防食概論塗装・塗料

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 ここでは,塗膜の特性の一つである【柔軟性(可撓性)】の概要, 品質試験の【耐屈曲性・耐カッピング性】 に項目を分けて紹介する。

 塗膜の評価(機械的性質;柔軟性)

 柔軟性(可撓性)

 可撓性(かとうせい)(flexibility)
 外力で物質がしなやかにたわむ性質で,たわみ性撓性(とうせい)ともいう。塗料分野では耐屈曲性ともいう。
 力を加えると変形する性質の弾性(elasticity)と混同されやすい。弾性は外力を除くと原形に回復することを条件として言及されるが,可撓性では原形に回復することを条件とせず,弾性変形のし易さについてのみ言及する。
 
 塗膜形成後,折り曲げや深絞りなどの加工を受ける製品では,変形に追従できる塗膜の柔軟性(可撓性)が求められる。
 柔軟性を評価する JIS試験規格には,直線的に折り曲げたときの塗膜状態を評価する耐屈曲性JIS K 5600-5-1「耐屈曲性(円筒形マンドレル法)」),塗装缶やボトルなどカップ状深絞り加工時の塗膜状態を評価する耐カッピング性JIS K 5600-5-2「耐カッピング性」)がある。
 
 【参考】
 弾性(elasticity)
 読み「だんせい」,変形させている力を除くと原寸及び原形を回復する特性。
 (注)1 ひずみが加えられた応力に比例する場合は,その材料はフック弾性又は理想弾性を示すと言われる。
 (注)2 その機構はゴム状弾性(エントロピー弾性)又は鋼状弾性(エネルギー弾性)のいずれであってもよい。【JIS K 6900「プラスチック―用語」】
 耐屈曲性(塗膜の)(flexibility)
 乾燥塗膜が塗られている素地の変形に損傷を起こさずに順応する能力。屈曲試験では,試験片を,塗膜を外に,素地の板を内側にして丸棒に沿って 180度折り曲げ,塗膜の割れの有無を調べる。
 素地の板が厚いほど,丸棒の直径が小さいほど,塗膜に与えられる伸び率と,塗膜に起こる上面から下面にかけての伸び率の不均等性は大きい。塗膜がもろくなくて伸び率が大きいとたわみ性が優れていると判定される。
 備考 膜のたわみ性を説明するため, “elasticity” という用語を用いることは正しくない。【 JIS K5500「塗料用語」】
 たわみ性(flexibility, pliability)
 工学的には,曲げ剛性(flexural rigidity)の逆数をいう。
 耐カッピング性(塗膜の)(cupping test)
 塗膜が標準条件下で,押し込みによって部分変形を受けた場合の割れ及び/又は金属基板からのはがれに対する抵抗性の試験。
 深絞り性(deep drawability)
 ダイス面上の素材がダイス孔穴内へ絞り込まれ得る程度。その程度によって,絞り性,深絞り性,超深絞り性に区分して呼ばれる。【JIS G0203「鉄鋼用語(製品及び品質)」】

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 耐屈曲性・耐カッピング性

 「耐屈曲性」

 耐屈曲性(円筒形マンドレル法)の概要,防食塗装に関連する JIS塗料製品規格での扱いについては,【塗料の評価】・「耐屈曲性」で紹介した。
 JIS K 5600-5-1 「第1節:耐屈曲性(円筒形マンドレル法)」は,0.3mm若しくは 1.0mmの薄い鋼板,ぶりき板,又はアルミ板などに塗装し,塗膜面を外にして,規定された半径のマンドレルに沿って折り曲げたときに,塗膜外表面に“割れ”や“はがれ”など致命的な変状が生じるかを評価する試験方法である。
 一般的には,塗装後の変形に対する追従性(柔軟性・付着性)が要求される塗料に適用される。
 しかし,塗装後の変形が少ない防食塗装においても,塗膜の付着性や柔軟性の確認を目的に適用されている。JIS製品規格では,JIS K5674「鉛・クロムフリー鉛さび止めペイント」JIS K 5659「鋼構造物用耐候性塗料」に規格されている。
 
