防食概論塗装・塗料

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 ここでは,既設構造物の塗替え計画策定のために実施される 【旧塗膜調査】,  【塗膜変状の評価と課題】 を紹介する。

 塗装概論(塗替え塗装管理)

 素地調整程度を決めるための旧塗膜調査

 塗替え塗装は,塗膜調査結果に基づいて計画される。塗替え塗装では,光沢低下,変色,チョーキングなど表層のみの変質で防食特性が維持される旧塗膜(活膜),割れ,脆化,密着性低下,はがれなどの防食特性に影響する変質が認められる旧塗膜(劣化塗膜),及び塗膜劣化が進み鋼腐食生成物(さび)が目視で確認できるほどの腐食に至った個所などの混在した面が対象となる。
 
 多くの鋼橋では,景観より防食(corrosion prevention)を優先する。このため,塗膜調査においては,塗膜が破壊され腐食に至っている“さび(rust)”の程度,塗膜の防食機能が失われ,腐食に至る可能性が高くなっている“塗膜割れ(crack)”,“塗膜はがれ(peeling, flaking)”,“塗膜ふくれ(blister)”の程度を中心に評価される。
 一部の鋼橋では,景観を重視するものもある。この鋼橋では,上塗り塗膜の特性変化として“白亜化(chalking)”の程度,“光沢(gloss)”の変化,“変色(discoloring)”,及び“汚れ”が評価対象となる。
 次には,一般的な塗膜調査の概要を紹介する。JISに規格される具体的な塗膜の劣化程度を評価する方法は次項で紹介する。

 塗膜調査のタイミング

 鋼橋の定期点検,例えば,鉄道橋では 2年毎の全般検査,道路橋では 5年毎の定期点検の時に塗膜状態の調査を実施するのが一般的である。定期点検では,橋梁本体に近接できない場合が多いので,橋梁周辺や橋台上からの肉眼,双眼鏡を用いた目視評価(道路では写真判定を行う事業者もある)が基本である。
 定期点検で塗替え塗装が必要と判定され,工事が実施された場合に,塗替え塗装工事用の塗装足場を用いた詳細な調査が実施できる。稀であるが,この段階で検査結果の見直し,塗替え塗装計画の見直し(防食設計変更)を行う事例もある。

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 塗膜変状の評価と課題

 評価対象になる変状は,防食性能に直接関与する“さび”,“塗膜割れ”,“塗膜はがれ”に分けて観察するのが一般的である。
 それぞれの変状は,構造部位別に観察範囲を限定して,劣化程度の違いが分かる標準写真(見本写真)と対比しながら,その部位に評点(rating number;等級やレイティングナンバーともいう)を付ける。
 観察可能な部位をそれぞれ評価し,最後に,各部位の重要度を考慮しつつ評点を合計し,構造物全体としての劣化度を評価する。
 評点の付け方,その元となる標準写真は,構造物を維持管理する事業者が,それぞれで規定しているのが現状である。それぞれの機関で多少の違いはあるが,変状の大きさ密度,すなわち発生面積率で評点が区分されている。次項で解説する JIS規格における方法も同様に面積率で評点が区分されている。
 このため,現状の評価法は,全塗装面積に対する欠陥部の面積率での評価となるので,構造物の健全度に大きく影響する局部的な腐食や塗膜欠陥が問題となるときには,的確に評価できないという問題がある。
 そこで,鉄道などの一部事業者では,局部的な欠陥の評価と部分塗替え塗装を規定している。
 
 【参考】
 さび(錆,銹)(rust)
 普通には,鉄表面に生成する水酸化物または酸化物を主体とする化合物。広義には,金属表面にできる腐食生成物をいう。【JIS Z0103「防せい防食用語」】
 通常は,鉄又は鋼の表面にできる水酸化物又は酸化物を主体とする化合物。広義では,金属が化学的又は電気化学的に変化して表面にできる酸化化合物。【JIS K5500「塗料用語」】
 腐食生成物(corrosion product)とは,腐食によって生成した物質。通常は固体物質を指し,金属表面に付着するか又は環境中に分散して存在する。【JIS Z0103「防せい防食用語」】
 腐食(corrosion)とは,金属がそれをとり囲む環境物質によって,化学的又は電気化学的に侵食されるか若しくは材質的に劣化する現象。【JIS Z0103「防せい防食用語」】
 すなわち,さびとは,腐食で生成した水不溶性又は難溶性の腐食生成物(酸化物,水酸化物,炭酸塩,硫化物,塩化物など)のうち,金属表面に付着したものをいう。一般的にさびは,その見た目から赤錆(酸化鉄(Ⅲ),鉄含水水酸化物,酸化銅(Ⅰ)など),黒錆(酸化鉄(Ⅱ),四三酸化鉄,酸化銅(Ⅱ),硫酸銀など),緑青(塩基性炭酸銅,塩基性硫酸銅,硫酸銅など),白錆(塩化銀,塩基性炭酸亜鉛,酸化アルミニウム,酸化スズなど)などともいわれる。
 割れ(塗膜の)(crack, craking)
 老化の結果,塗膜に現れる部分的な裂け目。ISOでは,割れの方向性の有無,発生密度,割れの幅と深さによって評価する。また,割れの形態によっても区分する。
 備考:ヘアクラック,わに皮割れ及びからす足状割れは,割れの形状の自明な例。塗膜に現れる部分的な割れの状態によって,次のように分ける。程度の低いもの,浅いものから,ヘアクラック,チェッキング,クレージング,わに皮割れ,深割れ,からす足状割れ。【JIS K5500「塗料用語」】
 はがれ(塗膜の)(peeling, flaking, scaling)
 付着性が失われてある広さの膜が自然に素地から分離する現象。一般に,割れ,膨れが生じた後に,付着性が失われた結果,塗装系の 1層,又はそれ以上の塗膜が下層塗膜から,又は塗装系全体が素地からはがれる。はがれは,その形状,程度及び深さによって評価する。
 備考:“peeling”はリボン,又はシート状の大きなはがれ,”flaking”はりん片状の小さなはがれ,”scaling”はスケール状の大きなはがれをいうこともある。なお,”scaling”ははがれの他にさび落としの意味にも用いられる。【JIS K5500「塗料用語」】

 

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