防食概論塗装・塗料

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 ここでは,特殊な用途の塗膜に求められる機械的特性の一つである 【耐摩耗性】, 【JIS 試験方法】 を紹介する。

 塗膜の評価(機械的性質;耐摩耗性)

 耐摩耗性とは

 塗膜表面が砂や他の硬い材料でこすられたときなどの塗膜変状に影響する塗膜の性質として,耐摩耗性(塗膜表面の破壊現象に対する抵抗性)が求められる。
 摩耗現象は,一般的には,材料の動的弾性率,摩擦係数,荷重,時間の積に比例し,破壊エネルギーに反比例すると考えられている。しかし,堅い素地に塗装した薄膜の塗膜では,材料特性以外の種々の要因が関連し複雑な現象になっている。
 
 塗料の JIS製品規格の品質として,耐摩耗性規定しているのは,例えば道路の白線表示に用いられ,自動車の車輪や歩行者の靴底と常に接触するJIS K 5665 「路面標示用塗料」がある。
 防食塗装に用いられる塗料の JIS製品規格には,品質項目として「耐摩耗性」は規定されていないが,使用環境として,物理的な接触の多い個所,定期的な洗浄を受ける個所などでは,使用塗膜の要求性能として「耐摩耗性」を求めることもある。
 
 【参考】
 摩耗(wear)
 読み「まもう」,磨耗とも記される。
 材料の実用寿命をそこなう傾向がある使用中に出会うすべての有害な機械的影響の累積作用。【 JIS K6900「プラスチック用語」】
 一般的には,摩擦に伴って生じる固体表面部分の逐次減量を指す。
 耐摩耗性(abrasion resistance, wear resistance)
 相対運動する金属面の機械的引っかき,金属的粘着などが総合されてその面が損耗する現象を磨耗といい,これに耐える性質。【 JIS G0203「鉄鋼用語(製品及び品質)」】
 塗膜の耐摩耗性については,JIS K5600-5-8「第8節:耐摩耗性(研磨紙法)」,JIS K5600-5-9「第9節:耐摩耗性(摩耗輪法)」,JIS K5600-5-10「第10節:耐摩耗性(試験片往復法)」がある。
 JIS H8503「めっきの密着性試験方法」には,めっき皮膜の耐摩耗性として,往復運動磨耗試験,平板回転磨耗試験,両輪駆動磨耗試験など,5種類の試験方法が規定されている。【JIS H 0400「電気めっき及び関連処理用語」】
 アルミニウムの陽極酸化皮膜の耐摩耗性には,砂落し摩耗試験,噴射摩耗試験,往復運動平面摩耗試験などが用いられる。【JIS H 0201「アルミニウム表面処理用語」】

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JIS 試験方法概要

 乾燥状態での塗膜の耐摩擦性
 JIS規格試験には,次に示す 3 種類の方法がある。
 ① 研磨紙法
 JIS K 5600-5-8 「塗料一般試験方法−第 5 部:塗膜の機械的性質−第 8 節:耐摩耗性(研磨紙法)」
 原理 乾燥塗膜は,規定の条件でテーバー形摩耗試験機の回転輪に取り付けられた研磨紙によって摩耗される。試験中は,回転輪には規定の荷重が加えられる。
 耐摩耗性は,規定の回転数の摩耗を受けたときの摩耗減量,又は塗膜がはがれて下塗り塗膜,若しくは素材表面に達するのに必要な回転数として求められる。
 ② 摩耗輪法
 JIS K 5600-5-9「塗料一般試験方法−第 5 部:塗膜の機械的性質−第 9 節:耐摩耗性(摩耗輪法)」
 原理 乾燥塗膜は,テーバー形摩耗試験機の回転する摩耗輪によって摩耗する。試験中は,摩耗輪には規定の荷重がかけられる。
 耐摩耗性は規定回転数の摩耗を受けたときの摩耗減量,又は塗膜がはがれて下塗り塗膜,若しくは素材表面に達するのに必要な回転数として求められる。
 砥石の種類,荷重など各種条件で試験でき,ゴムやプラスチック製品で定量的評価にも用いられる一般的な試験方法である。
 ③ 往復運動法
 JIS K 5600-5-10「塗料一般試験方法−第 5 部:塗膜の機械的性質−第 10 節:耐摩耗性(試験片往復法)」
 原理 試験片上の乾燥塗膜は,静止した回転輪の外周に取り付けられた研磨紙に対して,規定の条件で試験片を摩擦することによって摩耗される。試験中は,静止した回転輪には荷重がかけられるので研磨紙は試験片に規定の力で押し付けられる。
 試験片が往復運動するごとに,回転輪が少しの角度だけ回ることによって,研磨紙の未使用部分が次々に送り出されて試験片に接触する。規定回数の往復運動 (DS : Double Stroke) の後,試験片の摩耗減量が測定される。1往復当たりの摩耗減量 (mg/DS) 及び耐摩耗性 (DS/mg) が計算される。
 回転することで,研磨紙の新しい面が常に出るロールの上を試験片が往復運動する方法である。
 
 湿潤状態での塗膜の耐摩耗性
 JIS K 5600-5-11 「塗料一般試験方法−第 5 部:塗膜の機械的性質−第 11 節:耐洗浄性」
 湿潤状態での耐摩耗性(耐湿潤摩耗性)は,塗料・塗装分野では,実用を考慮して,耐洗浄性と称している。
 耐湿潤摩耗性は,以下の方法による。
 規定の隙間のフィルムアプリケータを用いて,塗料を規定する試験板に塗布する。
 規定する手順で乾燥及び養生したものを試験片とする。
 試験片の質量を求め,湿潤摩耗試験装置で,他に規定(製品規格)又は受渡当事者間の協定がなければ,200サイクルの湿潤摩耗試験を行う。
 試験後,試験片を洗浄,乾燥,ひょう(秤)量し,塗膜の損失重量を求め,次いで塗膜厚さの平均損失量を求める。塗膜厚さの平均損失量を規定値と比較することによって,受渡当事者間で取り決めた耐湿潤摩耗性の等級で格付けすることができる。

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