などが原因と考えられる。
     措置:程度がはなはだしいときは,その部分を研磨して塗り直す。
  • たるみ,たれ(sagging)
     垂直,又は傾斜した面に塗料を塗ったとき,乾燥までの間に,塗料の層が下方に移動して起こる局部的な膜厚の異常。半円状,つらら状,波状,又はカーテンのひだ状などになる現象をいう。
     小さなたるみは流れ(runs),涙滴(tears),小滴(droplets)など,幅広のカーテンのひだ状の外観を呈する大きなたるみはカーテン(curtains)と呼ばれる。
     原因:厚塗りし過ぎ,塗料の流動特性の不適(溶剤希釈し過ぎなど),被塗面が特に高温や低温になったとき。
     流れは,吹付け塗りの際,各表面の膜厚の調整が難しいナット,ボルトなどの複雑な部位の周りで起こることが多い。
     措置:程度がはなはだしいときは,その部分を削り取り塗り直す。
  • ゆず肌(orange peel)
     オレンジの表面の肌に似ている感じの塗膜の外観。
     原因:吹付け塗りのときに,塗料の流展性の不足によって起こる塗料,又は塗装上の欠陥。
     措置:程度がはなはだしいときは,その部分を研磨して塗り直す。

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 甚だしいと外観に影響する変状と措置

  • 糸引き(cobwebbing)
     吹付け塗りのとき,塗料が糸状になってスプレーガンから出る現象。
     原因:希釈剤の不適切,スプレーガンのチップ選択が不適切など。
     措置:程度がはなはだしいときは,その部分を研磨して塗り直す。
  • 色むら(mottle)
     塗膜の色が部分的に不均等な状態。
     原因:塗料の欠陥,塗装の欠陥,塗膜の成分の分解,変質などで起こる。
     措置:防食性能への影響がないので放置してもよい。上塗り塗膜の程度がはなはだしく,美観上で問題となるときは,その部分を研磨して塗り直す。又は,面粗しをして上塗り塗料を増し塗りする。
  • 白化,かぶり(blushing)
     塗料の乾燥過程で起こる塗膜の白化現象(ミルク状の乳白色を呈する現象)。
     原因:溶剤の蒸発で空気が冷やされ,その結果,凝縮した水分が塗料の表層に浸入し,又は溶剤の蒸発中に混合溶剤間の溶解力の均衡が失われて,塗膜成分のどちらかが析出するために起こる。
     措置:防食性能への影響がないので放置してもよい。上塗り塗膜の程度がはなはだしく,美観上で問題となるときは,その部分を研磨して塗り直す。又は,面粗しをして上塗り塗料を増し塗りする。
  • 透け(lack of biding)
     下地が透けて見える現象。
     原因:一般に隠ぺい力が小さい塗料を用いたり,下塗りと上塗りとの色差が大きいとき,規定の膜厚が確保出来ていないときに起こりやすい。
     措置:下塗り,中塗りの場合は,膜厚不足でない場合は放置してもよい。上塗りの場合で美観上問題となるときは,透けがなくなるまで増し塗りする。

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