防食概論:塗装・塗料
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ここでは,塗膜の品質と試験法について, 【プライマー,下塗り塗料】, 【中塗り塗料】, 【上塗り塗料】, 【塗膜の品質項目概要】 に項目を分けて紹介する。
塗膜の評価(塗膜の JIS 品質試験)
プライマー,下塗り塗料
防食塗装に用いられる代表的な地肌塗り,下塗りに用いられる塗料として,JIS K5633「エッチングプライマー」,JIS K5552「ジンクリッチプライマー」,JIS K5674「鉛・クロムフリー鉛さび止めペイント」,JIS K5553「厚膜形ジンクリッチペイント」,及びJIS K5551「構造物用さび止めペイント」それぞれの塗膜としての品質項目と対応する試験方法を比較紹介する。
なお,塗料の品質項目については,【塗料の評価】・下塗り塗料のJIS品質項目で紹介した。
品質項目 | JIS K5633 | JIS K5552 | JIS K5674 | JIS K5553 | JIS K5551 | 試験規格 |
---|---|---|---|---|---|---|
塗膜の外観 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | JIS K 5600-1-1の4.4(塗膜の外観) |
付着性 | × | × | × | × | ○ | JIS K 5600-5-6 |
付着安定性 | × | × | ○ | × | × | 塗料規格に定める方法 |
上塗り適合性 | × | × | ○ | × | ○ | 塗料規格に定める方法 |
耐衝撃性(デュポン式) | ○ 500g 300mm |
○ 500g 500mm |
× | ○ 500g 500mm |
○ 300g 500mm |
JIS K 5600-5-3 |
耐屈曲性 | ○ 6mm |
× | ○ 6mm |
× | × | JIS K 5600-5-1 |
耐熱性 | × | × | × | × | △ C種,E種 |
塗料規格に定める方法 |
耐水性 | × | × | × | ○ | × | JIS K 5600-6-1の7.(浸漬法) |
耐塩水性 | △ 2種 |
× | × | × | × | JIS K 5600-6-1の7.(浸漬法) |
耐アルカリ性 | × | × | × | × | △ A種,B種 |
JIS K 5600-6-1の7.(浸漬法) |
耐揮発油性 | × | × | × | × | △ A種,B種 |
JIS K 5600-6-1の7.(浸漬法) |
耐塩水噴霧性 | × | ○ | × | ○ | × | JIS K 5600-7-1 |
サイクル防食性 | × | × | ○ 36サイクル |
× | ○ 120サイクル |
JIS K 5600-7-9 |
屋外暴露耐候性 | △ 2種,3か月 |
○ 6か月 |
○ 2年 |
○ 2年 |
○ 2年 |
JIS K 5600-7-6 |
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中塗り塗料
塗装系の耐久性向上を目的とする中塗り塗料として,JIS K 5516「合成樹脂調合ペイント」,及び JIS K 5659「鋼構造物用耐候性塗料」それぞれの中塗り塗料の塗膜の品質項目と対応する試験方法を比較紹介する。
なお,塗料の品質項目については,【塗料の評価】・中塗り塗料のJIS品質項目で紹介した。
品質項目 | JIS K5516 2種 中塗り |
JIS K5659 A種 中塗り |
JIS K5659 B種 中塗り |
試験規格 |
---|---|---|---|---|
塗膜の外観 | ○ | ○ | ○ | JIS K 5600-1-1の4.4(塗膜の外観) |
隠ぺい率 | ○ | ○ | ○ | 塗料規格に定める方法 |
上塗り適合性 | ○ | ○ | ○ | 塗料規格に定める方法 |
耐屈曲性 | × | ○ 10mm |
○ 10mm |
JIS K 5600-5-1 |
耐衝撃性(デュポン式) | × | ○ 300g 500mm |
○ 300g 500mm |
JIS K 5600-5-3 |
層間付着性 | × | ○ | ○ | 塗料規格に定める方法 |
耐アルカリ性 | × | ○ | ○ | JIS K 5600-6-1の7.(浸漬法) |
耐酸性 | × | ○ | ○ | JIS K 5600-6-1の7.(浸漬法) |
耐湿潤冷熱繰返し性 | × | ○ | ○ | JIS K 5600-7-4 |
