防食概論:塗装・塗料
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ここでは,ポリウレタン樹脂塗料を含む高い耐候性が期待できる上塗り塗料の JIS製品規格に関し, 【耐候性塗料とは】, 【JIS K5659:2008 鋼構造物用耐候性塗料】, 【JIS K5659:2018 鋼構造物用耐候性塗料】, 【JIS K5658:2010 建築用耐候性上塗り塗料】 を紹介する。
加えて,関連する項目として 【屋外暴露耐候性について】, 塗料評価に用いる 【品質項目一覧】, JIS K5659 「鋼構造物用耐候性塗料」に統合された 【旧 JIS上塗り塗料製品規格 】(旧 JIS K5657,旧 JIS K5659) を紹介する。
塗料各論(構造物用塗料)
耐候性塗料とは
塗装系(coating system)の上塗りに用いられる塗料の中で,耐候性(weathering resistance)に優れる塗料を総称して耐候性塗料(long durable paints)などといわれる。
JIS製品規格の耐候性塗料は,2008年に,それまでの鋼構造物用上塗り塗料の製品規格であった JIS K 5657「鋼構造物用ポリウレタン樹脂塗料」と JIS K 5659「鋼構造物用ふっ素樹脂塗料」を統廃合し,性能規格の JIS K 5659「鋼構造物用耐候性塗料:Long durable paints for steel structures 」に改定され,2018年には水性塗料を採用できるように改訂されている。
建築用塗料についても,2010年の建築物用上塗り塗料規格(コンクリート,モルタル用)の統廃合で JIS K 5658「建築用耐候性上塗り塗料:Long durable top coats for constructions 」が制定された。
塗装系(coating system, paint system)
塗装される又は既に塗装されている塗料の塗膜層の総称。塗装の目的・効果を満足するように作った,地肌塗りから上塗りまでの塗り重ね塗膜の組合せを総称する用語。【JIS K5500「塗料用語」】
耐候性(weathering resistance)
屋外で,日光,風雨,露霜,寒暖,乾湿などの自然の作用に抵抗して変化しにくい塗膜の性質。【JIS K5500「塗料用語」】
鉛・クロム化合物について
鉛・クロム化合物の人の健康に与える影響が問題視され,さび止めペイント(下塗り塗料)に関する2008年以後の JIS製品規格では,“鉛系及びクロム系成分を含まない”ことを確認できる成分分析の品質規定が導入されている。
しかしながら,現時点で最も最新の2018年に改定されたJIS K 5659「鋼構造物用耐候性塗料」においても,鉛・クロム化合物に関連する品質規定がない。
上塗り塗料では,要求される色彩を実現するため,種々の着色顔料を用いている。安価で耐候性の高い黄色(黄鉛など)や緑色(クロムグリーンなど)などの無機着色顔料には,鉛化合物やクロム化合物を用いたものも存在する。上塗り塗料は,塗装系の中で,さび止めペイントに比較して使用量が少ないとはいえ,2019年5月現在の「耐候性塗料」に関する JIS製品規格は,鉛化合物やクロム化合物を含む顔料の使用を許容する規格になっている。
ちなみに,鉄道分野で採用する鋼鉄道橋の塗装技術に関する「鋼構造物塗装設計施工指針」では, 2005年の改訂ですべての塗料の品質に,鉛・クロム化合物が使用されていないことを確認する項目を採用している。
以下には,JIS製品規格で採用する鋼構造物用耐候性塗料,及び建築用耐候性上塗り塗料に加えて,JIS統合前の旧 JIS K 5657と JIS K5659の概要も紹介する。
