防食概論塗装・塗料

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 ここでは,塗膜への中性の水の作用に関し, 【耐水性とは】, 【水浸せき法】, 【 JIS塗料規格での扱い例】 に項目を分けて紹介する。

 塗膜の評価(化学的性質;耐水性)

 耐水性とは

 JIS K5500「塗料用語」

 耐水性(water resistance, waterproof)
 塗膜が,水の化学的作用又は物理的作用に対して変化しにくい性質。試験片を水に浸して,しわ,膨れ,割れ,はがれ,つやの減少,曇り,変色などの有無や程度を調べる耐水試験が JIS K5600-6-2「耐液体性(水浸せき法)」に規定されている。
 
 塗膜は,展色材(vehicle)やビヒクルと呼ばれる乾燥後に高分子(樹脂)となる塗膜形成要素(film forming material),少量添加で塗装作業性,塗膜乾燥性,塗膜の機械特性などの一つ若しくはそれ以上を改善又は変性する塗膜副要素(添加剤;additive),及び着色などの光学的性質,さび止めなどの保護的性質,又は装飾的な性能を付与する顔料(pigment)などの多種多様の化合物で構成されている。
 従って,塗膜の構成成分の中に水と相互作用する成分,水の関連する化学反応が進む成分を含む場合は,水との接触により塗膜特性が大きく変化する可能性がある。
 また,多くの塗膜は,乾燥過程で緻密な網目構造を形成する有機高分子材料である。網目構造網目構造の多くは,水和したイオンなどの大きな分子が透過できないほど緻密ではあるが,水分子や酸素分子などの小さな分子を透過できるため,半透膜(semipermeable membrane)としての特性を有する。
 このため,塗膜に水が接触すると,塗膜表面と素地や下地塗膜との界面との間に浸透圧(osmotic pressure)が発生し,水分子が界面の方向に移動でき,界面の付着力が低い場合に塗膜膨れ(水膨れ)に至る可能性が高い。特に塗膜層の界面が塩類で汚染され,塗膜表面に雨水など塩濃度の低い水が接触した場合には,大きな浸透圧が発生する。
 
 【参考】
 展色材(vehicle)
 塗膜形成(構成)要素の一つで,塗膜の主体となる樹脂で,バインダー(binder)ともいう。また,液相の構成成分についてはビヒクル(vehicle, medium)ともいう。由来により油類,天然油脂,合成樹脂,繊維素誘導体,架橋剤・硬化剤などに分類される。
 ビヒクル(vehicle, medium)
 塗料の液相の構成成分の総称。備考:1.この定義は粉体塗料には適用しない。備考:2.ISO(国際標準化機構)の用語規格では,“vehicle”と“medium”とは同義としている。【JIS K5500「塗料用語」】
 添加剤(additive)
 塗料に少量添加して,その性質の一つ若しくはそれ以上を改善又は変性する物質。【JIS K5500「塗料用語」】
 可塑剤,沈殿防止剤,その他改質剤などがある。実用される材料には,アルキルアミン,ジブチルフタレート,ステアリン酸アルミニウム,ベントナイト,メチルセルロース,シリコーン,界面活性剤,ナフテン酸金属石鹸などがある。
 顔料(pigment)
 一般に水や有機溶剤に溶けない微粉末状で,光学的,保護的又は装飾的な性能によって用いられる物質。無彩又は有彩の,無機又は有機の化合物で,黄色,補強,増量などの目的で塗料,印刷インキ,プラスチックなどに用いる。屈折率の大きいものは隠ぺい力が大きい。
 備考:特殊な場合には,例えば,防せい顔料では,ある程度の水溶性が必要とされることがある。【JIS K5500「塗料用語」】
 塗料に用いる顔料は,期待する性能で,着色顔料,さび止め顔料,体質顔料,特殊機能顔料などに分けられる。なお,着色目的で,水や溶剤に溶解する染料とは区別される。
 半透膜(semipermeable membrane)
 粒子(分子やイオン)の大きさで,物質を分別できる膜。適切な半透膜を用いると,溶液のモル濃度と浸透圧が比例するので,高分子化合物などの分子量を測定できる。
 浸透圧(osmotic pressure)
 溶質の濃度が高い溶液と溶媒(又は濃度が低い溶液)が,溶媒分子を通すが溶質分子が透過できない膜(半透膜)で隔てられている場合,溶媒分子が溶質濃度の高い溶液へと自然に移動し,濃度差を解消(エネルギー差の解消)しようとする。この時に発生する圧力を浸透圧という。

 

