防食概論塗装・塗料

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 ここでは,【ポリオール硬化形ポリウレタン樹脂とは】 で防食塗装などで広く用いられる 2液形の反応硬化形ポリウレタン樹脂を紹介する。
 次いで, 【主なポリオール】 では,使用例の多いアクリルポリオールポリエステルポリオールポリエーテルポリオールエポキシポリオールポリオレフィン系ポリオールふっ素含有ポリオールを紹介する。
 最後に,防食塗装目的の塗料で広く使用される 【イソシアネートプレポリマー 】 を紹介する。

 

 塗料各論(構造物用塗料)

 ポリオール硬化形ポリウレタン樹脂とは

 イソシアネートプレポリマーとポリオールを別々に保管し,使用直前に混合して用いる 2液形の塗料として広い用途で用いられる。
 一般的に,ポリウレタン樹脂と称する場合には,ポリオール硬化形ポリウレタン樹脂を指す場合が多い。
 このタイプの塗料では,イソシアネートプレポリマーポリオールの種類,構造の組合せで幅広い特性を有する樹脂が得られる。
 ポリオール硬化形ポリウレタン樹脂用途は,鋼橋,船舶,タンク,車両等の金属製品上塗り塗料,高級家具,楽器,仏具などの木工製品塗料プラスチック製品としては,断熱材,クッション材などのポリウレタンフォーム,ホース,靴底,タイヤなどのポリウレタンエラストマー,接着剤,防水材,繊維など幅広い分野に渡る。

 【参考】
 イソシアネート(isocyanate)
 イソシアナート,イソシアン酸エステルなどともいい,イソシアネート基( −N=C=O )を持つ化合物の総称。
 イソシアネート樹脂(isocyanate resin)
 芳香族,脂肪族又は脂環族のイソシアネート類による遊離若しくはブロックされたイソシアネート基(−N=C=O)を含む合成樹脂。
 備考 イソシアネート類は,モノマー又は通常ポリマー,アダクト若しくはプレポリマーとして,反応性ヒドロキシル基をもつ化合物とともにポリウレタン塗料に使用される。【JIS K5500「塗料用語」】
 ポリオール(poriol)
 複数の水酸基(ヒドロキシ基,ヒドロキシル基)を持つ単量体(ポリオール)には多種多様のものがある。ポリウレタンの製造に用いられるポリオールは,分子種により,ポリエーテルグルコール,ポリエステルポリオール,ポリマーポリオールの 3 種に大別される。
 アダクト(adduct)
 付加反応で生じる付加化合物(addition compound),付加生成物(addition product, adduct)を意味し,アミン付加物(amine adduct),オキシラン付加物(oxirane adduct),エタノール付加物(ethanol adduct),シクロブタン付加物(cyclobutane adduct)など。
 プレポリマー(prepolymer)
 プリポリマーともいい,単量体(モノマー)又は単量体類の重合又は縮合反応を適当な所で止めた中間生成物で,最終の重合体との中間の重合度を持ち,硬化剤を用いた重合や架橋反応により最終製品を得るために用いられる。
 なお,単量体の重合でできたポリマー(重合体)のうち,比較的低い重合度のものをオリゴマー(oligomer)というが,プレポリマーとは意味合いが異なる。

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 主なポリオール

 a ) アクリルポリオール(acrylic poriol)

 アクリル酸エステルビニル化合物などを共重合したアクリル樹脂である。
 樹脂特性の調整が比較的容易で,耐水性,耐薬品性,耐光性に優れるため用途が広い
 【参考】
 アクリル樹脂(acrylic resin)
 いろいろなアクリル又はメタクリルモノマーから,及び,それ以外のモノマーも加えて,重合又は共重合によってつくられる合成樹脂。【JIS K5500「塗料用語」】
 共重合とは,2種類以上のモノマーを用いて行う重合で,これにより生成したポリマーを共重合体(copolymer)という。
 アクリル基 : CH2=CH‐CO‐ ,メタクリル基 : CH2=C(CH3)‐CO‐ , MMA(Methyl Methacrylate)モノマー : CH2=C(CH3)‐CO‐CH3

 b ) ポリエステルポリオール(polyester poriol)

