防食概論:塗装・塗料
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ここでは,塗料の歴史,分類,材料構成などの【塗料概論】を始めるにあたり, 【塗料とは】, 【基礎用語】 に項目を分けて紹介する。
塗料概論(塗料の歴史)
塗料とは
塗料(coating, paint)
物体表面の保護(protection),色,光沢付与による美装(coloring),注意喚起,誘導などの情報伝達(information, communicatin)などを目的に用いる材料の一種である。
一般的には,流動性の材料で物体の表面に広げる(塗る,塗布する,塗付ける)と薄い膜となり,時間経過とともに物体に付着したまま物体表面を連続的に覆う薄い固体の膜になる材料と定義されている。
塗料による防食は,【防食法の分類】で解説したように,一義的には,表面被覆により酸素や水分などの環境因子(environmental factor)を遮断することで機能する。さらに,積極的な防食目的の塗料では,下地金属の不動態(passive state)や犠牲アノード(sacrificial anode)効果を付与できる防せい顔料(rust preventive pigment)を用いて高い防食機能を達成している。
一般的には,有機高分子材料による表面被覆を塗装と有機ライニングに分けることが多い。しかし,塗装と有機ライニングを明確に区別する定義はなく,被覆膜の厚みで便宜的に区分する例が多い。多くの技術者は,施工時の乾燥被膜の厚み 500μm程度までを塗装,それ以上の厚みで施工する場合を有機ライニングと称している。
【塗料概論】では,塗料・塗料工業の主な歴史,塗料を構成する材料の分類と概要,塗料と環境問題との関連などを解説する。
なお,一般的に用いられる塗料の概要は【塗料各論】と【塗料の評価】で,塗膜(paint film, coating)の特性評価は【塗膜の評価】で,鋼橋などで用いられる主な防食塗装の仕様などは【防食塗装系】で解説する。
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基礎用語
JIS K 5500(2000)「塗料用語」,JIS Z 0103(1996)「防せい防食用語」などを参考に解説する。
塗料(coating material, coating)【JIS K5500「塗料用語」】
素地に塗装したとき,保護的,修飾的,又は特殊性能をもった膜を形成する液状,ペースト状,又は粉末状の製品。
流動状態で物体の表面に広げると薄い膜となり,時間の経過につれてその面に固着したまま固体の膜となり,連続してその面を覆うもの。塗料を用いて,物体の表面に広げる操作を塗りといい。固体の膜ができる過程を乾燥といい。固体の皮膜を塗膜という。流動状態とは,液状,融解状,空気懸濁体などの状態を含むものである。顔料を含む塗料の総称をペイントということがある。
ペイント(paint)【JIS K5500「塗料用語」】
素地に塗付したとき,保護,装飾又は特殊な性能を持つ不透明膜を形成する,液状,ペースト状又は粉末状の顔料を含む塗料。
備考:広義では,顔料を含む塗料の総称。狭義では,顔料をボイル油で練り合わせて作った塗料をいう。
ライニング(lining)【JIS Z0103「防せい防食用語」】
金属の表面を防食するため,その表面に,他の複合材料を比較的厚く被覆すること。
金属・無機物質などを溶射,焼き付け,はり合わせなどで被覆する無機質ライニングと,有機物質を流動浸せき,溶射,塗布,はり合わせなどで被覆する有機質ライニングとがある。
樹脂(resin)【JIS K5500「塗料用語」】
固体,準固体又は凝似固体の有機物。通常分子量が高く,熱すると一般に広い温度範囲で軟化又は溶融する。適切な溶剤に可溶で,その溶液を塗布すると連続した皮膜を作る。このような物質を総称して樹脂という。天然樹脂と合成樹脂の2種がある。
天然樹脂(natural resin,resin)【JIS K5500「塗料用語」】
樹木又は虫類の分泌されてできた,主に塊状のもの,又はこれらが地中に埋れて半化石状態になったものの総称。
ロジン,セラック,ダンマル,コーパル,こはくなど。
