防食概論塗装・塗料

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 ここでは,塗料品質の試験実施に際し,規定される準備作業や条件について,【試験準備(試験の場所,サンプリング)】, 【試験準備(器具,薬品,装置,試験板)】, 【試験準備(試験片の作製)】 に項目を分けて紹介する。

 塗料の評価(規格試験の準備)

 試験準備(試験の場所,サンプリング)

 塗料の品質試験・評価全般に共通する一般次項として,試験を行う場所,サンプリングについて紹介する。

 試験を行う場所

 JIS K 5600-1-1「塗料一般試験方法−第1部:通則−第1節:試験一般(条件及び方法)」では,試験を行う場所の条件を次のように規定している
 一般状態の試験及び場所
 常温 (5℃~35℃) で直射日光を受けず,試験に影響を与えるガス,蒸気,ほこりなどが少ない室内をいう。
 吹付け塗りの場所
 温度 20±5℃,湿度 78%以下の場所をいい,試験を行うたびにそれらの記録を取り,以降の試験の参考にする。
 注:約 0.7m/s の風速で排気しているスプレーブースの中で塗るのが望ましい。
 
 標準状態の試験及び養生の場所
 JIS K 5600-1-6「塗料一般試験方法−第1部:通則−第6節:養生並びに試験の温度及び湿度」による。
 試料又は試験片が保持される雰囲気(試験雰囲気)について,JIS K 5600-1-6では,温度と相対湿度の一方又は双方の値を規定して,それを規定された許容範囲内の保持を目的に,次のように用語を定義している。
 “標準条件”といった場合は,温度 23±2℃,相対湿度 50±5%の雰囲気を指し,“標準温度”といった場合は,温度 23±2℃のみを規定し,相対湿度を規定しない雰囲気を指す。
 なお,この規格では,養生を“試験前の試料及び試験片を養生雰囲気に指定期間保持することによって, その温度及び湿度を規定条件に合わせるように全体として設計された操作”と定義している。
 
 観察のときの光源
 試験片の観察は,一般的に,JIS K 5600-4-3「塗料一般試験方法−第4部:塗膜の視覚特性−第3節:色の目視比較」の(自然昼光照明)の拡散昼光を原則とし,色観察ブースを用いても良い。
 
 【参考】
 試験場所の標準状態(standard atmospheric conditions)
 標準状態の温度は,試験の目的に応じて 20℃,23℃又は 25℃のいずれかとする。標準状態の湿度は,相対湿度 50%又は 65%のいずれかとする。標準状態の気圧は,86kPa 以上 106kPa 以下とする。
 標準状態は,標準状態の気圧のもとで標準状態の温度及び標準状態の湿度の各一つを組み合わせた状態とする。【JIS Z8703「試験場所の標準状態」】
 ISO 5541976(Standard atmospheres for conditioning and/or testing -- Specifications)では,温度 23℃,相対湿度 50%,気圧 86kPa 以上 106kPa 以下としている。
 物理学上の標準状態(normal state)
 気体の標準状態には,基準の温度を 25℃(298.15 K)とする SATP (標準環境温度と圧力: standard ambient temperature and pressure )と,基準の温度を 0℃( 273.15 K)とする STP (標準温度と圧力: standard temperature and pressure )とがある。
 気体の標準状態としては,現在は試験室環境に近い SATP ( 25 ℃ 100kPa )の使用が多い。しかし,気体関連の JIS 規格,日本の高等学校教育などでは STP ( 0 ℃ 100kPa)を標準状態とする例も多い。science\phys\phys_04_01_02.html
 拡散昼光(scattering daylight, diffused daylight)
 日の出 3時間後から日の入り 3時間前までの北空昼光で,周辺の建物,部屋の内装などの環境色の影響を受けていない光。試験片の色を観察するときの条件として,JIS Z 8723「表面色の視感比較方法」に定められている。【JIS K5500「塗料用語」】

