防食概論塗装・塗料

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 ここでは,塗料・塗膜の特性に大きく影響する塗膜構成要素,すなわち【顔料】, 【塗料色の選択】, 【色合せ(調色)】, 【主な着色顔料】 に項目を分けて紹介する。

 塗料概論(塗料の構成要素)

 顔料

 顔料(pigment;ピグメント)
 一般に水や有機溶剤に溶けない微粉末状で,光学的,保護的又は装飾的な性能によって用いられる物質。無彩又は有彩の,無機又は有機の化合物で,着色,補強,増量などの目的で塗料,印刷インキ,プラスチックなどに用いる。屈折率の大きいものは隠ぺい力が大きい。
 備考:特殊な場合には,例えば,防せい顔料では,ある程度の水溶性が必要とされることがある。【JIS K5500「塗料用語」】
 
 顔料は,腐食抑制機能の付与を目的とする防せい顔料・さび止め顔料(rust preventive pigment, rust inhibitive pigment),厚塗り性,隠ぺい性等の付与や改善を目的とする体質顔料(filler, extender pigment),色彩の付与を目的とする着色顔料(color pigment),その他の強度,弾性,導電性などの機械・物理特性の付与や改善を目的とする特殊顔料(special pigments)に分類される。

 塗料色の選択

 意図的な色づけが必要な塗料は,上塗り塗料(top coat)である。中塗り塗料(intermediate coat)は,上塗り塗料との関係から色づけが必要になることが多い。
 下塗り塗料(undercoat, priming coat)がさび止めペイント(anticorrosive paint, rust inhibiting paint)の場合には,用いたさび止め顔料の色をあえて変える必要がないので,そのままの色で用いるのが通常である。その他の下塗り塗料においても,塗り忘れ防止以外の意図的な色づけの必要は少ない。ただし,その上に用いる中塗り塗料,上塗り塗料の隠ぺい力(hiding power)が低い場合には,最終外観に影響しない色を選ぶ場合もある。
 
 中塗り塗料の色と下塗り塗料との色差(color difference)が小さい場合,すなわち同系色の場合に,中塗り塗料の塗り忘れが知覚しにくい。一方で,上塗り塗料との色差が大きい場合,上塗り塗料の隠ぺい率が小さい場合や厚みが薄い場合には,中塗り塗料の色が透けて,色むら(mottle,irregular colour)が目立つ可能性がある。このため,中塗り塗料の色は,一般的に上塗り塗料と同系色で下塗り塗料との色差が大きくなる色が選択される。
 
 上塗り塗料には,塗料が完全に乾燥(硬化)した時に指定された色になるように,色合せ調色;color matching)された塗料を用いるのが一般的である。
 上塗り塗料には,景観性能として高い自由度が求められる。そこで,各種色彩を発現するために,複数の着色顔料の組み合わせとなる。この時,時間経過による変色(tarnishing, discoloration)を考慮する必要がある。組み合わせた顔料の耐候性(weathering resistance)が異なる場合は,緑色が青色に,赤色が桃色に変わるなど色相(hue)の変化が起こる。

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 色合せ(調色)

 物体の色
 人間の目に入る光成分のうち,概ねで波長 400nm ~ 750nm の範囲の光(可視光)のスペクトル(波長ごとの強度分布)が太陽光のそれと類似している場合に(又は無色)と認識する。すなわち,物体表面からの反射光のスペクトルが太陽光のスペクトルと違うことで,人はを認識する。
 混合し任意の色を作れる互いに独立な色の組み合わせを原色(primary colors, primary)という。独立な色とは,他の色を組み合わせても作ることができない色である。
 色には,物体が放つ発光色などの物体色と物体に照射した光に応じて物体表面から拡散的に反射又は放射しているように見える表面色に分けられる。
 
 物体色(object-colour)
 原色は,光を重ねて新たな色を作る加法混色原色(additive colo(u)r primaries)という。この原色は,「光の三原色」や「色光の三原色」ともいわれ,通常,赤(Red)・緑(Green)・青(Blue)の三色(RGB)が用いられる。なお,加法混色原色を適当に混ぜることで白色を作れるが,黒色は作れない。
 
