防食概論塗装・塗料

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 ここでは,道路の鋼橋塗装に適用される防食塗装について, 【溶融亜鉛めっき用塗装系・仕様】, 【亜鉛めっき面用塗料の品質】, 【ふっ素樹脂系塗料の品質】 に項目を分けて紹介する。

 道路橋の防食塗装(新設塗装)

 溶融亜鉛めっき用塗装系

 防食便覧 2005;第Ⅱ編 塗装編 第 2章 防食設計・新設塗装仕様, 溶融亜鉛めっき面の塗装

 鋼道路橋では様々な目的から溶融亜鉛めっきを施した上に塗装を施工する場合がある。主な目的は次の通りである。
 1) 景観調和のための塗装:併用される他の材料との調和,市街地などでは周囲の色彩調和(手すり,高欄,照明柱など)
 2) 補修困難な構造物への耐久性の付与:再めっきで補修を行うことが困難なため
 3) 激しい腐食環境での長期耐久性の保持:海岸地帯などの飛来塩分の多い激しい腐食環境では早期に亜鉛が消耗する。長期耐久性を保持するため亜鉛めっき面に施す塗装には耐薬品性があり透水性の小さな塗料を用いる必要がある。

 塗装仕様

 素地調整
 目的
 溶融亜鉛めっき面に塗装する場合,塗装前の素地調整は安定した塗膜の密着性を確保する上で極めて重要である。
 塗膜の付着を阻害するものとしては,一般的な汚れの他に,溶融亜鉛めっき工程などで生じたフラックス残潰,油脂類などの様々な付着物や異物および,溶融亜鉛めっき面の凹凸などの表面性状がある。めっき面の表面性状に影響を及ぼす要因にはスパングル,酸化膜,合金層などがある。
 塗装前処理はこれら密着性に影響する付着物等を除去したり,溶融亜鉛めっき面を密着性が得られる安定な形に整えたりする目的で塗装前に行う。
 素地調整方法
 適用できる素地調整方法には次のものがあり,塗装目的に応じて選択する。
 1)研磨処理(パワーツール処理)
 塗膜の密着性に影響する塩化物,白さび,よごれや油分の物理的除去として最も一般的な方法である。研磨処理は,最も安価であり作業性は良い。しかし,塗膜の密着性にばらつきが生じることが多いので十分な処理が必要である。
 2)スィープブラスト処理
 スィープブラスト処理とは,除錆度 ISO Sa 1 程度で軽く仕上げる方法を言う。ブラスト処理を行う場合は亜鉛皮膜がはく難しないように,また研削し過ぎないように注意する必要かある。
 3)りん酸塩処理
 りん酸塩処理は,亜鉛めっき表面に不活性なりん酸塩の緻密な結晶を形成させることで,塗装面をめっき面よりも化学的に安定で,かつ塗膜付着性がよい適度な組さを得ることができる方法である。りん酸塩処理は溶融亜鉛めっき後速やかに行う必要がある。
 下塗り塗装
 ブラスト処理後は 4 時間以内,りん酸塩処理の場合は 7 日以内
 外面用 ZC-1 塗装系,及び内面用 ZD-1 塗装系亜鉛めっき面用エポキシ樹脂塗料下塗:使用量 200g/m2(膜厚 40μm)
 中塗り塗装
 下塗り塗装後 1 日以上 10 日以内
 外面用 ZC-1 塗装系ふっ素樹脂塗料用中塗:使用量 170g/m2(膜厚 30μm)
 内面用 ZD-1 塗装系:中塗り塗装なし
 上塗り塗装
 塗装後 1 日以上 10 日以内
 外面用 ZC-1 塗装系ふっ素樹脂塗料上塗:使用量 140g/m2(膜厚 25μm)
 内面用 ZD-1 塗装系変性エポキシ樹脂塗料内面用:使用量 210g/m2(膜厚 60μm)
 
