防食概論塗装・塗料

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 ここでは,【鋼橋の防食設計】 で検討される 【塗装の利用】, 【耐候性鋼の利用】, 【溶融亜鉛めっき鋼の利用】, 【金属溶射の利用】 に項目を分けて紹介する。

 防食塗装系(鋼橋維持管理の背景)

 鋼橋の防食設計

 設計寿命 100年程度(以前は 60 年程度)で製作された鋼橋は,適切な維持管理(maintenance),すなわち適切な点検を繰り返し,適切な時期に必要な補修・補強を施すことで,設計寿命を超える供用が可能になる。
 しかしながら,維持費節減などを言い訳に,放置した場合には,設計寿命以前に供用困難な状況に至るのみならず,時折ニュースネタになるような,突然の崩壊などで,人的,物的に多大の損害(決して想定外ではない)を与える。
 
 設計段階では,供用期間中の点検と補修を前提としたライフサイクルコスト(LCC)を考慮する必要がある。
 一般的に,構造物の LCC は,橋梁製作段階のイニシャルコスト,通常の維持管理(点検,補修・補強)で発生する維持管理コスト,構造物の撤去,廃棄時の廃棄コスト の和となる。LCC に与える影響は,維持管理コストが最も大きく,次いでイニシャルコスト,廃棄コストの順に影響は小さいと考えられている。
 維持管理コストの中で,腐食に伴い発生する腐食コストを低減するため,種々の防食対策が検討される。この時,防食対策のコストのみを比較するのではなく,防食対策と構造物の維持管理(補修・補強)との費用対効果を考慮する必要がある。
 
 防食対策のコストは,防食に用いる材料コストより,施工に関わる周辺のコスト(足場架設費用,養生費用,施工管理費用)が大きいため,防食技術の選定では,寿命(補修周期)の長いものが有利と考えがちである。
 しかし,防食材料の寿命を適切に推定することが難しく,一般的には,強引に(恣意的に)設定されているのが通例である。このため,構造物の架設環境,構造の特徴,使用条件など個々の構造物を取り巻く条件によっては,長寿命タイプの材料を用いても補修周期を延伸できないことも少なくない。これが明らかになった場合には,速やかに防食手法を変更できる柔軟性が必要になる。

 鋼橋に適用可能な防食技術
 適用可能な防食技術は多数あり,特殊環境,特殊構造の鋼橋では,チタンやステンレスなどの耐食金属のクラッド鋼板を採用したり,電気防食を適用することもある。
 しかし,一般的な環境の鋼橋では,構造上の特徴,コスト面を考慮し,塗装,耐候性鋼,溶融亜鉛めっき鋼,金属溶射鋼の単独,又は組合せで用いるのが一般的である。
 ここでは,鋼橋に適用される防食技術として,塗装,耐候性鋼,溶融亜鉛めっき,金属溶射について,その一般的な特徴,及び維持管理時の要点などを紹介する。

 【参考】
 ライフサイクル(life cycle)
 原材料の取得又は天然資源の産出から,最終処分までを含む,連続的でかつ相互に関連する製品(又はサービス)システムの段階群。
 注記;ライフサイクルの段階には,原材料の取得,設計,生産,輸送又は配送(提供),使用,使用後の処理及び最終処分が含まれる。【JIS Q14001「環境マネジメントシステム−要求事項及び利用の手引」】
 ライフサイクルコスト(life cycle cost)
 生涯費用ともいい,英語の頭文字から LCCと略される。この費用は,企画・設計から調達・製造までの初期費用(イニシャルコスト;initial cost),使用し続けるために必要な維持費用(ランニングコスト;running cost),解体・廃棄物処理(waste management)などの廃棄に関わる費用を総合して考えたもの。
 クラッド鋼板(clad steel plates sheets)
 主に耐摩耗性又は耐化学腐食性のある鋼又は合金を,低炭素鋼,低合金鋼などの母材と張り合わせた鋼板及び鋼帯。通常は圧延又は爆着で製造する。ときには,溶接プロセスなどその他の方法を用いる場合がある。
 なお,母材の片面に合わせ材を張り合わせたものを片面クラッド鋼,両面に合わせ材を張り合わせたものを両面クラッド鋼という。【JIS G 0203「鉄鋼用語(製品及び品質)」】
 クラッド鋼の JIS 品質規格には,JIS G 3601「ステンレスクラッド鋼:Stainless-clad steels」,JIS G 3602「ニッケル及びニッケル合金クラッド鋼:Nickel and nickel alloy clad steels」,JIS G 3603「チタンクラッド鋼:Titanium clad steels」,JIS G 3604「銅及び銅合金クラッド鋼:Copper and copper alloy clad steels」がある。

