防食概論塗装・塗料

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 ここでは,鉄道の既設の鋼橋に適用される塗替え塗装の中で,劣化した溶融亜鉛めっき面に適用される 【劣化亜鉛面用・保護塗装系 ZP 】, 【塗装仕様】, 【劣化亜鉛面用厚膜型変性エポキシ樹脂系塗料下塗の品質】, 【劣化亜鉛面用厚膜型ポリウレタン樹脂塗料上塗の品質】 を紹介する。

 鉄道橋の防食塗装(塗替え塗装)

 劣化亜鉛面用・保護塗装系 ZP

 「塗装指針」 2013;第Ⅳ編 無塗装構造物 第 2章 溶融亜鉛めっき鋼 保護塗装系

 溶融亜鉛めっき鋼を用いた構造物の亜鉛めっき面を保護するための保護塗装系には,新設時に施される新設溶融亜鉛めっき面用の保護塗装系 ZP1 ,経年で劣化した溶融亜鉛めっき面用の保護塗装系 ZP がある。
 
 設計上の留意事項
 第 1層に用いる劣化亜鉛面用厚膜型変性エポキシ樹脂系塗料下塗は,劣化した亜鉛面への適用に適したハイソリッド型(溶剤含有量が少ないタイプ)の塗料で,190g/m2の使用量で 60μmの塗膜厚みが期待できる。
 第 2層目の劣化亜鉛面用厚膜型ポリウレタン樹脂塗料上塗は,第 1層目の劣化亜鉛面用厚膜型変性エポキシ樹脂系塗料下塗の上に塗り重ねられる塗料で,150g/m2の使用量で 50μmの塗膜厚みが期待できる。
 このように,これらの塗料は,劣化した亜鉛面への適用のために最適化した塗料であるので,鋼面を対象とした厚膜型変性エポキシ樹脂系塗料及び厚膜型ポリウレタン樹脂塗料と混同しないこと。
 
 保護塗装要否の判定
 劣化した溶融亜鉛めっき鋼の保護塗装要否の判定は,溶融亜鉛めっき鋼の腐食状態を観察し,亜鉛の腐食生成物である白さびから亜鉛と鉄の合金層の腐食生成物である赤さびに変化した時点で塗装を検討する。なお,溶融亜鉛めっき層が消失し,赤さびから鉄の腐食生成物である鉄さびに変わっている場合は,保護塗装の適期を過ぎており,塗装しても十分な耐久性は期待できない。
 赤さびとは,複数の層で構成される亜鉛めっき皮膜の最下層にある亜鉛と鉄の合金層(δ1層)の腐食で生じるさびである。

 「塗装指針」 2013;第Ⅰ編 塗装一般 第 D章 解説(塗装系の特徴) 劣化亜鉛面用 塗装系 ZP
 塗装系 ZP

 この塗装系は,溶融亜鉛めっき鋼を用いた新設構造物に対して,鋼材の延命を目的に実施する塗装系,溶融亜鉛めっき鋼を裸で使用している構造物,及び部材などのめっき層が腐食劣化し,そのまま放置したのでは,構造物,及び部材の予定使用期間までの維持が困難と判断されたときに,めっき層の延命化を目的に適用される。
 
 【参考】
 この塗装系は,架線や送電線などの電車線路の支持構造物の一種である溶融亜鉛めっき鋼製の電車線路鋼構造支持物の延命化を目的に,1990年から実施した腐食劣化した溶融亜鉛めっき鋼を保護する塗装系開発の成果を,鉄桁等鋼構造物の溶融亜鉛めっき鋼を用いた付帯設備や溶融亜鉛めっき鋼製鋼構造物の延命化に活用できるようにしたものである。
 
 下地に溶融亜鉛めっき層が残存している状態で塗装した場合と溶融亜鉛めっき層が消失し鋼の腐食に至ってから塗装した場合とでは,塗膜の耐久性が著しく異なる。鉄道総研の実施した試験塗装結果では,溶融亜鉛めっき層が残存している面に塗装することで 20年以上の塗膜耐久性を期待できるが,溶融亜鉛めっき層が消失して鋼の腐食に至ってから塗装したのでは,10年程度の塗膜耐久性しか期待できないことを示している。
 
 溶融亜鉛めっき鋼製部材の腐食は白さびの状態,赤さびの状態,及び鋼の腐食に至っている鉄さびの状態に分けられる。白さびの状態では,溶融亜鉛めっき層の 30%以上(亜鉛と鉄の合金層 δ1が概ね 30%程度を占めると考えられる)が残存している。
 赤さびの状態は合金層 δ1の腐食に至っていることを示すので,溶融亜鉛めっき層の残存割合は 30%以下と考えられる。従って,部材上面に赤さびが観察された場合は,近い時期に保護塗装を計画すべきである。