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JIS K5659:2008 鋼構造物用耐候性塗料
序文
この規格は,1992年に制定され,その後2002年の改正を経て今日に至っている。なお,対応国際規格は現時点で制定されていない。
適用範囲
この規格は,主に鋼構造物の美装仕上げ塗りに用い,長期の耐候性をもつ塗料について規定する。
なお,2008年以前の旧規格に含まれた“長期の防食”の文言が削除された。理由として,上塗り塗膜の防食への寄与が小さいことを踏まえ,誤解を招く表現から正確性な表現に変えたと考えられる。
種類
上塗り塗料,及び中塗り塗料に区分し,上塗り塗料は,更に等級分けしている。
上塗り塗料: 1級,2級,3級
中塗り塗料: 等級なし
備考
JIS規格の「表1-種類及び等級」には,最下欄に次の記述がある。
“上塗り塗料の原料は,ふっ素系樹脂,シリコン(シリコーン)系樹脂,又はポリウレタン系樹脂とする。
塗料は,上塗り塗料と中塗り塗料とを組み合わせて用いる。上塗り塗料,及び中塗り塗料のいずれも,主剤と硬化剤を混合し硬化させて用いる。”
品質
項 目 | 上塗 1級 | 上塗 2級 | 上塗 3級 | 中塗 |
---|---|---|---|---|
容器の中での状態 | かき混ぜたとき,堅い塊がなくて一様になる。 | |||
表面乾燥性 | 表面乾燥する。(常温 8時間後,低温 5℃ 16時間後) | |||
塗膜の外観 | 正常である。 | |||
ポットライフ | 規定時間(5時間)後,使用できる。 | |||
隠ぺい率 | 白・淡彩は 90以上,鮮明な赤及び黄は 50以上,その他の色は 80以上 | |||
鏡面光沢度(60度) | 70以上 | ― | ||
上塗り適合性 | ― | 支障がない。 | ||
耐屈曲性 | 折曲げに耐える。(10mmマンドレル) | |||
耐おもり落下性 | 塗膜に割れ及びはがれが生じない。(デュポン式300g,500mm) | |||
層間付着性 Ⅰ | ― | 異常がない。 | ||
層間付着性 Ⅱ | 異常がない。 | |||
耐アルカリ性 | 異常がない。(水酸化カルシウム水:JIS K 5600-6-1) | |||
耐酸性 | 異常がない。(硫酸水:JIS K 5600-6-1) | |||
耐湿潤冷熱繰返し性 | 湿潤冷熱繰返しに耐える。(JIS K 5600-7-4) | |||
混合塗料中の加熱残分 % | 白・淡彩は 50以上, その他の色は 40以上 |
白・淡彩は 60以上, その他の色は 50以上 |
||
促進耐候性 | 照射時間 2000時間の 促進耐候性試験に耐える。 (光沢保持率 80%以上) |
照射時間 1000時間の 促進耐候性試験に耐える。 (光沢保持率 80%以上) |
照射時間 500時間の 促進耐候性試験に耐える。 (光沢保持率 70%以上) |
― |
屋外暴露耐候性 (24か月) |
光沢保持率が 60%以上で 白亜化の等級が 1又は 0 |
光沢保持率が 40%以上で 白亜化の等級が 2,1又は 0 |
光沢保持率が 30%以上で 白亜化の等級が 3,2,1又は 0 |
― |
種類の備考における塗料原料の指定について
備考における塗料種の指定は,性能規格化を意図した JIS規格の趣旨に反すると考えるられる。しかし,この規格の元となる旧 JIS規格がポリウレタン樹脂塗料とふっ素樹脂塗料の製品規格であったため,混乱を避けるための記述になった考えられる。