 【備考】
 溶融亜鉛めっきに適用する塗装系には,外面用の ZC-1 塗装系と箱げた等の内面に用いる ZD-1 がある。
 素地調整において,ブラスト処理が困難な場合は,りん酸塩処理を採用する。
 不めっき部(めっき出来なかった部位)は,無機ジンクリッチペイントで補修する。
 
 【参考】
 除せい(錆)度(preparation grade)
 ある(素地調整)方法によって得られる清浄仕上げの品質水準を説明する分類。
 JIS Z 0313-1998「素地調整用ブラスト処理面の試験及び評価方法」では,除せい度とそれに対する鋼材表面の状態を次のように定義している。
 Sa1 : 拡大鏡なしで,表面には,弱く付着したミルスケール,さび,塗膜,異物及び目に見える油,グリース,泥土がない。
 Sa2 : 拡大鏡なしで,表面には,ほとんどのミルスケール,さび,塗膜,異物及び目に見える油,グリース,泥土がない。残存する汚れのすべては,固着している。
 Sa2 1/2 : 拡大鏡なしで,表面には,目に見えるミルスケール,さび,塗膜,異物,油,グリース及び泥土がない。残存するすべての汚れは,そのこん跡が斑点又はすじ状のわずかな染みだけとなって認められる程度である。
 Sa3 : 拡大鏡なしで,表面には,目に見えるミルスケール,さび,塗膜,異物,油,グリース及び泥土がなく,均一な金属色を呈している。ブラストに先立って,厚いさび層,油,グリースや泥土は除去する。
 この規格は,ISO8501-1( Rust grades and preparation grades of uncoated steel substrates and of steel substrates after overall removal of previous coatings. )に整合しており,判定はISO規格の写真集と比較して行うことになっている。
 一方,比較的使用例の多い米国の規格,SSPC (Steel Structures Painting Council): 「米国鋼構造物塗装協会で規格するブラスト仕上げ等級」では,除せい度の等級は,次のように規定している。
 White Metal Blast Cleaning(完全ブラスト処理:SP5) : 全ての錆・ミルスケール・ 塗料その他異物を除去する。  ISO規格のSa3相当
 Near-White Blast Cleaning(準完全ブラスト処理:SP10) : 全ての異物を完全に除去。極めて軽微なくもり・条痕,錆の染み・ミルスケール・酸化物等の軽微な残滓は容認。1平方インチ当たり95%以上は残滓がないこと。ISO規格のSa2 1/2相当
 Commercial Blast Cleaning(経済的ブラスト処理:SP6) : 少なくとも1平方インチ当たり2/3は錆・ミルスケールの残滓がないこと。ISO規格のSa2相当
 Brush-off Blast Cleaning(スイープブラスト処理:SP7) : 固く付着したミルスケール,錆及び塗膜の残滓を除き全ての異物を除去する。ISO規格のSa1相当。

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 亜鉛めっき面用塗料の品質

 防食便覧 2005;付属資料 鋼道路橋塗装用塗料標準
 亜鉛めっき面用エポキシ樹脂塗料下塗

 エポキシ樹脂,硬化剤,顔料および溶剤をおもな原料とした 2液形の塗料で,亜鉛めっき面用の下塗り塗装に使用するもの。
 
 下表には,亜鉛めっき面用エポキシ樹脂塗料下塗塗料品質,比較のためエポキシ樹脂塗料下塗 A種(常温用)変性エポキシ樹脂塗料内面用 A種(常温用)JIS K 5551「構造物用さび止めペイント」 B種(エポキシ,常温用),C種 1号(変性エポキシ,常温用)の品質も紹介する。
 エポキシ樹脂塗料下塗は,エポキシ樹脂,硬化剤,顔料および溶剤をおもな原料とした 2液形の塗料で,下塗り塗装に使用するもので,施工時の気温 10℃以上で使用する A種,気温 5~20℃程度で使用する B種がある。
 変性エポキシ樹脂塗料内面用は,エポキシ樹脂,ポリオール樹脂,変性樹脂,顔料,硬化剤 および溶剤をおもな原料とした 2液形の塗料で,箱桁の内面等に使用するもので,施工時の気温 10℃以上で使用する A種,気温 5~20℃程度で使用する B種がある。
     