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 塗装仕様

 【塗装系 ZP 】

 溶融亜鉛めっき鋼の新設時の塗装においては,めっき表面にめっき浴中の合金成分,例えば,アルミニウムやけい素などの濃度が高い層(非常に薄い)が表層に存在するため,塗膜の付着性に悪影響を与える。このため,表層を除去するための簡易なブラスト処理,リン酸塩処理,付着性改善のためのプライマーなどの前処理が必要である。
 一方,無塗装の長期間使用で劣化した溶融亜鉛めっき鋼は,表層が消失していること,また腐食で表面が適度に荒れているため,エポキシ樹脂系の塗料を直接塗装してもはく離に至ることは少ない。
 素地調整
 塗装の時期は,原則として,溶融亜鉛めっき層が消失する前に実施する。
 素地調整は,動力・手工具で白さび,付着物の除去程度
 鋼腐食に至っている場合は,本塗装系の対象外
 下塗り塗装
 素地調整後その日のうち(全面塗装)
 劣化亜鉛面用厚膜型変性エポキシ樹脂系塗料下塗: 使用量 190g/m2(刷毛・ローラ塗り)
 中塗り塗装 なし
 上塗り塗装
 下塗り塗装後 2日以上,7日以内(全面塗装)
 劣化亜鉛面用厚膜型ポリウレタン樹脂塗料上塗: 使用量 150g/m2(刷毛・ローラ塗り)
 
 【備考】
 塗装系は 2回塗り以上を原則としており,1回塗りで仕上げる塗装系は使用しない。これは,鉄道総研の実施した試験の結果,1回塗りで仕上げる塗装系は,塗り残し,塗り忘れの発生を防止できないことが明らかになったためである。
 保護塗装が必要と判断された場合には,部材上面の腐食状況に関わらずボルト頭部の溶融亜鉛めっき層が既に消失し鋼の腐食に至っている場合が多い。従って,保護塗装後に最も早く劣化するのはボルト頭部の塗膜となる。しかし,塗膜の劣化を経てボルト頭部の腐食が進行するので,無塗装時の腐食進行より遅い速度と考えられる。そこで,ボルトが摩擦接合部などの軸力維持を前提とした構造以外では,腐食で数 mmの厚み減少を許容できると考えられるので,部材の塗膜劣化で塗替えが必要となるまでの期間放置しても,実用上問題となるほどの腐食に至らないと考える。

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 劣化亜鉛面用厚膜型変性エポキシ樹脂系塗料下塗の品質

 「塗装指針」 2013;附属書 A 塗料規格及び試験方法
 SPS 66099-41 劣化亜鉛面用厚膜型変性エポキシ樹脂系塗料下塗

 品質
 下表には,劣化亜鉛面用厚膜型変性エポキシ樹脂系塗料下塗塗料品質,比較のため,SPS 66099-12 厚膜型変性エポキシ樹脂系塗料(常温用)JIS K 5551 2018「構造物用さび止めペイント」C種(反応硬化形変性エポキシ樹脂系塗料)(常温用)の品質を紹介する。なお,C種には,常温で用いる 1号と低温で用いる 2号がある。
 JIS 等で規定される品質の「塗装作業性」,「塗膜の外観」については,これらの品質に適合しない塗料の販売が考え難いこと,また,他の品質を検査する際にこの品質は容易に把握できることから,鉄道では,全ての塗料規格でこれらの品質を規定していない。また,実環境で 2年程度の「耐候性」(屋外暴露耐候性)を規定していない。これは,塗料成分の規定により,塗膜の機械的,化学的,及び耐久性の室内試験を行うことで,耐候性が確保できると考えているためである。
厚膜型変性エポキシ樹脂系塗料
  項  目     SPS 66099-41(劣化亜鉛面)      SPS 66099-12(1)(常温用)     JIS C種 1号(常温) 
  顔料(質量分率 %)    20以上    20以上    ― 
  変性エポキシ樹脂(質量分率 %)    20以上    15以上    ― 
  硬化剤(質量分率 %)    5以上    3以上    ― 
  溶剤(質量分率 %)    20以下    40以下    ― 
  加熱残分 %    80以上    60以上    ― 
  塗膜中の鉛(質量分率 %)    0.06以下 
  塗膜中のクロムの定量
(質量分率%) 
  0.03以下 
  容器の中での状態    かき混ぜたとき,堅い塊がなくて一様になる。 
  半硬化乾燥性    24時間    16時間 
  塗装作業性    ―    支障がない。 
  塗膜の外観    ―    正常である。 
  ポットライフ    23℃ 3時間    23℃ 5時間 
  たるみ性    ―    たるみがない。(すき間200μmで流れがない) 
  上塗り適合性    支障がない。 
  耐衝撃性    割れ及びはがれがない。 
  耐屈曲性    直径10mmの折り曲げに耐えるものとする。    ― 
  付着性    ―    分類 1以下 
  層間付着安定性    異常が無い。    ― 
  耐熱性    ―    160℃で 30分加熱しても,塗膜に異常がなく,
  付着性が分類 2以上であること。 
  冷熱繰返し試験    ―    冷熱繰返しに耐えるものとする。    ― 
  サイクル腐食性    さび,膨れ,割れ及びはがれがない。(120サイクル) 
  屋外暴露耐候性    ―    さび,膨れ,割れ及び
  はがれがない。(24か月