 サンプリング

 サンプリング(sampling)とは,統計学用語で,母集団からの標本抽出や検査のために見本を抜き出すことをいう。
 試験用の塗料やワニスの採取は,JIS K 5600-1-2「塗料一般試験方法−第 1部:通則−第 2節:サンプリング」に従い行うのが一般的である。
 例えば,サンプリング器具は,採取する製品及び原料の種類,凝集状態,容器の種類,容器の充てん度合い,製品及び原料のもたらす健康及び安全ハザード並びに必要な試料の量によって選択し,試料の均一性に留意しながら,採取する。
 対象とする製品が,幾つもの容器からなるとき,統計的に適切な採取数を確保する。さらに, 一つの試料の最少量は,2kg 又は試験に必要な量の 3倍~4倍とする。

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 試験準備(器具,薬品,装置,試験板)

 試験に用いる器具,薬品,装置など

 試験に用いる器具,材料及び試薬は,それぞれ日本工業規格(JIS)に規定するものを用いる。試験装置(設備,機械など)は,原則として JIS規格に規定するものを用いる。
 例えば,JIS R3503「化学分析用ガラス器具 」に規定する化学分析用ガラス器具,JIS R6252「研磨紙」に規定する研磨紙,JIS Z1522「セロハン粘着テープ 」に規定するセロハン粘着テープ,JIS B7754「キセノンアークランプ式耐光性及び耐候性試験機 」に規定するキセノンアークランプ式耐光性及び耐候性試験機,JIS B9809「スプレーガン」に規定するスプレーガン,JIS規格に規定する試薬の最上級のものなどである。なお,を用いる場合は,通常は導電率 1μs/cm 以下の脱イオン水を用いる。

 試験板

 塗料の品質規格試験に用いる試験板は,試験項目により複数の材料,調整法が用いられる。原則として,JIS K 5600-1-4:2004「塗料一般試験方法−第1部:通則−第4節:試験用標準試験板」の規定に沿った材料・調整法が採用される。
 この規格は,塗料及び塗膜の試験に用いる標準試験板について規定するが,試験板の寸法は,試験の項目によってさまざまとなるため,具体的な試験項目ごとに規定されることになる。
 
 通常の試験方法において,試験板の種類,及び前処理方法は,多くの場合,試験の結果に影響を与える。従って,塗装前の試験板及びその前処理方法は,できる限り注意深く規定されなければならない。
 また,試験に用いる試験板の種類は,できるだけ少なくすることも望まれる。なお,塗料の試験に用いる試験板及び前処理の種類を,すべて一つの規格で規定することは不可能で,次の三通りに区分される。
 第一,特定の工業塗装に関連して試験される場合で,実際の工業塗装に最も近似した試験板が用いられる。
 第二,固有の特殊処理を施した試験板を必要とする場合で,試験方法それぞれで試験板及び表面処理方法の詳細な仕様が規定される。
 第三,合意された表面上で試験される場合で,実際に塗装される素材(板)と同じ種類でなくとも試験が実施でき,入手可能な標準品が用いられる。
 JIS K 5600-1-4は,第三の場合に用いられる試験板の素材,再現性のよいことが分かっている表面調整方法について規定している。
 
 当該 JIS規格に規定されている試験板の種類は次の通りである。
 鋼板ぶりき板亜鉛めっき鋼板,亜鉛鋼板,アルミニウム板,ガラス板,硬質ボード,せっこうボード,繊維強化セメント板,フレキシブル板,セメントモルタル板,パーライト板,木材単板及び木材合板,アスファルトブロック
 なお,太字は,防食塗装に用いる塗料・塗膜試験での使用例の多い試験板である。
 試験板に用いる鋼板は,厚さ 3.0mm未満のものは,JIS G3141「冷間圧延鋼板及び鋼帯」に規定するSPCC-SBの鋼板とし,厚さ 3.0mm以上のものは,JIS G3101「一般構造用圧延鋼材」に規定する SS400が用いられる。
 すずめっきされたぶりき板は,JIS G3303「ぶりき及びぶりき原板」の電気めっきぶりきを用いる。
 亜鉛めっき鋼板は,厚さ 3.0mm未満のものは,JIS G 3302「溶融亜鉛めっき鋼板及び鋼帯」に規定する溶融亜鉛めっき鋼板が用いられる。
 ガラス板は,JIS R3202「フロート板ガラス及び磨き板ガラス」に規定する平らな又は磨き仕上げフロートガラスが用いられる。
 フレキシブル板は,JIS A5430「繊維強化セメント板」に規定するフレキシブル板が用いられる。
 