 「耐カッピング性」
 塗装した鋼板やアルミニウム板などを用いて,深絞りなどの変形を伴う仕上げで得られる製品では,塗膜の変形量が大きい。このような用途に用いる塗料の評価に用いられている。

 JIS K 5600-5-2「塗料一般試験方法− 第 5 部:塗膜の機械的性質− 第2節:耐カッピング性( Testing methods for paints−Part 5 : Mechanical properties of film− Section 2 : Cupping test )」

 1. 適用範囲
 この規格は,塗料及びその関連製品の試料採取並びに試験を扱う一連の規格の一つである。
 1.1 :この規格は,塗膜が標準条件下で,押し込みによって部分変形を受けた場合の割れ及び/又は金属基板からのはがれに対する抵抗性を評価する(デュポン式との違いは,撃ち型と受け台とのすき間が 35mmある。)。
 1.2 :多層膜では,各層が別々に,又は全体として試験してもよい。
 1.3 :規定の試験法方法として次のように実施してもよい。規定の押し込み深さで特定の基準に合格して いるかどうかの合否試験,又は,押し込みによって塗膜の割れ及び/又は素地からのはがれが起こる最小膜厚での評価である。
 5. 試験板
 5.1 材料 :他に規定がない限り,試験板は JIS K 5600-1-4 「試験用標準試験板」に適合する磨き鋼板で作製しなければならな い。
 5.2 共通 :試験板は,平板でひずみがあってはならない。
 5.3 寸法 :試験板は,長方形で,次の寸法のとおりとする。厚さ:0.3~1.25mm(マイクロメータで 0.01mm のけたまで測定),幅及び長さ:最小 70mm(上限は装置によって決まる。 )
 5.4 調整及び塗装 :他に規定がない限り,試験板は JIS K 5600-1-4 に従って調整し,試験する製品又は 塗装系に規定する塗装方法で塗装する。
 5.5 膜厚 :試験範囲の乾燥塗膜の平均膜厚は,JIS K 5600-1-7 「膜厚」に規定する方法の一つでμm 単位まで測定する。
 6. 手順(抜粋)
 6.1 共通事項
 6.1.1 試験板の乾燥
 塗装板は規定の時間,乾燥(又は焼付け及び養生)する。他に規定がなければ,温度 23℃±2℃,相対湿度 (50±5) &で最小 16時間状態調節しなければならない。乾燥後,直ちに適切な試験手順で実施する。
 6.1.2 試験雰囲気: 他に規定がなければ,試験は温度 23℃±2℃,相対湿度 (50±5) %で実施する。
 6.2 一定押し込み深さでの試験
 次の試験を 2枚の試験板で実施する(もし,結果が異なれば追加実験を実施する。)。
 6.2.1
 試験板の塗面を型に向け,試験板を保持リングとダイの間に固定し,半円球の押し込み器の先端を試験板に接する(押し込み器のゼロ点)。押し込み器の中心軸が試験板端部から 35mm 以上になるように板を調節する。
 6.2.2
 押し込み器先端を 0.2±0.1mm/s で,一定深さまで押し込む,すなわち,押し込み器がこの距離だけゼロ点から移動する。
 6.2.3
 正常に補正した視力又は合意した場合は,倍率×10 のレンズを用いて塗膜の割れ及び/又は素地からのはがれを検分する。
 備考 1. レンズを用いる場合には,この事実を試験報告に記載し,正常に補正した視力のみで得られた結果と比較することのないようにする。
 備考 2. 素地に割れがある場合には,試験結果は有効とはみなされない。
 6.3 欠陥を起こす最小押し込み深さの測定方法
 正常に補正した視力(又は合意した場合は倍率×10 のレンズを用いて)によって,塗膜の割れ及び/又は塗膜の素地からのはがれが始まる時点まで,6.2 の操作を行う(1)。この時点で押し込み器を止め,押し込み器の深さ,すなわち押し込み器のゼロ点からの移動距離を 0.1mm のけたまで測定する。次に,新しい試験板で測定を繰り返して結果を確認する(結果が異なれば,追加試験を行う。)。
 注(1): 終点の正確な観察をするために,押し込み器が終点(必要によって,予備試験で測定)に近づいたとき,押し込み速度をわずかに遅くしてもよい。

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