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 劣化亜鉛面用厚膜型ポリウレタン樹脂塗料上塗の品質

 「塗装指針」 2013;附属書 A 塗料規格及び試験方法
 SPS 66099-42 劣化亜鉛面用厚膜型ポリウレタン樹脂塗料

 ポリウレタン樹脂塗料上塗は,一回の塗付けで得られる乾燥膜厚は 30μm程度であるが,劣化亜鉛面用厚膜型ポリウレタン樹脂塗料,厚膜型ポリウレタン樹脂塗料上塗は,一回の塗付けで 50μmの膜厚が得られる塗料である。
 
 品質
 下表には,厚膜型ポリウレタン樹脂塗料上塗塗料品質,比較のためSPS 66099-21 厚膜型ポリウレタン樹脂塗料上塗SPS 66099-10 ポリウレタン樹脂塗料上塗(溶剤型)JIS K5659 2018 「鋼構造物用耐候性塗料」 A種上塗 2級(ポリウレタン樹脂塗料相当))の品質を紹介する。
 JIS 等で規定される品質の「塗装作業性」,「塗膜の外観」については,これらの品質に適合しない塗料の販売が考え難いこと,また,他の品質を検査する際にこの品質は容易に把握できることから,鉄道では,全ての塗料規格でこれらの品質を規定していない。また,実環境で 2年程度の「耐候性」(屋外暴露耐候性)を規定していない。これは,塗料成分の規定により,塗膜の機械的,化学的,及び耐久性の室内試験を行うことで,耐候性が確保できると考えているためである。

劣化亜鉛面用厚膜型ポリウレタン樹脂塗料
  項  目     SPS 66099-42 厚膜型 亜鉛面用      SPS 66099-21 厚膜型 上塗      SPS 66099-10 上塗 溶剤形     JIS K 5659 A種上塗 2級 
  顔料(質量分率 %)    10以上    5以上    ― 
  ポリオール樹脂
(質量分率 %) 
  15以上    13以上    ― 
  硬化剤(質量分率 %)    5以上    1以上    ― 
  溶剤(質量分率 %)    35以下    白・淡彩 50以下,他の色 60以下    ― 
  NCO基の定性    NCO基があるものとする。    - 
  混合塗料中の加熱残分 %    65以上    白・淡彩は 50以上,その他の色は 40以上 
  塗膜中の鉛(質量分率 %)    0.06以下    - 
  塗膜中のクロム(質量分率 %)    0.03以下    - 
  容器の中での状態    かき混ぜたとき,堅い塊がなくて一様になる。 
  低温安定性(-5±2℃)    -    変質しない。( B種のみ) 
  表面乾燥性    -    表面乾燥する。
  (常温 8時間後,低温 5℃ 16時間後) 
  乾燥時間    23℃で 8時間以下,5 ℃で 16時間以下    - 
  塗膜の外観    -    塗膜の外観が
  正常であるものとする。 
  ポットライフ    3時間    5 時間 
  たるみ性    -    たるみがないものとする。    - 
  隠ぺい率    -    白・淡彩は 90以上,鮮明な赤,及び黄は 50以上,その他の色は 80以上 
  鏡面光沢度(60度)    -    80 以上    70 以上 
  耐屈曲性    -    折曲げに耐える。( 10mmマンドレル) 
  耐おもり落下性(デュポン式)    -    塗膜に割れ,及びはがれが生じない。 
  層間付着性 Ⅱ    異常がない。 
  耐アルカリ性,耐酸性    -    異常がない。 
  耐湿潤冷熱繰返し性    -    耐える。 
  促進耐候性    -    促進耐候①    促進耐候② 
  屋外暴露耐候性(24か月)    -    屋外暴露耐候 
 促進耐候①:照射時間 500時間で塗膜に,膨れ・はがれ・割れがなく,光沢保持率は,70%以上で,色の変化の程度が見本品に比べて大きくなく,白亜化等級が 1以下とする。
 促進耐候②:照射時間 1000 時間で塗膜に割れ・はがれ・膨れが無く,色の変化が大きくなく,白亜化の等級が 1 又は 0,光沢保持率 80%以上。
 屋外暴露耐候:塗膜に割れ・はがれ・膨れが無く,色の変化が大きくなく,白亜化の等級が 2,1 又は 0 ,光沢保持率 40%以上。

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