防食概論塗装・塗料

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 ここでは,塗料の素地への付着性や塗り重ねた塗膜間の付着性について, 【接着・付着・粘着】, 【接着強さの評価】, 【塗膜付着性の評価】に項目を分けて紹介する。

 塗料の評価(付着性)

 耐接着・付着・粘着

 JIS 用語

 付着,接着(adherence)
 二つの表面が界面に働く力でつなぎ合わされている状態。注:付着は接着剤を使用し,又は使用しないでも達成できる。【JIS K6900[プラスチック用語」】
 接着(adhesion)
 接着剤を媒介とし,化学的若しくは物理的な力又はその両者によって二つの面が結合した状態。【JIS K 6800「接着剤・接着用語」】
 同種又は異種のものが一体化すること又はその状態。【JIS Z0109「粘着テープ・粘着シート用語」】
 二つの表面が接着剤の助けをかりて,化学的又は物理的力又は双方によってつなぎ合わされている状態。【JIS K6900[プラスチック用語」】
 粘着(pressure sensitive adhesion)
 高粘度液体に一般的に見られる現象で,態の変化を起こさず短時間僅かな圧力を加えるだけで接着する現象。【JIS Z0109「粘着テープ・粘着シート用語」】
 
 付着性(adhesive property, adhesion)
 塗膜が下地面に付着して離れにくい性質。【JIS K5500「塗料用語」】
 粘着性(adhesiveness, tack)
 タックともいい,接触する面どうしが,互いに密着しようとする性質。【JIS K 6200「ゴム‐用語」】
 粘着性は,接着性の一種で,一般的に“ねばりつく性質”,“くっついて離れない性質”と解釈されている。
 
 付着強さ(adhesive strength)
 乾燥した塗膜と素地との間の付着力の総和。備考 素地は未塗装又は既塗装でもよい。【JIS K5500「塗料用語」】
 接着強さ(bond strength)
 接着された二面間の結合の強さ。引張りせん断強さ,圧縮せん断強さ,はく離強さなどで表される。接着力ともいう。【JIS K 6800「接着剤・接着用語」】
 被着材間にある接着剤の層を接着層(glue line)といい,化学的又は物理的作用(例えば,重合,酸化,ゲル化,水和,冷却又は揮発性成分の揮散)によって接着強さが発現する過程をセッティング( setting )という。
 粘着力(peel adhesion, peel strength)
 粘着テープを被着体に貼り付け圧着後,引き剝がすのに要する力。引剝し粘着強さ,引剝し粘着力ともいう(JIS Z 0237「粘着テープ・粘着シート試験方法」 参照)。【JIS Z0109「粘着テープ・粘着シート用語」】
 保持力(holding power, shear adhesion)
 粘着テープ又は粘着シートを被着体にはり,長さ方向に静荷重をかけたとき粘着剤がずれに耐える力。一般に一定時間にずれる距離,又は被着体から落下する時間で表す。【JIS Z0109「粘着テープ・粘着シート用語」】
 凝集力(cohesion , cohesive strength)
 粘着テープ又は粘着シートの粘着剤が内部破壊に耐える力。【JIS Z0109「粘着テープ・粘着シート用語」】
 
 接着剤(adhesive)
 接着によって材料をつなぎ合わせることのできる物質。注−用語グルーは元来は硬質ゼラチンから調製した接着剤に使用されていた。この用語が広範囲にわたり使用され合成樹脂から調製した接着剤に対しても用語接着剤と同義語となった。現在では用語接着剤が望ましい一般用語である。【JIS K6900[プラスチック用語」】
 物体の間に介在することによって物体を結合することのできる物質。【JIS K 6800「接着剤・接着用語」】
 粘着剤(PSA)(pressure sensitive adhesive)
 PSAと略記され,接着剤の一種で,室温において粘着性をもつ材料。【JIS Z0109「粘着テープ・粘着シート用語」】
 例えば,エラストマーに粘着付与剤を配合して適切な粘弾性をもたせて作る。粘着剤は塗工前の形態別に溶剤系,水系,ホットメルト系などあり,種類は,ゴム系,アクリル系,シリコーン系などがある。
 
 このように,接着,付着,粘着は,何れも相対する二つの表面の離れ難い状態を指し,エラストマーを主成分とし粘弾性を有する場合を粘着といい,それ以外の物は多くの分野で接着といわれる,しかし塗料分野では一般用語として接着ではなく「付着が用いられる。
 
