防食概論塗装・塗料

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 ここでは,塗膜の品質試験の評価・判定に用いられる塗膜変状について 【塗膜劣化評価とは】, 【塗膜変状の JIS評価規格について】, 【塗膜変状の種類と概要】 に項目を分けて紹介する。

 塗膜の評価(塗膜劣化評価;塗膜変状)

 塗膜劣化評価とは

 塗膜の品質試験では,試験結果の評価,判定塗膜外観の変状を取り上げている。評価・判定では,変状の有無で行う場合と変状の程度により行う場合がある。次には,塗膜の品質試験における塗膜外観の評価・判定方法の例を示す。
 形成塗膜の基本特性に関わる品質
 塗膜の外観
 試験片を目視による観察によって評価し,割れ・はがれ・膨れを認めず,色・つや,平らさ,流れ,つぶ,しわ,むら及びの程度が見本品に比べて差異が大きくないとき,“正常である”とする。
 上塗り適合性(overcoatability)
 目視による外観の観察によって,上塗り塗膜に,はじき,割れ,穴,膨れ及び剝がれを認めず,原状試験片に比べて,つや,粘着及びしわの程度の差異が大きくないときは,上塗り適合性は,“支障がない”とする。
 付着性(adhesive property, adhesion, adhesion test)
 クロスカット法:はがれの面積率,損傷を受けたマス目数などの変化程度の評価。
 プルオフ法:試験アセンブリの最も弱い境界面の破壊(界面破壊や,付着破壊という)か,又は最も弱い構成要素の破壊(凝集破壊という)に必要な最小張力。
 層間付着性(interlayer adhesion)
 耐屈曲性:目視によって評価し,塗膜に割れ・素地からのはがれを認めないときは,“折曲げに耐える”とする。
 塗面を目視によって観察し評価する。塗膜の層間にはがれがないか,又はあっても切りきずから直角な方向に長さ約 2 mm以下のときは,“異常がない”とする。
 柔軟性(可とう性)(flexibility)
 耐カッピング性:押し込みによって塗膜の割れ及び/又は素地からのはがれが起こる最小膜厚での評価
 耐衝撃性(impact resistance, shock resistance, chip resistance)
 試験板の衝撃的変形による塗膜の割れ・はがれを認めないとき, 衝撃によって割れ・はがれができない。とする。
 