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上塗り塗料
鋼構造物などの美装仕上げ塗りに用いられる上塗り塗料として,JIS K 5516「合成樹脂調合ペイント」,及び JIS K 5659「鋼構造物用耐候性塗料」に規定される上塗り塗料の品質項目と対応する試験方法を比較紹介する。
それぞれの塗膜としての品質項目と対応する試験方法を比較紹介する。
なお,塗料の品質項目については,【塗料の評価】・上塗り塗料のJIS品質項目で紹介した。
品質項目 | JIS K5516 1種 |
JIS K5516 2種 上塗り |
JIS K5659 A種 上塗り |
JIS K5659 B種 上塗り |
試験規格 |
---|---|---|---|---|---|
塗膜の外観 | ○ | ○ | ○ | ○ | JIS K 5600-1-1の4.4(塗膜の外観) |
隠ぺい率 | ○ | ○ | ○ | ○ | 塗料規格に定める方法 |
層間付着性 | × | × | ○ | ○ | 塗料規格に定める方法 |
促進黄色度 | ○ 10mm |
× | × | × | 塗料規格に定める方法 |
鏡面光沢度 | ○ 10mm |
○ 10mm |
○ 10mm |
○ 10mm |
JIS K 5600-4-7 |
耐屈曲性 | × | × | ○ 10mm |
○ 10mm |
JIS K 5600-5-1 |
耐衝撃性(デュポン式) | × | × | ○ 300g 500mm |
○ 300g 500mm |
JIS K 5600-5-3 |
耐塩水性 | × | ○ | × | × | JIS K 5600-6-1の7.(浸漬法) |
耐アルカリ性 | × | × | ○ | ○ | JIS K 5600-6-1の7.(浸漬法) |
耐酸性 | × | × | ○ | ○ | JIS K 5600-6-1の7.(浸漬法) |
耐湿潤冷熱繰返し性 | × | × | ○ | ○ | JIS K 5600-7-4 |
促進耐候性 | ○ 240h |
○ 240h |
○, 500h 1000h,2000h |
○, 500h 1000h,2000h |
JIS K 5600-7-7 |
屋外暴露耐候性 | ○ 1年 |
○ 2年 |
○ 2年 |
○ 2年 |
JIS K 5600-7-6 |
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塗膜の品質項目概要
防食塗装に用いられる下塗り,中塗り,及び上塗り塗料の塗膜の品質項目と試験概要を紹介する。なお,塗料の品質項目と試験概要については,【塗料の評価】の下塗り塗料, 中塗り塗料, 及び上塗り塗料のJIS品質項目で紹介する。
品 質 | 概 要 |
---|---|
塗膜の外観 | 塗装作業性の試験に合格した試験片と見本品とを比較し,差異の有無を観察する。試験までの時間が製品規格に規定されていないときは,乾燥時間を半硬化乾燥で調べる塗料で 48時間,硬化乾燥を調べる塗料で 24時間,加熱乾燥の塗料では加熱し終わってから 30分間放置する。 JIS K 5600-1-1「塗料成分試験方法-第1部:通則-第1節:試験一般」の4.4(塗膜の外観) |
隠ぺい率 contrast ratio |
塗料が下地の色の差を覆い隠す度合。黒と白とに塗り分けて作った下地の上に,同じ厚さに塗ったときの,塗膜の45度,0度拡散反射率又は三刺激値Yの比で表わす。【JIS K5500「塗料用語」】 JIS K 5600-4-1「塗料一般試験方法-第4部:塗膜の視覚特性-第1節:隠ぺい力(淡彩色塗料用)」,JIS K 5600-4-2「塗料一般試験方法−第4部:塗膜の視覚特性−第2節:隠ぺい力(低明度塗料用)」参照。 |
上塗り適合性 overcoatability |
ある塗料の塗膜の上に,決められた塗料を塗り重ねたときに,塗装上の支障が起こらず,正常な組合せ塗膜層が得られるための,塗り重ねられる下地塗膜の性状。【JIS K5500「塗料用語」】 |
付着性 adhesion test |
塗膜に素地まで貫通する直角の格子パターンを刻み込んだとき,素地からのはく離に対して塗膜の耐性を評価する試験方法については, JIS K 5600-5-6「塗料一般試験方法−第5部:塗膜の機械的性質−第6節:付着性(クロスカット法)」に規定されている。 クロスカット法は,各要因の中から特に,下塗り又は基板いずれかへの付着性に左右される特性を評価できるが,付着性の定量的な測定手段とみなしてはならない。 引張試験機を用いて,試験板に垂直の方向に加えた引張力で生じる塗膜のはがれ,又は破れに必要な最小の張力の測定によって,塗料,ワニス若しくは関連製品の単一塗膜,又は多層塗膜系の付着力を評価するプルオフ試験については, JIS K 5600-5-7「塗料一般試験方法−第5部:塗膜の機械的性質−第7節:付着性(プルオフ法)」に規定されている。 |