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 塗装の利用

 JIS K5500「塗料用語」

 塗装(coating, application, painting, finishing)
 物体の表面に,塗料を用いて塗膜又は塗膜層を作る作業の総称。
 備考:ISO(国際標準化機構)用語規格では,塗料は“coating material”,塗膜は“coat”と定義しているが,ここに記載する塗装に対応する用語は規定されていない。また,BS(英国規格)用語規格では,同様に“coating material”を塗料,“coat”を塗膜とするほか,“coating”を塗装として定義している。
 しかし,ASTM(米国材料試験協会)用語規格では,“coating”は塗料として,また,塗ることは“paint(vb)”として定義されている。そのほか,CED (Coatings Encyclopedic Dictionary)には,塗装の意味の用語として“application”が記載されている。
 ここでは,対応英語は,“coating”,“application”その他を併記している。
 塗膜(coat, film, paint film)
 塗られた塗料が乾燥してできた固体皮膜。
 備考:ISO(国際標準化機構)用語規格では,単一の(1回の)塗装でできる塗料の連続層を“coat”,素地に 1回又はそれ以上塗装してできる連続層を“film”と定義。
 
 塗装による防食の一般論は,【腐食・防食とは】の「防食の基礎(塗料・塗装)」に示す。
 ここでは,塗装を鋼橋に用いる場合の特徴について紹介する。

 防食原理

 鋼の防せい・防食は,塗膜による環境因子の遮断,及び下塗り塗料に配合されたさび止め顔料(防せい顔料)との複合作用による。
 材料
 有機高分子材料,又は無機高分子材料を展色材(vehicle)とし,機能・特性付与を目的とした顔料(pigment),及び添加剤(additive)を配合した塗料が用いられる。
 展色材とは,塗膜の主体となる樹脂で,バインダー(binder)ともいう。また,液相の構成成分についてはビヒクル(vehicle, medium)ともいう。
 適用環境・耐用期間
 塗装による防食は,使用環境に応じた塗装系を選択できる利点がある。
 腐食性の高い環境では,塗膜欠陥部からの局部腐食(local corrosion)が問題となり部分的補修(塗替え塗装)が早期に必要になる。架設環境や塗膜品質によるが,重防食塗装(heavy duty coating)を用いても,大部分は健全であるが,早い場合で 10年程度,遅い場合でも 20~30年程度で,部材の一部で鋼板の厚み減少に至る場合が経験されている。
 すなわち,塗装の寿命は,塗膜寿命ではなく,部分的補修(塗替え塗装)が必要となる期間と考えるべきである。この場合には,塗膜の大部分は健全な状態を維持しており,腐食や塗膜劣化の面積率は 1%に満たない場合が多い。
 一般的な環境では,用いたビヒクル(樹脂)の劣化速度に依存した塗膜寿命がある。一概には言えないが,油性系塗料で 50年程度で塗膜更新(旧塗膜の完全除去)を必要とする状況になる。
 施工
 吹付け塗り,はけ塗り,ローラ塗りなど,施工方法の選択の自由度が高く,狭あい部など複雑な構造での施工が可能である。
 しかし,施工に際しては,作業者に高度な技能が要求され,形成した塗膜の品質に作業者の技能差が大きく影響する。
 塗膜劣化要因
 塗膜劣化に影響する因子は,塗膜内部の組成変化に影響する因子,塗膜表面の劣化に影響する因子,塗膜下の鋼腐食に影響する因子に分けられる。
 塗膜内部まで影響する因子には,大気中の水分(有機高分子材料の加水分解,塗膜の膨潤,膨れ)や酸化成分(酸素,オゾンなどによる有機高分子材料の酸化分解)がある。
 塗膜表面に影響する因子は,太陽光中の紫外線(有機高分子材料の光劣化,顔料の光化学反応など),水分,及び飛来粒子(物理的劣化)が挙げられる。
 塗膜下鋼腐食に関しては,塗膜と鋼の付着状態(界面の状態),塗膜を透過し鋼界面に到達する酸素,水分,微小の塗膜欠陥部を通じて鋼素地まで達した電解質成分(塩分)などが影響する。なお,施工時(素地調整時)に鋼界面に取り残した塩分の影響も大きい。
 補修(塗替え塗装)
 一般的には,局部的に発生した腐食部,及び塗膜劣化部を除去し鋼素地を露出させ(素地調整作業),この個所のみに下塗り塗料を部分的に塗装する(補修塗り)。
 塗膜自身の劣化に至っていない塗膜健全部は,活膜として残す。一般的には,美装目的に,(下塗り塗料の一部),中塗り・上塗り塗料を全面に塗装(全面塗り)することが多い。
 塗膜劣化部とは,防食塗装では,塗膜割れ,はがれの発生している個所,塗膜の付着性が低下している個所をいう。
 塗膜自身の劣化で,塗膜更新が必要になった場合は,旧塗膜を活膜として残さず,全面の塗膜剥離作業となる。このとき,鋼素地には,腐食個所と腐食していない個所が混在する。それぞれの個所での素地調整作業が異なるので注意が必要である。
 防食目的の塗装では,下塗り塗膜の変状を原因とする塗膜はがれ,塗膜割れが塗膜劣化として認識される。塗装の防食性への影響が少ない光沢低下,変色,白亜化などの上塗り塗膜のみの変状は,塗膜劣化部として扱わないのが通例である。
 すなわち,光沢低下,色変化,白亜化は,景観性に影響するが,防食性に与える影響は小さいので,防食塗装の評価では,塗膜割れやはがれとは異なる観点で評価すべきである。
 その他
 塗膜は,均質な膜ではなく,多くの微小欠陥が内在する膜である。このため,塗膜自身の劣化が進んでいなくとも微小欠陥部を原因とする鋼の腐食に至る場合が少なくない。
 特に,局部的に腐食因子の強度が高くなる部位(滞水部,漏水部など),飛来した汚染物が長時間とどまる部材下面(雨洗効果が小さい個所)では,局部的な腐食に至ることがある。

