防食概論:塗装・塗料
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優れた耐熱性,耐薬品性,低摩擦係数などが期待できる塗料として,広く用いられる 【ふっ素樹脂塗料】, 【ふっ素系樹脂塗料の施工】, 【JIS K6894「金属素地上のふっ素樹脂塗膜」】 を紹介する。
塗料各論(ふっ素樹脂塗料)
ふっ素樹脂塗料
一般的な塗覆装(coating)の目的は,母材の保護(腐食防止)及び/又は表面機能の付与である。ふっ素樹脂による被覆は,樹脂の特性から両目的を同時に期待する場合が多い。
特に,耐熱性,耐薬品性に優れ,100℃を超える高温環境では,他の有機被覆( 80℃程度が限界)では追従できない保護(防食)性を発揮する。
ふっ素樹脂は,耐熱性の高い熱可塑性樹脂のため,連続した均一な塗膜を得るためには,200~400℃での加工(焼付け処理)が必要になる。
また,樹脂の表面張力が非常に小さく,そのままでは母材との濡れが期待できない。すなわち,母材に直接付着できない場合が多いので,塗装では適切なプライマーを用いた表面処理が必要になる。
注意: 防食塗装などで用いられるいわゆる“常温硬化形ふっ素系樹脂塗料”は,ふっ素含有ポリオールを主剤とし,イソシアネートプレポリマーを硬化剤とする常温硬化形のポリオール硬化形ポリウレタン樹脂の範ちゅうに入る塗料で,ここで紹介するふっ素樹脂塗料とは異なる。
ふっ素樹脂塗料(fluoropolymer coatings)は,塗り付け作業の違いにより,固体の粉末(粉体)で扱う場合と溶媒に分散した形態(サスペンジョンという)で扱う場合に分けられる。
さらに,サスペンション(suspension)は,溶媒により水性サスペンジョンと溶剤性サスペンジョンに分けられる。
粉体形の塗料
このタイプには,ポリふっ化ビニリデン塗料,ペルフルオロ(エチレン-プロピレン)プラスチック塗料,エチレン/テトラフルオロエチレン(ETFE)塗料,ペルフルオロアルコキシアルカン樹脂(PFA)塗料などがある。粉体形は,一般的な粉体塗料と同様に,静電塗装や流動浸せき法での塗装が可能である。
水性サスペンジョン形の塗料
このタイプには,ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)塗料,ペルフルオロ(エチレン-プロピレン)プラスチック(FEP)塗料,ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)塗料などがある。水性サスペンジョン形の塗料は,エアースプレーによる吹付け方法(静電塗装を含む),又は浸漬方法で塗装される。
この種の塗料は,強いせん断力を与えると繊維化するため,強い攪拌や高圧のかかるエアレススプレーによる塗装が困難である。
また,1回の塗装で 25μm以上の厚塗りすると割れが発生しやすい。このため,厚塗りが必要な場合は,複数回の塗付けと焼付けの繰り返しが必要になる。
溶剤性サスペンジョン形の塗料
このタイプには,ポリテトラフルオロエチレン塗料,ポリふっ化ビニル(PVF)塗料,ポリふっ化ビニリデン(PVDF)塗料,ペルフルオロ(エチレン-プロピレン)プラスチック(FEP)塗料などがある。溶剤性サスペンジョンには,水性サスペンジョンのような制約が少なく,一般的な塗装方法が採用できる。
【参考】
熱可塑性樹脂(thermoplastic resin)
熱を加えれば軟らかくなり,冷却すれば硬くなることを繰り返す性質。【JIS K5500「塗料用語」】
熱可塑性樹脂は,ガラス転移温度または融点まで加熱することによって軟らかくなり,目的の形に成形できる樹脂をいう。樹脂は用途により汎用プラスチック,エンジニアリングプラスチック,スーパーエンジニアリングプラスチックに分けられる。塗料としての用途には,加熱して塗膜を形成する焼付塗料として利用されている。
ガラス転移(glass transition)
非結晶性重合体又は部分結晶性重合体の非結晶領域における粘性状態又はゴム状態から(又はへ)硬質でかつ比較的もろ(脆)い状態へ(又はから)の可逆的変化。【JIS K 6900「プラスチック―用語」】
粉体塗料(powder coating material)
溶融して,硬化した後に連続する膜を形成する,溶剤を含まない粉末状の塗料。通常,樹脂,顔料及びその他の添加剤からなり,適切な素地に粉状のまま塗装される。【JIS K5500「塗料用語」】
サスペンション(suspension)
固体粒子が液体中に分散した分散系。懸濁液ともいい,一般的には,コロイド粒子( 100nm 程度以下)より大きい固体粒子の場合に用いられる。
表面張力(surface tension)
液体の表面に作用する表面積をできるだけ小さくしようとする力。液体表面の単位面積当たりの自由エネルギーで表す。【JIS K3211「界面活性剤用語」】
界面張力(interfacial tension)
