防食概論:塗装・塗料
☆ “ホーム” ⇒ “腐食・防食とは“ ⇒ “防食概論(塗料・塗装)” ⇒
ここでは,鋼構造物などで用いられる防せい塗料(さび止めペイント)に関し, 【鉛系さび止めペイントの変遷】 ,旧 JIS製品規格に規定されていた鉛系さび止めペイントの例として, 【亜酸化鉛さび止めペイント】, 【シアナミド鉛さび止めペイント】, 【鉛酸カルシウムさび止めペイント】 を紹介する。
なお,鉛・クロムフリーさび止めペイントなどの非鉛系さび止めペイント,及びジンクリッチ系塗料については,次項以降で紹介する。
塗料各論(さび止めペイント)
鉛系さび止めペイントの変遷
鉛系さび止めペイント(lead-based anticorrosive paint)とは,鉛化合物を主成分とするさび止め顔料(rust preventive pigment, rust inhibitive pigment)を用いた下塗り塗料である。防食塗装の中では,鉛丹さび止めペイントは,明治初期から 100年以上にわたり主要なさび止めペイントとして用いられてきた。その他の鉛系さび止めペイントも昭和初期から用いられ続けた。
このように,鉛化合物やクロム化合物をさび止め顔料として用いたさび止めペイントは,安価で防食性能が高いため,鋼構造物の防食に限らず多くの分野で長年活用されてきた。しかし,1990年代になると鉛・クロム化合物の人の健康に与える影響が問題視され,2000年代から使用自粛が進み,その後には鉛系・クロム系さび止めペイントに関する JIS製品規格の見直しが行われた。
2010年(平成 22年)5月にJIS K5622 鉛丹さび止めペイント(red lead anticorrosive paint),JIS K5624 塩基性クロム酸鉛さび止めペイント(badic lead chromate anticorrosive paint),JIS K5627 ジンククロメートさび止めペイント(zinc chromate anticorrosive paint, zinc chromate primer)が廃止された。
2014年(平成 26年)4月には,JIS K5623 亜酸化鉛さび止めペイント(lead suboxide anticorrosive paint),JIS K5625 シアナミド鉛さび止めペイント(lead cyanamide anticorosive paint)が廃止され,最後まで残ったJIS K 5629 鉛酸カルシウムさび止めペイント(calcium plumbate anticorrosive paint)も 2016年(平成 28年)12月に廃止された。
このような状況を踏まえて,使用者側としては,「鉛系さび止めペイント」の廃止に向けて,2003年(平成 15年)制定の JIS規格製品の「鉛・クロムフリーさび止めペイント」(lead-free, chromium-free anticorrosive paint)への変更,又は塗装系そのものを「ジンクリッチプライマー」(zinc rich primer)や「ジンクリッチペイント」(zinc rich paint)を用いた長期耐久型の塗装系や「厚膜形変性エポキシ樹脂塗料」(high build type modified epoxy resin coating)を下塗り塗料として用いる塗装系へ変更が求められた。
例えば,道路分野では,2005年12月の「鋼道路橋塗装・防食便覧」の改訂で,架設環境によらず無機ジンクリッチペイントを用いた重防食塗装系への全面移行がなされた。
鉄道分野では,2005年5月の「鋼構造物塗装設計施工指針」の改訂で,定期的塗り替え対象の構造物に対して,ジンクリッチプライマーをさび止めペイントとして用いた中期防せい型塗装系を新設し,長期耐久を期待する構造物ではジンクリッチプライマーや厚膜形エポキシ樹脂ジンクリッチペイントを用いた長期防せい型塗装系の適用に変更された。2013年12月の改訂では,さらに VOC低減を図った厚膜形エポキシ樹脂ジンクリッチペイントと水系塗料を用いた長期防せい型塗装系が新設されている。
以上で紹介した歴史的背景からわかるように,2005年以前に製造された鋼構造物の大多数は,旧塗膜の下塗りに鉛系さび止めペイントが用いられ,その後に製造された鋼構造物には,鉛・クロムフリーさび止めペイント,ジンクリッチプライマー,ジンクリッチペイントが用いられている。