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 耐候性鋼の利用

 耐候性鋼(atmospheric corrosion resisting steel, weathering steel, weatherproof steel)の腐食・防食の一般的な特徴は,【防食の基礎】の「防食の基礎(耐食材料)」に示す。
 ここでは,耐候性鋼(JIS G 3114「溶接構造用耐候性熱間圧延鋼材)を鋼橋に適用する際の特徴について紹介する。

 防食原理

 耐候性鋼材が,適切な腐食の進行で,鋼材表面に緻密で保護性の高いさび層(過去には安定さびと称されていた)が形成されることにより,その後の腐食量が著しく抑制される。これにより,100 年を超える長期間に渡り,健全性低下に至る鋼材断面欠損を抑制できると言われている。
 材料
 適切な合金成分を含む耐候性鋼材を用いる。耐候性鋼の一般的な成分については,【金属概論】の「金属概論(合金鋼)」に紹介している。
 適用環境・耐用期間
 耐候性鋼材の無塗装での適用は,保護性のさび層が形成される環境に限定される。すなわち,腐食促進因子(塩化物イオン,硫黄酸化物イオンなど)を含まない水による適度な濡れと乾燥が繰り返される環境である。
 耐候性鋼は,どのような環境でも,保護性さび層の形成後も腐食は進行する。しかし,その速度は普通鋼に比較して著しく小さいので,耐用期間は許容できる板厚み減少量と腐食速度から決定される。
 耐候性鋼の腐食は,架設環境の変化の影響を受ける。すなわち,ある期間を経て保護性さびが形成されたとしても,例えば凍結防止塩を散布する道路の建設などの環境変化により,保護性さび層の破壊に至る可能性があるので,保護性さび層形成後も定期的な検査が必要である。
 施工
 耐候性鋼材を無塗装で使用する裸仕様の無塗装橋梁では,新設時に鋼材表面の汚損を防止するなどの適切な施工が望まれる。耐候性鋼材を表面処理(塗装)して用いる場合には,表面処理膜の施工に塗装と同様の要件が求められる。
 劣化要因
 適切な濡れと乾燥の繰り返しに去らない環境,すなわち水の滞留や漏水などで長時間の濡れが続く環境,塩化物イオン(海塩粒子や凍結防止剤由来)の飛来付着する環境では,保護性さびが形成されず腐食が継続する。このような状況が構造物の一部であっても,構造物の健全性に影響するので注意が必要である。
 補修
 保護性のさび層が形成されない場合には,普通鋼と同等に腐食が進行するので,一般的には塗装による補修が実施される。
 塗装鋼の補修(塗替え塗装)に比較し,対象面が腐食促進因子を多く含む厚く硬いさび層で覆われているので,通常の塗替え塗装で用いられる素地調整では,必要十分な除せい(錆)度(preparation grade)を達成できないため,塗替え塗装の耐久性は著しく短くなるので注意が必要である。
 補修後の耐候性鋼は,塗装鋼と同様の維持管理が必要になる。
 その他
