防食概論:塗装・塗料
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ここでは,中塗り塗料の品質規格及び評価方法について, 【中塗り塗料とは】, 【合成樹脂調合ペイントの概要】, 【鋼構造物用耐候性塗料の概要】に項目を分けて紹介する。
塗料の評価(中塗り塗料)
中塗り塗料とは
JIS K 5500 「塗料用語」
中塗り塗料(intermediate coat,undercoat)塗料を塗り重ねて塗装仕上げをするときの,中塗りに用いる塗料。
下塗り塗膜と上塗り塗膜との中間にあって,両者に対する付着性をもち,塗装系の耐久性を向上させる目的に用いるもの,下塗り塗面の平滑さの不足を補うために用いるものなどがある。後者では,塗膜が厚くて研磨しやすいことが特徴である。
備考:1.ISO用語規格では,“intermediate coat”と“undercoat”とは同義で,“地肌塗り(priming coat)と上塗り(finishing coat)の間のコート(coat)”をいう。
備考:2.BS用語規格及び CEDでは,“undercoat”は,上塗り塗料を塗り前に,目止め,肌直し,地肌塗りなどを行った素地面,又は素地調整を行った旧塗膜面に塗装される塗料をいう。
中塗り(intermediate coating)
下塗りと上塗りとの中間層として,中塗り用の塗料を塗る操作。
下塗り塗膜と上塗り塗膜との間の付着性の増強,総合塗膜層の厚さの増加,平らさ又は立体性の改善のために行う。英語では,目的によって,undercoat,ground coat,surfacer,texture coat などという。
JIS 規格における中塗り塗料
平滑さの不足を補う目的の中塗り塗料自動車外板塗装で表面の平滑性を確保するために用いられるサーフェーサーなどのように,塗膜が厚くて研磨しやすいことが特徴である。
JIS製品規格としては,油ワニスに顔料を分散させた不透明・酸化乾燥性の液状又はペースト状の JIS K 5591「油性系下地塗料」,工業用ニトロセルロース・樹脂・可塑剤などを溶剤に溶かしたビヒクルに顔料を分散させた不透明・揮発乾燥性の液状又はペースト状の JIS K 5535「ラッカー系下地塗料」にサーフェーサーとパテの規定がある。
塗装系の耐久性向上目的の中塗り塗料
下塗り塗膜と上塗り塗膜との中間にあって,上塗り塗膜の耐剥がれ性,下塗り塗膜の保護を目的とした塗料で,一般的な金属の防食を目的とした塗装系で採用される。
防食塗装に用いる中塗り塗料は,上塗り塗料との付着性を重視しているため,中塗り塗料単独の JIS製品規格としてではなく,組み合わせられるの上塗り塗料の JIS製品規格の中で規定されている。
ここでは,代表的なJIS K 5516「合成樹脂調合ペイント」,及び JIS K 5659「鋼構造物用耐候性塗料」に規定される中塗り塗料について紹介する。
【参考】
塗装系(coating system, paint system
塗装される又は既に塗装されている塗料の塗膜層の総称。塗装の目的・効果を満足するように作った,地肌塗りから上塗りまでの塗り重ね塗膜の組合せを総称する用語。【JIS K5500「塗料用語」】
サーフェーサー(surfacer)
一般には下塗りと上塗りの中間に使用する塗膜の平滑性向上を目的とする中塗り塗料を指す場合が多い。大きな凹凸の修正などを目的に下塗りに用いるものはパテという。
オイルサーフェーサー(oil surfacer)
ラッカーエナメル塗り,フタル酸樹脂エナメル塗りなどの塗装の際の中塗りに適する。液状・不透明・酸化乾燥性の塗料で,乾性油と樹脂とを主な塗膜形成要素とし,自然乾燥で用いる。塗膜は研ぎやすいのが特徴である。短油ワニスに顔料を分散して作る。JIS K 5591 「油性系下地塗料」参照。【JIS K5500「塗料用語」】
ラッカーサーフェーサー(lacquer surfacer)
ラッカーエナメル塗装の際の中塗りに適する液状・不透明・揮発乾燥性の塗料で,硝酸セルロースを主な塗膜形成要素とし,自然乾燥で短時間に研磨しやすい塗膜を形成する。硝酸セルロース,樹脂,可塑剤などを溶剤に溶かして作ったビヒクルに,顔料を分散して作る。JIS K 5535 「ラッカー系下地塗料」参照。【JIS K5500「塗料用語」】