 【参考】
 エラストマー(elastomer)
 弱い応力でかなり変形したのちその応力を除くと急速にほぼもとの寸法及び形状にもどる高分子材料。【JIS K6900[プラスチック用語」】
 弱い力で変形し,力を除いた後,急速にほぼ元の形状寸法に戻る高分子材料。【JIS K 6200「ゴム‐用語」】
 なお,Elastomer は,弾力性のあるを意味するエラスティック( elastic )と重合体( polymer )の合成語である。
 粘性(viscosity)
 流れの速さの違いをならして一様にしようとする流体の性質をいう。
 流体内部に速度勾配があるとき,速度を一様にするような向きの接線応力(内部摩擦)が現れる。この力を粘性力といい,粘性を示す流体を粘性流体という。
 粘性力が速度勾配に比例するとき,この流体をニュートン流体という。ニュートン流体の単位面積あたりの粘性力と速度勾配との比を粘性率や粘性係数という。
 弾性(elasticity)
 読み「だんせい」,変形させている力を除くと原寸及び原形を回復する特性。(注) 1 ひずみが加えられた応力に比例する場合は,その材料はフック弾性又は理想弾性を示すと言われる。(注)2 その機構はゴム状弾性(エントロピー弾性)又は鋼状弾性(エネルギー弾性)のいずれであってもよい。【JIS K6900[プラスチック用語」】
 変形を与えた力を除去したときに,元の寸法及び形状を回復しようとする性質。【JIS K 6200「ゴム‐用語」】
 非粘着性(non-adhesiveness)
 物質がくっつかないか,又はくっつきにくい性質。【JIS K6894「金属素地上のふっ素樹脂塗膜の試験方法」】
 不粘着性(print resistance)
 塗膜の表面の粘着しにくい性質。多くの塗料の塗膜は,湿度が高いときや,温度が高いときに粘着性を生じる。塗料一般試験方法は,塗面にガーゼを置き,おもりを載せて一定時間おき,ガーゼをはがして,粘着の程度と塗面にできた布目の程度とを調べて不粘着の大小を評価する。JIS K 5600-3-6 参照。【JIS K5500「塗料用語」】
 乾燥粘着性(dry tack)
 揮発性成分の蒸発中のある段階において指触によって乾燥していると感じても,なお接触によってそれら同士を接着するある種の接着剤,とくに非加硫ゴム状弾性接着剤の特性。【JIS K6900[プラスチック用語」】

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 接着強さの評価

 付着強さ(adhesive strength)
 乾燥した塗膜と素地との間の付着力の総和。備考 素地は未塗装又は既塗装でもよい。【JIS K5500「塗料用語」】
 接着強さ(bond strength)
 接着された二面間の結合の強さ。引張りせん断強さ,圧縮せん断強さ,はく離強さなどで表される。接着力ともいう。【JIS K 6800「接着剤・接着用語」】
 
 接着剤の接着強さ試験方法には,JIS K 6848-1「接着剤−接着強さ試験方法−第 1 部:通則」, JIS K 6849「接着剤の引張接着強さ試験方法」, JIS K 6850「接着剤の引張せん断接着強さ試験方法」, JIS K 6852「接着剤の圧縮せん断接着強さ試験方法」, JIS K 6853「接着剤の割裂接着強さ試験方法」, JIS K 6854「接着剤のはく離接着強さ試験方法」, JIS K 6855「接着剤の衝撃接着強さ試験方法」, JIS K 6856「接着剤の曲げ接着強さ試験方法」などがある。
 
 引張り接着強さ(tensile strength)
 接着面に引張り応力を加え,接着接合部が破壊したときの強さ。【JIS K 6800「接着剤・接着用語」】
 
 引張りせん断接着強さ(tensile shear strength)
 引張り荷重によって接着面にせん断応力を加え,接着接合部が破断したときの強さ。【JIS K 6800「接着剤・接着用語」】
 せん断接着強さ(longitudinal shear strength)
 接着面にせん断応力を加え,接着接合部が破壊したときの強さ。【JIS K 6800「接着剤・接着用語」】
 せん断強さ(shear strength)
 せん断試験の間じゅう試験片が耐える最大のせん断応力。せん断応力も参照。【JIS K6900[プラスチック用語」】
 せん断応力(shear stress)
 せん断応力(σij) とは,その本来の作用面に平行に働く力をこの面で測定した試験片の断面積で除した値。【JIS K6900[プラスチック用語」】
 接合部に懸かった力が接着層と同一面にあるときに生じる応力。引張りせん断応力圧縮せん断応力がある。【JIS K 6800「接着剤・接着用語」】
 
 割裂接着強さ(cleavage strength)
 接着面の一端に集中応力を加え,接着接合部を破壊したときの強さ。【JIS K 6800「接着剤・接着用語」】
 衝撃接着強さ(impact strength)
 接着面に衝撃応力を加え,接着接合部が破壊したときの強さ。【JIS K 6800「接着剤・接着用語」】
 曲げ接着強さ(flexural strength)
 接着面に曲げ応力を加え,接着接合部が破断したときの強さ。【JIS K 6800「接着剤・接着用語」】
 
 はく離接着強さ(peel strength)
 接着面の一端にはく離応力を加え,接着接合部が破壊したときの強さ。【JIS K 6800「接着剤・接着用語」】
 はく離(剥離)強さ(peel strength)
 あるはく離様式で使用する応力によって接着剤接合を破壊点に導き及び又は特定の破壊速度を継続するために必要な単位幅当たりの力。【JIS K6900[プラスチック用語」】
 ピール強さ,ピール強度ともいわれる。はく離強さの試験法には,はく離方向の違いにより,90度はく離試験,180度はく離試験,T形はく離試験,浮動ローラ法などがある。
 これらの規定される規格例として,JIS K 6854-1「接着剤−はく離接着強さ試験方法−第 1 部:90 度はく離」,JIS K 6854-2「接着剤−はく離接着強さ試験方法−第 2 部:180 度はく離」,JIS K 6854-3「接着剤−はく離接着強さ試験方法−第 3 部:T 形はく離」,JIS K 6854-4「接着剤−はく離接着強さ試験方法−第 4 部:浮動ローラ法」が参考になる。

