防食概論:塗装・塗料
☆ “ホーム” ⇒ “腐食・防食とは“ ⇒ “防食概論(塗料・塗装)” ⇒
ここでは,鉄道の鋼橋塗装に適用される新設時の防食塗装系 【一般外面・塗装系 BMU】, 【塗装仕様】, 【無機ジンクリッチプライマー】, 【厚膜型変性エポキシ樹脂系塗料】, 【ポリウレタン樹脂塗料上塗】 を紹介する。
鉄道橋の防食塗装(新設塗装)
一般外面・塗装系 BMU
「塗装指針」 2013;第Ⅰ編 塗装一般 第 D章 解説(塗装系の特徴), 塗装系 BMU
塗装系 BMU には,塗装系 BMU1 と塗装系 BMU2 がある。塗装系 BMU2 は,10 年程度での 定期的塗替え塗装を主目的とした塗替え塗装専用塗装系である。新設時の塗装系 BMU1 は,10年程度の中期使用を目的とした鉄桁等鋼構造物や 10年程度での定期的塗替えを計画する鉄桁等鋼構造物に適用することを前提としている。このため,中期使用を目的とした場合と定期的塗替えを目的とした場合とでは塗装系に対する要求内容が異なる。
中期使用を目的とした場合の塗装系 BMU1 は,10 年程度の使用後に取り換えなどが計画される鉄桁等鋼構造物に適用することを前提としている。
この場合には,構造物の再使用や塗替えを考慮する必要がないので,基本的に新設時のみに適用される。すなわち,塗装系 BSUの考え方が適用でき,景観性能を重視せず鋼の腐食を許容する場合などには,上塗り塗装(ポリウレタン樹脂塗料上塗)を省略することもできる。
この塗膜の耐久性は,過去の試験結果から一般環境では腐食が開始するまでに 10年程度と類推される。例えば,沖縄県宮古島に暴露した無機ジンクリッチプライマーにエポキシ樹脂塗料 60μmを塗付けた試験片の腐食開始までに 5年要していることなどの試験結果*から推定される。
*:「新発電システムの標準化に関する調査研究」平成12年3月,(財)日本ウェザリングテストセンター
硬化機構と塗装間隔
無機ジンクリッチプライマーは,亜鉛粉末と無機系のアルキルシリケートの 1液 1粉末塗料である。アルキルシリケ-トは空気中の水分と反応して硬化するため,塗装時の相対湿度が低い場合には,充分な硬化反応が進まない。そこで,作業環境の制約として,相対湿度 50%以下では塗装禁止となる。厚膜型変性エポキシ樹脂系塗料は,二液硬化形(主剤と硬化剤の混合で反応硬化するタイプ)の塗料であるため,通常の条件(気温20℃)では約 2週間で反応が終了する。
塗料の塗り重ねは,塗り重ねた塗膜との付着性を確保するため,硬化反応が完了する前に実施しなければならない。このため,厚膜型変性エポキシ樹脂系塗料とポリウレタン樹脂塗料を塗り重ねる場合には 7日間,塗替えで長油性フタル酸樹脂塗料を塗り重ねる場合には,替えケレン種別により 4日間または 7日間と塗装間隔の制限が短い。
その他注意事項
第1層目の無機ジンクリッチプライマーは,現在の塗料技術レベルでは,すべり係数 0.4以上を保持しうるものがないので,摩擦接合継手面については,無機ジンクリッチペイントを塗装しなければならない。ページのトップへ
塗装仕様
新設時の塗装系 BMU1 は,中期使用を目的とした場合と定期的塗替えを目的とした場合とでは塗装系に対する要求内容が異なる。
中期使用を目的とした場合には,構造物の再使用や塗替えを考慮する必要がないので,基本的に新設時のみに適用される。
すなわち,塗装系 BSU の考え方が適用でき,景観性能を重視せず鋼の腐食を許容する場合などには,上塗り塗装を省略することもできる。
定期的塗替えを目的としたstrong>新設時の塗装系 BMU1 は,構造物の長期間使用,塗替えが前提となるため,中期使用の場合とは異なり,上塗り塗装の省略はできない。
さらに,施工の程度が塗膜の層間付着性や防食性能に影響するため,適切な施工管理が求められる。加えて,構造物の適切な維持管理も求められる。
「塗装指針」 2013;第Ⅱ編 新設構造物 第 A2章 塗装仕様(塗装系), 一般外面の塗装系 BMU1
原板(製鋼工場)
素地調整
ブラスト処理
除錆度: ISO Sa2 1/2 以上,表面粗さ: 10 点平均粗さ 80μmRzJIS 以下
プライマー塗装
ブラスト処理後 3 時間以内
無機ジンクリッチプライマー: 吹付け塗り,使用量 160g/m2 (膜厚 15μm)
2 次素地調整で除去されるので,プライマーの膜厚は総合膜厚に加えない。
橋梁製作工場
2 次素地調整ブラスト処理
除錆度: ISO Sa2 1/2 以上,表面粗さ: 10 点平均粗さ 70μmRzJIS 以下
下塗り塗装
① 素地調整後 3 時間以内
無機ジンクリッチプライマー: 使用量 200g/m2 吹付け塗り,(膜厚 20μm)