パテ(putty)
下地のくぼみ,割れ,あななどの欠陥を埋めて,塗装系の平滑さを向上させるために用いる肉盛り用の塗料。顔料分を多く含み,多くはペースト状である。なお,平滑性向上目的で中塗りとして用いるものはサーフェーサーという。【JIS K5500「塗料用語」】
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合成樹脂調合ペイントの概要
JIS K 55162014 「合成樹脂調合ペイント」
適用範囲この規格は,建築物(鉄部,木部),及び鉄鋼構造物の中塗り,又は上塗りに用いる合成樹脂調合ペイントについて規定する。
参考:合成樹脂調合ペイントは,着色顔料・体質顔料などを,主に長油性フタル酸樹脂ワニスで練り合わせて作った液状・自然乾燥性の塗料である。
種類
a) 合成樹脂調合ペイント 1 種 : 主に,建築物,及び鉄鋼構造物の中塗り,及び上塗りとして,下塗り塗膜の上に数日以内に塗り重ねる場合に用いる。
b) 合成樹脂調合ペイント 2 種中塗り用 : 主に,大形鉄鋼構造物の中塗りに用いる。
c) 合成樹脂調合ペイント 2 種上塗り用 : 主に,大形鉄鋼構造物の上塗りに用いる。
ホルムアルデヒド放散等級
ホルムアルデヒド放散等級は,箇条 5 によって試験を行ったときの塗膜からのホルムアルデヒド放散量で区分する。
F☆☆☆☆(放散量 0.12mg/L以下),F☆☆☆( 0.35mg/L以下),F☆☆( 1.8mg/L以下),-( 1.8 mg/Lを超える)
注記 ハイフン(-)は,ホルムアルデヒド放散等級を規定しないことを示す。また,箇条 5 の試験を行わないものは,これと同じとみなす。
ホルムアルデヒド放散速度(放散量)(formaldehyde emission rate)
平成 14年の建築基準法等の一部改正,建築基準法施行令の改正により,シックハウス対策のための規制対象となる化学物質並びに建築材料及び換気設備に係る技術的基準が定められ,平成 15年には,国土交通省告示第 1113号(建築基準法に基づく告示第一種ホルムアルデヒド発散建築材料を定める件),第 1114号(建築基準法に基づく告示 第二種ホルムアルデヒド発散建築材料を定める件)及び第 1115号(建築基準法に基づく告示 第三種ホルムアルデヒド発散建築材料を定める件)が公布された。これらの施行令,告示では,ホルムアルデヒド発散速度に応じた基準が示された。建材のホルムアルデヒド放散速度(放散量)により,材料の使用が制約を受けることになる。このため,建材関連業界では,自主的なホルムアルデヒド放散等級の表示( F表示)が進んでいる。
建材のホルムアルデヒド放散速度( mg/m2h )と上述の塗料のホルムアルデヒド放散量( mg/L )により,
(1)内装に制限なく使用可( F☆☆☆☆; ≦ 0.005mg/m2h ,≦ 0.02mg/L )
(2)内装の使用面積を制限( F☆☆☆;第 3種ホルムアルデヒド発散建築材料,≦ 0.02mg/m2h ,≦ 0.35mg/L )
(3)内装の使用面積を制限( F☆☆;第 2種ホルムアルデヒド発散建築材料,≦ 0.12mg/m2h,≦ 1.8mg/L)
(4)建築内装に使用禁止( Fマーク表示なし;第 1種ホルムアルデヒド発散建築材料,0.12mg/m2h <,1.8mg/L <)
に分けられる。
鋼橋,建築物,船舶などで,一般環境で用いられるの中・上塗り塗装には,合成樹脂調合ペイントが用いられる。この用途の合成樹脂調合ペイントには,乾性油を多く用いた酸化形長油アルキド樹脂が用いられている。
【参考】
フタル酸樹脂塗料(phthalic resin coating)
無水フタル酸を原料とするアルキド樹脂を塗膜形成要素とする塗料。耐候性が優れている。フタル酸樹脂エナメル。【JIS K5500「塗料用語」】
ワニス(vernish)
樹脂などを溶剤に溶かして作った塗料の総称。顔料は含まれていない。塗膜は概して透明である。
備考:1.ISO用語規格では,“ワニスはクリヤー塗料の一種。主に酸化乾燥によって透明塗膜を形成するクリヤー塗料をワニスという。”と定義している。クリヤー塗料の項参照。
