防食概論塗装・塗料

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 ここでは,塗膜の耐久性評価に用いられる複数の環境因子を繰り返す試験の一種で,水と温度を因子とする 【湿潤冷熱繰り返し性とは】, 【 JIS試験規格概要】, 【塗料製品規格での扱い】 に項目を分けて紹介する。

 塗膜の評価(塗膜耐久性;湿潤冷熱繰り返し性)

 耐湿潤冷熱繰返し性とは

 耐湿潤冷熱繰返し性(humidity and cool-heat cycling test)は,環境因子繰り返し性に分類されるサイクル試験の一種で,濡れた状態の塗膜が低温と高温の温度衝撃の繰り返しに対する抵抗性(付着性,割れ,ふくれ)である。

 環境因子繰り返し性

 試験目的に応じて選択された複数の環境因子を組み合わせ,材料の変化(変質,変状,劣化)に対する抵抗性。環境因子の組み合わせにより多数の試験方法が考案されている。これらを総称して人工環境試験(artificial environmental testing)という。人工環境試験に耐える塗膜の性質を総称して環境因子繰り返し性という。
 環境因子を組み合わせて塗膜の抵抗性を評価する試験で用いられる気象因子には温度,湿度,降水(噴霧),紫外線(日射)が,大気汚染因子には海塩粒子(塩化ナトリウム)が用いられる。
 
 塗料・塗装分野では,これらの環境因子を組み合わせた環境因子繰り返し性として,濡れた塗膜に対し低温と高温を繰り返すことで,温度衝撃を与える耐湿潤冷熱繰返し性紫外線,温度,湿度の条件を組合せた促進耐候性,温度,湿度の条件を組合せたサイクル腐食性塗膜の耐久性評価に用いられている。
 
 【参考】
 人工環境試験(artificial environmental testing)
 材料の環境試験(environmental test)は,温度,湿度,汚染物質,振動などの環境因子が材料に与える影響を把握するために用いられる。環境試験には,使用される実際の環境において実施される実環境試験(actual environment testing),環境因子の中から人為的に選択されたものを用いた人工環境試験(artificial environmental testing)に分けられる。
 実環境試験では,材料と環境因子の相互作用を的確に把握できるが,長期間かけて変化する現象に関しては結果が得られるまで実時間と同じ長期間要する。
 材料開発など工学的に短期間で結果を得たい場合に,材料の変化に影響すると考えられる環境因子を選択し,その強度を高めた人工環境試験が実施される。
 人工環境試験は,温湿度環境試験,屋外環境試験,機械環境試験に分けられる。温湿度環境試験には,熱衝撃試験,温度サイクル試験,温湿度サイクル試験などがある。屋外環境試験には,促進耐候性試験,複合サイクル試験,ガス腐食試験などがある。機械環境試験には,振動試験,複合環境振動試験,耐衝撃試験などがある。
 人工環境試験は,促進試験ともいわれるが,複数の環境因子の相乗効果など材料変化の機構が明確でない場合は,実環境試験結果と必ずしも整合しないが,材料間の相互比較などに有用なため広く用いられている。
 熱力学的温度(thermodynamic temperature)
 一般的には絶対温度と呼ばれることが多い。イギリスの物理学者,初代ケルビン男爵がカルノーサイクル(温度の異なる 2 つの熱源の間で動作する可逆熱サイクル)で出入りするエネルギーから温度目盛を構築できることを提唱したことから始まる。
 熱力学的温度は,カルノーサイクルの効率が 1 となる温度(これ以上冷やせない温度)を基準とする温度で,この基準の温度に到達するには無限の仕事が必要となるので,この温度を絶対零度( 0 K ,-273.15 ℃)という。
 温度の単位は,ケルビン( K )を用いる。温度目盛の間隔は,セルシウス度と同じ,即ち 1 K = 1 ℃である。現在は,物質量の比により厳密に定義(国際度量衡委員会)された同位体組成を持つ水の三重点( triple point : 0.01 ℃ ,273.16 K )の熱力学温度の 1/273.16 を 1 ケルビン( K )と定義している。

