防食概論:塗装・塗料
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ここでは,合成樹脂調合ペイントなどの汎用塗料で広く用いられるアルキド樹脂について, 【アルキド樹脂とは】, 【多塩基酸/多価アルコール】, 【脂肪酸(脂肪油)】 に項目を分けて紹介する。
塗料各論(構造物用塗料)
アルキド樹脂とは
アルキド樹脂(alkyd resin, alkyds)
多塩基酸,及び脂肪酸(又は脂肪油)と多価アルコール類との縮重合(縮合重合)によって作られる合成樹脂。
多価アルコール類としてグリセリン,ペンタエリトリトールなど,多塩基酸として無水フタル酸,無水マレイン酸など,脂肪油としてあまに油,大豆油,ひまし油などの脂肪酸が使われる。樹脂中に結合する脂肪酸の割合が大きいものから小さいものへの順に,長油アルキド・中油アルキド・短油アルキドという。【JIS K5500「塗料用語」】
縮合重合(polycondensation, condensation polymerization)
縮重合,重縮合ともいう。縮合過程(すなわち,簡単な分子の脱離を伴う)の繰返しによる重合。【JIS K6900「プラスチック―用語」】
縮合反応(condensation reaction)とは,単に縮合ともいい,官能基をもつ化合物から低分子がとれて新しい結合が生成する反応。
例えば,複数の化合物(特に有機化合物)が,互いの分子内から水分子 ( H2O ) 分子などを取り外す(脱離反応)と共に,互いに結合(付加反応)が連続して進行する化学反応で,付加脱離反応(elimination-addition reaction)ともいう。
アルキド樹脂とは,簡単に言い換えると,脂肪酸で変性した多価アルコール(polyhydric alcohol)と多塩基酸(polybasic acid),又は酸無水物(acid anhydride)との脱水縮合で進む共重縮合によるエステル化合物である。従って,テレフタル酸とエチレングリコールのエステル化合物であるポリエチレンテレフタレート(PET:ペット)などでなじみのポリエステル樹脂(polyester resin)に含まれる。
しかし,塗料や印刷インキの業界では,ポリエステル樹脂とはいわずアルキド樹脂と称するのが慣例である。
脱水縮合(dehydration condensation)
2個の分子がそれぞれ水素原子と水酸基(-OH)を失い,水分子が離脱する縮合反応。
共重縮合(copolycondensation)
それぞれ 2個の同一の反応基を含む 2種類の成分(又は“単量体”)の縮合重合によって製造される重合体は容易に 1:1 の比で反応して“暗黙の単量体”を作り,その単独重合で現実の製品ができるとみなすことができる。
このような重合体は単一の構成繰返し単位をもつものとして示すことができ,したがって単独重合体と命名できる。この規則は最初の成分の比が 1:1 の場合にだけ適用できることに注意すべきである。ポリエチレンテレフタラート(ペット)及びポリアミド 66 (ナイロン)がこのような重合体の例である。【JIS K6900「プラスチック―用語」】
エステル(ester)
有機酸やオキソ酸とヒドロキシ基を含む化合物(アルコールやフェノール)との縮合反応(脱水縮合)で得られる化合物で,一般式 -COO− の官能基をエステル結合(ester bond) という。
ポリエステル樹脂(polyester resin)
多価カルボン酸とポリアルコールとの縮合重合体。すなわち,ポリアルコール(-OH を複数有する化合物;多価アルコール)と多価カルボン酸(-COOH を複数有する化合物;多塩基酸)を反応(脱水縮合)させて作ることを基本とする。テレフタル酸とエチレングリコールとから製造されるポリエチレンテレフタレート(Poly-Ethylene-Terephthalate ,PET)の生産量が最も多い。
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多塩基酸/多価アルコール