なお,旧 JIS K 5659「鋼構造物用ふっ素樹脂塗料」での“ふっ素樹脂”から“ふっ素系樹脂”と名称が変更されている。この規格の塗料は,ふっ素含有ポリオールを主剤とし,イソシアネートプレポリマーを硬化剤とする常温硬化形のポリオール硬化形ポリウレタン樹脂の範ちゅうに入る塗料であるが,旧 JIS K 5657「鋼構造物用ポリウレタン樹脂塗料」に規定する塗料との区別のためふっ素樹脂塗料と称したと考えられるが,身近にはフライパンのコーティングに用いられる高い耐熱性と耐薬品性を持つふっ素樹脂塗料と混同されやすいので,名称の工夫が必要と考える
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JIS K5659:2018 鋼構造物用耐候性塗料
序文
この規格は,1992年に制定され,その後2002年及び2008年の改正を経て今日に至っている。今回,新たに水性塗料に対応するために改正した。
なお,対応国際規格は現時点で制定されていない。
適用範囲
2008年版と同じ
種類
2008年版の溶剤形塗料(solvent-based paint)は A種に,新たに加わった水性塗料(water-based paint)を B種に分け,それぞれを上塗り塗料,及び中塗り塗料に区分し,上塗り塗料は,更に等級分けしている。
A種a):上塗り塗料c): 1級,2級,3級e)
A種:中塗り塗料d): 等級なし
B種b):上塗り塗料: 1級,2級,3級
B種:中塗り塗料: 等級なし
注
a) 溶剤形塗料で,有機溶剤を主要な揮発成分とし,主剤,硬化剤などを混合し反応硬化させて用いる(多液形)塗料。
b) 水性塗料で,水を主要な揮発成分とし,主剤,硬化剤などを混合し反応硬化させて用いる(多液形)塗料と,1液で反応硬化させて用いる(1液形)塗料とがある。
c) 上塗り塗料の原料は,ふっ素系樹脂,シリコン系樹脂又はポリウレタン系樹脂とする。
d) 中塗り塗料は,表 4(塗り重ね塗料の組合せ)の組合せで用いる。
e) 等級については,促進耐候性及び屋外暴露耐候性の品質によって等級分けし,表 2(品質)による。
品質
A種の品質は,2008年版からの変更はない。ここでは,新たに加わった B種の品質を紹介する。なお,品質項目として,水性塗料固有の項目として低温安定性(-5℃)が加わっている。なお,下表の赤字は,A種と異なる項目,及び品質を示す。
項 目 | 上塗 1級 | 上塗 2級 | 上塗 3級 | 中塗 |
---|---|---|---|---|
容器の中での状態 | かくはん(撹拌)したとき,堅い塊がなくて一様になる。 | |||
低温安定性(-5℃) | 変質しない | |||
表面乾燥性 | 表面乾燥する。(常温 8時間後,低温 5℃ 16時間後) | |||
塗膜の外観 | 正常である。 | |||
ポットライフ | 規定時間(3時間)後,使用できる。 | |||
隠ぺい率 | 白・淡彩は 90以上,鮮明な赤及び黄は 50以上,その他の色は 80以上 | |||
鏡面光沢度(60度) | 70以上 | ― | ||
上塗り適合性 | ― | 支障がない。 | ||
耐屈曲性 | 折曲げに耐える。(10mmマンドレル) | |||
耐おもり落下性 | 塗膜に割れ及びはがれが生じない。(デュポン式300g,500mm) | |||
層間付着性 Ⅰ | ― | 異常がない。 | ||
層間付着性 Ⅱ | 異常がない。 | |||
耐アルカリ性 | 異常がない。(水酸化カルシウム水:JIS K 5600-6-1) | |||
耐酸性 | 異常がない。(硫酸水:JIS K 5600-6-1) | |||
耐湿潤冷熱繰返し性 | 湿潤冷熱繰返しに耐える。(JIS K 5600-7-4) | |||
混合塗料中の加熱残分 % | 白・淡彩は 40以上,その他の色は 30以上 | 白・淡彩は 50以上, その他の色は 40以上 |
||
促進耐候性 | 照射時間 2000時間の 促進耐候性試験に耐える。 (光沢保持率 80%以上) |