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 塗膜付着性の評価

 付着強さ(adhesive strength)
 乾燥した塗膜と素地との間の付着力の総和。備考 素地は未塗装又は既塗装でもよい。【JIS K5500「塗料用語」】
 付着性(adhesive property, adhesion)
 塗膜が下地面に付着して離れにくい性質。【JIS K5500「塗料用語」】
 
 塗膜の付着は,金属素地などの下地に直接塗り付けた塗料の付着,塗膜の上に塗り重ねた塗料との付着に分けられる。
 実用の防食塗装では,塗膜の上に塗料を塗り重ねる場合に,塗り重ねるまでに 1日~1週間程度の期間を要する。従って,屋外塗装の場合は,塗り重ねるまでに日射などの自然環境の影響を受ける。このように,紫外線などの影響を受けた塗膜の上に塗り重ねた塗料と十分な付着が確保できる品質が望まれる。
 塗料・塗装の分野では,下地となる塗膜の養生の付着に与える影響を考慮した付着性を層間付着性付着安定性と呼んでいる。単に付着性といった場合は,養生の影響を排除した,又は考慮しないで塗膜の付着強さを比較評価することを指す。
 層間付着性(interlayer adhesion)
 下塗り塗料と中塗り塗料との付着性(層間付着性Ⅰ),中塗り塗料と上塗り塗料との付着性(層間付着性Ⅱ)をいう。付着性は,規定の条件で塗料を塗付け,規定の養生を行った後に,粘着テープ剥離試験で付着性を評価する。【JIS K5659「 鋼構造物用耐候性塗料」】
 付着安定性(interlayer adhesion)
 JIS K5674「鉛・クロムフリーさび止めペイント」に規定される品質で,紫外線の影響を受けた塗膜に中塗り塗料を塗り重ねたときの付着性で,中塗り塗料の品質;層間付着性Ⅰに相当する下塗り塗料の品質を付着安定性という。

 付着強さの評価法

 JIS試験規格として,クロスカット法 (cross-cut test) プルオフ法(pull-off test)とが規定されている。クロスカット法は,JIS K5551「構造物用さび止めペイント」の品質(付着性)として規定されている。プルオフ法は,付着強さの変化などを定量的に把握したい場合,すなわち塗装系の耐久性評価を目的とした追跡調査などで用いられる。
 層間付着性付着安定性に関しては,次項で紹介し,塗膜単独のみならず,塗り重ねた塗膜を含む付着強さの評価試験に用いられるクロスカット法プルオフ法の詳細については,【塗膜の付着性】で紹介する。なお,以下に概要のみを紹介する。
 
 付着性(クロスカット法)とは
 碁盤目試験ともよばれ,塗膜表面にカッターナイフを用いて素地に達する碁盤目状の切り込みを入れ,粘着テープで引き剥がしたときに,碁盤目状の塗膜のはく離程度により塗膜の付着性を評価する方法である。
 試験では,カッターナイフの刃で塗膜をV字カットするため,塗膜の付着面と水平方向せん(剪)断力が加わる。
 クロスカット法では,このせん断力に抗する界面の付着強さ,塗膜の凝集強さ,せん断力を緩和する塗膜の柔軟性を総合的に評価していると考えるのが妥当である。
 すなわち,厳密な意味での塗膜の付着強さの評価ではなく,塗膜の素地との界面の状態に加え,塗膜自身の脆さなどの物性を評価する方法である。従って,実用的な付着性の評価法として古くから用いられてきた。
 例えば,単純に界面の付着強さが低い場合のみならず,塗膜が硬い(柔軟性低下)場合,脆い(凝集強さ低下)場合にも碁盤目試験で低い評価になる。このため,塗膜の劣化評価では,引張り強さを計測するプルオフ法の結果とせん断力に対する抵抗性を評価するクロスカット法の結果を総合的に考察する手法が用いられている。
 
 付着性(プルオフ法)とは
 塗膜表面に引張り治具を接着剤で張り付け,塗膜面に対して垂直方向に引張り,塗膜破壊時の応力と塗膜破壊状況の観察で付着性を評価する方法である。
 塗膜の破壊状況には,界面破壊塗膜凝集破壊,及び両者の混在がある。破壊面の大部分が界面破壊の場合には付着強さを評価したといえるが, その他の場合は,厳密な意味での塗膜の付着強さの評価ではない。
 この方法で得られた結果は,塗膜層の中で最も強度の弱い層や層間の強さであり,塗膜のはがれ易さの評価に用いることは推奨できない。
 一般的には,塗膜の垂直引っ張り強さの経年変化を定量的な指標として,クロスカット法と組み合わせて塗膜の劣化程度の評価に用いられる例がある。

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