 耐候性鋼を裸仕様で用いる場合は,架設環境の事前調査,適切な濡れと乾燥が期待できない構造を避ける設計が必要である。架設環境の環境調査では,一般的には海塩の飛来状況調査を行うが,他に橋梁直近の環境に腐食促進因子発生の可能性(凍結防止塩散布,いおう温泉,焼却炉など)についても調査しておくべきである。

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 溶融亜鉛めっき鋼の利用

 溶融亜鉛めっき鋼による防食の一般論は,【防食の基礎】の「溶融めっきとは」に,溶融亜鉛めっき技術については,【金属概論】の「溶融亜鉛めっき鋼」に示す。
 ここでは,溶融亜鉛めっき鋼(hot-dip zinc-coated steel sheets)を鋼橋に適用する際の特徴について紹介する。

 防食原理

 一般部位については,鋼に密着した亜鉛被膜による環境遮断で鋼を防せい・防食する。海塩地区など腐食の激しい環境では,鋼素地に達する傷など微小領域の鋼露出個所は,亜鉛と鋼の電位差による鋼の防食(電気防食)も期待できる。
 参考:電位差による防食については,【鋼腐食の基礎】の「異種金属接触腐食」の原理を逆手に利用した手法である。
 材料
 400℃以上で,溶融状態の金属亜鉛のプール(浴)に,鋼を浸漬(どぶ漬)し,表面に約 75μmの亜鉛層を密着させた鋼(溶融亜鉛めっき鋼 JIS H 8641 HDZ 55 )である。
 適用環境・耐用期間
 溶融亜鉛めっき鋼の耐久性は,亜鉛めっき層の耐久性に依存する。すなわち,亜鉛の腐食速度の高い環境(海塩環境など)では耐久性が著しく低くなる。
 一般的に長期の耐久性が期待できるのは,亜鉛めっき層の表面に保護性のさび層(塩基性炭酸亜鉛など)の形成が期待できる環境で,ほぼ耐候性鋼の使用環境と同等と考えられ,海浜環境では 10年未満の早期の鋼腐食に至る場合もある。
 施工
 構造物は,鋼を 400℃以上のめっき浴に浸漬するので,溶融亜鉛めっきに適した設計(熱ひずみなど)が求められる。適切に設計しても,不めっき部などの不具合は発生する。一般的に不めっき部などの補修に塗装(ジンクリッチペイント)が用いられる。
 劣化要因
 保護性のあるさび層(塩基性炭酸亜鉛)が形成されない条件,特に濡れ時間が長く,塩化物イオンや硫化物イオンを多く含む環境では,比較的早い段階(10年程度)で亜鉛めっき層が消耗することもある。
 補修
 亜鉛めっき層消耗後は,めっき工場に持ち込むことで,再めっきも可能であるが,輸送が困難な構造物では塗装による補修となる。塗装による補修では,亜鉛めっき層が残存している場合と完全に消耗し鋼腐食に至っている場合に分ける必要がある。
 鋼腐食に至っている場合は,ほぼ全面が腐食した鋼の塗替え塗装になるため,劣化した耐候性鋼と同様に考えることができる。
 その他
 腐食性の高い環境で用いる場合には,塗装と組合せた二重防食系として用いることがある。腐食性の低い環境でも美装を目的に塗装と組み合わせた仕様もある。
 この場合の耐久性の延伸効果は,塗膜の耐久性(亜鉛めっき層との付着性など)に依存する。

