防食概論塗装・塗料

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 ここでは,塗料の品質(塗膜表面の異常)について, 【塗膜の外観とは】, 【塗膜外観の観察項目】に項目を分けて紹介する。

 塗料の評価(塗膜の外観)

 塗膜の外観とは

 JIS K5500「塗料用語」

 塗膜の外観(appearance of film)
 肉眼で見たときの塗膜の状態。塗料一般試験方法では,塗膜を拡散昼光の下で見本品と比べて,色の差異・色むらの程度・つやの差異・つやむらの程度・厚さのむらの程度・レベリング・はけ目・ゆず肌・しわ・つぶ・くぼみ・穴の程度・流れ・はじき・泡・膨れ・割れ・はがれ・白化の程度を調べる。
 
 塗装後に硬化した塗膜が,均一な仕上がりになるか否かの評価は,目視観察による官能的評価にならざるを得ない。しかしながら,この品質は,実用に供する塗料にとって必要不可欠な品質の一つである。
 そこで,公正な評価を目的に,塗装後の観察までの放置時間,観察するときの照明,観察項目が規定されている。

  JIS K 5600-1-1「塗料成分試験方法-第1部:通則-第1節:試験一般」 4.4(塗膜の外観)

 要旨
 塗膜の外観が,正常であるかどうかを目視によって調べる。
 見本品
 見本品は,製品規格に規定する塗料見本又は塗膜見本とする。
 試験片の作製
 試料の製品規格に規定する塗装作業性の試験を行い,製品規格に時間が規定されていないときは,試料を塗り終わったときから,乾燥時間を半硬化乾燥で調べる塗料で 48時間硬化乾燥を調べる塗料で 24時間加熱乾燥の塗料では加熱し終わってから 30分間放置したものを試験片とする。
 操作
 拡散昼光のもとで,見本品の塗面と試験片の塗面とを比べ,試料の製品規格で規定する観察項目について調べる。
 なお,拡散昼光(scattering daylight, diffused daylight)とは,日の出 3時間後から日の入り 3時間前までの北空昼光で,周辺の建物,部屋の内装などの環境色の影響を受けていない光。試験片の色を観察するときの条件として,JIS Z 8723「表面色の視感比較方法」に定められている。【JIS K5500「塗料用語」】
 評価
 塗膜の外観を目視観察し,製品規格の規定に適合したときは,“塗膜の外観が正常である”とする。
 観察項目
  つや,むら,しわ,へこみ,はじき,つぶなど。
 例えば,製品規格に“割れ・はがれ・膨れを認めず,色・つや,平らさ,流れ,つぶ,しわ,むら及び穴の程度が見本品に比べて差異が大きくない”などの表記がある。

 防食塗装に用いられる塗料製品規格

 乾燥時間半硬化乾燥(≒表面乾燥)で調べる塗料
 JIS K 5551「構造物用さび止めペイント」
 試験片
 塗装作業性に適合となった試験片を 48時間放置したものを用いる。
 評価,及び判定
 評価は,拡散昼光の下で目視によって行い,つぶ,しわ,むら,割れ,膨れ,穴,及びはがれの程度の差が見本品と比べてないときは,“正常である”とする。見本品は,塗膜見本,社内見本品及び限度見本品を用いる。
 
 乾燥時間表面乾燥(≒半硬化乾燥)で調べる塗料
 JIS K5633「エッチングプライマー」
 試験片及び判定
 ただし,判定は,塗ってから 3時間おいて,試験片の塗膜の色とつやが,見本品に比べて差異が少なく,流れ・しわ・膨れ・ あな・白化の程度が見本品に比べて大きくないときは, 塗膜の外観が正常である。
 JIS K5674「鉛・クロムフリー鉛さび止めペイント」
 試験片及び判定
 ただし,判定は試料を塗ってから 48時間置いて,目視によって観察し,見本品に比べて差異が大きくなく,2種の場合は,フラッシュさびがないとき,“正常である”とする。
 JIS K5516「合成樹脂調合ペイント」
 試験片
 はけ塗りし,標準状態で 24時間以上 48時間以内で乾燥したものを試験片とする。見本品の試験片も同じ方法で作製する。なお,試験片は塗装作業性の試験が終わった試験片を用いてもよい。ただし,塗り終わってから標準状態で,24時間以上 48時間以内で乾燥したものを試験片とする。
 評価,及び判定
 判定は試験片と見本品試験片とを比べて,塗膜の色及びつやの差異がなく,色むら,つやむら,はけ目,流れ及びしわの程度が大きくないとき,“正常である”とする。
 JIS K5659「鋼構造物用耐候性塗料」
 評価,及び判定
 試験片を目視による観察によって評価し,割れ・はがれ・膨れを認めず,色・つや,平らさ,流れ,つぶ,しわ,むら及び穴の程度が見本品に比べて差異が大きくないとき,“正常である”とする。
 