亜鉛めっき面用エポキシ樹脂塗料下塗
  項  目    めっき面用    エポキシ下 A種    内面用 A種    JIS B種    JIS C種 1号 
  容器の中での状態    かき混ぜたとき,堅い塊がなくて一様になる。 
  混合性    均等に混合する。    ― 
  半硬化乾燥性    ―    常温 16時間 
  乾燥性    23℃で 16時間以内    23℃で 24時間以内    ― 
  塗装作業性    支障がない。 
  塗膜の外観    正常である。 
  ポットライフ    23℃ 5時間 
  たるみ性    たるみがない。    ―    たるみがない。 
  上塗り適合性    支障がない。    ―    支障がない。 
  耐衝撃性    デュポン式300g,300mm    デュポン式500g,300mm    デュポン式300g,500mm 
  耐屈曲性    折り曲げに耐えること。    ― 
  付着性    分類 1以下    ―    分類 1以下 
  耐湿性    ―    50℃95%RH120h時間    ― 
  耐水性    168時間    ― 
  耐熱性    ―    外観正常,付着性分類2,1,0 
  塩水噴霧試験    168時間    192時間    ― 
  サイクル腐食性    ―    120サイクル 
  混合塗料中の溶剤不溶物
(質量分率%) 
  30以上    ― 
  混合塗料中の加熱残分
(質量分率%) 
  55以上    60以上    ― 
  塗膜中の鉛の定量
(質量分率%) 
  ―    0.06以下 
  塗膜中のクロムの定量
(質量分率%) 
  ―    0.03以下 
  エポキシ樹脂の定性    ―    エポキシ樹脂を含むこと    ― 
  屋外暴露耐候性    ―    24か月    ―    24か月 

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 ふっ素樹脂系塗料の品質

 防食便覧 2005;付属資料 鋼道路橋塗装用塗料標準
 ふっ素樹脂塗料用中塗

 エポキシ樹脂またはポリオール樹脂,またはふっ素樹脂, 顔料,硬化剤および溶剤をおもな原料とした 2液形の塗料で,中塗の塗装に使用するものである。本塗料は JIS K5659:2002 鋼構造物用ふっ素樹脂塗料に準拠する。
 2008年に,それまでの鋼構造物用上塗り塗料の製品規格であった JIS K 5657「鋼構造物用ポリウレタン樹脂塗料」と JIS K 5659「鋼構造物用ふっ素樹脂塗料」を統廃合し,性能規格の JIS K 5659「鋼構造物用耐候性塗料」に改定された。
 品質
 下表には,ふっ素樹脂塗料用中塗塗料品質,比較のため JIS K 56592018「鋼構造物用耐候性塗料」の品質を紹介する。

ふっ素樹脂塗料用中塗の品質
  項  目   ふっ素樹脂塗料中塗  JIS K 5659 中塗り
  容器の中での状態    かき混ぜたとき,堅い塊がなくて一様になる。 
  低温安定性(-5℃)    -    変質しない。( B種のみ) 
  表面乾燥性    -    表面乾燥する。(常温8時間後,低温5℃16時間後) 
  乾燥時間    23℃ 8時間以下,5℃ 16時間以下    - 
  塗膜の外観    正常である。 
  ポットライフ    規定時間(5時間)後,使用できる。 
  隠ぺい率    白・淡彩は 90以上,鮮明な赤及び黄は 50以上,その他の色は 80以上 
  上塗り適合性    支障がない。 
  耐屈曲性    -    折曲げに耐える。(10mmマンドレル) 
  耐おもり落下性(デュポン式)    塗膜に割れ及びはがれが生じない。(デュポン式500g,300mm)    塗膜に割れ及びはがれが生じない。(デュポン式300g,500mm) 
  層間付着性 Ⅰ    異常がない。 
  層間付着性 Ⅱ    異常がない。 
  耐アルカリ性    異常がない。(水酸化カルシウム水) 
  耐酸性    異常がない。(硫酸水) 
  耐湿潤冷熱繰返し性    湿潤冷熱繰返しに耐える。 
  混合塗料中の加熱残分 %    白・淡彩は 60以上,その他の色は 50以上 