 二塩基酸( 1分子でプロトン H を 2つ放出する酸)と過剰の多価アルコール(分子中に水酸基 -OH を 2つ以上持つアルコール)の縮合(エステル結合)で生成する複数の水酸基を持つポリエステル樹脂である。
 酸及びアルコールの種類,官能基数により特性の調整が可能である。
 【参考】
 ポリエステル樹脂(polyester resin)
 多価塩基酸と多価アルコールとの縮重合によって作られる合成樹脂。【JIS K5500「塗料用語」】
 多塩基酸(多価カルボン酸;-COOH を複数有する化合物)と多価アルコール(ポリアルコール)との脱水縮合で作ることを基本とする。テレフタル酸とエチレングリコールとから製造されるポリエチレンテレフタレート(Poly-Ethylene-Terephthalate ,PET)の生産量が最も多い。
 樹脂の用途によって分類名が異なる。塗料分野や接着剤分野では,油脂や他の樹脂(たとえばエポキシ樹脂)を用いて変性(性質を調整)したポリエステル樹脂をアルキド樹脂と称している。
 アルキド樹脂(alkyd resin, alkyds)
 多塩基酸及び脂肪酸(又は脂肪油)と多価アルコール類との縮重合によって作られる合成樹脂。
 多価アルコールとしてグリセリン,ペンタエリトリトールなど,多塩基酸として無水フタル酸,無水マレイン酸など,脂肪酸としてあまに油,大豆油,ひまし油などの脂肪酸が使われる。樹脂中に結合する脂肪酸の割合が大きいものから小さいものへの順に,長油アルキド・中油アルキド・短油アルキドという。【JIS K5500「塗料用語」】
 縮合重合(condensation polymerization,polycondensation)
 縮合過程(すなわち,簡単な分子の脱離を伴う)の繰返しによる重合。【JIS K6900「プラスチック―用語」】
 縮重合,重縮合(polycondensation)ともいう。なお,2つの官能基からそれぞれ一部分の分離で小さな分子を形成して脱離し,新しい官能基が生成する形式の反応を縮合反応(condensation reaction)という。
 すなわち,複数の化合物(特に有機化合物)が,互いの分子内から水 (H2O) 分子などを取り外しながら結合(縮合)するとともに,連鎖的に結合し高分子が生成(重合)すること。

 c ) ポリエーテルポリオール(polyether poriol)

 多価アルコールプロピレンオキサイド(CH3-CH(-O-)-CH2)を付加重合させたポリプロピレングリコールを主成分とした樹脂である。
 粘度が低いという特徴はあるが,耐候性が低いため塗料用途は限定される。
 【参考】
 耐候性(weathering resistance)
 屋外で,日光,風雨,露霜,寒暖,乾湿などの自然の作用に抵抗して変化しにくい塗膜の性質。【JIS K5500「塗料用語」】

 d ) エポキシポリオール(epoxy poriol)

 ビスフェノール形エポキシ樹脂をアミン変性,又はアミノアルコール変性したものがある。
 防せい(rust prevention)に優れるため,防食塗装用途に使用される。
 【参考】
 アミン(amine)
 アンモニアの水素原子を炭化水素基または芳香族原子団で置換した化合物の総称。
 エポキシ樹脂の常温硬化剤としては,ジエチレントリアミン( DETA ),トリエチレンテトラミン( TETA )などの脂肪族ポリアミンが用いられている。
 ポリウレタンの橋かけに用いられる硬化剤には,ジクロロジアミノジフェニルメタン( MBOCA ),ジエチルトルエンジアミン( DETDA ),ポリメチレンポリフェニレンポリアミン( MDA )などのアミン類が用いられる。
 変性(modification)
 合成樹脂の骨格の一部を重縮合に際して添加剤で置き換えて,その性質を変えることをいう。変性樹脂塗料とは,変性樹脂を加えたり樹脂骨格を変えたりした樹脂を用いた塗料をいう。
 なお,デンプンを化学薬品,酵素などで処理するのも変性(modification)といい,タンパク質の立体構造変化,エチルアルコールに容易に分離できない不快な味や悪臭を与えて工業アルコールにすることも日本語で同じ変性(denaturation)という。

 e ) ポリオレフィン系ポリオール(polyolefin polyol)

 ブタジエン(CH2=CH-CH=CH2)の重合体ポリブタジエンなど合成ゴムの原料)や,ブタジエンアクリロニトリル(CH2=CH-C≡N)やスチレン(ベンゼン環-CH=CH2)との共重合体ニトリルブタジエンゴム,スチレンブタジエンゴム,ABS樹脂の原料)の末端に水酸基を有するポリオールで,電気的特性に優れる。
 また,分子中の不飽和結合(二重結合)を解消して耐候性を高めたタイプもある。

 f ) ふっ素含有ポリオール

 クロロフルオロエチレン(例えばF2C=CFCl)とビニルエーテル類との交互共重合で形成されるふっ素化樹脂共重合体(フルオロエチレンビニルエーテルなど)の一種で,溶剤に可溶なポリオール樹脂である。
 下図に示すように,分子中が部分的にではあるがふっ素で覆われる箇所があるため,他のポリオールに比較し耐紫外線性が高い。
 