 乾燥時間硬化乾燥で調べる塗料
 JIS K5552「ジンクリッチプライマー」
 試験片及び判定
 ただし,判定は,塗ってから 48時間置いて,目視によって観察し,流れ・むら・割れ・はがれを調べる。
 JIS K5553「厚膜形ジンクリッチペイント」
 試験片及び判定
 ただし,判定は,塗ってから 48時間置いて,目視によって観察し,流れ・むら・割れ・はがれを調べる。

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 塗膜外観の観察項目

 塗膜外観を評価する際に用いられる用語の概要を紹介する。
 変色(塗膜の)(tarnish, tarnishing, discoloration, discoloring)
 塗膜の色の色相・彩度・明度のどれか一つ又は一つ以上が変化する現象。主として彩度が小さくなり,又は更に明度が大きくなる現象を退色という。【JIS K5500「塗料用語」】
 色差(color difference)
 色の知覚的な相違を定量的に表したもの。【JIS K5500「塗料用語」】
 二つの色の間に知覚される色の隔たり,又はそれを数量化した値。【JIS Z8105「色に関する用語」】
 むら(斑)(mottle, spot, blotch)
 ① 染めた色が一様でなく,濃い部分,薄い部分がある・こと(さま)。まだら。 「 -な染め上がり」 「染め-」 「色-」,② 物事の仕上がりなどがそろっていないこと。ふぞろいであること。また、そのさま。 「 -のある仕事」 「成績に-がある」 「各科目が-なくできる」,③ 気分・天気などが安定せず変わりやすいこと。 「 -のある気質」【大辞林】
 色むら(塗膜の)(mottle,irregular color)
 塗膜の色が部分的に不均等な状態。塗料の欠陥,塗装の欠陥,塗膜の成分の分解,変質などで起こる。【JIS K5500「塗料用語」】
 つや(艶)(gloss)
 物体の表面から受ける正反射光成分の多少によって起こる感覚の属性。一般に,正反射光成分が多いときに,つやが多いという。塗膜では,光沢度計を用いて,入射角/反射角を 45度/45度,60度/60度などとして鏡面光沢度を測定して,つやの大小の目安とする。【JIS K5500「塗料用語」】
 割れ(塗膜の)(crack, craking)
 老化の結果,塗膜に現れる部分的な裂け目。ISO(International Organization for Standardization)では,割れの方向性の有無,発生密度,割れの幅と深さによって評価する。また,割れの形態によっても区分する。
 備考:ヘアクラック,わに皮割れ及びからす足状割れは,割れの形状の自明な例。塗膜に現れる部分的な割れの状態によって,次のように分ける。程度の低いもの,浅いものから,ヘアクラック,チェッキング,クレージング,わに皮割れ,深割れ,からす足状割れ。【JIS K5500「塗料用語」】
 はがれ(塗膜の)(peeling, flaking, scaling)
 付着性が失われてある広さの膜が自然に素地から分離する現象。一般に,割れ,膨れが生じた後に,付着性が失われた結果,塗装系の 1層,又はそれ以上の塗膜が下層塗膜から,又は塗装系全体が素地からはがれる。
 備考:“peeling”はリボン,又はシート状の大きなはがれ,”flaking”はりん片状の小さなはがれ,”scaling”はスケール状の大きなはがれをいうこともある。なお,”scaling”ははがれの他にさび落としの意味にも用いられる。【JIS K5500「塗料用語」】
 ピンホール(塗膜の)(pore, pinhole)
 塗膜に針で作ったような小さな孔がある欠陥。肉眼で見分けられる程度の小さな孔をいう。【JIS K5500「塗料用語」】
 へこみ(塗膜の)(cratering)
 クレーターともいい,乾燥後の膜の表面にできる小さな円形のくぼみ。【JIS K5500「塗料用語」】
 フィッシュアイ(塗膜の)(fish eyes)
 塗膜にできる中心に小粒子の異物があるクレーター(へこみ)。【JIS K5500「塗料用語」】