二つの相が接するとき,単位面積当たりの界面自由エネルギー。気・液界面の場合は,一般的に表面張力という。界面自由エネルギー( surface free energy )とは,液体や固体の界面が内部に比べ過剰にもっている自由エネルギーをいう。【JIS K3211「界面活性剤用語」】
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ふっ素樹脂塗料の施工
ふっ素樹脂塗料の一般的な施工手順は次の通りである。
素地調整
母材表面の汚れ除去,脱脂(degreasing)を行う。脱脂は,溶剤による脱脂で不十分な場合には,加熱処理などを併用して行う。
母材種や適用する塗料種に応じて,母材表面をブラスト処理,化学的処理(エッチングなど)などを用いて適切に処理する。
プライマー塗装
上塗りに用いるふっ素樹脂は,臨界表面張力(critical surface tension)の最も小さい材料であるため,他の母材となる材料との表面エネルギー差が大きくなり,接着性が著しく劣る。このため,母材とふっ素樹脂との接着を確保するため,表面エネルギーが中間となる層として,接着成分(バインダー樹脂)とふっ素樹脂とから構成されるプライマーを用いる必要がある。
プライマーは,一般的に,水性又は溶剤形のため,塗装後に 150℃程度で乾燥する。
ふっ素樹脂塗料の塗装
サスペンション塗料の場合は,エアスプレー(spray coating)や静電塗装(electrostatic spraying)などの吹付け法(spraying)や浸漬法(dipping)などの塗装方法が用いられる。塗装後に 150℃程度で乾燥し,その後にふっ素樹脂に応じた温度(200~400℃)で焼付け(baking)る。
粉体塗料は,静電塗装(electrostatic spraying)や,流動浸漬法(fluidized bed coating)などにより塗付けられる。粉体塗料は,直接焼付けることができる。なお,焼付け工程は焼成ともいわれる。
施工の具体例
厚塗り方法
プラントなどの耐薬品用途,腐食性の高い環境での使用用途では,塗膜厚み 200μm 以上を求められることがある。この場合に,ふっ素樹脂塗料を一度に厚く焼付けると,塗膜に割れやピンホールなどの不具合を発生する。このため,必要な厚みが得られるまで,一回当たりの塗膜厚み数十μm の塗装と焼付けを繰り返す方法が用いられる。。
溶射(金属またはセラミック)面への施工
高い耐摩耗性を期待する場合に,硬い溶射被膜(ニッケル,クロム合金,セラミックなど)の上に,摩擦抵抗の低減による耐摩耗性向上を目的にふっ素樹脂加工される。
陽極酸化処理したアルミニウムへの施工
陽極酸化処理されたアルミニウム表面は,非常に硬く,多孔質な凹凸をもつ。この面に施工することで,凹部にふっ素樹脂が入り,耐摩耗性,耐食性が向上する。
施工時の留意事項
● 基材(母材)は,通常 400℃~500℃程度の熱処理に耐える材料でなければならない。
● 素地調整(ブラスト処理)や熱処理による発生する歪を考慮した設計が必要になる。
● 一般的な塗装と同様に,基材の溶接部に不具合(巣穴,ピンホール,アンダーカットなど)があると期待した塗膜が得られない。
● 一般的な塗装と同様に,隅角部の施工が困難なため,角部のR加工などの設計上の工夫が必要になる。
【参考】
ブラスト処理(abrasive blast-cleaning, blasting)
金属製品に防せい防食を目的として塗料などを被覆する場合に,素地調整のために行われる。研削材に大きな運動エネルギーを与えて金属表面に衝突させ,金属表面を細かく切削及び打撃することによってさび,スケールなどの付着物を除去して金属表面を清浄化又は粗面化させる方法。【JIS Z0103「防せい防食用語」】
静電塗装(electrostatic spraying, electrostatic coating)
霧化した塗料粒子と被塗物との間に静電電位差を掛けて,塗料の霧を被塗物に引き付けて塗る方法。塗料の霧は,回転円盤,スプレーガンなどで発生させるが,発生源に対する物体の裏側にも塗料が付着し,塗料の損失が少ないのが特徴。電圧は通常 40~100kV。【JIS K5500「塗料用語」】
流動浸せき(漬)法(fluidized bed coating process)
粉体塗料を塗付ける方法の一種で,塗料容器の底の部分に多孔板を配置し,多孔板から圧縮空気を送り粉体塗料を流動させ,流動している塗料の中に予熱した被塗物を浸漬する方法である。流動層の中の塗料は予熱された被塗物に融着し厚膜の塗膜が得られる。
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JIS K6894「金属素地上のふっ素樹脂塗膜」
JIS K6894 2014 「金属素地上のふっ素樹脂塗膜の試験方法」
(Testing methods for fluoroplastic coating film on metal substrate)序文
この規格は,1972年に制定され,その後 3回の改正を経て今日に至っている。前回の改正は,1996年に行われたが,その後の JIS K 5400「塗料一般試験方法」の廃止移行に対応するために改正した。
