防食概論:塗装・塗料
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ここでは,塗膜と環境との相互作用の評価法として, 【環境因子繰り返し性】, 【材料劣化に影響する環境因子】 に項目を分けて紹介する。
塗膜の評価(塗膜耐久性;環境因子と劣化)
環境因子繰り返し性
環境因子(environmental factor)
一般的には,生物の生存,生活に影響する環境の条件をいうが,腐食工学では,鋼などの金属の腐食に影響する環境条件(environmental conditions)をいう。例えば,大気腐食(屋外)では,気温,湿度,降水,海塩粒子,二酸化硫黄などが環境因子として挙げられる。JIS Z 2381 「大気暴露試験方法通則」では,環境因子を“暴露試験場における気象因子及び大気汚染因子の総称。”と定義している。
気象因子(meteorological factors)
気象観測の対象となる気温,湿度,太陽放射エネルギー量,降水量,風向,風速などの因子。【 JIS Z2381「大気暴露試験方法通則」】
一般的には,気象要素(meteorological element)ともいい,気象学でいう気候要素(climatic factor)と同等の意味で用いられる。気候要素(climatic factor)とは,ある気候を構成する種々の要素で学術的には気温,降水量,風向・風速の三大要素に加えて気圧,湿度,蒸発散量,雲量,日照時間,日射量,水温,地温,降水時間,土壌水分量などが挙げられる。
なお,気候因子(climatic factor)といった場合は,気候の地域差を生じる原因となる緯度・高度・水陸分布・地形・海流などを指し,この結果として,各地の気候要素(気温,降水量,風向・風速など)に影響を与える。
気象(meteorological phenomena)とは,大気の状態や大気の中で起きる現象をいい,気候(climate)とは,その地域を特徴づける大気の状態をいう。
大気汚染因子(environmental pollution factors)
人為的・自然的に発生する硫黄酸化物,窒素酸化物,硫化水素,海塩粒子などの暴露試験に影響を及ぼす因子。【 JIS Z2381「大気暴露試験方法通則」】
材料分野では,環境汚染因子(environmental pollution factors)の中で金属の腐食に影響する因子を大気汚染因子と呼び,大気汚染防止法などで指定される人の健康や環境に悪影響を及ぼす一般的に用いられる大気環境の汚染因子を意味するものではない。
なお,大気環境の中で,金属の腐食性に大きく影響する環境汚染因子として,二酸化硫黄(硫黄酸化物),大気浮遊塩分(海塩粒子)について,測定方法がJIS Z2382「大気環境の腐食性を評価するための環境汚染因子の測定」に規定されている。
環境因子繰り返し性
試験目的に応じて選択された複数の環境因子を組み合わせ,材料の変化(変質,変状,劣化)に対する抵抗性。環境因子の組み合わせにより多数の試験方法が考案されている。これらを総称して人工環境試験という。人工環境試験に耐える塗膜の性質を総称して環境因子繰り返し性という。環境因子を組み合わせて塗膜の抵抗性を評価する試験で用いられる気象因子には温度,湿度,降水(噴霧),紫外線(日射)が,大気汚染因子には海塩粒子(塩化ナトリウム)が用いられる。
塗料・塗装では,これらの環境因子を組み合わせた環境因子繰り返し性として,濡れた塗膜に対し低温と高温を繰り返すことで,温度衝撃を与える耐湿潤冷熱繰返し性,紫外線,温度,湿度の条件を組合せた促進耐候性,塩,温度,湿度の条件を組合せたサイクル腐食性が用いられる。
【参考】
人工環境試験(artificial environmental testing)
材料の環境試験(environmental test)は,温度,湿度,汚染物質,振動などの環境因子が材料に与える影響を把握するために用いられる。環境試験には,使用される実際の環境において実施される実環境試験(actual environment testing),環境因子の中から人為的に選択されたものを用いた人工環境試験(artificial environmental testing)に分けられる。
実環境試験では,材料と環境因子の相互作用を的確に把握できるが,長期間かけて変化する現象に関しては結果が得られるまで実時間と同じ長期間要する。
材料開発など工学的に短期間で結果を得たい場合に,材料の変化に影響すると考えられる環境因子を選択し,その強度を高めた人工環境試験が実施される。
人工環境試験は,温湿度環境試験,屋外環境試験,機械環境試験に分けられる。温湿度環境試験には,熱衝撃試験,温度サイクル試験,温湿度サイクル試験などがある。屋外環境試験には,促進耐候性試験,複合サイクル試験,ガス腐食試験などがある。機械環境試験には,振動試験,複合環境振動試験,耐衝撃試験などがある。