 なお,ポリオールエポキシポリオールを用いたポリウレタン樹脂は,積極的にエポキシ樹脂と言われることはない。
 しかし,ふっ素含有ポリオール,顔料,溶剤を主な原料とする主剤と,イソシアネートプレポリマーを主な原料とする硬化剤とからなるポリウレタン樹脂を,一般名称として常温硬化形ふっ素系樹脂と称したり,JIS K 5659「鋼構造物用耐候性塗料」ではふっ素系樹脂と称しポリウレタン樹脂と異なる材料として扱っている。同様に,JIS K5658「 建築用耐候性上塗り塗料」ではふっ素樹脂と称しポリウレタン樹脂と別種の塗料として扱っている。
 このため,常温硬化形ふっ素系樹脂塗料との名称により,高い耐熱性と耐薬品性を期待して用いられる完全ふっ素化樹脂や部分ふっ素化樹脂を用いたふっ素樹脂塗料と誤解される場合が多い。

 【参考】
 ポリウレタン樹脂(polyurethane resin)
 連鎖中の繰返し構造単位がウレタンの形のそれからなる重合体,又はウレタン及びその他の形式の繰返し構造単位がその連鎖中に存在する共重合体,を主成分とするプラスチック。【JIS K 6900「プラスチック−用語」】
 多官能イソシアネート類と反応性ヒドロキシル基をもつ化合物との反応によって作られる合成樹脂。【JIS K5500「塗料用語」】
 ふっ素系樹脂(fluorocarbon polymers)
 ふっ素を含むオレフィンを重合して得られる合成樹脂の総称である。耐熱性耐薬品性の高さや摩擦係数の小さいことが特徴である。デュポン社の商標「テフロン®」が有名でふっ素樹脂の代名詞となっている。中でも最も大量に生産されているふっ素樹脂はポリテトラフルオロエチレン〈四フッ化樹脂〉である。ふっ素樹脂は,ふっ素化の程度により,完全ふっ素化樹脂,部分ふっ素化樹脂,ふっ素化樹脂共重合体に分けられる。

ポリオールの例

ポリオールの例

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 イソシアネートプレポリマー

  イソシアネート(isocyanate)
 単体で用いられることが少なく,一般的にはイソシアネートプレポリマーとして用いられる。イソシアネートプレポリマーとは,ジイソシアネートを原料とし,単量体の含有量が 1%以下となように高分子化したものである。
 イソシアネートプレポリマーは,3種の構造(アダクト体,ビュレット体,イソシアヌレート体)に分けられる。
 アダクト体(adduct)
 ジイソシアネートとトリメチロールプロパン( CH3-CH2-C(CH2-OH)3 )との付加体をいう。
 ビュレット体(biuret)
 ヘキサメチレンジイソシアネートと水,又は三級アルコールとの反応物をいう。
 イソシアヌレート体(isocyanurate)
 ジイソシアネートの三量体( 3つの分子が反応し 1つの化合物になったもの,例えばベンゼンはアセチレンの三量体)をいう。
 
 原料のジイソシアネートには,芳香族系,脂肪族系,脂環族系がある。一般的に,反応性は,芳香族系>脂肪族系>脂環族系の順に高い。しかし,黄変性(光や熱の影響で黄みを帯びる)も,芳香族系≫脂肪族系>脂環族の順に高いので,屋外使用の鋼構造物上塗り塗料など景観性を重視する用途には,反応性は低いが,黄変性のない脂環族系が用いられる。  
 自動車外板補修用や屋外鋼構造物などの高い耐候性を求めるポリウレタン樹脂塗料には,下図に例示すような,耐候性の高い脂肪族のヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)誘導体であるHDI イソシアヌレートなどが用いられている。

 HDIとその誘導体の例

HDIとその誘導体の例

 近年は,石油系溶剤などの弱溶剤に対する溶解性があるアルコール変性 HDI イソシアヌレート,低粘度イソシアヌレート体なども用いられている。他にも脂環族のアダクト体,脂肪族都市環族のビュレット体などさまざまのイソシアネートが開発・利用されている。
 【参考】
 ジイソシアネート(di-isocyanate)
 2つのイソシアネート基(isocyanate:−N=C=O )を持つ化合物,ポリウレタンに用いられる主なジイソシアネートには,ジフェニルメタンジイソシアネー,トリレンジイソシアネート,ヘキサメチレンジイソシアネート,イソホロンジイソシアネート,キシリレンジイソシアネート,水添キシリレンジイソシアネート,ナフタレンジイソシアネート,ノルボルネンジイソシアネートなどがある。

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