照射時間 1000時間の 促進耐候性試験に耐える。 (光沢保持率 80%以上) |
照射時間 500時間の 促進耐候性試験に耐える。 (光沢保持率 70%以上) |
― |
屋外暴露耐候性 (24か月) |
光沢保持率が 60%以上で 白亜化の等級が 1又は 0 |
光沢保持率が 40%以上で 白亜化の等級が 2,1又は 0 |
光沢保持率が 30%以上で 白亜化の等級が 3,2,1又は 0 |
― |
7.21 屋外暴露耐候性
屋外暴露耐候性の試験は,附属書Bによる。
附属書B (規定) 屋外暴露耐候性
試験方法
屋外暴露耐候性の試験方法は,JIS K 5600-7-6 による。ただし,試験期間及び試験開始時期は,次によ る。
a) 試験期間は,24か月とする。
b) 試験開始時期は,毎年 4月又は 10月とする。この時期以外に試験を開始する必要が生じた場合には,4月,10月以外にも試験を開始することができる。
判定
判定は,試験開始後24か月たったときの評価によって,塗膜に,膨れ,剝がれ及び割れがなく,色の変化の程度は,見本品と比べて大きくなく,かつ,各等級によって白亜化の等級及び光沢保持率が,次の条件を満たしたとき“屋外暴露耐候性に耐える”とする。
a) 1級 光沢保持率は 60%以上で,白亜化の等級が 1又は 0である。
b) 2級 光沢保持率は 40%以上で,白亜化の等級が 2,1又は 0である。
c) 3級 光沢保持率は 30 %以上で,白亜化の等級が 3,2,1又は 0である。
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JIS K5658:2010 建築用耐候性上塗り塗料
適用範囲
この規格は,建築物のコンクリート,セメント・モルタル面,プレキャストコンクリートなどの美装仕上げ塗りに用いる建築用耐候性上塗り塗料(以下,塗料という。)について規定する。
この規格は,主要原料がふっ素樹脂,シリコン(シリコーン)樹脂又はポリウレタン樹脂を用いるもので,主剤と硬化剤とを混合し硬化させる塗料に適用する。(注:鋼構造物用 JISと指定材料の名称が異なる。土木業界と建築業界での用語が異なる?)
等級
塗料の等級は,耐候性の程度によって分類し,耐候性のよいものから 1級,2級及び 3級とする。
品質
ここでは,鋼構造物用耐候性塗料 A種の品質と異なる箇所を青字で紹介する。
項 目 | 1 級 | 2 級 | 3 級 |
---|---|---|---|
容器の中での状態 | 硬い塊がなくて一様な状態 | ||
表面乾燥性(23℃) | 8 時間以内で表面乾燥する。 | ||
表面乾燥性(5℃) | 16 時間以内で表面乾燥する。 | ||
塗膜の外観 | 正常である。 | ||
ポットライフ | 5 時間 | ||
隠ぺい率(%)「白及び淡彩」 | 90 以上 | ||
鏡面光沢度(60度) | 70以上 | ||
耐衝撃性 | 割れ及びはがれが生じない。 | ||
付着性 (クロスカット法) |
分類 1又は分類 0である。 | ||
重ね塗り適合性 | 支障がない。 | ||
耐アルカリ性 | 異常がない。 | ||
耐酸性 | 異常がない。 | ||
耐湿潤冷熱繰返し性 | 湿潤冷熱繰返しに耐える。 | ||
促進耐候性 | 規定照射時間後,塗膜に,割れ,はがれ及び膨れがなく,試料の色差が見本品の色差と比較して大きくなく,さらに,白亜化の等級が 1 又は 0である。 | ||
照射時間 2500時間後の光沢保持率が 80%以上である。 | 照射時間 1200時間後の光沢保持率が 80%以上である。 | 照射時間 600時間後の光沢保持率が 70%以上である。 | |
屋外暴露耐候性 (24か月) |
光沢保持率が 60%以上で,試料の色差が見本品の色差と比較して大きくなく, 白亜化の等級が 1又は 0である。 |
