防食概論塗装・塗料

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 ここでは,塗料の品質(隠ぺい率)について, 【隠ぺい力・隠ぺい率とは】, 【上塗り塗料の品質試験例】に項目を分けて紹介する。

 塗料の評価(形成塗膜の隠ぺい力)

 隠ぺい力・隠ぺい率とは

 上塗り塗料の隠ぺい力が低いと,下地の色が透けて影響し,設計した色彩が得られず,厚塗り(増し塗り)が必要になるなど塗装作業で不都合が生じる。また,製品としての塗膜も,要求された色と異なり,美装性に不都合が生じる。すなわち,塗膜の隠ぺい力は,下塗り塗膜を覆う中塗り塗料,及び中塗り塗膜を覆う上塗り塗料に求められる品質である。

 JIS K5500「塗料用語」

 隠ぺい力(塗膜の)(hiding power)
 塗料が素地の色又は色差を覆い隠す能力。黒と白とに塗り分けて作った下地の上に,同じ厚さに塗ったときの塗膜について,色分けが見えにくくなる程度を,見本品の場合と比べて判断する。
 隠ぺい率(塗膜の)(contrast ratio)
 塗料が下地の色の差を覆い隠す度合。黒と白とに塗り分けて作った下地の上に,同じ厚さに塗ったときの,塗膜の 45度,0度拡散反射率又は三刺激値 Yの比で表わす。

 JIS K 5600-4-1 「塗料一般試験方法−第 4 部:塗膜の視覚特性−第 1 節:隠ぺい力(淡彩色塗料用)」

 序文(抜粋)
 塗料の隠ぺい率を測定するためには,試験塗膜の調整,及び測定に関する次に規定する二つの方法から一つを選択する。
 a) 無色透明のポリエステルフィルムへ塗装する方法,その塗装したフィルムは黒と白のガラス板上に順次固定する。
 b) 黒と白の試験紙,例えば隠ぺい率試験紙,又はモレストチャート(Morest charts)へ直接塗装する方法。
 