 

 ふっ素樹脂塗料上塗

 ふっ素樹脂,顔料,硬化剤および溶剤をおもな原料とした 2液形の塗料で,上塗の塗装に使用するものである。本塗料は JIS K5659:2002 鋼構造物用ふっ素樹脂塗料に準拠する。
 2008年に,それまでの鋼構造物用上塗り塗料の製品規格であった JIS K 5657「鋼構造物用ポリウレタン樹脂塗料」と JIS K 5659「鋼構造物用ふっ素樹脂塗料」を統廃合し,性能規格の JIS K 5659「鋼構造物用耐候性塗料」に改定された。
 品質
 下表には,ふっ素樹脂塗料上塗塗料品質,比較のため JIS K 56592018「鋼構造物用耐候性塗料」上塗り 2級(ポリウレタン樹脂塗料相当)の品質を紹介する。

ふっ素樹脂塗料上塗の品質
  項  目   ふっ素樹脂塗料上塗  JIS K 5659 上塗り 2級
  容器の中での状態    かき混ぜたとき,堅い塊がなくて一様になる。 
  低温安定性(-5±2℃)    -    変質しない。( B種のみ) 
  表面乾燥性    -    表面乾燥する。(常温 8 時間後,低温 5 ℃ 16 時間後) 
  乾燥時間    23℃で 8時間以下,5 ℃で 16時間以下    - 
  塗膜の外観    塗膜の外観が正常であるものとする。 
  ポットライフ    規定時間(5 時間)後,使用できる。 
  隠ぺい率    白・淡彩は 90以上,鮮明な赤,及び黄は 50以上,その他の色は 80以上 
  鏡面光沢度(60度)    70 以上 
  耐屈曲性    -    折曲げに耐える。( 10mmマンドレル) 
  耐おもり落下性 
  (デュポン式) 
  塗膜に割れ,及びはがれが生じない。(デュポン式 500g,300mm)    塗膜に割れ,及びはがれが生じない。(デュポン式 300g,500mm) 
  層間付着性 Ⅱ    異常がない。 
  耐アルカリ性,耐酸性    -    異常がない。(水酸化カルシウム水,硫酸水) 
  耐湿潤冷熱繰返し性    湿潤冷熱繰返しに耐える。 
  混合塗料中の加熱残分 %    白・淡彩は 50 以上,その他の色は 40 以上 
  主剤溶剤可溶物中の 
  ふっ素の定量 % 
  15以上    - 
  促進耐候性    塗膜に,膨れ・はがれ・割れがなく,光沢保持率は照射時間 1000時間の場合は 80%以上,照射時間 300時間の場合は 90%以上で色の変化の程度が見本品に比べて大きくなく,白亜化の等級が 1以下とする。    照射時間 1000 時間で塗膜に割れ・はがれ・膨れが無く,色の変化が大きくなく,白亜化の等級が 1 又は 0,光沢保持率 80%以上。 
  屋外暴露耐候性 
  (24か月) 
  塗膜に膨れ・はがれ・割れがなく,光沢保持率は 60%以上で色の変化の程度が見本品に比べて大きくなく,白亜化の等級が 2以下とする。    塗膜に割れ・はがれ・膨れが無く,色の変化が大きくなく,白亜化の等級が 2,1 又は 0 ,光沢保持率 40%以上。 

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