光沢保持率が 40%以上で,試料の色差が見本 品の色差と比較して大きくなく, 白亜化の等級が 2,1又は 0である。 |
光沢保持率が 30%以上で,試料の色差が見本品の色差と比較して大きくなく, 白亜化の等級が 3,2,1又は 0である。 |
7.17 屋外暴露耐候性
屋外暴露耐候性の試験は, 附属書 A による。
附属書 A (規定)屋外暴露耐候性
試験方法
試験方法は,JIS K 5600-7-6 による。ただし,試験の期間,試験の頻度,暴露の角度,試験の開始時期, 観察項目,観察時期及び観察時の手順は,次による。
a) 試験の期間は, 24 か月とし,試験の頻度は, 3 年に 1 回以上実施する。
b) 試験片の暴露の角度は,水平に対し 30 度とする。
c) 試験の開始時期は,毎年 4月又は 10月とする。この時期以外に試験を開始する必要が生じた場合には, 4 月,10 月以外にも試験を開始することができる。
A.4 判定
試験開始後 24 か月たったときの評価によって,塗膜に,割れ,はがれ及び膨れがなく,つやの変化の程 度が見本品と比べてつやの変化の程度を示す等級が大きくなく,さらに,見本品の色差値に比べ,試料の色差値が大きくなく,かつ白亜化の等級及び光沢保持率が各等級によって以下の条件を満たしたときとす る。
1 級は,光沢保持率が 60 %以上で,白亜化の等級が 1 又は 0 である。
2 級は,光沢保持率が 40 %以上で,白亜化の等級が 2,1 又は 0 である。
3 級は,光沢保持率が 30 %以上で,白亜化の等級が 3,2,1 又は 0 である。
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屋外暴露耐候性について
JIS K 5600-7-62002「塗料一般試験方法-第7部:塗膜の長期耐久性-第6節:屋外暴露耐候性」
4. 一般要求事項屋外で暴露された塗膜の耐久性は,その塗膜を暴露したときの方法・場所・季節が影響する。そのため,これらのパラメータと塗膜の用途は,暴露が実施された時期を考慮しなければならない。特に,次のパラメータは考慮しなければならない。
a) 暴露場の場所:例えば,工業地帯,海岸地帯,田園地帯など場所の選択では,そこが明らかに汚染の種類及び水準が異なり,試験をする塗膜の最終用途に適していなければ,避けなければならない。
5. 暴露架台
ほかに規定又は協定がなければ,試験片は赤道に向けて暴露台を使用する。・・・
試験片は,通常水平に対して 45°の角度に保つ。塗膜の使用目的,又は地域によっては他の角度でもよ い。例えば,自動車用塗料及び屋根用塗料は 5°,又はテクスチャー壁塗料は垂直暴露でもよい。腐食性 能を試験する場合は試験片を赤道に向けて 45°又は 5°若しくは垂直に暴露するのが適切である(EN 13523-19 参照)。赤道に面して暴露されていない試験片は赤道に面して暴露された試験片より乾燥が遅い ので,長い期間湿潤している。このことはより腐食しやすい傾向になる。 ・・・
附属書 1(規定) 耐候試験の実施及び管理
1 耐候試験の実施
1.1 塗料製造業者の実施
塗料製造業者は,毎年 4 月から 9 月まで及び毎年 10 月から翌年 3 月までの各 6 か月間に自己が製造した製品の全バッチについて,それぞれの種類及び主な色ごとに分けて試料として 保管し,それぞれの集団からその集団の品質を代表するものを選び出し,この規格によるほか,次の事項に従って耐候試験を開始する。同時に同じ試料について公的機関に耐候試験を委託する。
1.2 公的試験機関での実施
耐候試験を委託された公的試験機関では,1.1 と同じ時期に試験を開始して 耐候試験を行い,その試験記録を作成する。試験記録は試験委託者に送付する。