 塗膜の耐久性に関わる品質
 耐水性(water resistance, waterproof)
 目視によって観察し,試験片 2 枚の液面から大気に出た幅約 10mm の部分を含み,塗膜に,しわ,膨れ,割れ,及びはがれを認めず,更に 2 時間置いた後の塗膜を原状試験片と比べて,つやの変化,くもり,及び変色の程度が大きくないときは,“水に浸したとき異常がない。”とする。
 耐アルカリ性(alkaliproof, alkali resistance, alkali resistance test)
 目視によって塗膜を調べ,液面から幅約 10mm 外部(大気)に出た部分を含む塗膜に,膨れ,割れ,はがれ,穴,軟化を認めないとき,“異常がない。”とする。
 耐酸性(acid resistance, fastness to acid, acidproof)
 目視によって観察し評価する。試験片の塗膜に膨れ・割れ・はがれ・穴を認めず,原状試験片と比べ色の変化の程度が大きくないときは,“異常がない。”とする。
 耐揮発油性(gasoline resistance)
 目視によって塗膜を調べ,液面から外部(大気)に出た 10mm を含む塗膜に,しわ,膨れ,割れ,及びはがれを認めず,更に液の着色,及び濁りの程度が大きくないときは,“異常がない。”とする。
 耐塩水性(salt water resistance)
 目視によって塗膜を調べ,塗膜に,膨れ,さび,割れ及びはがれを認めないときは,“塩化ナトリウム溶液に浸しても異常がない。”とする。
 耐中性塩水噴霧性(resistance to neutral salt spray)
 2枚の試験片の双方の塗膜に,赤さび及び膨れを認めないときは,塩水噴霧に耐える。とする。
 耐湿性(moisture resistance, humidity resistance, resistance to humidity)
 試験後取り出した直後の観察,及び室内に 2時間静置した後の観察によって,塗膜にしわ,膨れ,割れ,さび,はがれなどが認められず,2時間静置した後の観察でくもり,白化,変色などがないときは,“耐湿性に異常がない”とする。
 耐湿潤冷熱繰返し性(humidity and cool-heat cycling test)
 目視によって観察し,塗膜に膨れ,割れ及び剝がれを認めず,光沢保持率が 80%以上あるときは,“湿潤冷熱繰返しに耐える”とする。
 屋外暴露耐候性(outdoor exposure test, natural weathering)
 評価:白亜化の等級は JIS K 5600-8-6「白亜化の等級」によって,膨れは JIS K 5600-8-2「膨れの等級」によって,剝がれは JIS K 5600-8-5「はがれの等級」によって,及び割れは JIS K 5600-8-4「割れの等級」 によってそれぞれ評価し,同時に屋外暴露耐候試験片と見本品屋外暴露耐候試験片とを目視によって直接比較して調べる。
 また,及びつやの変化の程度は,屋外暴露耐候試験片と原状試験片とについて,及び見本品屋外暴露耐候試験片と見本品原状試験片とについて,目視によって観察し,それぞれの変化の差を直接比絞して調べる。
 判定:評価によって,塗膜に,膨れ,剝がれ及び割れがなく,色の変化の程度は,見本品と比べて大きくなく,かつ,各等級によって白亜化の等級及び光沢保持率が,品質表に示した各等級の条件を満たしたとき“屋外暴露耐候性に耐える”とする。
 促進耐候性(accelerated weathering test, accelerated weathering, artificial weathering)
 評価:白亜化の等級は JIS K 5600-8-6「白亜化の等級」によって,膨れは JIS K 5600-8-2「膨れの等級」によって,剝がれは JIS K 5600-8-5「はがれの等級」によって,及び割れは JIS K 5600-8-4「割れの等級」 によってそれぞれ評価し,同時に屋外暴露耐候試験片と見本品屋外暴露耐候試験片とを目視によって直接比較して調べる。
 また,及びつやの変化の程度は,屋外暴露耐候試験片と原状試験片とについて,及び見本品屋外暴露耐候試験片と見本品原状試験片とについて,目視によって観察し,それぞれの変化の差を直接比絞して調べる。 <
 判定:評価の結果,膨れ,剝がれ及び割れの等級は 0であり,及びつやの変化の程度が見本品試験片に比べて大きくなく,また,白及び淡彩色では,白亜化の等級が 1又は 0のとき,“促進耐候性試験に耐える”とする。
 サイクル腐食性(resistance to cyclic corrosion conditions)
 目視によって,塗膜のさび,膨れ,割れ,及び剥がれの有無を観察する。判定は,試験片 3 枚のうち 2 枚の塗膜にさび,膨れ,割れ及び剥がれを認めないとき,“さび,膨れ,割れ及び剥がれがない。”とする。

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 塗膜変状の JIS評価規格について

 品質試験の結果判定に用いる“塗膜劣化の程度評価”は,厳密に規定された方法で実施しなけらばならない。
 このため,JIS 規格では,基本的な塗膜劣化の考え方,主な塗膜劣化の評価項目について国際規格( ISO )との整合を図った評価方法がシリーズ化されている。
 JIS K 5600-8-1 「塗料一般試験方法−第 8部:塗膜劣化の評価−第 1節:一般的な原則と等級
 JIS K 5600-8-2 「塗料一般試験方法−第 8部:塗膜劣化の評価−第 2節:膨れの等級」
 JIS K 5600-8-3 「塗料一般試験方法−第 8部:塗膜劣化の評価−第 3節:さびの等級」
 JIS K 5600-8-4 「塗料一般試験方法−第 8部:塗膜劣化の評価−第 4節:割れの等級」
 JIS K 5600-8-5 「塗料一般試験方法−第 8部:塗膜劣化の評価−第 5節:はがれの等級」
 JIS K 5600-8-6 「塗料一般試験方法−第 8部:塗膜劣化の評価−第 6節:白亜化の等級」
 