ここでは,アルキド樹脂に用いられる主要な多塩基酸と多価アルコールを紹介する。
多塩基酸(polybasic acid)
酸の 1分子中に含まれる水素原子のうち,金属原子で置き換えられる水素原子の数を,その酸の塩基度といい,塩基度 2以上の酸を多塩基酸と総称する。
アルキド樹脂塗料では,要求性能に応じて種々の多塩基酸が用いられる。この中で酸無水物の無水フタル酸(phthalic anhydride)を用いたフタル酸樹脂が合成樹脂塗料などに最も広く用いられている。
次に主な多塩基酸とアルキド樹脂の性質に及ぼす影響を(長所:短所)で示す。
無水フタル酸(汎用性,硬度:可とう性注)
イソフタル酸(耐候性,耐熱性,乾燥性:可とう性,溶解性)
テレフタル酸(耐水性,耐薬品性,可とう性:溶解性,耐候性)
安息香酸(汎用性,硬度,粘度低下:可とう性)
ロジン(硬度,溶解性,光沢:耐候性,可とう性)
テトラヒド無水フタル酸(付着性,保色性:―)
無水マレイン酸(粘度調整:乾燥性)
アジピン酸(可とう性,溶解性,付着性:硬度)
コハク酸(付着性,可とう性,溶解性:硬度)など
注:可とう性とは,弾性変形のし易さをいう。
酸無水物(acid anhydride)
カルボン酸無水物と無機酸無水物がある。カルボン酸無水物は,一般式 R–CO–O–CO–R' で表される。例えば,エポキシ樹脂の硬化に用いられる酸無水物系硬化剤には,無水フタル酸,テトラおよびヘキサヒドロ無水フタル酸,メチルテトラヒドロ無水フタル酸,無水メチルナジック酸,無水ピロメリット酸,無水ヘット酸,ドデセニル無水コハク酸などが用いられる。
多価アルコール(polyhydric alcohol)
複数のヒドロキシ基を持つアルコールの総称である。アルキド樹脂には,多価アルコールの中で,グリセリン,ペンタエリスリトール,エチレングリコールが一般的に用いられる。
次に主な多価アルコールとアルキド樹脂の性質に及ぼす影響を(長所:短所)で示す。
グリセリン(付着性,相溶性注,顔料分散性:―)
ペンタエリスリトール(硬度,乾燥性,高分子量化:溶解性,可とう性)
エチレングリコール(汎用性:硬度,耐候性)
プロピレングリコール(可とう性:硬度)
ネオペンチルグリコール(溶解性,耐候性:―)
トリメチロールプロパン(耐候性,顔料分散性:―)
エポキシ樹脂(耐薬品性,付着性:耐候性)など
注:相溶性とは,例えば他の高分子と混合した場合に,分子レベルで完全に混ざり合うことをいう。
ヒドロキシ基(hydroxy group)
水酸基,ヒドロキシル基(hydroxyl group)ともいい,一般式 −OH で表され,ベンゼン環以外の炭素上の水素を置換した化合物をアルコール類,ベンゼン環の水素を置換した化合物をフェノール類と呼ぶ。
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脂肪油(脂肪酸)
ここでは,大気中の酸素で乾燥するアルキド樹脂塗料とするため,アルキド樹脂の変性に用いられる脂肪油(脂肪酸)について紹介する。なお,アルキド樹脂塗料の特性と脂肪油の関係については,次項の「アルキド樹脂塗料」で紹介する。
脂肪油 (fatty oil)
油脂のうち,融点が低く,常温で液状のものをいい,固体のものを脂肪とよんで区別している。脂肪油 は,空気中の酸素による酸化のし易さ(指標はよう素価)により乾性油(よう素価 130以上),半乾性油(よう素価 100~130),及び不乾性油(よう素価 100未満)に分けられる。
脂肪酸(fatty acid)
母体が鎖式炭化水素で一価のカルボン酸,脂肪酸以外は,飽和カルボン酸,不飽和カルボン酸,芳香族カルボン酸に分けられる。
不飽和脂肪酸(unsaturated fatty acid)
1つ以上の不飽和の炭素結合(二重結合や三重結合)をもつ脂肪酸をいう。不飽和脂肪酸に二重結合が複数ある乾性油(dry oil)は,自動酸化されやすい。自動酸化(autoxidation)とは,酸素,紫外線の存在下で起こる酸化をいう。
よう素価(iodine value, iodine number)