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 水浸せき法

 JIS K5600-6-2「耐液体性(水浸せき法)」(抜粋)

 1 適用範囲
 この規格は,単層塗膜又は多層塗膜系で,部分的又は全体を水中浸せきして,塗膜の耐性を測定する方法について規定する。
 この方法は,塗膜への水の影響の判定,及び必要な場合,基材の損傷の評価にも適用できる。
 3 原理
 塗装した試験片を水中に浸せきし,事前に受渡当事者間で同意した基準によって,浸せきの影響を評価する。その基準は通常,主観的な性質である。
 4 装置
 なお,装置内の水に接する部分は不活性な素材で作製する。
  4.1 タンク : タンクはカバー,ヒータ及びサーモスタット調節を備えた適切な大きさのもの。使いやすいタンクの大きさは,700mm×400mm×400mm である。
  4.2 水の循環及び泡発生システム : 乾燥して油混入がなく,圧力を正常に保てる空気源につないで,かくはんし,泡を発生させるシステム。ポンプを使う場合,タンクの中身全体をかくはんできるものを用い る。
 7 手順
  7.2 測定
 試験片の 3/4 を浸せきするのに十分な水をタンクに注ぐ。規定があれば,タンク内の水の循環及び泡発生を開始する。
 ほかに取決めがない場合,水温は 40±1℃に調節し,試験期間中,維持する。
 なお,水は,JIS K 0557「用水・排水の試験に用いる水 」に規定する種別 A2(純水)に適合する水を使用する。
 ただし,塗膜の最終用途によっては,例えば天然の海水及び人工海水のような他のグレードの水を使ってもよい。
 3日以内の一定間隔で試験片の位置を変えながら,規定された期間,タンク内に試験片を置く。
 8 評価
  8.1 中間検査
 試験期間中に中間検査が規定されている場合,適切な時間にタンクから試験片を取り出し,吸収力のある紙で拭き取って試験片を乾燥する。 1 分以内の乾燥で,JIS K 5600-8-2 「膨れの等級」に従って膨れ及びその他の劣化の兆候を検査し,直ちにタンク内に戻す。
  8.2 最終検査
 最終検査は,次による。
   a)  規定の試験期間終了後,各試験片をタンクから取り出し,吸水紙で水分を除き,直ちに JIS K 5600-8-2「膨れの等級」に従って,全表面の膨れ,又はその他の損傷の状態を検査する。注記 この段階で,付着力の変化を評価する場合もある。
   b)  室温で 24時間放置し,付着力の低下,さび(錆)汚れ,変色,ぜい(脆)弱化,及び規定がある場合には,その他の特性変化について再度試験面を検査する。

 

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 JIS塗料規格での扱い例

 耐液体性の試験規格は,塗膜膨れの研究,常時液体に接触する用途の塗料開発などで利用されることが多い。防食塗装に用いられる塗料で,耐水性を品質項目とするのは, JIS K 5553 「厚膜形ジンクリッチペイント」の 2種(厚膜形有機ジンクリッチペイント)のみである。
 耐水性の試験規格として,上述のJIS K5600-6-2「耐液体性(水浸せき法)」が規格されているが,顔料として多量の亜鉛末を含むエポキシ樹脂塗料である厚膜形ジンクリッチペイントの品質規格では,水温の低いJIS K 5600-6-1 「耐液体性(一般的方法)」 の 7 方法 1(浸せき法)を採用している。
 
 試験板
 大きさ,150mm×70mm×3.2mmのブラストで処理した鋼板(SS400)を試料 1 個につき 3 枚用意する。
 試験片
 試料を試験板の両面にスプレー塗り(塗膜厚さ 75±10μm)で 1 回塗り,直ちに周辺をはけで 1 回塗り増しする。これを,7日間置いて試験片とする。
 そのうち 1 枚を評価用の塗膜見本に用いる原状試験片とする。
 試験方法
 耐水性の試験は,JIS K 5600-6-1 「耐液体性(一般的方法)」 7 方法 1 (浸せき法),手順 A (単一の液相を使用)の部分的に浸漬する方法を用いる。
 試験片 2 枚を 23±1℃の脱イオン水に 240 時間浸す
 評価,及び判定
 試験片を液から取り出した直後 2 時間置いた後とに,目視によって観察し,試験片 2 枚の液面から大気に出た幅約 10mm の部分を含み,塗膜に,しわ,膨れ,割れ,及びはがれを認めず,更に 2 時間置いた後の塗膜を原状試験片と比べて,つやの変化,くもり,及び変色の程度が大きくないときは,“水に浸したとき異常がない。”とする。

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