 同じフィルムアプリケータを用いても,操作者が異なる場合は,著しく異なった膜厚の塗膜が得られるので,隠ぺい力の測定は,絶対的な方法が要求される。
 この規格で選ばれた塗り面積とは 20m2/リットル(ぬれ膜厚 50μm)であり,平滑な非多孔質面上に,流れのない塗料をはけ塗りした場合の平均的な値である。
 さらに,行われた共同研究の結果,ポリエステルフィルム上に塗布した塗膜は,隠ぺい率試験紙上に塗布した塗膜よりも高い再現精度が得られることが判明した。しかし,隠ぺい率試験紙上に塗布する方法の方が操作は簡単であった。この規格は,これらの二つの方法のいずれにも対応できる。
 原理(抜粋)
 この方法は,又は淡彩色塗料が正常な方法で塗装される場合,ある限定した膜厚の範囲において,隠ぺい率は塗り面積の逆数に対する近似的な一次関数であるという研究に基づいている。
 したがって,異なった膜厚で得た結果からもグラフ,又は計算によって,十分に正確な内挿が可能である。
 ぬれ膜厚は,十分に正確な測定をすることが,通常はできないので,この方法は,単位面積当たりの乾燥塗膜質量を測定し,その測定値に対応するぬれ膜厚を計算で求めている。(以下省略)
 手順(抜粋)
 素地の調整
 方法A(ポリエステルフィルム
 未塗装のポリエステルフィルムについて,次の操作から一つを選んで,ポリエステルフィルムを塗装のために調整する。
 a) 厚さ 6mm以上の平らなガラス板上にフィルムを平らに置く。この場合,ガラス板は,表面張力でこのフィルムを保持するのに丁度足りる程度の 2~3滴のホワイトスピリット(生成ペトロール,ホワイトガソリン)で,最初に湿らしておく。
 b) フィルムの一端を固定して,平らなゴム台上に置く[この場合,バーコータ(spiral applicator)を使用する]。
 方法 B(隠ぺい率試験紙
 隠ぺい率試験紙は,塗装前に少なくとも 24時間,積み重ねせずに 1枚ずつ,試験条件[温度 23±2℃,相対湿度 50±5%]下で保管。
 隠ぺい率試験紙は 1mgのけたまで質量をはかる。6枚の隠ぺい率試験紙は,塗布用とし,2枚の隠ぺい率試験紙は,空試験用として保管する。
 この 6枚の隠ぺい率試験紙は,次の三つの方法から一つを選んで,塗装用に調整する。
 a) 留め具又は粘着テープで,一端を少なくとも厚さ 6mmの平らなガラス板に固定する方法。
 b) 平らな(±2μm以内)真空吸引盤を用いる方法。
 c) 一端を固定して,平らなゴム台上に置く(この場合,バーコータを使用する。)。
 塗装(抜粋)
 フィルム又は隠ぺい率試験紙の一端に,必要とする膜厚に応じて 2mlから 4mlの塗料を線状に置き,均一膜が得られるように一様な速度で適切なアプリケータを引き下ろして,直ちに塗り広げる。
 通常約 50μm~約 100μmの範囲のぬれ膜厚を作る 3個の異なったアプリケータを選び,その 3個のアプリケータを用いて各一対の膜(合計 6個)を調整する。乾燥時間(及び焼付け条件)は,試験する塗料の種類によって異なる。
 養生
 別に協定がない場合,三刺激値 Yを測定する前に,乾燥した塗布済みフィルム又は隠ぺい率試験紙,及び空試験用フィルム又は隠ぺい率試験紙を少なくとも 24時間,23±2℃,相対湿度 50±5%に保つ。
 三刺激値 Y の測定
 三刺激値 Yの測定は,JIS Z8722「色の測定方法−反射及び透過物体色」による。隠ぺい率の測定では,三刺激値 Yを 0.3%以内の正確さで測定する反射率計,又は分光光度計を使用する。標準光源は D65を使用することが望ましい。
 方法A(ポリエステルフィルム)
 各塗装したフィルムは一対の白と黒のガラス板上に固定するが,このフィルムの下側とガラス板の間に 2,3滴のホワイトスピリットを入れて空気膜を除き,光学的な接触を確実にする。
 白(YW)と黒(YB)のガラス板上の 4か所以上で,各塗装済みのフィルムの三刺激値 Yを測定し,平均の三刺激値 YW及び YBをそれぞれ計算する。それから,各塗布済みフィルムの隠ぺい率 YB/YWを百分率で計算する。
 方法B(隠ぺい率試験紙)
 各隠ぺい率試験紙の白及び黒部上の 4か所以上で,各塗布済み隠ぺい率試験紙の三刺激値を測定し,平均の三刺激値 YWと YBを計算する。それから,各塗布済み隠ぺい率試験紙の隠ぺい率 YB/YWを百分率で計算する。
 塗り面積 20m2/リットルの隠ぺい率の測定(抜粋)
 膜厚の限定された範囲では,隠ぺい率は塗り面積の一次関数であるとみなされる。したがって,6個の塗膜の 3組から得られた隠ぺい率かそれに対応する塗り面積の数値は,グラフに描くことができる。
 塗り面積 20m2/リットルの隠ぺい率は,線形内挿によって測定する。グラフを描くためには,少なくとも 3種類の膜厚が必要である。一次関数の関係が成立する範囲では,この計算は,実験データから塗り面積に関する隠ぺい率の回帰関係を計算することによって,比較的容易に算出される。
 なお,塗り面積は,“乾燥塗膜の面密度”の測定結果,生塗料の“密度”及び“加熱残分”から計算された“ぬれ膜厚”の逆数として与えられる。
 