 表面色(surface colour)
 例えば,塗膜などの物質表面に標準光源の光(白色光)を照射した時,白色光の中の一部の光が吸収され,反射された光は吸収された光の補色として観察されるである。
 すなわち,表面色の原色は,色フィルタ等の選択性がある吸収媒質の重ね合わせによって,個々の吸収媒質とは異なった色を作る減法混色(subtractive colo(u)r mixture)に用いる基本の吸収媒質(の色)を指す。【JIS Z8105「色に関する用語」】
 任意の色を再現するには互いに独立な 3種の吸収媒質が必要であって,減法混色の色域を広げるために,通常,シアン(スペクトルの赤部を吸収する),マゼンタ(スペクトルの緑部を吸収する)及び(スペクトルの青紫部を吸収する)の 3媒質を用いる。【JIS Z8105「色に関する用語」】
 減法混色原色は,「色の三原色」や「色料の三原色」ともいわれ,古くは赤,黄,青の三色(RYB)が用いられ,現在はシアン(Cyan;水色に近い青緑,藍),マゼンタ(Magenta;赤紫,紅),イエロー(Yellow;黄)の三色(CMY)が用いられる。なお,減法混色原色を適当に混ぜることで黒色を作れるが,白色は作れない。
 
 塗料の色合せ(調色)では,シアン,マゼンタなどの鮮やかな塗料の準備が困難なため,一般的には,「白」,「黒」,「赤」,「黄」,「紺」を原色として用いる。
 日本塗料工業会発行の塗料用標準色見本帳には 632色が収録されている。見本帳の色は,塗料が乾燥硬化した時の塗膜であり,液状の塗料とは異なる。
 すなわち,塗料の色合せ調色では,乾燥硬化した時の色になるように配合しなけらばならず,塗料・塗装に関する高度の知識と高い技能が要求される。このため,技能検定制度の一種で,都道府県知事が実施する塗料調色に関する学科及び実技試験に合格した者に,国家資格として塗料調色技能士が与えられる。
 【参考】
 色票(color chip)
 読み「しきひょう」,色の表示などを目的とする色紙又は類似の材料による表面色の標準試料。特定の基準,例えば,JIS Z8721「色の表示方法−三属性による表示」に基づいて作成した色票を標準色票という。
 備考 特定の色の属性が一定である色票を平面上に配列 した ものを カラ ーチ ャート(colourchart)といい,色票集は,カラーチャートを編集して作られる。【JIS Z8105「色に関する用語」】
 色見本の例
 表面色を指定する場合に活用される色見本には,日本規格協会 JIS色票委員会発行の JIS標準色票(2000を超える色が掲載),日本塗料工業会発行の塗料用標準色見本帳(632色が収録),日本色彩研究所発行の新建築デザイン色票(760色が収録)などがある。