 表面調整
 試験板は,表面に付着する油,腐食生成物などの汚染物除去,表面粗さの調整,変質防止などを目的とした表面調整が施される。適用される主な表面調整方法には,溶剤洗浄,水性洗浄,研磨,りん酸処理,薬品処理,ブラスト処理などがある。
 脱脂(degreasing)
 金属表面に付着している油脂性の汚れを除去して清浄にすること。【JIS Z0103「防せい防食用語」】
 溶剤又は水溶性洗剤のいずれかを用いて,塗装前に油,グリース及び類似の物質を表面から除去する操作。【JIS K5500「塗料用語」】
 表面粗さ(surface roughness, surface profile)
 金属表面などの表面性状を表すパラメータ。JIS B 0601「製品の幾何特性仕様 (GPS) -表面性状:輪郭曲線方式-用語,定義及び表面性状パラメータ」に規定されている。
 ブラスト処理(abrasive blast-cleaning, blasting)
 金属製品に防せい防食を目的として塗料などを被覆する場合に,素地調整のために行われる。研削材に大きな運動エネルギーを与えて金属表面に衝突させ,金属表面を細かく切削及び打撃することによってさび,スケールなどの付着物を除去して金属表面を清浄化又は粗面化させる方法。【JIS Z0103「防せい防食用語」】
 処理される表面に高運動量のブラスト研削材を衝突させる方法。金属製品の防せい防食を目的として塗料などを被覆する場合に,素地調整のために行われる。研削材に大きな運動エネルギーを与えて金属表面に衝突させ,金属表面を細かく切削及び打撃することによってさび,スケールなどを除去して金属表面を清浄化又は粗面化させる方法(JIS Z 0311「ブラスト処理用金属系研削材」参照)。【JIS K5500「塗料用語」】

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 試験準備(試験片の作製)

 試料を試験板に塗って作ったものを試験片という。試験片を作るときは,試験板を固定又は保持して,規定の方法で塗装して乾燥させ,さらに養生の必要な場合は,試料の製品規格に規定する時間だけ引き続き保持する。

 試験用試料の検分及び調整

 適切な試験結果を得るためには,試験用として受領する試料について,試験開始前に,予備的に検分(適切な状態にあるかどうかを実際に立ち会って検査)することが推奨される。また,試験に供する試料は,多量の製品から混合・分割して調製することになる。この際の手順については,JIS K 5600-1-3「塗料一般試験方法−第1部:通則−第3節:試験用試料の検分及び調整」に規定されている。
 例えば,内容物に影響するような容器の欠陥や漏れの確認,内容物の状態を乱さないように容器を開封し内容物を目視検分(皮張りの有無,粘稠度,相分離の有無,不純物や沈殿の有無)する。
 試験用試料は,製品を均質化し,一部を分離採取する。
 均質化(homogenization)
 試料中の物質及び性質を均一にするため,(混合成分の場合)成分・小片・層といった試料の構成要素を組み合わせてより均一化する工程,又はあらかじめ処理された試料の成分・小片・層をより均一化する工程。【JIS K 5600-1-3「試験用試料の検分及び調整】

 試料の準備

 1液形塗料の場合は,試験の都度,よくかき混ぜて一様にした後,直ちに用いる。試料に皮が張っているときは,皮を取り除く。皮が薄く取り除きにくいとき,又は塗料の中に皮が混入しているときは,初めに中身をかき混ぜて,一様にしてから標準ふるい 500μmでふるい分けて試験に用いる。
 多液形塗料の場合には,一般的には,各液をかくはんし均一液体とした後,製造業者が指定する混合比率で混合し,更にかくはんによって均一とする。必要があれば,製造業者の指定するシンナーを用いて薄めてもよい。
 試料の使用に際し,混合後に指定された養生時間ポットライフ(可使時間)を厳守する。例えば,一般的なエポキシ樹脂系塗料では,製造業者の指定する比率で混合し, 30分間置いた後,塗装直前によく攪拌し直ちに塗り,混合から 5時間を経過した物を試験に用いてはならない。