参考 公的試験機関 塗料の耐候試験を委託する公的試験機関としては,財団法人日本塗料検査協会, 耐候試験の場所としては.財団法人日本ウエザリングテストセンター暴露試験場などがある。
【参考】
大気暴露試験ハンドブック(財)日本ウエザリングテストセンタ―
ハンドブック中に紹介される常温反応硬化形ポリウレタン樹脂塗膜の暴露試験結果を抜粋して下図に紹介する。
左図は,塗色グレーの塗膜を異なる暴露試験場に同時に暴露した結果である。暴露試験場の環境因子が異なるため,試験結果に大きな違いが認められる。
右図は,塗色の異なる塗膜を千葉県銚子の暴露試験場に同時に暴露した結果である。暴露環境が同一であっても塗色,すなわち着色顔料などの添加剤が異なると試験結果に著しい違いが認められる。
なお,左図の銚子暴露試験結果と右図の塗色グレーの試験結果が異なる。ハンドブック中に原因を推定できる記載はないが,試験シリーズが異なることが原因と推測される。すなわち,試験開始時期の違い,採用した塗料の製造ロットの違い,又は塗料供給メーカーの違いなどの要因が推測される。
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品質項目一覧
JIS規格の品質項目に対応する試験方法は次の通りである。
項 目 | 概 要 | 試験方法 |
---|---|---|
容器の中での状態 condition in container |
塗料を容器に入れて貯蔵した後の状態。 JIS K5500 塗料用語;顔料を含む塗料では,かき混ぜるか練り混ぜるかしてみて,一様な状態になればよいとする。 |
JIS K 5600-1-1 4.1(容器の中の状態) |
低温安定性 low temperature stability |
JIS K5500 塗料用語;冷却(−5±2℃)しても常温に戻せば,元の性能状態に戻る性質。 | JIS K 5600-2-7 4.(低温安定性) |
乾燥時間(表面乾燥性) drying time |
表面乾燥性(surface-drying test)を評価するバロチニ法を用いた塗料が 乾燥(液体から固体に変化する過程の総称)するのに必要な時間。 |
JIS K 5600-3-2 |
塗膜の外観 | 塗装作業性の試験に合格した試験片と見本品とを比較し,差異の有無を観察する。 試験までの時間が製品規格に規定されていないときは, 乾燥時間を半硬化乾燥で調べる塗料で 48時間,硬化乾燥を調べる塗料で 24時間, 加熱乾燥の塗料では加熱し終わってから 30分間放置する。 |
JIS K 5600-1-1 4.4(塗膜の外観) |
ポットライフ pot life |
JIS K5500 塗料用語;幾つかの成分に分けて供給される塗料を混合した後,使用できる最長の時間。 | JIS K 5600-2-6 |
隠ぺい率 contrast ratio |
塗料が下地の色の差を覆い隠す度合。 JIS K5500 塗料用語;黒と白とに塗り分けて作った下地の上に,同じ厚さに塗ったときの, 塗膜の 45度,0度拡散反射率又は三刺激値 Yの比で表わす。 |
JIS K 5600-4-1 4.1.2方法B(隠ぺい率) |
鏡面光沢度 specular gloss |
入射光に対して,等しい角度で計測した反射光について,基準面での結果との百分率。 JIS K5500 塗料用語;光沢度が比較的大きい一般的な塗膜面に対しては, 法線に対して入射角60度,反射角60度で測定(60度鏡面光沢度)するのが一般的である。 鏡面光沢度の基準面は,屈曲率1.567のガラス坂を用いる。 |
JIS K 5600-4-7 |
上塗り適合性 overcoatability |