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 主な着色顔料

 着色顔料(color pigment)は,無機系有機系に大別される。次に,塗料の原色,色合わせに用いられる主な着色顔料の例を示す。

 無機着色顔料
 酸化チタン(TiO2,チタンホワイト,titanium white)
 白色の代表的顔料,淡彩色のベース用として用いられる。
 酸化チタンは,結晶構造の違いから,アナタース形とルチル形に分類される。アナタース形は,白さにおいて優れているが,光活性が高く,光化学反応で生成した活性酸素などで樹脂を分解するため,塗膜の白亜化が顕著になる。
 このため,塗料用顔料としては,表面処理(アルミナ,シリカ)で光活性を抑えたルチル形が用いられる。
 炭素(C,カーボンブラック,carbon black)
 黒色の代表的顔料,調色剤用途で用いられる。
 ガス状又は液状の炭化水素を不完全燃焼又は熱分解して作る。塗料用,インキ用,ゴム用などがある。原料の種類,燃焼,分解の条件などで粒子の大きさ及び性質が異なる。炉壁に炎を触れさせて作ったものをチャンネルブラック・ガスブラックといい,密閉したレトルトの中又は炉の中で不完全燃焼させて作ったものをファーネスブラックといい,予熱した炉の中で分解して作ったものをサーマルブラックという。【JIS K5500「塗料用語」】
 酸化チタン(TiO2,チタンイエロー,titanium yellow)
 代表的な黄色の無機顔料である。チタンイエローは,ニッケルチタンイエロー (nickel titan yellow, nickel titanium yellow) の略称で,チタンの純粋な酸化物のチタン白と異なり,チタン,ニッケル,アンチモン(バリウム)の酸化物の固溶体である。
 耐光性,耐候性,耐熱性,耐薬品性に優れ,隠ぺい力がチタン白より大きい。着色力は弱いが隠ぺい力が大きい点を活用し,塗料,ゴム,プラスチック,印刷インキなどの顔料として用いられる。
 ベンガラ(α-Fe2O3,ヘマタイト,red iron oxide)
 酸化鉄(Ⅲ)を主成分とする顔料。黄味がかった赤から紫までの色相(黄味~赤味~紫味)をもつものがある。【JIS K5500「塗料用語」】
 マグネタイト(Fe3O4)の加熱酸化,黄色酸化鉄(ゲーサイトα-FeOOH)の加熱脱水などで生成される。
 黄鉛(mPbCrO4・nPbSO4,クロムイエロー,chrome yellow)
 黄~橙色,クロム酸鉛(PbCrO4)を主成分とする黄色顔料。5G,10Gの順に青味を帯び,R,5Rの順に赤味を増す。5G,10Gは硫酸鉛を含み,R,5Rは塩基性クロム酸鉛(basic lead chromate)を含み,Gは通常どちらも含まない。【JIS K5500「塗料用語」】
 比較的安価な顔料として広く用いられていたが,鉛,6価クロムを含むことから使用量が減少している。
 クロムグリーン(PbCrO4・xPbSO4 + yFe(NH4){Fe(CN) 6},chrome green)
 黄~暗緑色,黄鉛{クロム酸鉛(PbCrO4)}と紺青(こんじょう)の混合物で,緑色の無機顔料として用いられる。 着色力,隠ぺい力が大きく比較的安価であるが,六価クロムが含まれるため使用が減少している。
 コバルトグリーン(CoO,ZnO,cobalt green)
 濃緑色,酸化コバルト(CoO)と酸化亜鉛(ZnO)の固溶体,耐候性は良いが耐薬品性は優れていない。
 紺青(NH4Fe{Fe(CN) 6},milori bule, prussian blue)
 青色,読み「こんじょう」,ヘキサシアノ鉄(Ⅱ)酸鉄(Ⅲ)(フェロシアン化第二鉄)を主成分とする青顔料。【JIS K5500「塗料用語」】
 着色力が大きい。耐酸性はあるが,耐アルカリ性に劣る。原色の耐候性は優れているが,淡色の耐候性は低い。
 
 有機着色顔料
 有機着色顔料とは,発色部が有機化合物で,水に溶解せず,粒子として塗料中に分散する材料である。同様の材料として,発色部が有機化合物で,水に溶解し分子として存在するものは有機染料に分類され,有機着色顔料とは区別される。
 有機着色顔料は,分子構造の違いで,アゾ顔料(azo pigment)(アゾ基 R−N=N−R' を持つ有機顔料),フタロシアニン顔料(phthalocyanine pigment)(4つのフタル酸イミドが窒素原子で架橋する環状化合物で,金属イオンとの安定な錯体を形成した顔料),縮合多環顔料(condensed polycyclic-based pigment)(構造式中に環状の原子配列を複数持つ有機顔料)に分けられる。
 主要な色の代表的顔料を次に示す。

 
 パーマネントレッド4R(アゾ系,原色での耐候性が良好で安価な顔料),アントラキノンレッド(縮合多環式系,鮮明な赤で着色力が大きい,自動車用,高級塗料用),キナクリドンレッド(縮合多環式系,鮮明で耐候性に優れる。高級塗料用)

 
 ファーストイエロー(アゾ系,置換基の種類で緑味~赤味までの色域を持ち,耐候性,耐水性に優れるが着色力が低い),ベンツイミダゾロンイエロー(アゾ系,緑味の黄色,耐候性が高く耐熱性にも優れる。自動車用や高級塗料用),イソインドリノン(アゾ系,耐候性,耐熱性,耐溶剤性に優れ,多くの用途での使用が可能,無機系の黄鉛など鉛系顔料の代替として薦められる。)

 
 フタロシアニングリーン(フタロシアニン系,諸特性に優れ,塗料,インキ,プラスチック,ゴム等の着色材として幅広く使用される。)

 
 銅フタロシアニンブルー(フタロシアニン系,結晶系により色相が変わる。α型は赤味青,β型は緑味青となる。塗料用途として各種塗料に使用できる。)

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