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 金属溶射の利用

 溶射法とは,溶融した物質を高速で素材に吹き付け,皮膜を形成する方法である。原理的には,溶融した後,素材に衝突するまでの間,気化や燃焼せずに液体の状態を維持できる物質は,全て溶射材料として活用できる。
 金属溶射による防食の一般論は,【防食の基礎】の「金属溶射」に示す。
 ここでは,金属溶射(metal spraying)を鋼橋に適用する際の特徴について紹介する。

 防食原理

 鋼構造物において,防食目的に採用される溶射は,溶融めっきの代替としての意味合いが強い。このため,亜鉛,アルミニウム,及びそれらの合金溶射が中心となっている。
 溶融めっきに比較して,溶射被膜の緻密性が低い(空隙が多い)ので,封孔処理(sealing)で緻密性向上を図る必要がある。鋼素地に達する傷など微小領域の鋼露出個所は,溶融亜鉛めっきと同様に,鋼との電位差による防食(電気防食)が期待できる。
 平たく言えば,微小欠陥の多いめっき被膜と考えてもよい。
 材料
 溶射材料は,JIS H 8261「溶射用の線材,棒材及びコード材」 に規定される材料が用いられる。鋼構造物などには,亜鉛溶射,15%アルミニウム-亜鉛合金溶射,アルミニウム溶射は,5%マグネシウム-アルミニウム合金溶射が用いられる。
 適用環境・耐用期間
 適切な封孔処理により,溶融めっきと同様の適用環境,及び耐用期間が得られる。施工上の制約で溶射できない部位は,塗装と同様に考えられる。
 施工
 適切な下地調整(ブラスト処理)した鋼に,母材を加温することなく,現地施工が容易なフレーム溶射(酸素-アセチレンなどの燃焼炎),プラズマ溶射(不活性ガスに通電し,発生した高温高速のプラズマジェット)が用いられる。
 施工では,溶射ガンの取り回しの制約(ガンの大きさ,溶射角度の制約など)を受けるため,部材の影となる部分を作らない構造物設計が望ましい,やむを得ず溶射できない不溶射個所は,塗装による防食となる。
 溶射皮膜は,飛翔中生成した溶融粒子表面の酸化物,溶融不良の粒子,粒子間の気孔などを含む。このため,このまま利用すると粒子間の空隙に,水や汚染物質などの環境因子が入り込み,溶射被膜の耐久性に影響する。そこで,この空隙を埋めるため封孔処理が実施される。
 鋼構造物に用いる封孔処理は,封孔処理剤(エポキシ樹脂系塗料を希釈したものが多い)を用いた人工封孔処理を行うのが一般的である。特殊な環境では,溶射金属の腐食で発生した生成物による封孔(自然封孔処理を待つことができるケースもある。
 劣化要因
 封孔処理剤の劣化要因は,塗装の劣化要因と同様に考えられる。溶射被膜の劣化要因は,溶融めっきの劣化要因と同様に考えられる。溶射できない部位は,塗装と同様に考えられる。
 補修
 溶射被膜劣化後は,再溶射も可能であるが,現場作業となり制約が多い。一般的には,塗装による補修が多い。塗装は,溶射被膜が残存している場合と完全に消耗し鋼腐食に至っている場合に分ける必要がある。
 鋼腐食に至っている場合は,ほぼ全面が腐食した鋼の塗替え塗装になるため,劣化した耐候性鋼と同様に考えることができる。
 その他
 期待する耐久性を発揮するためには,素地との密着性確保と封孔処理の品質確保にある。
 素地との密着性は,素地調整の品質,すなわちブラスト処理による表面に付着する不純物の除去と適切な粗度の付与に加え,素地調整後溶射作業に至るまでの時間・環境条件などの施工管理に影響される。
 封孔処理の品質も,封孔処理剤の品質に加え,塗付け作業等の施工管理に影響される。

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