【参考】
防せい(錆)性(rust prevention, rust preventing property)
屋外暴露耐候性(outdoor exposure test, natural weathering)と同義で,試験片を,一定期間屋外にさらして,自然環境での腐食,さび,劣化などの状態を調べる試験をいい,大気暴露試験,耐候性試験ともいう。【JIS Z0103「防せい防食用語」】
地肌塗り(primary coat, priming coat)
物体の素地に直接塗る工程。素地の過度の吸収及びさびの発生を防ぎ,素地に対する塗膜層の付着性を増加するなどのために行う。【JIS K5500「塗料用語」】
ボイル油(boiled oil)
乾性油・半乾性油を加熱し,又は空気を吹き込みながら加熱して,乾燥性を増進させて得た油。【JIS K5500「塗料用語」】
フタル酸樹脂(塗料)(phthalic resin coating, alkyd resin coating)
無水フタル酸を原料とするアルキド樹脂を塗膜形成要素とする塗料。耐候性が優れている。フタル酸樹脂エナメル。【JIS K5500「塗料用語」】
アルキド樹脂(alkyd resin, alkyds)
多塩基酸及び脂肪酸(又は脂肪油)と多価アルコール類との縮重合によって作られる合成樹脂。
多価アルコールとしてグリセリン,ペンタエリトリトールなど,多塩基酸として無水フタル酸,無水マレイン酸など,脂肪酸としてあまに油,大豆油,ひまし油などの脂肪酸が使われる。樹脂中に結合する脂肪酸の割合が大きいものから小さいものへの順に,長油アルキド・中油アルキド・短油アルキドという。【JIS K5500「塗料用語」】
アルキド樹脂は,アルコール(alcohol)と酸(acid)又は酸無水物(acid anhydride)反応の反応によるエステル化合物である。アルキドは,アルキッドとも呼ばれ,ポリエステルに属する樹脂である。塗料や印刷インキの業界で使用されるものを特にアルキドと称することが多い。
ワニス(vernish)
樹脂などを溶剤に溶かして作った塗料の総称。顔料は含まれていない。塗膜は概して透明である。
備考:1.ISO用語規格では,“ワニスはクリヤー塗料の一種。主に酸化乾燥によって透明塗膜を形成するクリヤー塗料をワニスという。”と定義している。クリヤー塗料の項参照。
備考:2.BS用語規格では,“ワニスは,主に樹脂及び/又は乾性油から作られる透明塗料。”と定義している。
備考:3.ASTM用語規格では,“ワニスは,薄い層に塗ったとき透明な又は,半透明な個体膜を形成する液状組成物。”をいい,ビチューミナスワニス,油ワニス,スパーワニス,揮発性ワニスなどを含めている。【JIS K5500「塗料用語」】
ISO(International Organization for Sstandardization;国際標準化機構),BS(British Standard;英国工業規格),ASTM(American Society for Testing and Materials;米国試験材料協会)
ページのトップへ
旧 JIS K 5623 「亜酸化鉛さび止めペイント」
適用範囲:この規格は,屋外における大形鉄鋼製品,鉄鋼構造物などの地肌塗りに用いる亜酸化鉛さび止めペイントについて規定する。
備考:この規格で規定する亜酸化鉛さび止めペイントは,酸化による自然乾燥の液状塗料ではけ塗り又は吹付け塗りに適し,亜酸化鉛(一酸化鉛,PbO)をさび止め顔料とし,ボイル油1)又はフタル酸樹脂ワニス2)に分散させて作る。
1):ボイル油とは,液状,酸化乾燥性の脂肪油で,乾性油(あまに油,えごま油,きり油など)の 1種又はそれ以上を加工してドライヤー(硬化反応触媒:金属石鹸,ナフテン酸鉛,ナフテン酸マンガンなど)を加えるなどして乾燥性を強めたものをいう。
2):ワニスとは,樹脂などを溶剤に溶かして作った塗料の総称である。顔料は含まれていない。ワニスに顔料を加えて作った塗料の総称をエナメルという。
種類:種類は,次とする。
a) 1種 ボイル油をビヒクル(塗膜主要素)としたもの。
b) 2種 フタル酸樹脂ワニスをビヒクルとしたもの。