付着安定性 interlayer adhesion |
JIS K 5674「鉛・クロムフリーさび止めペイント」に規定される品質で,中塗り塗料(合成樹脂調合ペイント 1種白)との層間付着性Ⅰをいう。 層間付着性とは,下塗り塗料と中塗り塗料との付着性(層間付着性Ⅰ),中塗り塗料と上塗り塗料との付着性(層間付着性Ⅱ)をいう。付着性は,規定の条件で塗料を塗付け,規定の養生を行った後に,粘着テープ剥離試験で付着性を評価する。【JIS K56592018「鋼構造物用耐候性塗料」】 |
層間付着性 bending resistance |
下塗り塗料と中塗り塗料との付着性(層間付着性Ⅰ),中塗り塗料と上塗り塗料との付着性(層間付着性Ⅱ)をいう。付着性は,規定の条件で塗料を塗付け,規定の養生を行った後に,粘着テープ剥離試験で付着性を評価する。 |
促進黄色度 accelerated yellowness |
白塗膜及び透明塗膜の時間とともに黄変する傾向を試験するために,塗膜を湿度の高い暗所において黄変を促進させ,色の三刺激値から黄色さを求め,これを促進黄色度の値とする。【JIS K5500「塗料用語」】 |
鏡面光沢度 specular gloss |
面の入射光に対して,等しい角度での反射光,すなわち鏡面反射光の基準面における同じ条件での反射光に対する百分率。面の光沢の程度を表す。光沢度が比較的大きい塗面では,法線に対して入射角 60度,反射角 60度で測る。これを 60度鏡面光沢度という。鏡面光沢度の基準面として屈折率 1.567 のガラスの平面を用いる。【JIS K5500「塗料用語」】 光源及び受光器の角度が 20°,60°,又は 85°の幾何条件の反射率計を用いて塗膜の鏡面光沢度を測定する試験方法は, JIS K 5600-4-7「塗料一般試験方法−第4部:塗膜の視覚特性−第7節:鏡面光沢度」に規定されている。 |
耐衝撃性 impact-resistant |
試験片に物体が激突したときの衝撃及びそれによって生じる試験板の変形に対する塗膜の抵抗性。 JIS K 5600-5-3「塗料一般試験方法-第5部:塗膜の機械的性質-第3節:耐おもり落下性」は,球状のおもりを塗装試験片に落として,塗膜の変状(割れ・はがれ)と落下高さで評価する試験法である。【JIS K5500「塗料用語」】 |
耐屈曲性 flexibility |
乾燥塗膜が塗られている素地の変形に損傷を起こさずに順応する能力。屈曲試験では,試験片を,塗膜を外に,素地の板を内側にして丸棒に沿って 180度折り曲げ,塗膜の割れの有無を調べる。素地の板が厚いほど,丸棒の直径が小さいほど,塗膜に与えられる伸び率と,塗膜に起こる上面から下面にかけての伸び率の不均等性は大きい。塗膜がもろくなくて伸び率が大きいとたわみ性が優れていると判定される。備考 膜のたわみ性を説明するため, “elasticity” という用語を用いることは正しくない。【JIS K5500「塗料用語」】 屈曲試験(円筒形マンドレル法)は, JIS K 5600-5-1「塗料一般試験方法-第5部:塗膜の機械的性質-第1節:耐屈曲性(円筒形マンドレル法)」に規定されている。 |
耐熱性 thermal resistance |
塗膜が加熱されても変化しにくい性質。試験片を規定の温度に保ち,塗膜の泡,膨れ,割れ,はがれ,つやの減少,色の変化などの有無や程度をJIS K 5600-6-3「塗料一般試験方法-第6部:塗膜の化学的性質-第3節:耐加熱性」に従い調べる。【JIS K5500「塗料用語」】 |
耐液体性 resistance to liquids |
液体の作用に対する,塗料又は関連製品の単一塗膜または多層塗膜系の抵抗性(耐性)。 試験方法は, JIS K 5600-6-1「塗料一般試験方法-第6部:塗膜の化学的性質-第1節:耐液体性(一般的方法)」に規定されている。 |
耐水性 water resistance |
塗膜が,水の化学的作用又は物理的作用に対して変化しにくい性質。試験片を水に浸して,しわ,膨れ,割れ,はがれ,つやの減少,曇り,変色などの有無や程度を調べる耐水試験が JIS K 5600-6-2「塗料一般試験方法-第6部:塗膜の化学的性質-第2節:耐液体性(水浸せき法)」に規定されている。【JIS K5500「塗料用語」】 |
耐塩水性 salt water resistance |