 【参考】
 塗膜劣化(coating film degradation)
 外的要因(環境,事故等)で初期の塗膜性能が低下すること。防食塗装塗膜では,さび,膨れ,割れ,はがれなどが,景観を重視する塗膜では,変退色,光沢低下,白亜化などが注目される塗膜性能である。
 変状(塗膜)(harmful alteration, deformation )
 一般的には,普通と異なる状態を意味する。
 構造物の維持管理では,あるべき健全な状態から性能が低下している状態。(道路では損傷という)
 塗装・塗膜管理では,塗膜のあるべき健全な状態から性能が低下している状態。
 等級(degree, designation of degree, rating schemes, classify, grade)
 上下・優劣の順位を表す段階。
 さびの等級(designation of degree of rust)
 塗膜のさびの程度を,基準図版による等級見本と比較し,評価された等級。基準図版は,塗膜を貫通したさび,及び明らかな塗膜下からのさびとの組合せによって,種々の等級に劣化させた塗装鋼板面の状態を示す。
 膨れの等級(designation of degree of blistering)
 塗膜の膨れの程度を,基準図版による等級見本と比較し,評価された等級。基準図版では,膨れの大きさを等級 2,3,4 及び 5,並びに膨れの量(密度)を等級 2,3,4 及び 5 と等級付けして,図示している。
 割れの等級(designation of degree of cracking)
 塗膜の割れの程度を,割れの形式(割れの深さ)により,a) 上塗りを貫通していない表面割れ,b) 上塗りは貫通しているが,その下の塗膜は割れなし,c) 全塗膜層を貫通している割れに分類し,それぞれについて図版を参考に,割れの密度の等級付けをすると共に,割れの平均の大きさの等級をつける。
 はがれの等級(designation of degree of flaking)
 塗膜のはがれ程度を,図版を参考に,はがれの量(面積),はがれで露出した個々の面積の平均の大きさ,はがれの深さ(はがれた部位)で等級付けする。
 白亜化の等級(assessment of degree of chalking)
 塗膜の白亜化の程度を,塗膜表面に貼り付けた粘着テープを剝がし,テープに付着した微粉を,微粉が目立つ背景色(白又は黒)の上で目視観察し,標準図版と比較して等級を付ける。