人工環境試験は促進試験ともいわれるが,複数の環境因子の相乗効果など材料変化の機構が明確でない場合は,実環境試験結果と必ずしも整合しないが,材料間の相互比較などに有用なため広く用いられている。
腐食(corrosion)
金属がそれをとり囲む環境物質によって,化学的又は電気化学的に侵食されるか若しくは材質的に劣化する現象。【JIS Z0103「防せい防食用語」】
大気腐食(atmospheric corrosion)
大気中で起きる金属の腐食。【JIS Z0103「防せい防食用語」】
大気中の水(水蒸気,降雨)で金属表面に薄い水膜が形成し,水膜に溶け込んだ酸素の還元で腐食反応が進む。
大気中では,乾食に分類されるかわき大気腐食,湿食に分類される薄い水膜(大気中の水蒸気の付着)による湿り大気腐食,厚い水膜(結露や降雨)による濡れ大気腐食に分けられる。
最も身近に観察されるのが濡れ大気腐食で,水膜に溶け込んだ酸素の還元で腐食反応が進む。工場や海に近い環境など大気に含まれる汚染物質,特に水に溶けてイオンとなる電解質が大きい環境では実用上で不都合な速さで腐食が進行することが知られている。
淡水腐食(corrosion in fresh water)
河川水,上水,地下水などの淡水中で起きる腐食の総称である。
海水腐食(corrosion in sea water)
海水中で起きる腐食の総称である。海水面からの深さで腐食速度が異なるのが特徴である。
土壌腐食(soil corrosion)
土壌中で起きる金属の腐食。【JIS Z0103「防せい防食用語」】
土質の違い,通気性の違いなどによるマクロ腐食電池形成による腐食,微生物の影響を受けた腐食などがある。人工的な環境として,電車線路や高圧線からの漏れ電流による埋設管などの局部的腐食を特に迷走電流腐食(電食)(stray current corrosion)と呼ぶ。
マクロ腐食電池(macro-galvanic cell)はマクロセルともいわれ,アノードとカソードがはっきりと区別できる程度の大きさをもち,その位置が固定されている腐食電池をいい,異種金属接触電池,通気差電池などがこれに属する。【JIS Z0103「防せい防食用語」】
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材料劣化に影響する環境因子
JIS Z 2381 「大気暴露試験方法通則」では,暴露試験に影響する気象因子,及び大気汚染因子のすべての環境因子を測定し,記録することが望ましいとあり,試料の種類によって測定する環境因子の項目を附属書 3(参考)で示している。
附属書 3(参考) 暴露試験場所の環境因子の測定項目
暴露試験結果を精度よく解析するためには,暴露試験場の環境条件を特性付けることが非常に重要である。特に,暴露試験場における気象因子及び大気汚染因子それぞれのレベルは,暴露試験結果に大きな影響を及ぼすおそれがある。異なる暴露試験場での暴露試験の結果を対比する場合には,それぞれの暴露試験場の環境条件の特性付けが明確にされているならば的確な評価が可能になる。
暴露試験結果に影響を及ぼす環境因子は,材料及び製品の種類によって異なることが一般的に知られている。金属材料・めっきなどの無機被覆金属の耐食性及びプラスチック・塗装などの有機被覆金属の耐候性を的確に評価するのに望ましい環境因子の測定項目を次に示す。
【金属材料・無機被覆金属材料に対する環境因子の測定項目】
a) 気温:月平均,及び年平均 ℃
b) 相対湿度:月平均,及び年平均 %RH
c) 絶対湿度:月平均及び年平均 g/m3
d) 降水量:月,及び年合計 mm
e) ぬれ時間:月,及び年合計 h
f) 風向:月最多風向,及び年最多風向 16方位
g) 風速:月平均風速,及び年平均風速 m/s
h) 海塩粒子付着量:月平均,及び年平均 mg・NaCl/ (m2・d)
i) 硫黄酸化物付着量:月平均,及び年平均 mg・SO2/ (m2・d)
【プラスチック・塗装材料に対する環境因子の測定項目】
a) 気温
月最高,及び最低気温,並びに年最高,及び最低気温 ℃
月平均最高気温,及び年平均最高気温 ℃
月平均最低気温,及び年平均最低気温 ℃
月平均気温,及び年平均気温 ℃
b) 相対湿度
月平均最高湿度,及び年平均最高湿度 %RH
月平均最低湿度,及び年平均最低湿度 %RH
月平均湿度,及び年平均湿度 %RH
c) 降水量:月,及び年合計 mm
d) ぬれ時間:月,及び年合計 h
e) 日照時間:月,及び年合計 h
f) 太陽放射光の露光量:月,及び年合計 MJ/m2
g) 紫外線の露光量:月,及び年合計 MJ/m2
h) 風向:月最多風向,及び年最多風向 16方位
i) 風速:月平均風速,及び年平均風速 m/s
j) 海塩粒子付着量:月平均,及び年平均 mg・NaCl/ (m2・d)
k) 硫黄酸化物付着量:月平均,及び年平均 mg・SO2/ (m2・d)
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