耐液体性の一種で,食塩水の作用に対して変化しにくい塗膜の性質。【JIS K5500「塗料用語」】 試験方法は, JIS K 5600-6-1「塗料一般試験方法-第6部:塗膜の化学的性質-第1節:耐液体性(一般的方法)」の 7.(浸漬法)に規定されている。 |
耐アルカリ性 alkali resistance |
耐液体性の一種で,アルカリの作用に対して変化しにくい塗膜の性質。【JIS K5500「塗料用語」】 試験方法は, JIS K 5600-6-1「塗料一般試験方法-第6部:塗膜の化学的性質-第1節:耐液体性(一般的方法)」の 7.(浸漬法)に規定されている。 |
耐酸性 acid resistance |
酸の作用に抵抗して変化しにくい塗膜の性質。「耐液体性」参照 【JIS K5500「塗料用語」】 試験方法は, JIS K 5600-6-1「塗料一般試験方法-第6部:塗膜の化学的性質-第1節:耐液体性(一般的方法)」の 7.(浸漬法)に規定されている。 |
耐揮発油性 gasoline resistance |
耐液体性の一種で,揮発油の作用に対して変化しにくい塗膜の性質。【JIS K5500「塗料用語」】 試験方法は, JIS K 5600-6-1「塗料一般試験方法-第6部:塗膜の化学的性質-第1節:耐液体性(一般的方法)」の 7.(浸漬法)に規定されている。 |
耐塩水噴霧性 resistance to neutral spray |
塩水噴霧試験に耐える性質。試験方法は, JIS K 5600-7-1「塗料一般試験方法−第 7 部:塗膜の長期耐久性−第 1 節:耐中性塩水噴霧性」に規定されている。 当該規格の序文には,“耐中性塩水噴霧性は,塗料や塗装系の品質チェックを目的とし,塩水噴霧の作用に対する塗膜の抵抗性と他の環境における腐食に対する抵抗性との直接の関係はなく,試験によって得られた結果は,その試料が使用されるすべての環境での腐食抵抗性の直接の指標になるものではない。”と記されている。 |
耐湿潤冷熱繰り返し性 humidity and cool-heat cycling test |
塗膜が湿潤又は浸せきの状態を経た後,温度変化を受けた場合の塗膜の変化を調べる試験をいい,試験方法は,JIS K 5600-7-4「塗料一般試験方法−第7部:塗膜の長期耐久性−第4節:耐湿潤冷熱繰返し性」に規定されている。 |
サイクル防食性 resistance to cyclic corrosion conditions |
JIS K 5600-7-9「塗料一般試験方法−第7部:塗膜の長期耐久性−第9節:サイクル腐食試験方法−塩水噴霧/乾燥/湿潤」に規定する装置,塩水噴霧/乾燥/湿潤のサイクル条件を用い,塗料製品規格に規定するサイクル数に耐える性能。 |
促進耐候性 artificial weathering test |
屋外で,日光,風雨,露霜,寒暖,乾湿などの自然の作用に抵抗して変化しにくい塗膜の性質を耐候性(weather resistance , weathering)という。塗膜の耐候性を評価するためには,実環境への暴露試験が必要となる。これに対し,人工光源を用いた試験機を用いて得られた塗膜の性質を促進耐候性(人工的耐候性)という。 光源としてキセノンアークランプを用いた促進試験装置内で,水及び水蒸気の作用を含めて,促進耐候性試験,又は促進耐光性試験によって,塗膜を暴露する方法については, JIS K 5600-7-7「塗料一般試験方法−第7部:塗膜の長期耐久性−第7節:促進耐候性及び促進耐光性(キセノンランプ法)」に,紫外線蛍光ランプを用いた方法は,JIS K 5600-7-8「塗料一般試験方法−第7部:塗膜の長期耐久性−第8節:促進耐候性(紫外線蛍光ランプ法)」に規定されている。 |
屋外暴露耐候性 natural weathering, outdoor exposure test |
試験片を,一定期間屋外にさらして,自然環境での腐食,さび,劣化などの状態を調べる試験。大気暴露試験,耐候性試験(weathering test)ともいう。【JIS Z0103「防せい防食用語」】 耐候性(weathering resistance)ともいい,屋外で,日光,風雨,露霜,寒暖,乾湿などの自然の作用に抵抗して変化しにくい塗膜の性質。【JIS K5500「塗料用語」】 太陽の放射及び大気に対して塗膜及び塗装系の耐久性を測定するために適用する屋外暴露試験の種類,及び屋外暴露試験方法(直接暴露試験又は窓ガラス越しの暴露試験)を選択するのに必要な条件については, JIS K 5600-7-6「塗料一般試験方法−第7部:塗膜の長期耐久性−第6節:屋外暴露耐候性」に規定されている。 |
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