備考:2.BS用語規格では,“ワニスは,主に樹脂及び/又は乾性油から作られる透明塗料。”と定義している。
備考:3.ASTM用語規格では,“ワニスは,薄い層に塗ったとき透明な又は,半透明な固体膜を形成する液状組成物。”をいい,ビチューミナスワニス,油ワニス,スパーワニス,揮発性ワニスなどを含めている。【JIS K5500「塗料用語」】
ISO(International Organization for Sstandardization;国際標準化機構),BS(British Standard;英国工業規格),ASTM(American Society for Testing and Materials;米国試験材料協会)
アルキド樹脂塗料(alkyd resin coating,alkyd coating)
塗膜形成要素(展色材)として,アルキド樹脂を用いて作った塗料。アルキド樹脂塗料に含まれる脂肪酸には酸化形と非酸化形とがある。樹脂は脂肪酸含有量の多少によって,長油・中油・短油に分ける。【JIS K5500「塗料用語」】
アルキド樹脂は,多価アルコール(polyhydric alcohol)と多塩基酸(polybasic acid),又は酸無水物(acid anhydride)との脱水縮合(dehydration condensation)で進む共重縮合(copolycondensation)によるポリエステル樹脂(polyester resin)の一種である。
塗料業界で単にアルキド樹脂と称した場合は,脂肪酸(fatty acid)で変性(modification)した多価アルコールを用いた油変性アルキド樹脂を指す場合が多い。
アルキド樹脂は,脂肪酸の含有量(油長)の多いものから長油アルキド・中油アルキド・短油アルキドに分けられる。また,使用する脂肪油は,不飽和脂肪酸の量により,乾性油,不乾性油,半乾性油に分けられ,乾性油の多少により,アルキド樹脂を酸化形や非酸化形に分ける。
乾性油(drying oil)
薄膜にし空気中に置くと,酸素を吸収して酸化し,これに伴って重合が起こって固化し,塗膜を形成する脂肪油。高度不飽和脂肪酸を含む。【JIS K5500「塗料用語」】
油長(oil length)
油変性樹脂,又は油性系ワニスにおいて,含有脂肪酸量をトリグリセリドに換算した値を百分率(%)で表したもの。油長 45%以下を短油,油長 45~58%を中油,58%以上を長油ということがある。油ワニスでは,短油,中油,長油をそれぞれ短油ワニス,中油ワニス,長油ワニスという。【JIS K5500「塗料用語」】
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鋼構造物用耐候性塗料の概要
JIS K 56592018「鋼構造物用耐候性塗料」
序文この規格は,1992年に制定され,その後 2002年及び 2008年の改正を経て今日に至っている。今回,新たに水性塗料に対応するために改正した。
なお,対応国際規格は現時点で制定されていない。
適用範囲
この規格は,主に鋼構造物の美装仕上げ塗りに用い,長期の耐候性をもつ塗料について規定する。
種類
A種a):上塗り塗料c): 1級,2級,3級e)
A種:中塗り塗料d): 等級なし
B種b):上塗り塗料: 1級,2級,3級
B種:中塗り塗料: 等級なし
注
a) 溶剤形塗料で,有機溶剤を主要な揮発成分とし,主剤,硬化剤などを混合し反応硬化させて用いる(多液形)塗料。
b) 水性塗料で,水を主要な揮発成分とし,主剤,硬化剤などを混合し反応硬化させて用いる(多液形)塗料と,1液で反応硬化させて用いる(1液形)塗料とがある。
c) 上塗り塗料の原料は,ふっ素系樹脂,シリコン系樹脂又はポリウレタン系樹脂とする。
d) 中塗り塗料は,表 4(塗り重ね塗料の組合せ)の組合せで用いる。
e) 等級については,促進耐候性及び屋外暴露耐候性の品質によって等級分けし,表 2(品質)による。
工 程 | 溶剤形塗料 | 水性塗料 |
---|---|---|
下塗り | JIS K 5551に規定する B種又は C種 | JIS K 5551に規定する E種 |
中塗り | A種中塗り塗料 | B種中塗り塗料 |
上塗り | A種上塗り塗料の 1級,2級又は 3級 | B種上塗り塗料の 1級,2級又は 3級 |