 膨れ(blister)
 金属中又は皮膜下にガス,液体又は腐食生成物が蓄積して,局部的にふくれる現象。【JIS Z0103「防せい防食用語」】
 塗膜に泡が生成する現象。水分・揮発成分・溶剤を含む面に塗料を塗ったとき,又は塗膜形成後に,下層面にガス,蒸気,水分などが発生,侵入したときなどに起こる。発生した膨れは,その大きさと密度を調べる。【JIS K5500「塗料用語」】
 レベリング(塗膜の)(leveling)
 塗料を塗った後,塗料が流動して,平らで滑らかな塗膜ができる性質。塗膜の表面に,はけ目・ゆず肌・うねりのような微視的な高低が多くないことを見て,レべリングがよいと判断する。【JIS K5500「塗料用語」】
 はけ目(塗膜の)(brush marks, brush mark)
 展性の悪い塗料をはけで塗ったとき,はけ目が消えずに残る現象。ロピネスの項参照。【JIS K5500「塗料用語」】
 ロピネス(塗膜の)(ropiness)
 ある種の塗装方法で起こる欠陥。ぬれ塗膜の表面にレベリングが不十分なためにほぼ平行なしまができ,乾燥後もそのまま残る現象。はけ塗りの際,乾きかけにはけを通して残るはっきりしたはけ目はその典型的な例。【JIS K5500「塗料用語」】
 ゆず肌(塗膜の)(orange peel)
 オレンジの表面の肌に似ている感じの塗膜の外観。吹付け塗りのときに,塗料の流展性の不足によって起こる塗料又は塗装上の欠陥。蒸発の遅い溶剤を添加するか,うすめ方を多くすれば,ゆず肌は少なくなる。塗膜について,”みかん肌”というのは適切ではない。【JIS K5500「塗料用語」】
 流れ(sagging, running, runs, tears, droplets)
 小さなたるみ。不均等な垂直表面に塗ったとき,例えば,割れ,あななどに塗料が過剰に集まり,余った塗料が周囲の流動が止まってからも流動して起きる下方への細い塗料層の移動。移動距離の短いものは tears 又は droplets と呼ばれることもある。たるみの項参照。【JIS K5500「塗料用語」】
 たるみ(塗膜の)(sags, sagging)
 垂直又は傾斜した面に塗料を塗ったとき,乾燥までの間に,塗料の層が下方に移動して起こる局部的な膜厚の異常。半円状,つらら状,波状又はカーテンのひだ状などになる現象をいう。厚く塗り過ぎたとき,塗料の流動特性の不適,大気状態の不適などによって起こりやすい。
 備考:小さな sags は流れ(runs),涙滴(tears),小滴(droplets)と呼ばれ,幅広のカーテンのひだ状の外観を呈する大きな sags はカーテン(curtains)と呼ばれる。【JIS K5500「塗料用語」】
 しわ(塗膜の)(wrinkling, crinkling, shrivelling, rivelling)
 乾燥中に塗膜に発生するしわ。通常は上乾きが著しいときに,表面の面積が大きくなってできる。しわには,平行線状,不規則線状,ちりめんじわ状などがある。“ちぢみ”とはいわない。【JIS K5500「塗料用語」】
 つぶ(bits, nibs)
 塗料中又は塗面に肉眼で見えるつぶ状のもの。主に,塗料の皮の小片,異物,又はビヒクルと顔料の凝結物などである。塗料中のつぶは,つぶゲージで調べる。【JIS K5500「塗料用語」】
 白化(塗膜の)(blushing)
 塗料の乾燥過程で起こる塗膜の白化現象(ミルク状の乳白色を呈する現象)。溶剤の蒸発で空気が冷やされ,その結果,凝縮した水分が塗料の表層に浸入し,又は溶剤の蒸発中に混合溶剤間の溶解力の均衡が失われて,塗膜成分のどちらかが析出するために起こる。通常,ラッカーなど揮発乾燥形塗料に起こりやすい。高湿で起こるものを”moisture blushing”といい,セルロース誘導体が析出する現象を”cotton blushing”といい,樹脂が析出する現象を”gum blushing”という。【JIS K5500「塗料用語」】

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