防食概論塗装・塗料

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 ここでは,鉄道の鋼橋塗装に適用される新設時防食塗装系 【摩擦接合部・接触面の塗装】, 【厚膜型無機ジンクリッチペイント】 を紹介する。

 鉄道橋の防食塗装(新設塗装)

 摩擦接合部・接触面の塗装

 「塗装指針」 2013;第Ⅰ編 塗装一般 第 D章 解説(塗装系の特徴), 塗装仕様(添接部・接触面の塗装系)

 高力ボルトを用いた摩擦接合継手では,すべり試験で,すべり係数値 0.4以上が求められる。このため,ボルト接合が適用された当初は,母材と添接板が接触する面は,すべり係数値が確保できる無塗装で対処されてきた。
 一方,腐食性の高い環境の構造物などを中心に,無塗装で対処された過去の構造物の添接部の腐食による構造物変状,補修・補強工事が多く経験された。このため,接触面のすべり係数値を確保できる防食対策が検討され,1980年代以後の構造物では,添接板と母材の接触面に無機ジンクリッチペイントが用いられるようになった。
 接合面の状態・材質とすべり係数の例
 すべり係数値 0.55 無塗装で赤さび状態(粗面処理後)
 すべり係数値 0.50 塗装(無機ジンクリッチペイント膜厚(片面) 65μm以上
 すべり係数値 0.45 無塗装でブラスト(ショット・グリット)による粗面処理 表面粗さ Ra 10μm以上
 すべり係数値 0.40 塗装(無機ジンクリッチペイント膜厚(片面) 45~65μm
 すべり係数値 0.40 :無塗装でブラスト(ショット・グリット)による粗面処理 表面粗さ Ra 5~10μm
 有機ジンクリッチペイントの塗装,溶融亜鉛めっき,金属溶射などは,品質や状態によりすべり係数値が大きく異なるので,すべり試験により個別の評価が必要。

 「塗装指針」 2013;第Ⅱ編 新設構造物 第 A2章 塗装仕様(塗装系), 添接部(接触面)の塗装系

 一般外面に塗装系 BSU 以外を適用する鉄桁等鋼構造物の添接部について,添接板表面,及び母材と添接板が接触する面は,塗装系の種別にかかわらず,すべて厚膜型無機ジンクリッチペイントを塗装することになる。
 なお,一般外面に塗装系 BSU を適用する短期使用の構造物では,母材と添接板が接触する面は無塗装となる。

 添接部(接触面)の塗装

 2 次素地調整
 ブラスト処理
 除錆度: ISO Sa2 1/2 以上,表面粗さ: 10点平均粗さ 70μmRzJIS 以下
 添接部(接触面)の塗装
 接触面片面あたりの塗膜厚許容値は,60~ 90μmとする。
 厚膜型無機ジンクリッチペイント: 吹付け塗り,使用量 700g/m2(膜厚 75μm相当)
 【備考】
 架設時,添接板摩擦接合面にさびが発生した部分は,手・動力工具を用いて除去すること。すべり係数値 0.4以上を確保するため,塗膜厚みの許容範囲(片面 60~ 90μm)を確保する施工管理を行うこと。
 乾燥塗膜厚の測定は,JIS K 5600-1-7 (膜厚)の「測定方法 No.10 (ブラスト処理鋼板の乾燥膜厚の測定)」の磁気誘導原理,又は電磁誘導原理を用いた非破壊で測定する。
 このほかに,塗付け時の塗付け量の確認などを目的とした乾燥前の塗膜厚みをウェットフィルム膜厚計などで測定するのが望ましい。
 
 【参考】
 添接(splice)
 二つ以上の部材を接合して,一つの構造に組み立てる場合の接合。ボルト接合では,一般に,添接板を当てて接合する。
 摩擦接合(friction joint, friction welding)
 高力ボルトによる接合方法で,接合部の鋼材片を強い軸力で締め付け,鋼材間の摩擦面に生じる摩擦抵抗で高力ボルトの軸と直角方向の応力を伝達する方式。
 高力ボルト(high-tensile bolt, high strength bolt)
 高張力鋼を用いた引張力の大きいボルト。
 すべり係数(slip factor)
 高力ボルト摩擦接合において,「接合材の接触面が滑り出す荷重」÷「ボルトに導入した張力」で与えられる値で,「見かけ上の摩擦係数」ともいう。鋼構造物では,すべり係数 0.4以上となるように設計されるのが一般的である。
 支圧接合(bearing joint)
 高力ボルト(打ち込み式高力ボルトなど)による接合方法で,ボルト幹とボルト穴壁との間の支圧とボルト幹のせん断抵抗により,ボルト軸直角方向の力を伝達する方法。過去のリベット接合と同様の機構。

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 厚膜型無機ジンクリッチペイント

 「塗装指針」 2013;附属書 A 塗料規格及び試験方法
 SPS 66053-9 厚膜型無機ジンクリッチペイント

 品質
 下表には,厚膜型無機ジンクリッチペイント塗料品質,比較のため JIS K5553 2010 「厚膜型ジンクリッチペイント」 1種(厚膜型無機)の品質を紹介する。
 JIS 等で規定される品質の「塗装作業性」,「塗膜の外観」については,これらの品質に適合しない塗料の販売が考え難いこと,また,他の品質を検査する際にこの品質は容易に把握できることから,鉄道では,全ての塗料規格でこれらの品質を規定していない。また,実環境で 2年程度の「耐候性」(屋外暴露耐候性)を規定していない。これは,塗料成分の規定により,塗膜の機械的,化学的,及び耐久性の室内試験を行うことで,耐候性が確保できると考えているためである。
厚膜型無機ジンクリッチペイント
  項  目    SPS 66053-9(無機)    JIS K5553( 1種無機) 
  亜鉛末(質量分率 %)    53以上    ― 
  アルキルシリケート
  (質量分率 %) 
  3以上    ― 
  溶剤(質量分率 %)    30以下    ― 
  混合塗料中の加熱残分(%)    70以上 
  加熱残分中の金属亜鉛(%)    75以上 
  塗膜中の鉛(質量分率 %)    0.06以下(* 1 )    ― 
  塗膜中のクロム(質量分率 %)    0.03以下    ― 
  容器の中での状態    粉は微小で一様な粉末であるものとする。液はかき混ぜたとき堅い塊がなくて一様になるものとする。 
  乾燥時間   5以下 
  塗膜の外観    ―    塗膜の外観が正常であるものとする。 
  ポットライフ    5時間で使用できるものとする。 
  厚塗り性    厚塗りに支障があってはならない。 
  耐塩水噴霧性    塩水噴霧に耐えるものとする。 
  屋外暴露耐候性    ―    2年間の試験でさび,割れ,はがれ及び膨れがあってはならない。 
*1 塗膜中の鉛:金属亜鉛には,天然鉱物の状態で不純物として鉛が含まれていることから,金属亜鉛に含まれている鉛分は差し引いた後の値。なお,今後,金属亜鉛中の鉛分の規制が実施された場合は,その規制に従う。

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