防食概論:塗装・塗料
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ここでは,材料の表面特性の一つである 【硬さ】 の概念を紹介し,次いで 【有機高分子材料の硬さ評価方法】, 【塗膜の硬さ評価方法】 に項目を分けて紹介する。
塗膜の評価(機械特性;硬さ)
硬さとは
広辞苑には,硬さ(硬度)とは「物体の硬軟の程度。特に金属・鉱物についていう。」と記述されている。このように,一般的には,金属や鉱物での硬さ(hardness)がイメージされている。
硬さの概念は,数値化して表現しようとする場合の試験方法(硬さ試験)の定義により様々な値を取る。また,金属,セラミックス,ゴムなどの材料特性によっても,微小な変形を与える力に対する挙動がそれぞれ異なる。
硬さ試験(hardness test)
硬さ試験機を用い,試験片,又は製品の表面に一定荷重で一定形状の硬質の圧子を押込むか,又は一定の高さからハンマを落下させるなどの方法で硬さを計測する試験。【JIS G0202「鉄鋼用語(試験)」】
硬さ試験には,材質により,押し込み硬さ試験(ブリネル硬さ,ビッカース硬さ,ヌ―プ硬さ,ロックウェル硬さ,バーコール硬さ,モノトロン硬さ),反発硬さ試験(ショア硬さ),引っかき硬さ試験(鉛筆硬さ,マンテルス硬さ)などがある。
主な測定方法には,次に示す方法がある。なお,硬さの値には,採用した測定法の呼称を付け,単位を付けないのが通例である。
押込み硬さ試験(indentation hardness test)
剛体とみなせる特定の圧子を試料の試験面に押込み,その時の押込み荷重及び試験片に生じた永久変形の大きさから,その試料の硬さを決める硬さ試験の総称。ブリネル硬さ試験,ビッカース硬さ試験,ロックウェル硬さ試験などがある。【JIS G0202「鉄鋼用語(試験)」】
ブリネル硬さ試験(Brinell hardness)
超硬合金球(直径 D)の圧子を,試料の表面に押し込み,その試験力 (F) を解除した後,表面に残ったくぼみの直径 (d) を測定する。【JIS Z2243「ブリネル硬さ試験−試験方法」】
ビッカース硬さ試験(Vickers hardness)
正四角すい(錐)のダイヤモンド圧子を,試料(試験片)の表面に押し込み,その試験力 (F) を解除した後,表面に残ったくぼみの対角線長さを測定する。【JIS Z2244「ビッカース硬さ試験−試験方法」】
ロックウェル硬さ試験(Rockwell hardness)
規定する寸法,形状及び材質の圧子[円すい(錐)形ダイヤモンド,鋼球又は超硬合金球]を試料の表面に,指定された条件に従い,2段階で押し込む。追加試験力を除去した後の初試験力下における,永久くぼみ深さ( h )を測定する。【JIS Z2245「ロックウェル硬さ試験−試験方法」】
微小硬さ試験(microhardness test)
押込み硬さ試験のうち,ごく小さい試験荷重で行う硬さ試験で,JIS規格には,微小硬さ試験として,9.8N{1kgf}以下の試験荷重で行うビッカース硬さ試験及びヌープ硬さ試験がある。
ヌープ硬さ試験(Knoop hardness)は,二つの対りょう角が172°30'と130°の四角すいダイヤモンド圧子を一定の試験荷重で材料の試験面に押込み,生じた菱形の永久くぼみの大きさから試料の硬さを測定する試験で,自動化した試験器を用いることで,表面層のみの硬さを計測できる。【JIS Z2251「ヌープ硬さ試験−試験方法」】
反発硬さ試験(rebound hardness test)
特定のハンマを一定のエネルギーで試料の試験面に衝突させ,ハンマが試験面から反発される際のエネルギーからその試料の硬さを決める硬さ試験の総称。代表的なものにショア硬さ試験がある。【JIS G0202「鉄鋼用語(試験)」】
ショア硬さ(shore hardness)
主に金属材料の反発硬さを表わす量の一つで,記号 HSで表される。先端にダイヤモンドチップを埋込んだ鋼製のハンマを一定の高さから試料表面に落下させ,ハンマのはね上がり高さを求めるショア硬さ試験機を用いる。はね上がりの高さから算出される値(エネルギー)を硬さの目安とする。【JIS Z2246 「ショア硬さ試験—試験方法」】
引っ掻き硬さ(scratch hardness)
先端部が円錐や三角錐の圧子を用い,一定幅の引っ掻き傷をつけ,その時の荷重から硬さを数値化して算出するマルテンス硬さ,標準となる硬度が定められた鉱物で引っ掻き,傷の有無を調べるモース硬度が知られる。
塗膜の硬さ試験には,JIS K 5600-5-4「第4節:引っかき硬度(鉛筆法)」,JIS K 5600-5-5「第5節:引っかき硬度(荷重針法)」が用いられる。
モース硬度(Mohs hardness)
モース硬度は,硬度比較の標準(滑石からダイヤモンドまでの 10種)を用いて「引っかいた時の傷の付きにくさ」で評価される硬さである。
鉛筆引っ掻き抵抗試験(pencil scratch test, pencil hardness test)
硬度の異なる鉛筆を用いて試験面に対し 45°を保ちつつ線引きし,塗膜の表面硬度を調べる試験。使用する鉛筆の硬度記号で表示する。【JIS G0202「鉄鋼用語(試験)」】
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有機高分子材料の硬さ評価方法
有機高分子材料である塗料,ゴム,及びプラスチックでは,“硬さ”を次のように定義している。
JIS K6200 「ゴム用語」