② ①塗装後 2 日以上,1 カ月以内
厚膜型変性エポキシ樹脂系塗料: 使用量 350g/m2 吹付け塗り,(膜厚 90μm)
中塗り塗装
この塗装系は,下塗り塗膜に直接上塗り塗装するので,中塗り塗料の規定はない。
上塗り塗装
下塗り塗装後 1 日以上,7 日以内
ポリウレタン樹脂塗料上塗: 使用量140g/m2 吹付け塗り,(膜厚 30μm)
【備考】
厚膜型変性エポキシ樹脂系塗料に直接ポリウレタン樹脂塗料上塗を塗付けることになるため,厚膜型変性エポキシ樹脂系塗料中の液状成分が拡散し,塗膜表面に移動するブリード現象を起こし,表面が変色することがある。
従って,定期的に清掃し,色,光沢の長期保持などの高い景観特性を期待するランドマーク的な構造物には採用しない方が良い。
ページのトップへ
無機ジンクリッチプライマー
「塗装指針」 2013;附属書 A 塗料規格及び試験方法
SPS 66053-8 無機ジンクリッチプライマー
品質
下表には,無機ジンクリッチプライマーの塗料品質,比較のため JIS K5552 2010 「ジンクリッチプライマー」 1種(無機)の品質を紹介する。
JIS 等で規定される品質の「塗装作業性」,「塗膜の外観」については,これらの品質に適合しない塗料の販売が考え難いこと,また,他の品質を検査する際にこの品質は容易に把握できることから,鉄道では,全ての塗料規格でこれらの品質を規定していない。また,実環境で 2年程度の「耐候性」(屋外暴露耐候性)を規定していない。これは,塗料成分の規定により,塗膜の機械的,化学的,及び耐久性の室内試験を行うことで,耐候性が確保できると考えているためである。
項 目 | SPS 66053-8 | JIS K5552( 1種無機) |
---|---|---|
亜鉛末(質量分率 %) | 56以上 | ― |
アルキルシリケート (質量分率 %) |
3以上 | ― |
溶剤(質量分率 %) | 30以下 | ― |
混合塗料中の加熱残分(%) | 70以上 | |
加熱残分中の金属亜鉛(%) | 80以上 | |
塗膜中の鉛(質量分率 %) | 0.06以下(* 1 ) | ― |
塗膜中のクロム(質量分率 %) | 0.03以下 | ― |
容器の中での状態 | 粉は微小で一様な粉末であるものとする。液はかき混ぜたとき堅い塊がなくて一様になるものとする。 | |
塗装作業性 | ― | 塗装作業に支障があってはならない。 |
乾燥時間 h | 1以下 | |
塗膜の外観 | ― | 塗膜の外観が正常であるものとする。 |
ポットライフ | 5時間で使用できるものとする。 | |
耐衝撃性 | 衝撃によって割れ及びはがれが生じてはならない。 | |
耐塩水噴霧性 | 塩水噴霧に耐えるものとする。 | |
屋外暴露耐候性 | ― | 6か月間の試験でさび,割れ,はがれ及び膨れがあってはならない。 |
ページのトップへ
厚膜型変性エポキシ樹脂系塗料の品質
「塗装指針」 2013;附属書 A 塗料規格及び試験方法
SPS 66099-12 (1)厚膜型変性エポキシ樹脂系塗料
品質
下表には,厚膜型変性エポキシ樹脂系塗料の塗料品質,比較のため JIS K 5551 2018「構造物用さび止めペイント」C種(反応硬化形変性エポキシ樹脂系塗料)の品質を紹介する。なお,C種には,常温で用いる 1号と低温で用いる 2号がある。
JIS 等で規定される品質の「塗装作業性」,「塗膜の外観」については,これらの品質に適合しない塗料の販売が考え難いこと,また,他の品質を検査する際にこの品質は容易に把握できることから,鉄道では,全ての塗料規格でこれらの品質を規定していない。また,実環境で 2年程度の「耐候性」(屋外暴露耐候性)を規定していない。これは,塗料成分の規定により,塗膜の機械的,化学的,及び耐久性の室内試験を行うことで,耐候性が確保できると考えているためである。
項 目 | SPS 66099-12(1)(常温用) | JIS C種 1号(常温) | SPS 66099-12(1)(低温用) | JIS C種 2号(低温) |
---|---|---|---|---|
顔料(質量分率 %) | 20以上 | ― | 20以上 | ― |
変性エポキシ樹脂または 変性ポリオール(質量分率 %) |
15以上 | ― | 15以上 | ― |
硬化剤(質量分率 %) | 3以上 | ― | 3以上 | ― |
溶剤(質量分率 %) | 40以下 | ― | 40以下 | ― |
加熱残分 % | 60以上 | ― | 60以上 | ― |
塗膜中の鉛(質量分率 %) | 0.06以下 | |||