品質:
項 目 | 1 種 | 2 種 |
---|---|---|
容器の中での状態 | かき混ぜたとき,堅い塊がなくて一様になるものとする。 | |
塗装作業性 | はけ塗りで塗装作業に支障があってはならない。 | |
乾燥時間 h (表面乾燥性) | 20以下 | 8以下 |
塗膜の外観 | 塗膜の外観が正常であるものとする。 | |
上塗り適合性 | 上塗りに支障があってはならない。 | |
耐屈曲性 | 直径 6mmの折り曲げに耐えるものとする。 | |
付着安定性 | はがれを認めないものとする。 | |
耐複合サイクル防食性 | 36 サイクルの試験に耐えるものとする。 | |
加熱残分 % | 90以上 | 75以上 |
溶剤不溶物 % | 55以上 | 45以上 |
防せい(錆)性 | 24 か月の試験で塗面にさびがなく,塗膜をはがしたとき,さびの程度が見本品に比べて大きくないものとする。 |
ページのトップへ
旧 JIS K 5625 「シアナミド鉛さび止めペイント」
適用範囲:この規格は,屋外における大形鉄鋼製品,鉄鋼構造物などの地肌塗りに用いるシアナミド鉛さび止めペイントについて規定する。
参考:この規格で規定するシアナミド鉛さび止めペイントは,酸化による自然乾燥の液状塗料で,はけ塗り又は吹付け塗りに適し,シアナミド鉛をさび止め顔料1) とし,ボイル油又はフタル酸樹脂ワニスに分散させて作る。
1):PbCN2,鉛石鹸を生成し,強固な塗膜となる。また,遊離のシアナミド(H2N-CN)による鉄表面の不動態化で防せい効果を発揮する。
種類:種類は,次とする。
a) 1種 ボイル油をビヒクル(塗膜主要素)としたもの。
b) 2種 フタル酸樹脂ワニスをビヒクルとしたもの。
品質:
項 目 | 1 種 | 2 種 |
---|---|---|
容器の中での状態 | かき混ぜたとき,堅い塊がなくて一様になるものとする。 | |
塗装作業性 | はけ塗りで塗装作業に支障があってはならない。 | |
乾燥時間 h (表面乾燥性) | 20以下 | 8以下 |
塗膜の外観 | 塗膜の外観が正常であるものとする。 | |
上塗り適合性 | 上塗りに支障があってはならない。 | |
耐屈曲性 | 直径 6mmの折り曲げに耐えるものとする。 | |
付着安定性 | はがれを認めないものとする。 | |
耐複合サイクル防食性 | 36 サイクルの試験に耐えるものとする。 | |
加熱残分 % | 90以上 | 75以上 |
溶剤不溶物 % | 55以上 | 45以上 |
溶剤不溶物中のシアナミド鉛(PbCN2)% | 17以上 | |
防せい(錆)性 | 24 か月の試験で塗面にさびがなく,塗膜をはがしたとき,さびの程度が見本品に比べて大きくないものとする。 |
ページのトップへ
旧 JIS K 5629 「鉛酸カルシウムさび止めペイント」
適用範囲:この規格は,主として亜鉛めっき鋼製品の地肌塗りに用いる鉛酸カルシウムさび止めペイントについて規定する。
備考:この規格で規定する鉛酸カルシウムさび止めペイントは,さび止め顔料として鉛酸カルシウム(2CaO・PbO2)をワニスで練り合わせて作った液状の酸化によって自然乾燥する塗料で,はけ塗り又は吹付け塗りに適している。
種類:1種類のみ。
品質:
項 目 | 品 質 | |
---|---|---|
容器の中での状態 | かき混ぜたとき,堅い塊がなくて一様になるものとする。 | |
塗装作業性 | はけ塗りで塗装作業に支障があってはならない。 | |
乾燥時間 h (表面乾燥性) | 8以下 | |
塗膜の外観 | 塗膜の外観が正常であるものとする。 | |
上塗り適合性 | 上塗りに支障があってはならない。 | |
耐屈曲性 | 直径 6mmの折り曲げに耐えるものとする。 | |
付着安定性 | はがれを認めないものとする。 | |
耐塩水性 | 塩化ナトリウム水溶液に96時間浸しても異常があってはならない。 | |
付着性 | 付着に異常があってはならない。 | |
加熱残分 % | 70以上 | |
溶剤不溶物中の鉛酸カルシウム(2CaO・PbO2)% | 17以上 | |
屋外暴露耐候性 | 12 か月の試験で塗膜に膨れ,割れ及びはがれがあってはならない。 |
ページのトップへ