 【参考】
 拡散反射率(diffuse reflectance, reflectance)
 面の入射光に対する拡散光の割合。面の色の明るさを表す。通常は,面の法線に対して 45度で光を当て,法線方向(受光角 0度)で計測する。これを 45度,0度拡散反射率という。【JIS K5500「塗料用語」】
 三刺激値(tristimulus values)
 与えられた三色表色系において,試料の色刺激と等色にするための 3個の原刺激の量。
 備考 2種類の CIE 表色系では,三刺激値は記号 X,Y,Z 及び X10,Y10,Z10 で表す。【JIS Z8105「色に関する用語」】,【JIS Z8120「光学用語」 】
 三色表色系(trichromatic system)
 適切に選ばれた 3個の原刺激の加法混色による等色に基づいて,色刺激を三刺激値によって記述する体系。
 参考 特定の (R), (G), (B) の原刺激を用いた三色表色系を変換して,CIE の XYZ 表色系及び X10,Y10,Z10 表色系が定められている。【JIS Z8105「色に関する用語」】,【JIS Z8120「光学用語」 】
  XYZ 表色系とは,CIE 1931 (標準)表色系 (CIE 1931 standard colorimetric system (XYZ) )といい,CIE が 1931年に採択した原刺激 [X], [Y], [Z] 及び CIE 等色関数 x (λ) ,y (λ) ,z (λ) を用いて,任意の分光分布の三刺激値を決定する表色の体系。【JIS Z8105「色に関する用語」】
 淡彩(tint)
 白に近いうすい色。白塗料に有彩塗料を混合して作った塗料の塗膜。【JIS K5500「塗料用語」】

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 上塗り塗料の「隠ぺい率」試験例

 JIS K 5516合成樹脂調合ペイント

  a) 試験板
 JIS K 5600-4-1 「塗料一般試験方法−第4部:塗膜の視覚特性−第1節:隠ぺい力(淡彩色塗料用)」 の方法 B(隠ぺい率試験紙)に規定する隠蔽率試験紙を用い,試験紙の大きさは,全寸で 100mm×200mm 以上のものとする。
 b) 試験片の作製
 隠蔽率試験紙を平らなガラス板の上に水平に固定し,隙間 100μmのフィルムアプリケータを用いて,試料をうすめずに塗り付け,塗面を上向きに水平にして,標準状態で 48時間乾燥したものを試験片とする。試験片は,2枚作製する。
 c) 試験方法
 JIS K 5600-4-1 の 6.の方法 B(隠ぺい率試験紙)による。試験片の白地及び黒地の上の塗膜について,各 4か所以上の三刺激値 Yを測定し,それぞれの平均値 YW(白地上)と YB(黒地上)とを求める。
 d) 計算
 平均値 YWと YBとから,2枚の試験片の隠蔽率 YB/YW を百分率で計算し,その平均値を整数 2桁に丸める。

 JIS K5659鋼構造物用耐候性塗料<

 試験概要
 a) 試験片の作製
 JIS K 5600-4-1 「塗料一般試験方法−第 4 部:塗膜の視覚特性−第 1 節:隠ぺい力(淡彩色塗料用)」に規定する,隠ぺい率試験紙を平らなガラス板の上に水平に固定し,すき間 150μmのフィルムアプリケータによって塗り付け,72時間塗面を水平に置いたものを試験片とする。
 b) 試験方法
 隠ぺい率の試験方法は,JIS K 5600-4-1の方法 B(隠ぺい率試験紙)による。試験片の白地部分と黒地部分の塗膜の各 4か所について,三刺激値 Yを測定し,それぞれの平均値 YW(白地上)及び YB(黒地上)を求める。
 c) 評価,及び判定
 評価は,4か所の平均値 YW ,及び YBから,2枚の試験片の隠ぺい率 YB/YW を百分率で計算後,2枚の平均値を算出し,整数 2けたに丸めた数字を隠ぺい率とする。

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