合成樹脂(synthetic resin)【JIS K5500「塗料用語」】
それ自身は樹脂の特性を持っていない,反応性分から重合,縮合のような制御された化学反応によって作られた樹脂。
合成樹脂塗料(塗料用語辞典,塗料原料便覧など)
合成樹脂に溶剤または乾性油を加え加熱した塗料。
塗料には,溶剤を加えない「無溶剤形」,溶剤を加えた「溶剤形」,乳液状の「エマルション形」などがある。合成樹脂塗料には「エポキシ樹脂」,「アルキド樹脂」,「塩化ビニール樹脂」,「アクリル樹脂」,「酢酸ビニール樹脂」,「フェノール樹脂」など様々なものが用いられている。
天然油(natural oil)【JIS K5500「塗料用語」】
天然物から採取した脂肪油。主成分は脂肪酸のグリセリンエステル。
乾燥性の程度によって,乾性油・半乾性油・不乾性油に分ける。乾燥性の目安として,よう素価が用いられる。よう素価 130以上を乾性油,130~100を半乾性油,100以下を不乾性油ということがあるが,明確な区分の定義はない。
防食(corrosion prevention, corrosion protection)【JIS Z0103「防せい防食用語」】
金属が腐食するのを防止すること。
防せい(錆)(rust prevention)【JIS Z0103「防せい防食用語」】
金属に錆が発生するのを防止すること。
顔料(pigment)【JIS K5500「塗料用語」】
一般に水や有機溶剤に溶けない微粉末状で,光学的,保護的又は装飾的な性能によって用いられる物質。無彩又は有彩の,無機又は有機の化合物で,黄色,補強,増量などの目的で塗料,印刷インキ,プラスチックなどに用いる。屈折率の大きいものは隠ぺい力が大きい。
備考:特殊な場合には,例えば,防せい顔料では,ある程度の水溶性が必要とされることがある。
防せい(錆)顔料(rust preventive pigment, rust inhibitive pigment)
JIS ではさび止め顔料という。金属にさびが発生するのを防止する機能を持つ塗料用顔料。【JIS Z0103「防せい防食用語」】
金属にさびが発生するのを防止する機能をもつ顔料。備考:単なる遮断機能の作用ではなく,化学的及び/又は電気化学的に金属の腐食を制御又は防止する機能をもつ顔料をいう。ほとんど又は全くさび止め効果のないべんがらに対して,鉛丹及びクロム酸亜鉛は,さび止め顔料の例である。【JIS K5500「塗料用語」】
不動態(passive state)
標準電位列で卑な金属であるにもかかわらず,電気化学的に貴な金属であるような挙動を示す状態。【JIS Z0103「防せい防食用語」】
本来,ひ(卑)である電極電位を示し,不安定であるべき金属があたかも貴である金属のように振る舞う状態。この状態では,電極電位も貴の値を示す場合が多い。【JIS H 0201「アルミニウム表面処理用語」】
これまでの文献等では,用語として不働態を用いていたが,現在は,JIS用語を含め,不動態を用いる例が多い。
一般的には,金属をとり囲む環境の影響で,電気化学列で卑な金属(腐食しやすい金属)が,表面を酸化物で覆われるなどして本来の活性を失い,貴な金属のように挙動する状態を不動態といい,この状態になることを不動態化(passivity)と理解されている。
不動態化は,酸化力のある酸にさらされた場合,陽極酸化処理によっても生じる。不動態となる酸化被膜(不動態被膜)の典型的な厚みは,数 nm である。
犠牲アノード(犠牲陽極)(sacrificial anode)
流電陽極(galvanic anode)ともいい,外部電源を用いない陰極防食(カソード防食)の流電陽極方式で用いられる防食対象の金属より電位が卑な金属をいう。
鋼などの母材を,使用環境で母材より腐食電位が卑な金属で被覆したもの。この場合には,ピンホールや傷つきなどの素地に達する損傷があっても,露出した素地金属がカソードとなり,被覆金属が広いアノード(陽極)として作用するため,被覆金属が犠牲的に腐食し,素地金属の腐食を抑制できる。これを犠牲陽極作用,犠牲的保護作用や犠牲防食作用などともいう。
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