へこみに対する抵抗と定義し,規定の条件下で試験片に規定の押針でへこむ深さから得られる量で硬さを表現している。JIS 規格には,JIS K 6253-1~5「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム−硬さの求め方」に国際ゴム硬さ,デュロメータ硬さ,IRHD ポケット硬さが規定されている。
JIS K6900 「プラスチック―用語」
押込み,又は引っかきに対する材料の抵抗と定義し,押込み硬さと引っかき硬さの何れも用いられる。
デュロメータ硬さ(durometer hardness)
圧子を用いて,くぼみ深さに対応して変化する試験荷重を試料に負荷し,生じたくぼみ深さ h から求めた値。
デュロメータを用いた硬さは,押し込み硬さの一種であるが,ロックウェル硬さと異なり,試験荷重負荷時のくぼみ深さから求めたもので,プラスチックではタイプ D(円錐状圧子)で,ゴム・エラストマーではタイプ A(円柱状)で測定された値を用いる。
測定方法は,JIS K7215 「プラスチックのデュロメータ硬さ試験方法」,JIS K6253-3 「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム−硬さの求め方−第 3 部:デュロメータ硬さ」に規定する方法が用いられる。
国際ゴム硬さ(international rubber hardness degrees)
国際ゴム硬さ(IRHD)は,硬さの単位。規定の条件下で試験片に規定の押針でへこむ深さから得られる量。
注記 IRHD のスケールでは,押針を押し込んだときに,測定可能な抵抗を示さない材料を 0とし,全くへこみのない材料を 100 とする。
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塗膜の硬さ評価方法
塗料の JIS 製品規格,例えば JIS K 5551 「構造物用さび止めペイント」,及び JIS K 5659 「鋼構造物用耐候性塗料」などの品質項目として「塗膜の硬さ」を規定するものはない。
しかし,塗膜の傷つきやすさ,塗膜の硬化反応の程度,塗膜の経時的な変化などの推定手段の一つとして,比較的簡便な試験方法であるため,「塗膜の硬さ」試験は広く用いられている。
JIS K 5500 「塗料用語」では,“固体の物体による押し込み又は貫通に抵抗する乾燥塗膜の能力(性質)。”と定義している
塗膜の硬度(硬さ)は,物質,材料の特に表面または表面近傍の機械的性質の一つであるが,塗膜の厚みが 1 mm以下と薄いため,金属やゴムで採用されている押し込み法では,塗膜の変形以外に素地の影響が大きく,塗膜表面近傍の硬さを計測できない。このため,塗膜の硬度は,引っかき法を用いて評価されるのが一般的である。
このように,一般的には,塗膜の硬さは,塗膜の強靭性や付着性を加味した表面の傷つきやすさの評価と考えることができる。
JIS 試験規格には,次の 2 種が規格されている。
JIS K 5600-5-4「引っかき硬度(鉛筆法)」
硬度の異なる鉛筆のしん(芯)で引っかき,塗膜の表面の傷つきの程度で評価する引っ搔き硬さの一種である。【適用範囲】
この規格は,塗料及び関連製品の試料採取・試験に関する一連の規格の一つであり,既知の硬さの鉛筆を塗膜に押しつけて塗膜硬度を測定する方法を規定する。
この試験は,塗料類の単一塗膜,又は多層塗膜系の上層膜に対して適用できる。 この迅速方法は,低費用であり,異なる塗膜の鉛筆硬度を比較するのに有用であることが認められていた。
この方法は,鉛筆硬度に著しい差のある一連の塗板の相対的等級付けに最適である。この方法は,平坦面だけに適用できる。
【定義】
鉛筆硬度(pencil hardness)
規定した寸法,形状及び硬度の鉛筆のしんを塗膜面で押しつけて動か した結果生じるきず跡又はその他の欠陥に対する塗膜の抵抗性。
鉛筆のしんによって生じる塗膜面の欠陥には,幾つかの種類がある。その欠陥は,次のとおり定義する。
a) 塑性変形(plastic deformation) : 塗膜に永久くぼみを生じるが,凝集破壊はない。
b) 凝集破壊(cohesive fracture) : 表面に,塗膜材質がとれた引っかききず又は破壊が,肉眼で認められる。
c) 上記の組合せ : 最終段階では,すべての欠陥が同時に生じることがある。
【原理】
試験をする製品又は塗装系品を,表面の均質な平板に均一な膜厚に塗布する。乾燥/反応硬化の後に,水平な塗膜面に次第に硬度を増して鉛筆を押しつけることによって鉛筆硬度を測定する。 試験の間,鉛筆は塗面に対して角度 45°,荷重 750g で押すように取り付ける。 塗膜に欠陥によって圧こん(痕)が生じるまで,鉛筆の硬さを順次増す。
JIS K 5600-5-5「引っかき硬度(荷重針法)」
【適用範囲】1.1 この規格は,塗料及び関連製品の試料採取方法と試験方法に関する一連の規格の一つである。
この規格は,関連製品の単一塗膜又は多層塗膜系を半球状の先端をもつ針で引っかくことによる貫通に対する抵抗を,特定の条件下で測定する試験方法を規定している。針の貫通は多層塗膜系を除けば素材までであり,多層塗膜系の場合には,針の貫通は素材又は中間層のいずれかである。
1.2 この試験方法は,次のように適用されている。
a) 特定の規格に従って評価するため,単一の規定された負荷を針にかけて行う合否試験
b) 針への負荷を増加させることによって塗膜を貫通する最小負荷の測定
試験概要
先端が直径 1mm の半球状の鋼球,タングステンカーバイト球,ルビー,又はセラミックス球からなる針に規定の荷重(最大 2kg )を掛けて,30~40mm/s の速度で引っかき,塗膜の表面の傷つきの程度で評価する引っ搔き硬さの一種である。
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