防食概論:塗装・塗料
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ここでは,既設構造物の塗替え塗装の作業準備について 【塗替え塗装の塗り付け作業とは】, 【被塗面の確認について】, 【塗料の準備】 に項目を分けて紹介する。
塗装概論(塗替え塗装管理)
塗替え塗装の塗り付け作業とは
塗替え塗装の第 1層目は,素地調整(surface preparation)したその日のうちに塗装しなければならない。第 1層目の塗装は,一般的には鋼素地の露出した面(さび,劣化塗膜除去部)のみの部分塗装(補修塗装)となる。
なお,部分的に塗り付ける塗装は,補修塗装といわれ,全面に塗り付ける塗装を全面塗装という。
第 2層目以降の塗装は,採用する塗装系(coating system, paint system)により補修塗装と全面塗装がある。例えば,4回塗りの塗装系で,第 1層を補修塗装,第 2層~第 4層を全面塗装とする仕様,第 1層,第 2層を補修塗装,第 3層,第 4層を全面塗装とする仕様などがある。
ここでは,塗装にあたり実施すべき被塗面の確認(付着塩分量測定,硬化状態・変状の確認),塗料の確認と準備などの準備作業を解説する。
【参考】
塗装系(coating system, paint system)
塗装される又は既に塗装されている塗料の塗膜層の総称。塗装の目的・効果を満足するように作った,地肌塗りから上塗りまでの塗り重ね塗膜の組合せを総称する用語。
備考:塗装系は,通常,乾燥又は硬化に必要な適切な間隔をおいて,指定の順番で,別々に塗装された複数の塗膜から構成される。ある種の塗料では,例えば,ウエットオンウエット吹き付け塗りのような多少とも連続する塗装工程によって適切な膜厚と隠ぺい性をもつ塗装系を作ることができる。この場合,塗装系のどの部分も,上記の意味で別々の塗膜とはいえない(CED)。【JIS K5500「塗料用語」】
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被塗面の確認について
被塗面(塗装しようとする面)が,塗装に適する状態であるかを次の要領で確認しなければならない。
付着塩分量(adhered salt content)の測定と除去
塗り重ねる面に塩などの汚染物が付着していると,塗り重ねた塗膜の付着性低下,経年での塗膜はがれ(peeling, flaking, scaling)や膨れ(blister)の原因となる。このため,塗装作業開始前に,ガーゼ拭き取り法などを用いて,被塗面の単位面積当たりの付着塩分量(adhered salt content)を計測する。計測値が塗り付ける塗料で規定する塩分量を超えている場合に,水洗等(最低でも水で濡らしたウェスで拭き取る)の措置を行い,塩分量が規定値以下になったことを確認してから塗り付け作業に入る。
当該環境が,飛来海塩粒子(airborne sea salt particles)の多い地区で,施工期間中に海からの風が見込まれる場合には,毎回の塗り付け作業前に付着塩分の計測が必要である。
硬化状態の確認
一般的には,塗装系に規定される塗装間隔の範囲にあり,塗膜の乾燥(硬化)状態が半硬化乾燥(dry to touch, touch dry)のとき塗り重ねて良い状態であると判断し,そのまま次の塗料を塗付けることができる。このとき,半硬化乾燥に至っていない場合は,その原因(塗料の状態や調合,気象条件など)を確認し適切に対処する。また,塗装間隔の上限を超えた場合は,塗り重ねた塗料の付着性に影響するので,面粗し等の措置が必要になる。
塗膜変状の確認
2層目以後の塗装では,前層の塗膜に変状(欠陥)が無いことを確認してから次の塗料を塗り重ねる。変状が観察された場合には,【塗膜変状と措置(塗装時)】に従い適切に対処する。【参考】
飛来海塩粒子(airborne sea salt particles)
大気中に含まれるエアロゾル粒子の中の海塩粒子を指す。
海塩粒子(sea salt particle)とは,海岸の波打ち際及び/又は海上で波頭が砕けたときに発生する海水ミストが,風で運ばれて飛来した粒子。海塩粒子の大きさは,約 0.01μm~20μm である。【JIS Z 2381「大気暴露試験方法通則」】
乾燥(塗料)(drying)