なお,対応国際規格は現時点で制定されていない。
適用範囲
この規格は,工業用・家庭用などに使用する,金属素地上にふっ素樹脂を主成分としたふっ素樹脂塗料を塗装し,焼き付けた塗膜(以下,塗膜という。)の試験方法について規定する。
ただし,ふっ素樹脂塗膜の種類は,表 1に示す種類のものに適用する。
用語の定義
3.1 非ぬれ性;表面に液体が接触するとき,はじいてぬれない性質。
3.2 非粘着性;物質がくっつかないか,又はくっつきにくい性質。
3.3 ピール強度;塗膜を金属素地上から引き剝がすのに必要な単位幅当たりの接着力。
3.4 室温;JIS Z 8703に規定する標準状態の 23℃。ただし,許容差は,±2℃とする。
3.5 焼付け;金属素地上に塗料を塗布した後,高温に加熱し塗膜を乾燥,溶融及び硬化する操作。
3.6 付着性;ふっ素樹脂塗膜と金属素地との接着力。
品質
原則として,品質は受渡当事者間の協定によるが,附属書 C(参考)には,規定された方法でを評価した時の塗膜の外観,塗膜の厚さ,非ぬれ性,非粘着性,付着性,鉛筆引っかき硬度,耐摩耗性,ピンホールに関する代表的品質水準例が記載されている。
種 類 | 記 号 |
---|---|
ボリテトラフルオロエチレン | PTFE |
パーフルオロアルコキシアルカン | PFA |
パーフルオロエチレンプロペンコポリマー | FEP |
エチレン−テトラフルオロエチレンコポリマー | ETFE |
参考:JIS K6894 1996 「金属素地上のふっ素樹脂塗膜の試験方法」
適用範囲
この規格は,金属素地上に塗装前処理を施した後,ふつ素樹脂塗料を塗装し焼き付けた塗膜(以下,塗膜という。)の種類,等級,試験法などについて規定する。
用語の定義
(1)非ぬれ性: 表面に液体が接触しても,はじいてぬれない性質。
(2)非粘着性: 付着しないか又は付着しにくい性質。
(3)ピール強度: 塗膜を被塗装面から,引きはがす場合の強度。
(4)室温: JIS Z 8703 に規定する標準状態の 23℃2 級 (23±2℃) 。
(5)焼付け: 主に金属の被塗装物に塗料を塗布した後,高温に加熱し塗膜を乾燥,硬化及び溶融させる操作。
種類
種類は,金属素地,塗装前処理,及びふっ素樹脂塗料ごとに,項目によって次のとおりとする。
(1) 金属素地による種類
金属素地による種類と記号は,炭素鋼(ST),鋳鉄(Cl),ステンレス鋼(SU),銅合金(CA),アルミニウム及びアルミニウム合金(AL),アルミニウム鋳物(AC),アルミニウムダイキャスト(ADC),アルミナイズド鋼板(AZS),その他(OT)である。
(2) 塗装前処理による種類
金属素地調整の種類と記号は,脱脂(SD),研磨(SBU),ブラスト(SB),その他の前処理(OT)である。塗装前処理による種類と記号は,金属溶射(SM),セラミック溶射(SC),化成皮膜(SCH),陽極酸化(SA),その他の前処理(OT)である。
(3) ふっ素樹脂塗料による種類
ふっ素樹脂による種類は,JIS K 6899 に準拠し,表 3のものが既定されている。
等級
等級は,次に示す性能別に定められている。
① 非ぬれ性;塗膜の非ぬれ性は,対水の接触角によって,Wr1,Wr2,Wr3 の 3 区分とする。
② 非粘着性;塗膜の非粘着性は,粘着テープのはがれる強さによって,N1,N2,N3 の 3 区分とする。
③ 付着性;塗膜の付着性として,描画試験は,はく離状態によって,An1,An2 の 2 区分とする。碁盤目試験は,はく離状態によって,Ac1,Ac2,Ac3 の 3 区分とする。ピール強度試験は,はく離強度によって,Ap1,Ap2,Ap3 の 3 区分とする。
④ 硬さ;塗膜の硬さは,鉛筆引っかき値を用い,塗膜の破れで評価する場合は,Hb1,Hb2,Hb3,Hb4,Hb5,Hb6 の 6 区分とし,塗膜のすりきずで評価する場合は,Hs1,Hs2,Hs3,Hs4 の 4 区分とする。
⑤ 耐摩耗性;塗膜の耐摩耗性は,テーバー摩耗試験の摩耗量によって,B1,B2,B3,B4 の 4 区分とする。
⑥ ピンホール;塗膜のピンホールは,乾式及び湿式ピンホールテスターを用い,ピンホールの有無によって区分し,ピンホールのないものは P1とする。
⑦ 塗膜の厚さ;電磁式膜厚計,渦電流式膜厚計などで求めた塗膜の厚さは,T10L,T10,T20,T40,T60,T120,T300 の 7 区分とする。
種 類 | 記 号 |
---|---|
ボリテトラフルオロエチレン | PTFE |
パーフルオロアルコキシアルカン | PFA |
テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン | FEP |
エチレン/テトラフルオロエチレン | E/TFE |
ポリふっ化ビニリデン | PVDF |
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