JIS K5500 塗料用語;ある塗料の塗膜の上に,決められた塗料を塗り重ねたときに, 塗装上の支障が起こらず,正常な組合せ塗膜層が得られるための,塗り重ねられる下地塗膜の性状。 |
塗料規格に定める方法 |
重ね塗り適合性 recoatability |
JIS K5500 塗料用語;乾燥した塗膜の上に,同じ塗料を塗り重ねたときに, 塗装上の支障が起こらず,正常な塗り重ね塗膜層が得られるための塗料の性状。 |
塗料規格に定める方法 |
耐屈曲性 bending resistance |
塗膜が素地の変形に対し,塗膜の損傷なしで追従する性能。 JIS K5500 塗料用語;屈曲試験では,薄い試験板に塗装された試験片の塗膜を外にし, 試験板の内側に規定される丸棒を当てて180度折り曲げた後,塗膜に表面の割れ等の損傷を調べる。 |
JIS K 5600-5-1 6.2.1(タイプ1) |
耐衝撃性 impact-resistant |
JIS K5500 塗料用語;試験片に物体が激突したときの衝撃及びそれによって生じる試験板の変形に対する塗膜の抵抗性。 | JIS K 5600-5-3 6. (デュポン式) |
付着性 adhesion |
塗膜に素地まで貫通する直角の格子パターンを刻み込んだとき,素地からのはく離に対しての塗膜の耐性。 | JIS K 5600-5-6 |
層間付着性 Ⅰ,層間付着性 Ⅱ | 下塗り塗料と中塗り塗料との付着性(層間付着性Ⅰ), 中塗り塗料と上塗り塗料との付着性(層間付着性Ⅱ)をいう。 JIS K5659< 鋼構造物用耐候性塗料;付着性は,規定の条件で塗料を塗付け,規定の養生を行った後に, 粘着テープ剥離試験で付着性を評価する。 |
塗料に規定する方法 |
耐アルカリ性 alkali resistance |
アルカリの作用に対して変化しにくい塗膜の性質。 JIS K5500 塗料用語;「耐液体性」参照 |
JIS K 5600-6-1 7.4 手順 A(単一の液相) |
耐酸性 acid resistanc |
酸の作用に抵抗して変化しにくい塗膜の性質。 JIS K5500 塗料用語;「耐液体性」参照 |
JIS K 5600-6-1 7.4 手順 A(単一の液相) |
耐湿潤冷熱繰返し性 humidity and cool-heat cycling test |
塗膜が湿潤又は浸せきの状態を経た後,温度変化を受けた場合の塗膜の変化を調べる試験。 | JIS K 5600-7-4 |
加熱残分(%) nonvolatile content |
JIS K5500 塗料用語;塗料を一定条件で加熱したときに, 塗料成分の一部が揮発又は蒸発した後に残ったものの質量の,元の質量に対する百分率。 残分は,主としてビヒクル(展色材)中の不揮発物又はこれと顔料である。 |
JIS K 5601-1-2 |
促進耐候性 artificial weathering |
人工光源(キセノンアークランプ)を用いた試験機を用いて得られた塗膜の性質(人工的耐候性)。 | JIS K 5600-7-7 |
屋外暴露耐候性 natural weathering |
屋外で,日光,風雨,露霜,寒暖,乾湿などの自然の作用に抵抗して変化しにくい塗膜の性質。 | JIS K 5600-7-6 |
JIS K 5600-2-6「塗料一般試験方法−第2部:塗料の性状・安定性−第6節:ポットライフ」
JIS K 5600-3-2「塗料一般試験方法−第3部:塗膜の形成機能−第2節:表面乾燥性(バロチニ法)」
JIS K 5600-3-4「塗料一般試験方法−第3部:塗膜の形成機能−第4節:製品と被塗装面との適合性」
JIS K 5600-4-1「塗料一般試験方法−第4部:塗膜の視覚特性−第1節:隠ぺい力(淡彩色塗料用)」