塗付した塗料の薄層が,液体から固体に変化する過程の総称。塗料の乾燥機構には,溶剤の揮発,蒸発,塗膜形成要素の酸化,重合,縮合などがあり,乾燥の条件には,自然乾燥,強制乾燥,加熱乾燥などがある。また,乾燥の状態には,指触乾燥,半硬化乾燥,硬化乾燥などがある。【JIS K5500「塗料用語」】
硬化乾燥(dry-hard, hard dry, dry-through, dry through, through dry)
硬化乾燥状態(through-dry state)とは,塗膜の表面は乾燥しているが,塗膜の大部分は,まだ柔らかいといった状態ではなく,塗膜の厚さ全体にわたって乾燥している状態をいう。
塗料又は関連製品の単一塗膜系,又は多層膜系が,規定された乾燥時間経過後に,硬化乾燥状態に達しているかどうかの判定を行う試験方法は,JIS K 5600-3-3「塗料一般試験方法−第3部:塗膜の形成機能−第3節:硬化乾燥性」(Testing methods for paints−Part 3 : Film formability−Section 3 : Through-dry)に規定されている。この規格では,規定された荷重,ねじれ,及び時間の下で,規定されたガーゼが塗膜に跡を残したり,損傷させたりしない場合を硬化乾燥状態であるとする。
半硬化乾燥(dry to touch, touch dry)
塗料の乾燥状態の一つ。塗った面の中央を指先でかるくこすってみて塗面にすり跡が付かない状態(dry to touch)になったときをいう。
備考:BS では,指先で軽く圧力をかけて押えても,指紋の跡が残らず,粘着性を示さない状態(touch dry)をいう。【JIS K5500「塗料用語」】
指触乾燥(set-to-touch, dust-free, dust dry)
塗料の乾燥状態の一つ。塗った面の中央に触れてみて,試料で指先が汚れない状態(set-to-touch)になったときをいう。
備考:ASTM,BS では,このほかに,塗面にほこり(綿の繊維や顔料グレードの炭酸カルシウムなど)が付着しなくなった状態を dust-free にあるという。【JIS K5500「塗料用語」】
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塗料の準備
塗料の開缶まえに,保管期間が規定される期間を超えていないこと,規定された塗料であるかなどを,塗料メーカが提出する試験成績書などで確認する。なお,保管期間が長期間となった場合には,専門家(塗料メーカーの技術者)に使用の可否を確認してもらう。
塗料は,一般的に樹脂,添加剤,及び顔料の混合物である。密度の大きい顔料が沈降(沈澱,settling, sedimentation)していることが多いので,開缶前に,内容物が均一になるよう十分に振とうする。
塗料開缶後に,塗料の状態が正常であることを確認し,適切な攪拌機などを用いて,十分に攪拌する。多液形塗料は,塗料に指定される適切な混合比で調合し,十分に攪拌混合する。粘度を確認しながら希釈剤を添加し,最適の粘度(viscosity)に調整する。このとき,希釈剤の添加量がその塗料で規定される上限を超えないようにする。
希釈剤を多く入れると,塗料粘度が下がり,塗り易くなるが,規定の塗膜厚みが得難くなるので,くれぐれも規定以上の希釈剤を加えないように管理する。
調合の完了した塗料は,その塗料に規定される熟成時間に至ってから塗り付け作業に供する。なお,その塗料に規定されるポットライフ(可使時間)を超えない時間内で使い切る。ポットライフを超えた場合はその塗料は廃棄する。
【参考】
粘度(viscosity)
粘度 η ( Pa・s ) で表される材料の本体内部で示される定常流に対する抵抗特性。【JIS K6900「プラスチック―用語」】
熟成(aging)
化学的には,ある温度・条件の下で長時間放置し,ゆっくりと化学変化を行わること,コロイド粒子の大きさを調整すること,生成した沈殿・結晶を成長されることなどを意味する。
ポットライフ(pot life)
可使時間ともいい,幾つかの成分に分けて供給される塗料を混合した後,使用できる最長の時間。【JIS K5500「塗料用語」】
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