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 塗膜変状の種類と概要

 塗膜外観を評価する際に用いられる主な用語の概要を紹介する。

 JIS K5500「塗料用語」

 変色(塗膜の)(tarnish, tarnishing, discoloration, discoloring)
 塗膜の色の色相・彩度・明度のどれか一つ又は一つ以上が変化する現象。主として彩度が小さくなり,又は更に明度が大きくなる現象を退色という。
 色差(color difference)
 色の知覚的な相違を定量的に表したもの。
 色むら(塗膜の)(mottle,irregular color)
 塗膜の色が部分的に不均等な状態。塗料の欠陥,塗装の欠陥,塗膜の成分の分解,変質などで起こる。
 つや(艶)(gloss)
 物体の表面から受ける正反射光成分の多少によって起こる感覚の属性。一般に,正反射光成分が多いときに,つやが多いという。塗膜では,光沢度計を用いて,入射角/反射角を 45度/45度,60度/60度などとして鏡面光沢度を測定して,つやの大小の目安とする。
 割れ(塗膜の)(crack, craking)
 老化の結果,塗膜に現れる部分的な裂け目。ISO(International Organization for Standardization)では,割れの方向性の有無,発生密度,割れの幅と深さによって評価する。また,割れの形態によっても区分する。
 備考:ヘアクラック,わに皮割れ及びからす足状割れは,割れの形状の自明な例。塗膜に現れる部分的な割れの状態によって,次のように分ける。程度の低いもの,浅いものから,ヘアクラック,チェッキング,クレージング,わに皮割れ,深割れ,からす足状割れ。
 はがれ(塗膜の)(peeling, flaking, scaling)
 付着性が失われてある広さの膜が自然に素地から分離する現象。一般に,割れ,膨れが生じた後に,付着性が失われた結果,塗装系の 1層,又はそれ以上の塗膜が下層塗膜から,又は塗装系全体が素地からはがれる。
 備考:“peeling”はリボン,又はシート状の大きなはがれ,”flaking”はりん片状の小さなはがれ,”scaling”はスケール状の大きなはがれをいうこともある。なお,”scaling”ははがれの他にさび落としの意味にも用いられる。
 ピンホール(塗膜の)(pore, pinhole)
 塗膜に針で作ったような小さな孔がある欠陥。肉眼で見分けられる程度の小さな孔をいう。
 へこみ(塗膜の)(cratering)
 クレーターともいい,乾燥後の膜の表面にできる小さな円形のくぼみ。
 フィッシュアイ(塗膜の)(fish eyes)
 塗膜にできる中心に小粒子の異物があるクレーター(へこみ)。
 膨れ(blister)
 塗膜に泡が生成する現象。水分・揮発成分・溶剤を含む面に塗料を塗ったとき,又は塗膜形成後に,下層面にガス,蒸気,水分などが発生,侵入したときなどに起こる。発生した膨れは,その大きさと密度を調べる。
 レベリング(塗膜の)(leveling)
 塗料を塗った後,塗料が流動して,平らで滑らかな塗膜ができる性質。塗膜の表面に,はけ目・ゆず肌・うねりのような微視的な高低が多くないことを見て,レべリングがよいと判断する。
 はけ目(塗膜の)(brush marks, brush mark)
 展性の悪い塗料をはけで塗ったとき,はけ目が消えずに残る現象。ロピネスの項参照。
 ロピネス(塗膜の)(ropiness)
 ある種の塗装方法で起こる欠陥。ぬれ塗膜の表面にレベリングが不十分なためにほぼ平行なしまができ,乾燥後もそのまま残る現象。はけ塗りの際,乾きかけにはけを通して残るはっきりしたはけ目はその典型的な例。
 ゆず肌(塗膜の)(orange peel)
 オレンジの表面の肌に似ている感じの塗膜の外観。吹付け塗りのときに,塗料の流展性の不足によって起こる塗料又は塗装上の欠陥。蒸発の遅い溶剤を添加するか,うすめ方を多くすれば,ゆず肌は少なくなる。塗膜について,”みかん肌”というのは適切ではない。
 流れ(sagging, running, runs, tears, droplets)
 小さなたるみ。不均等な垂直表面に塗ったとき,例えば,割れ,あななどに塗料が過剰に集まり,余った塗料が周囲の流動が止まってからも流動して起きる下方への細い塗料層の移動。移動距離の短いものは tears 又は droplets と呼ばれることもある。たるみの項参照。
 たるみ(塗膜の)(sags, sagging)
 垂直又は傾斜した面に塗料を塗ったとき,乾燥までの間に,塗料の層が下方に移動して起こる局部的な膜厚の異常。半円状,つらら状,波状又はカーテンのひだ状などになる現象をいう。厚く塗り過ぎたとき,塗料の流動特性の不適,大気状態の不適などによって起こりやすい。
 備考:小さな sags は流れ(runs),涙滴(tears),小滴(droplets)と呼ばれ,幅広のカーテンのひだ状の外観を呈する大きな sags はカーテン(curtains)と呼ばれる。
 しわ(塗膜の)(wrinkling, crinkling, shrivelling, rivelling)
 乾燥中に塗膜に発生するしわ。通常は上乾きが著しいときに,表面の面積が大きくなってできる。しわには,平行線状,不規則線状,ちりめんじわ状などがある。“ちぢみ”とはいわない。
 つぶ(bits, nibs)
 塗料中又は塗面に肉眼で見えるつぶ状のもの。主に,塗料の皮の小片,異物,又はビヒクルと顔料の凝結物などである。塗料中のつぶは,つぶゲージで調べる。
 白化(塗膜の)(blushing)
 塗料の乾燥過程で起こる塗膜の白化現象(ミルク状の乳白色を呈する現象)。溶剤の蒸発で空気が冷やされ,その結果,凝縮した水分が塗料の表層に浸入し,又は溶剤の蒸発中に混合溶剤間の溶解力の均衡が失われて,塗膜成分のどちらかが析出するために起こる。通常,ラッカーなど揮発乾燥形塗料に起こりやすい。高湿で起こるものを”moisture blushing”といい,セルロース誘導体が析出する現象を”cotton blushing”といい,樹脂が析出する現象を”gum blushing”という。

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