JIS K 5600-4-7「塗料一般試験方法−第4部:塗膜の視覚特性−第7節:鏡面光沢度」
JIS K 5600-5-1「塗料一般試験方法−第5部:塗膜の機械的性質−第1節:耐屈曲性(円筒形マンドレル法)」
JIS K 5600-5-3「塗料一般試験方法−第5部:塗膜の機械的性質−第3節:耐おもり落下性」
JIS K 5600-6-1「塗料一般試験方法−第6部:塗膜の化学的性質−第1節:耐液体性(一般的方法)」
JIS K 5600-7-4「塗料一般試験方法−第7部:塗膜の長期耐久性−第4節:耐湿潤冷熱繰返し性」
JIS K 5600-7-7「塗料一般試験方法−第7部:塗膜の長期耐久性−第7節:促進耐候性及び促進耐光性(キセノンランプ法)」
JIS K 5601-1-2「塗料成分試験方法−第1部:通則−第2節:加熱残分」
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旧 JIS上塗り塗料製品規格
旧 JIS K 5657「鋼構造物用ポリウレタン樹脂塗料」の概要
この規格の適用範囲は,主に橋梁・タンク・プラント,その他の鋼構造物などを対象とする長期の防食及び耐候性美粧仕上げに用いられる鋼構造物用ポリウレタン樹脂塗料についてである。この規格では,鋼構造物用ポリウレタン樹脂塗料用中塗と鋼構造物用ポリウレタン樹脂塗料上塗の 2種類が規定されている。
中塗り塗料
鋼構造物用ポリウレタン樹脂塗料用中塗は,鋼構造物用ポリウレタン樹脂塗料上塗と組み合わせて用いることによって下塗り塗料との付着性向上を目的とする塗料である。
気温 10℃以上ではエポキシ樹脂・顔料・溶剤などを原料とする主剤,及びポリアミド樹脂を主な原料とする硬化剤からなる常温硬化形の 2液形エポキシ樹脂塗料が規格されている。
外気温 10℃未満ではエポキシ反応が進まないので,低温用として,ポリオール樹脂で構成される主剤,ポリイソシアネートを硬化剤とする常温硬化形のウレタン結合で硬化するタイプが規格されている。
上塗り塗料
鋼構造物用ポリウレタン樹脂塗料上塗は,ポリオール樹脂・顔料・溶剤などを主な原料とした主剤とポリイソシアネートを硬化剤とする常温硬化形の 2液形ポリウレタン樹脂塗料が規格されている。
旧 JIS K 5659「鋼構造物用ふっ素樹脂塗料」の概要
この規格の適用範囲は,主に橋梁・タンク・プラント,その他の鋼構造物などを対象とする長期の防食及び耐候性美粧仕上げに用いられる鋼構造物用ふっ素樹脂塗料についてである。この規格では,鋼構造物用ふっ素樹脂塗料用中塗と鋼構造物用ふっ素樹脂塗料上塗の 2種類が規定されている。
鋼構造物用ふっ素樹脂塗料用中塗は,鋼構造物用ふっ素樹脂塗料上塗と組み合わせて用いることによって付着性向上を目的とする材料である。
中塗り塗料
JIS K 5657と同様に,外気温 10℃では常温硬化形の2液形エポキシ樹脂塗料が,外気温 10℃未満では常温硬化形のウレタン結合で硬化するタイプが規格されている。
上塗り塗料
鋼構造物用ふっ素樹脂塗料上塗は,ポリオール樹脂(ふっ素含有ポリオール)・顔料・溶剤などを主な原料とした主剤とポリイソシアネートを主な原料とした硬化剤からなる常温のウレタン結合で硬化する 2液形塗料として規格されている。
注:規格の種類に関する解説から,構造物用ふっ素樹脂塗料上塗は,水酸基を持つフルオロオレフィン/ビニルエーテル共重合体,又はフルオロオレフィン/ビニルエステル共重合体などのふっ素含有ポリオールを主剤に用い,イソシアネートプレポリマーを硬化剤とする塗料であることが明らかで,次項で紹介する一般的な【ふっ素樹脂塗料】とは異なり,常温硬化形のポリオール硬化形ポリウレタン樹脂塗料の範疇に入る塗料である。
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