油脂・樹脂に化学的に結合する酸素の量に比例し,不飽和度を推定するために用いる。試料 100gと結合するハロゲンの量を換算して得るよう素の g数で表す。ウィス法とハンス法とがある。 【JIS K5500「塗料用語」】
乾性油(drying oil)
薄膜にし空気中に置くと,酸素を吸収して酸化し,これに伴って重合(酸化重合)が起こって固化(乾燥という)するほどに不飽和脂肪酸を多く含む脂肪油である。【JIS K5500「塗料用語」】
乾性油には,亜麻仁(あまに)油・桐(きり)油・芥子(けし)油・紫蘇(しそ)油・胡桃(くるみ)油・荏(えごま)油・紅花(べにばな;サフラワー)油・向日葵(ひまわり)油などがある。
半乾性油(semidrying oil)
乾性油ほど早くはないが,空気中で乾燥する性質のある脂肪油。一般によう素価 100~130のもの。【JIS K5500「塗料用語」】
半乾性油には,大豆(だいず)油・米ぬか油・コーン油・綿実(めんじつ)油・胡麻(ごま)油などがある。
ボイル油(boiled oil)
乾性油・半乾性油を加熱し,又は空気を吹き込みながら加熱して,乾燥性を増進させて得た油。【JIS K5500「塗料用語」】
あまに油を原料とするボイル油を煮あまに油(boiled linseed oil)という。
不乾性油(nondrying oil)
液状の脂肪油で,空気中で乾燥しないもの。よう素価 100以下の脂肪油。【JIS K5500「塗料用語」】
常温の空気中では酸化重合しないもので,オリーブ油・扁桃(あーもんど)油・落花生(らっかせい)油・椰子(やし)油・椿(つばき)油・菜種(なたね)油・蓖麻子(ひまし)油などがある。
次表には,代表的な脂肪油に含まれる主要な脂肪酸組成を紹介する。
油脂 | パルミチン酸 | ステアリン酸 | オレイン酸 | リノール酸 | リノレン酸 | |
---|---|---|---|---|---|---|
乾性油 | あまに油 | 6.0% | 3.5% | 17% | 16% | 58.5% |
サフラワー油 | 6.4% | 2.5% | 16.8% | 73% | 0.4% | |
半乾性油 | 大豆油 | 10.6% | 4.1% | 25.3% | 52.2% | 6.6% |
米ぬか油 | 16.5% | 1.9% | 43.6% | 34.3% | 1.3% | |
ごま油 | 9.4% | 5.6% | 39.7% | 43.9% | 0.3% | |
不乾性油 | 落花生油 | 9.5% | 4.5% | 52.5% | 30.0%% | 0.5% |
オリーブ油 | 11.8% | 2.9% | 75.2% | 7.0% | 0.6% | |
やし油 | 9.7% | 3.2% | 7.1% | 1.7% | ― |
黒字は飽和脂肪酸,青字は不飽和脂肪酸を示す。
備考:やし油の主成分は,分子量の小さい飽和脂肪酸のラウリン酸(12:0)45~52%,ミリスチン酸(14:0)15~22%である。
【参考】
オレイン酸(oleic acid)
一価の不飽和脂肪酸で,IUPAC名 (9Z)-Octadec-9-enoic acid ,化学式 C18H34O2 ,示性式 CH3(CH2)7CH=CH(CH2)7COOH 。
リノール酸(linoleic acid)
二価の不飽和脂肪酸でシス型二重結合を 2つ持つ,IUPAC名 cis, cis-9,12-オクタデカジエン酸,化学式 C18H32O2 ,示性式 CH3(CH2)4(CH=CHCH2)2(CH2)6COOH 。
リノレン酸(linolenic acid)
三価の不飽和脂肪酸でシス型二重結合を 3つ持つ,化学式 C18H30O2 ,複数の異性体がある。単にリノレン酸といった場合には,多くの植物油で見られる 9,12,15位にシス型二重結合を持つα-リノレン酸(Alpha-linolenic acid ,ALA)を指す。IUPAC名 all-cis-9,12,15-オクタデカトリエン酸,示性式 CH3CH2(CH=CHCH2)3(CH2)6COOH 。
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