塗膜中のクロムの定量 (質量分率%) |
0.03以下 | |||
容器の中での状態 | かき混ぜたとき,堅い塊がなくて一様になる。 | |||
半硬化乾燥性 | 常温 16時間 | 低温 24時間 | ||
塗装作業性 | ― | 支障がない。 | ― | 支障がない。 |
塗膜の外観 | ― | 正常である。 | ― | 正常である。 |
ポットライフ | 23℃ 5時間 | 5℃ 5時間 | ||
たるみ性 | ― | たるみがない。 (すき間200μmで流れがない) |
― | たるみがない。 (すき間200μmで流れがない) |
上塗り適合性 | 支障がない。 | |||
耐衝撃性 | 割れ及びはがれがない。 | |||
耐屈曲性 | 直径10mmの折り曲げに 耐えるものとする。 |
― | 直径10mmの折り曲げに 耐えるものとする。 |
― |
付着性 | 分類 1以下 | 分類 1又は分類 0 | ||
耐熱性 | ― | 160℃で 30分加熱しても, 塗膜に異常がなく,付着性が 分類 2以上であること。 |
― | 外観が正常である。 試験後の付着性試験で 分類 2,分類 1,又は分類 0 |
冷熱繰返し試験 | 冷熱繰返しに耐えるものとする。 | ― | 冷熱繰返しに耐えるものとする。 | ― |
サイクル腐食性 | さび,膨れ,割れ及びはがれがない。(120サイクル) | |||
屋外暴露耐候性 | ― | さび,膨れ,割れ 及び はがれがない。(24か月) |
― | さび,膨れ,割れ及び はがれがない。(24か月) |
ページのトップへ
ポリウレタン樹脂塗料上塗の品質
「塗装指針」 2013;附属書 A 塗料規格及び試験方法
SPS 66099-11 ポリウレタン樹脂塗料上塗
品質
下表には,ポリウレタン樹脂塗料上塗の塗料品質,比較のため JIS K5659 2018 「鋼構造物用耐候性塗料」上塗り 2級(ポリウレタン樹脂塗料相当))の品質を紹介する。
JIS 等で規定される品質の「塗装作業性」,「塗膜の外観」については,これらの品質に適合しない塗料の販売が考え難いこと,また,他の品質を検査する際にこの品質は容易に把握できることから,鉄道では,全ての塗料規格でこれらの品質を規定していない。
項 目 | SPS 66099-11 上塗 | JIS K 5659 上塗り 2級 |
---|---|---|
顔料(質量分率 %) | 5以上 | ― |
ポリオール樹脂(質量分率 %) | 13以上 | ― |
硬化剤(質量分率 %) | 1以上 | ― |
溶剤(質量分率 %) | 白・淡彩 50以下,他の色 60以下 | ― |
NCO基の定性 | NCO基があるものとする。 | - |
混合塗料中の加熱残分 % | 白・淡彩は 50以上,その他の色は 40以上 | |
塗膜中の鉛(質量分率 %) | 0.06以下 | - |
塗膜中のクロム(質量分率 %) | 0.03以下 | - |
容器の中での状態 | かき混ぜたとき,堅い塊がなくて一様になる。 | |
低温安定性(-5±2℃) | - | 変質しない。( B種のみ) |
表面乾燥性 | - | 表面乾燥する。(常温 8 時間後,低温 5 ℃ 16 時間後) |
乾燥時間 | 23℃で 8時間以下,5 ℃で 16時間以下 | - |
塗膜の外観 | - | 塗膜の外観が正常であるものとする。 |
ポットライフ | 規定時間(5 時間)後,使用できる。 | |
隠ぺい率 | 白・淡彩は 90以上,鮮明な赤,及び黄は 50以上,その他の色は 80以上 | |
鏡面光沢度(60度) | 80 以上 | 70 以上 |
耐屈曲性 | 折曲げに耐える。( 10mmマンドレル) | |
耐おもり落下性(デュポン式) | 塗膜に割れ,及びはがれが生じない。 | |
層間付着性 Ⅱ | 異常がない。 | |
耐アルカリ性,耐酸性 | - | 異常がない。(水酸化カルシウム水,硫酸水) |
耐湿潤冷熱繰返し性 | - | 湿潤冷熱繰返しに耐える。 |
促進耐候性 | 照射時間 500時間で塗膜に,膨れ・はがれ・割れがなく, 光沢保持率は,70%以上で, 色の変化の程度が見本品に比べて大きくなく, 白亜化等級が 1以下とする。 |
照射時間 1000 時間で塗膜に割れ・はがれ・膨れが無く, 色の変化が大きくなく, 白亜化の等級が 1 又は 0,光沢保持率 80%以上。 |
屋外暴露耐候性(24か月) | - | 塗膜に割れ・はがれ・膨れが無く,色の変化が大きくなく, 白亜化の等級が 2,1 又は 0 ,光沢保持率 40%以上。 |
このページの“トップ”へ