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 JIS試験規格概要

  JIS K 5600-7-4「耐湿潤冷熱繰返し性」

 適用範囲
 この規格は,塗膜が湿潤,又は浸せきの状態を経た後,温度変化を受けた場合の塗膜の変化を調べる試験方法について規定する。
 装置
 恒温恒湿槽: 耐湿性連続結露法の回転式に規定する湿潤箱装置(温度 50±1℃,相対湿度 95%以上)
 低温槽: 試験条件に規定する低温( -20±2℃)に設定できるもの。
 高温槽: 試験条件に規定する高温( 50±3℃)に設定できるもの。
 試験片の作製(抜粋)
 試験板は,150×70×0.8mmの鋼板。
 ほかに規定のない場合は,試料を試験板の片面にJIS K 5600-1-4「試験用標準試験板」によって,試料の製品規格に規定する方法で塗装した後,乾燥したものを試験片とする。
 操作
 試験片を次のサイクル試験条件で,試験した後,拡散昼光の下で塗膜の異常の有無を調べる。サイクルの繰返し数は,ほかに規定がなければ,10サイクルとする。
 サイクル試験条件
 試験条件には,湿潤条件で濡らした塗膜を用いる方法,水に浸漬した塗膜を用いる方法の 2 手法が規定されている。それぞれの試験条件を次に示す。
 条件 1): 湿潤( 50±1℃,95%RH,18 時間),低温( -20±2℃,3 時間),標準状態( 23±2℃,50±5%RH,3 時間)
 条件 2): 水浸漬( 20±2℃,18 時間),低温( -20±2℃,3 時間),高温( 50±3℃,3 時間)
 評価
 試験片に,さび,割れ,はがれ,白化などを認めないときは,“湿潤冷熱繰返しに耐える”と評価をする。

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 塗料製品規格での扱い

 防食塗装用塗料(JIS製品)において,品質項目に“環境因子繰り返し性”を規定するのは,下塗り塗料JIS K 5674 「鉛・クロムフリーさび止めペイント」,及びJIS K 5551 「構造物用さび止めペイント」,中・上塗り塗料JIS K 5516 「合成樹脂調合ペイント」,及びJIS K 5659 「鋼構造物用耐候性塗料」である。
 下塗り塗料では,防食性能を評価する“サイクル腐食性”が規定されている。中・上塗り塗料では,“耐湿潤冷熱繰返し性”と“促進耐候性”が規定されている。

 JIS K 5659 「鋼構造物用耐候性塗料」

 7.18 耐湿潤冷熱繰返し性の試験は,次による。
 a) 試験片の作製:試験片の作製は,7.16の a)及び b)による。
 b) 試験方法
 1) 試験片 2枚を 23±1℃の水中に 18時間浸した後,直ちに −20±3℃に保った恒温槽で 3時間冷却し,次に,50±3℃に保った別の恒温槽で 3時間加温する。この操作を 10回繰り返す。なお,繰返し操作の途中で試験を中断する場合は,50±3℃で 3時間加温した後とし,試験期間は 4週間を超えてはならない。
 2) 標準状態に約1時間置いた試験片を,原状試験片とともに鏡面光沢度(60度)を測定し,光沢保持率を算出する。
 c) 評価及び判定: 試験片 2枚について,目視によって観察し,塗膜に膨れ,割れ及び剝がれを認めず,光沢保持率が 80%以上あるときは,“湿潤冷熱繰返しに耐える”とする。
 
 7.16 耐アルカリ性
 a) 試験板7.3 b) 1)による。ただし,大きさは 150mm×70mm×0.8mmとし,3枚とする。
 b) 試験片の作製:試験板の片面に JIS K 5551 「構造物用さび止めペイント」に規定するさび止めペイントを下塗り塗料として,乾燥膜厚が 55μm~65μm になるように吹付け塗りで 1回塗装し,室内に 1日放置後,中塗り塗料7.3 b) 3)の方法で 1回塗り,更に1日放置後,上塗り塗料を 7.3 b) 3)の方法で 1回塗り重ねる。室内に 7日間置いたものを試験片とする。
 
 7.3 試験の一般条件は,次による。
 b) 試験板の作製
 1) 試験板: 研磨によって調整した SPCC-SB の鋼板とする。
 2) 試料の調整: 1液形の場合は,かくはん(攪拌)し,均一の液体とする。多液形の場合は,均一にした主剤,硬化剤などを,その製品の製造業者が指定する混合比率で混合し,更にかくはん(攪拌)によって均一にする。多液形塗料は,混合したときから A種は 5時間を過ぎたもの,B種は 3時間を過ぎたものは,試験に用いてはならない。
 3) 試料の塗り方: 2)で調製した試料を使用直前によくかくはん(攪拌)し,直ちに試験板の片面にエアスプレー塗りで 1回塗る。塗付け量は,7日間乾燥後の乾燥膜厚を測定し,中塗りのときは 25μm~35μm,上塗りのときは 20μm~30μm になるようにする。
 4) 乾燥方法: 自然乾燥による。試験までの乾燥時間は,7日間とする。

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