 試料の塗り方

 はけ塗り(brush application, brushing, brush coating)
 はけ塗りに用いる器具類,手順,塗り方,塗付け量の求め方などは,JIS K 5600-1-5「塗料一般試験方法−第1部:通則−第5節:試験板の塗装(はけ塗り)」に規定されている。
 例えば,試験板の塗り面積,塗料種に適した“はけ”の種類については,塗り面積 0.1m2以上の試験板には,穂の寸法が長さ約45mm,幅約45mm,厚さ約20mm のはけを用い,水系塗料を適用する場合には“山羊(やぎ)の毛”を,水系以外の塗料を適用する場合には“馬の毛”を用いること, 塗り面積 0.1m2未満の試験板には,塗料種に寄らず穂の寸法が長さ約20mm,幅約40mm,厚さ約5mm の“馬の毛”用いることが規定されている。
 なお,規定では,水系塗料のはけ塗りにやぎの毛のはけを用いるとされているが,一般的にはナイロン製のはけを用いることが多い。
 吹付け塗り(spraying, spray coating)
 吹付け塗りの手順等は,JIS K 5601-1-1「塗料成分試験方法−第1部:通則−第1節:試験一般(条件及び方法)」の 3.3.7(吹付け塗り)の規定に従い,塗り付け操作がよい状態で行われるように,試料に適したスプレーガンの種類・ノズル口径・吹付け空気圧力・試験板とスプレーガンとの距離などを剪定する。なお,スプレーガン種類は,JIS B9809「スプレーガン」に規定されている。

 乾燥方法

 塗料の乾燥(drying)とは,塗付した塗料の薄層が,液体から固体に変化する過程の総称である。塗料の乾燥機構には,溶剤の揮発,蒸発,塗膜形成要素の酸化,重合,縮合などがあり,乾燥の条件には,自然乾燥,強制乾燥,加熱乾燥などがある。
 a) 自然乾燥(air-drying)の場合
 前述の標準状態の試験の場所で行う。すなわち,JIS K 5600-1-6「塗料一般試験方法−第 1 部:通則−第 6 節:養生並びに試験の温度及び湿度」に規定する標準状態又は標準温度で乾燥する。乾燥時間及び養生時間は,試料の製品規格の規定による。
 b) 加熱乾燥(stoving, baking)の場合
 焼付け乾燥ともいい,適切な温度が保てる恒温器を用いて乾燥する。焼付温度及び焼付時間は試料の製品規格の規定による。

 乾燥膜厚の測定

 膜厚みの測定は,JIS K 5600-1-7「塗料一般試験方法−第1部:通則−第7節:膜厚」に規定する非破壊測定法である磁気法又は渦電流法によるのが一般的である。
 乾燥膜厚(dry-film thickness)
 JIS K5600-1-7 には,乾燥膜厚の測定に使用する機械式測定法(mechanical methods),重量法(gravimetric method),光学的方法(optical methods),磁気法(magnetic methods),放射線法(radiological method)及び音響法(acoustic method)が規定されている。
 機械式測定法には,マイクロメータなどを用いた塗膜除去箇所との厚さの違いによる厚さの差法(difference in thickness),塗膜除去箇所の深さ計を用いたデプスゲージ法(depth gauging),表面粗さ計と同様の原理で,塗膜除去箇所の触針走査で求める表面輪郭の走査(surface profile scanning)ある。
 重量法には,質量法(difference in mass)があり,光学的方法には,塗膜断面を成形し拡大観察する断面法(cross-sectioning),一定角度で斜めに切削した塗膜の幅を計測して三角関数を用いて深さを求めるくさび形切削法(wedge cut)がある。
 磁気法には,永久磁石と強磁性の素地との間の磁気吸引力を測定する磁気プルオフ膜厚計(magnetic pull-off gauge),強磁性の素地に電磁石が接近するときに磁場中で起こる電磁誘導による磁気誘導膜厚計(megnetic-induction gauge),導電性素地中の高周波渦電流によって生じた磁場の変化かラ求める渦電流膜厚計(eddy-current gauge)がある。
 放射線法には,素地からの放射線反射を利用するβ線後方散乱法(beta backscatter method)があり,音響法には,音波の伝達時間差を利用する超音波膜厚計(ultrasonic thickness gauge)がある。

 試験片の周辺塗り包み

 試験片の周辺塗り包みが必要なときは,表面に試料を塗り 24 時間置いた後同じ塗料裏面及び周辺を試験に影響を与えないように塗り包む。

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