塗り重ねで用いる下塗り塗料
JIS K 55512018 「構造物用さび止めペイント」
B 種:
有機溶剤を揮発成分とする反応硬化形エポキシ樹脂系塗料で,膜厚が約 60μmの厚膜形塗料。主に鋼構造物の長期防せい(錆)に用いるもの。
C 種:
1 号:有機溶剤を揮発成分とする反応硬化形変性エポキシ樹脂系塗料,又は反応硬化形変性ウレタン樹脂系塗料で,標準の膜厚が約 60μmの厚膜形塗料のうち,常温環境下で施工する,主に鋼構造物の長期防せい(錆)に用いるもの。
2 号:有機溶剤を揮発成分とする反応硬化形変性エポキシ樹脂系塗料,又は反応硬化形変性ウレタン樹脂系塗料で,標準の膜厚が約 60μmの厚膜形塗料のうち,低温環境下で施工する,主に鋼構造物の長期防せい(錆)に用いるもの。
E 種:
水を主要な揮発成分とする反応硬化形エポキシ樹脂系塗料で,膜厚が約 60μm の厚膜形塗料。主に鋼構造物の長期防せい(錆)に用いるもの。
中塗り塗料に求められる特性
JIS製品規格では,種類の注:c)で上塗り塗料の原料を指定しているが。中塗り塗料の原料には言及していない。種類の注:d)で下塗り,中塗り,上塗りの塗料組み合わせを表 4で指定している。指定された下塗り塗料に用いられるものは,反応硬化形エポキシ樹脂系塗料,反応硬化形変性エポキシ樹脂系塗料である。
すなわち,JIS製品規格では,中塗り塗料は,エポキシ樹脂系塗料とポリウレタン系樹脂,ふっ素系樹脂,又はシリコン系樹脂との付着が確保でき,品質規格を満足する材料であれば,樹脂種に制限されないことを意味する。
なお,鋼橋などの鋼構造物の塗装系をみると,道路分野の塗装系 C-5 や鉄道分野の塗装系 J,塗装系 JECO では,専用中塗り塗料として,エポキシ樹脂又はポリオールが指定されている。
【参考】
エポキシ樹脂(epoxy resin)
分子中にエポキシ基を 2個以上含む化合物を重合して得た樹脂状物質。エピクロヒドリンとビスフェノールとを重合して作ったものなどがある。【JIS K5500「塗料用語」】
プレポリマーのエポキシ基(エポキシド,epoxide)で架橋ネットワーク化させることで硬化させることが可能な熱硬化性樹脂。プレポリマーも製品化した樹脂ともエポキシ樹脂と呼ばれる。プレポリマーの組成は種々あるが,ビスフェノールAとエピクロルヒドリンの共重合体が多用されている。
硬化剤にはポリアミンや酸無水物が使用される。プレポリマーの組成と硬化剤の種類との組み合わせで多様の物性の実現が可能であること,寸法安定性,耐水性・耐薬品性及び電気絶縁性が高いことから電子回路の基板,封入剤,接着剤,塗料,FRPの積層剤として利用されている。
ポリオール(poriol)
複数の水酸基(ヒドロキシ基,ヒドロキシル基)を持つ単量体(ポリオール)には多種多様のものがある。ポリウレタンの製造に用いられるポリオールは,分子種により,ポリエーテルグルコール,ポリエステルポリオール,ポリマーポリオールの 3 種に大別される。
イソシアネート(isocyanate)
イソシアナート,イソシアン酸エステルなどともいい,イソシアネート基( −N=C=O )を持つ化合物の総称。一般には有機化合物を指すが,イソシアネートイオンの窒素に金属が配位した無機塩を指すこともある。
ポリウレタン樹脂(polyurethane resin)
連鎖中の繰返し構造単位がウレタンの形のそれからなる重合体,又はウレタン及びその他の形式の繰返し構造単位がその連鎖中に存在する共重合体,を主成分とするプラスチック。【JIS K 6900「プラスチック−用語」】
多官能イソシアネート類と反応性ヒドロキシル基をもつ化合物との反応によって作られる合成樹脂。【JIS K5500「塗料用語」】
ポリウレタンとは,ウレタン結合を有するポリマーの総称である。ウレタン結合は,多官能イソシアネート類と水酸基などの活性水素を有する化合物ほ付加反応により生成される。ウレタン結合:R‐NH-COOR‘は,イソシアネート基(-N=CO)とアルコール基(‐R‐OH)が縮合してできる。イソシアネートは,水(反応しやすい)やカルボキシル基と反応し CO2発生で発泡する。
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